ハイクラス転職のクライス&カンパニー

弱みを克服するよりも、自身の強みを磨いて欲しい。好奇心と自己効力感を大切に。

公開日:2023.05.09

ヒューマンキャピタリストとして多くの企業の人的資本経営を支援し、次世代の経営チームを創るサクセッション・プランニングに従事している岡島悦子氏。精力的に活動されている岡島氏のキャリアの原点やターニングポイントについてお話を伺った。
岡島悦子氏のプロフィール写真

岡島 悦子 氏プロフィール

株式会社プロノバ / 代表取締役社長

三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼーを経て、2002年、グロービス・グループの経営人材紹介サービス会社であるグロービス・マネジメント・バンク事業立上げに参画、2005年より代表取締役。2007年、プロノバ設立、代表取締役就任。 株式会社丸井グループ、ランサーズ株式会社、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社ヤプリ、株式会社マネーフォワード社外取締役。20年12月より、株式会社ユーグレナ 取締役CHRO(非常勤)。筑波大学国際関係学類卒業、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。

Message

志あるハイクラス転職を、クライスと クライス&カンパニー

Interview

人の目利きの原点は幼少期。人に興味があり、大人や友人をよく観察する子供だった。

丸山
まず初めに、岡島さんのキャリアについてお聞かせいただけますか?
岡島

私が就職したのは男女雇用機会均等法が施行されて3期目の年であり、女性総合職の門戸が非常に狭い時代でした。外資系金融機関に行く友人が多かった中、私は三菱商事に入社したのですが、総合職171名中、女子2名のうちの一人でした。

三菱商事では、M&Aとベンチャーキャピタル投資を行う企業情報部に配属され、素晴らしい先輩方に育てていただきました。周囲にはMBAホルダーの方々が非常に多く、人脈やネットワークをつくる意味でもビジネススクールに行った方が良いと考えて、企業派遣でハーバード大学にMBA留学しました。

ここは私にとって1つ目のターニングポイントだったと思いますが、ビジネススクールに行ったことで「新卒で三菱商事を選んだ私って、『大手』とか『安心』とか『信用』というブランドをドライバーにして会社を選んでいたな」と気が付いたんです。

ビジネススクールの友人達から、「え、MBA後は三菱商事に戻るの?いつ社長になれるの?」と聞かれて(笑)、「社長にはなれないと思うし、経営メンバーに入れるのは50代だと思うよ」と言ったら、「何のために毎日ケーススタディや意思決定を学んでいるの?その頃にはもう錆びついているよ」「ビッグでステイブルな会社って、それの何が良いの?何をしにMBAに来たの?」と驚かれました。

そこで初めて、自分は「安定」や「規模が大きい」ということよりも、新しい価値を創ることや、新しい価値を創る人たちを応援することが好きで、ワクワクするんだなということが分かったんです。その時は、これまでの価値観が瓦解したという感覚でしたね。そこでMBAを取得し、帰国後は一旦三菱商事に戻りましたが、社内で新規事業を立ち上げ、設立した会社を後任の方に託す形で円満退社しました。

丸山
三菱商事の次のキャリアとしてコンサルを選ばれた理由は何だったのでしょうか?
岡島

ビジネススクールで非常に良い友人ができたことは、私にとって大きな成果でした。私は日本人で、アメリカの大学卒でもなく、アメリカ企業での勤務経験も無い状態でビジネススクールに行ったので、アメリカ企業のケーススタディをやっても当事者感が持ちにくく、英語がネイティブではない点も含めると、自分の学習度は友人達と較べて7割程度だなと感じていて。もう少し勉強が必要かと考えて、多くの経営の現場を経験できる環境としてマッキンゼーを選択しました。

マッキンゼーは2年程の在籍でしたが、複数の企業の経営サポートを密度濃く経験させていただき、当初の目的も果たすことができました。コンサルとして人事組織系のプロジェクトを複数経験していく中で、組織開発と人材育成に特化したいと思うようになりました。当時、起業する友人たちが増えてきたこともあって、スタートアップで主に人・組織領域を経営からサポートする仕事をしたいという思いでマッキンゼーを卒業しました。

丸山
この時点で、組織や人材の領域というキャリアの方向性を決められていたのですか?
岡島

自分の原点を紐解いていくと、私は小学生の頃から非常に人に興味があったんですね。例えば、友人のお誕生日会に呼ばれてお家に行った時に、「グランドピアノや庭にプールがあるけれど、お父さんがお医者様だとこういう家に住めるのかな?」といったアルゴリズムを見つけるのが大好きで、父親の上司の名前や仕事関係の方々の名前もしっかり覚えるという、相当変わった小学生でした(笑)。

元々、人はどんな欲求で動くのかということに物凄く興味があったので、今になって考えると「人材の目利きをする」「人をお繋ぎする」という仕事はとても自分に合っていたのだと思います。ただ、私が社会に出た1989年当時は、それが仕事になるとはまったく思えず、これはライフワークにはなってもライスワークにはならないなと思っていました。

MBAから帰国する時に、ハーバードの先輩でもあるグロービス代表の堀義人さんと知り合うご縁があり、その後マッキンゼーを卒業するタイミングで堀さんから「VCの横で投資先の経営チームを創る事業を立ち上げたので、一緒にやらないか」とお声がけをいただきました。

人材の目利きが仕事になるというステージを与えていただいたことは、2つ目のターニングポイントでした。グロービスに参画し、38才で初めて子会社の社長を経験するのですが、そこで経営が「わかる」と「できる」とでは全く違うと実感でき、組織を創る経験ができたのは大きなポイントだったと思います。現在もGCP(グロービス・キャピタル・パートナーズ)の投資先企業に私が社外取締役という形で入っていることもあり、堀さんともG1サミットでご一緒させていただくなど、ご縁が続いています。

スタートアップのゴッドマザー、働く社外取締役として。人的資本の時代到来を実感。

スタートアップのゴッドマザー、働く社外取締役として。人的資本の時代到来を実感。

丸山
現在、岡島さんがどのような活動をされているのか教えていただけますか。
岡島

プロノバという会社を15年間経営しており、「経営チームを創る」ということに従事しています。具体的には、クライアント企業の中に入り込ませていただき、社長と二人三脚でサクセッション・プランを作り、10年ぐらいかけて次の社長を抜擢・育成していく、経営チームを組み直していく、というコンサルティングが主業務となります。

リクルートやキリン・グループ、味の素等の大企業の他、私が社外取締役を務めている企業の多くからも「イノベーション創出のための経営組織をつくりたい」というテーマをいただいているので、その一環としてのダイバーシティ&インクルージョン推進を様々な形でお手伝いしたり、約200社で課題解決に携わっています。

また、クライスさんにも採用で大変お世話になっているユーグレナでは、2020年12月から非常勤ながら執行役員CHROとして業務執行もしております。他にも上場企業5社の社外取締役を務めており、人的資本経営を考えるヒューマンキャピタリストとしての仕事をしています。(スタートアップの経営者が多く集まる)ICCサミット参加企業の大半には、何らかの形で経営チーム組成に関するアドバイスをさせていただいているので、「スタートアップのゴッドマザー」とも呼ばれています(笑)。

丸山
日本人はイノベーションが不得意と言われますが、岡島さんはどのような実感をお持ちですか?
岡島

ここ10年くらいで、世の中が確実に変化してきたなと感じています。イノベーション創出のためにもダイバーシティ&インクルージョンはやらざるを得ない、という状況になってきており、組織に多様性が無いと非連続な成長はできない、ということを経営者の方々にはかなりご理解いただいていると思います。

例えば、プロノバで10年ご支援させていただいているリクルートさんは、「2030年までにすべての階層で男女比50:50を実現する」という目標を掲げておられ、私もここにはかなり骨太に関わっています。「キャリアカフェ28」という28才前後の女性向けの育成施策でご支援した女性たちが、その後、ワーキングマザーになってGMに昇進され、今度は管理職向けのセッションに参加してくださるなど、かなり風景は変わってきているなという印象です。

キリン・グループでもキリン・ウィメンズ・カレッジという名称で毎年25名ずつ女性の次世代リーダー育成をご支援しており、現在9期目が完了したところですが、徐々に執行役員に近いところまで来ている方達が出始めています。OG含め、カレッジ生たちの素晴らしいコミュニティができてきているので、こうした事例を創っていくことが非常に大事だと思いますね。日本企業においても、ようやくダイバーシティ&インクルージョンの実益が見える状況になってきたと思います。

それから、2014年からアステラス製薬(※18年に退任)と丸井グループの社外取締役をやらせていただいているのですが、私は社外取締役を務めるどの企業でも社内の方々と多くお会いし、皆さんを存じ上げるようにしています。社員の皆さんのお顔を思い浮かべながら、経営陣とも人や組織、サクセッション・プランについて相当議論をしてきているので、やっと人的資本の時代が来たなという予兆を感じられるようになってきたのは非常に大きいと思いますね。

丸山
お話をお聞きしていると、社外取締役ではなくアクティブ役員という感じですね。
岡島

そうですね。社外取締役として、ステークホルダーとの対話の場に呼ばれて、機関投資家の方々とお話しするケースもあるのですが、「人的資本と言われているけど、何をやっているの?」とご質問いただいたり、株主総会でも指名されて直接ご質問をいただくことも数多くあります。みさき投資の代表である中神康議さんが「働く株主」を提唱されていますが、ご一緒している他の社外取の皆さんとは「私達は働く社外取締役だよね」と話しています。

これからの時代、意思決定の打席に立ち「好奇心」と「自己効力感を磨く」ことが重要。

これからの時代、意思決定の打席に立ち「好奇心」と「自己効力感を磨く」ことが重要。

丸山
岡島さんの著書で、「タグ付けやブランディングが重要」とのお話が印象的でした。
岡島

私自身は、自分は遅咲きのキャリアだなと思っていますが、これからの皆さんにはぜひ前倒しでキャリアを創っていただきたいと思いますね。特に、女性は社会人10~15年目ぐらいの仕事で成長する時期と、ライフイベントの時期が重なってしまいがちだと思います。

そのため、「前倒しのキャリア®」開発を目指して、20代のうちに3部署ぐらいを経験して自分のタグを増やしておき、例えば、育休などのブランクがあっても「あの人ならうちの部に戻ってきて欲しいよね」と言われる場所を3つ創ることが大事だと考えています。

また、多くの企業で実施しているキャリア開発のワークショップでは、「名刺にあなたの強みをハッシュタグで3つ書くとしたら何ですか?」といったワークをさせていただいています。例えば、「#プレゼンの鬼」など、何でも良いので自身の強み(タグ)を3つ言語化し、その強みを掛け合わせて「タグの掛け算で希少人材になる」ことを目指すようにお伝えしています。周囲にタグが流通し、想起される人材になることで抜擢につながりますし、そうなれば働き方のスタイルもある程度自分で選べるようになるので、働き方の自由度を上げるためにも、タグを確立して、信頼貯金をつくっていくということです。

これからの時代はChatGPTのようなAIが様々なことを補足してくれると思うので、「弱みを克服するキャリアの創り方」という考えはもう古いと感じています。もちろん最低限の勉強が必要なスキルはあるものの、弱みの克服ではなく「ご自身の強みを磨く」ことに力を注いで欲しいと思います。

丸山
ChatGPT等のテクノロジーが急激に進化する状況下で、「自分の仕事はどうなるのか」という不安を持つ方も多いかと思います。そういう方へのメッセージをいただけますか?
岡島

私が、今後とても重要になるだろうと思っていることが2つあります。

1つは好奇心ですね。ChatGPTは、答えは見つけてくれますが、問いは生み出せないので、問いそのものを生み出すことは我々人間がやっていかないといけない。その問いの源泉は好奇心だと思います。例えば社会課題に興味があるなら、「社会課題の中でもどの領域に自分は強い関心があるのか」を掘り下げて探っていき、それを行動に変えていくということです。学生さんからよく「どうやったら好きなことを見つけられますか?」と聞かれますが、原体験から見つけられる場合もあれば、行動する中で好きなことに気づくこともあるので、好奇心を磨いて行動していくことが大事だと思います。

もう1つは、自己効力感を高める、ということです。自己効力感とは、「未来の自分に対する自信」のことです。これまで人間がやって出来てきたことは、AIがうまく補足してくれる時代になるので、これから人間がやることは「今はまだ無いこと=未知なるチャレンジ」です。

これからの社会課題や事業課題を解決するためには、これまでにない、新たな方法で未来に挑戦しないといけない。それは当然ながら失敗確率も高いので、「自信が無いです」と言う方も多いかもしれません。それでも、意思決定の打席に数多く立ち、不確実な状況下で意思決定のリテラシーを磨くことで初めて直感が生まれ、成功確率が上がるものだと思います。そのためにも、打席の機会が巡って来たら食わず嫌いすることなく、「これはとても大変そうなチャレンジだけど、私ならできるんじゃないか」と思える自己効力感がとても重要です。

ユーグレナの社長である出雲充さんも非常に自己効力感が高い方で、「ミドリムシ由来のバイオジェット燃料で飛行機を飛ばす」という話を初めて聞いた時は「何を言っているのかな?」と思いましたが(笑)、「絵空事で言っているわけではなくて、僕は必ずできると思っています。Whatについてはとても解像度高く見えているので、Howの部分を手伝って欲しい」と。ビッグマウスではなく、彼にはその世界観が見えている、それだけ自己効力感が高い、ということだと思います。

丸山
失敗を積み重ねていかないと、自己効力感も直感も磨かれないということですね。
岡島

皆さんが今、勤めている会社であれば、人的リソースの在りかや人脈、本当は社内で誰が意思決定権を持っているのか、どのボタンを押せば予算がおりて投資してもらえるのか、といった社内のメカニズムが分かっていると思います。

一方で、例えば、転職などしてアウェイな環境で押すボタンも分かっていない中、やったことも無い仕事でトラックレコードをいきなり創るのは相当難しいです。それならば、不退転の覚悟さえあれば、社内で自分の評判が下がってもそれほど気にならないはずなので、皆さんもまずは失敗を恐れずに、現職で打席に立つ機会を取りに行った方が良いと思います。

今の時代、30代の方々はデジタルネイティブなので、これまでの世代よりも、意思決定の判断軸として経験の年数がものをいうことが減ってきていると思います。DXチームを創るとか、Produced by Digitalをやろうとした時に、ミレニアル世代やZ世代の人達の力を借りないと社内で実現できないことが増えてきているので、若い世代の方々に打席は思っていたより早く回ってくるし、自ら勝ち取りにも行けるはずです。

もし現職でなかなかチャンスが無いと思っている方は、それは社内のメインストリームで主流派の機会を取りに行こうとするから取れないのであって、他の人たちが避けるような、難しい球が飛んでくる打席に立てば良い。他の人達が好んでやらないことを、あえて選んでやればいいと思います。今は社内で横串を通すようなプロジェクトも多くなっていると思うので、多少大変そうな案件でもすすんで手を挙げて打席に立つ。そうやって、社内で認知されるような成果を早く挙げた上で、経営陣の目に留まって、例えば子会社の経営を任せてもらうといった流れが、早く経営者に近づくための一番の近道かなと思いますね。

構成: 神田昭子
撮影: 波多野匠

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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