ハイクラス転職のクライス&カンパニー

リーダーこそ、プライドを捨てて学び、自ら変わろうとしなければならない。

Special Interview

公開日:2016.08.01

早稲田大学在学時にラグビー部のキャプテンを務め、卒業後は三菱総合研究所でコンサルタントとして活躍されていたものの、再びラグビー界に戻り、早稲田大学ラグビー部の監督に就任された中竹氏。チームに「フォロワーシップ」という新しいマネジメント手法を持ち込み、2期連続でラグビー部を全国大学選手権優勝に導いた。以降、日本ラグビー協会のコーチングディレクターを務め、指導者の育成に力を注ぐとともに、リーダー教育などを担う企業も自ら立ち上げ、培ったナレッジをビジネス界へ展開することにも力を注がれている。そんな中竹氏に、あらゆる組織において必要とされるマネジメントについて、クライス&カンパニー代表の丸山がお話をうかがった。

日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクター  中竹 竜二氏

1973年福岡県生まれ。93年早稲田大学人間科学部入学。4年時にラグビー蹴球部の主将を務め、全国大学選手権準優勝。97年卒業後、渡英し、レスタ―大学大学院社会学部修了。2001年三菱総合研究所入社。2006年早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、2007年度から2年連続で全国大学選手権を制覇。2010年2月退任。同年4月日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターに就任。2012年度はラグビーU20日本代表監督を兼任。2014年、株式会社TEAMBOXを創業し、スポーツマネジメントのエッセンスをビジネス界に紹介した。2016年春には、ラグビー日本代表チームをヘッドコーチ代行として率いる。

インタビュアー

クライス&カンパニー 代表取締役社長
丸山 貴宏
キャリアコンサルタント
松尾 匡起

Message

志あるハイクラス転職を、クライスと クライス&カンパニー

Interview

「自分にしかできないこと」が判断の軸。
だから敢えてカリスマ指導者の跡を継いだ。

丸山
中竹さんは、かつて三菱総研のコンサルタントから、まったく指導経験のないまま早稲田大学ラグビー部の監督に転身されました。早稲田ラグビーを立て直して大成功を収めた前任の清宮(克幸氏)さんから監督を引き継ぐという、苦労することが容易に想定される状況で、敢えて監督を引き受けられた経緯をあらためてお聞かせいただけますか。
中竹

大学時代、私はラグビー部のキャプテンを務めていましたが、選手してはそれほど秀でたプレイヤーではありませんでした。ですから卒業後、社会人でラグビーを続けるつもりはなく、英国留学を経て三菱総研でコンサルタントとしてキャリアを重ねていました。当時、早稲田のラグビー部は、清宮体制のもとで学生たちが非常に頑張っていて、何度も大学日本一に輝くなどたいへん喜ばしく思っていたのですが、そこに突然、清宮さんから「次はお前が監督をやれ」とオファーをいただいたのです。最初は冗談かと思いました。それまでラグビー界とすっかり離れていて、指導経験などもまったくありませんでしたし……しかも「早稲田のラグビー部の監督はすべてを費やさなければ務まらないポジションだから、フルタイムのコーチとしてやってくれ」と。

写真
つまり、会社を辞めて監督をやれということですか?
中竹

ええ。その頃、コンサルタントとしてちょうど波に乗ってきた頃で、その仕事を離れるのは少し心残りもありましたが、後輩のために頑張ってみようかなと。でも、早稲田のラグビー部の監督は完全なボランティアで、大学の職員として雇ってくれるわけでもなく、収入源は自分で手当てしなければならない。幸い、ラグビー部のOBのある経営者の方がスポンサーとなって支援してくださり、何とか収入は確保できましたが、三菱総研時代と比べると半減しましたね(笑)。

丸山
いくら後輩のためとはいえ、収入が激減するような状況で、しかも経験のない監督に就任されることに迷いはありませんでしたか。
中竹

あまり迷いませんでした。それよりも「やらなければ」という使命感のほうが大きかったですね。

丸山
どうしても前任者と比べられてしまうので、普通はみなやりたがりませんよね。
中竹

私は人生を決める時、「自分にしかできないこと」を判断の軸にしています。私はラグビー界でずっと生きていくつもりはありませんでしたし、もし失敗してラグビー監督としての経歴に傷がついても何の支障もないので、このポジションに純粋に没頭できる。中継ぎとしては、まさに私が適任ではないかと。もともと打たれ強いほうですし、かえって厳しい環境のほうがやる気が出るタイプので、他に候補がいないのならやってみようと決意したのです。

丸山
実際に監督に就任してから、1年目はたいへん苦労されたようですね。
中竹

確かに苦労しました。私のようなド素人の監督の言うことなど、選手はまず聞いてくれない。露骨にため息をついたり舌打ちをする部員もいました。それも当然ですよね。これまで清宮さんのもとで一流のコーチングを受けていた部員からすれば、急に指導経験のない監督がやってきて「自分で考えろ」といきなり委ねられたわけですから。

丸山
部員たちからそうした態度を取られるのは、ショックではありませんでしたか。
中竹

もちろんショックでしたが、彼らが悪いとは思いませんでした。私は当初から「プレイするのは選手だから、勝つためには自分たちで考えなければならない」という信念がありましたし、それができる環境を提供できていない私の能力の低さに責任があるのだと。結果、1年目は大学選手権で優勝を逃してしまいました。早稲田のラグビー部は、たとえ準優勝だろうと「優勝以外は負け」という強烈な思想があるので、勝たせてあげられなかったのは本当に申し訳ないという気持ちでした。

ひとりひとりが責任を共有し、
役割を自覚して行動できるチームは、必ず強くなる。

丸山
最初は部員から反発を受けていたとのことですが、それが変わっていったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
中竹

当初しばらく、一部を除き多くの部員たちは「勝てないのは監督の責任だ」と思っていて、まあ事実そうだったんですけれども、大学選手権の決勝戦で負けた後、学生たちに現実が襲ってきたんですね。勝てなかったことを人のせいにして生きていくことの無意味さというか、もっと自分が頑張っていれば結果は変わったかもしれないと、そこで初めて強く感じたと思います。それは負けた後にしか意識しないことかもしれません。翌年は、先のラグビーワールドカップで活躍した五郎丸(歩氏)たちが最上級生の代だったのですが、彼らも最初は僕のせいにしていたものの、負ければそれは自分たちの実績になることを自覚し、そこから変わりましたね。ただ、就任1年目の最上級生たちには最後まできちんと自覚させてあげることができず、それは大いに反省しています。

丸山
その頃から、中竹さんが提唱されている「フォロワーシップ」、すなわち組織を構成するひとりひとりが考え、課題を解決しながら成長して勝利をしていくという考え方が確立されていったのですね。
中竹

私が大事にしているのは、「役割」と「責任」についての考えを変えることです。私はよく「グループからチームへ」という話をするのですが、グループというのは「役割分担」と「責任分担」が明確な形態です。しかし、そこから本当の意味での「チーム」になるためには、「自律貢献」と「責任共有」が大切になります。リーダーもコーチも選手も、みんなが同じ責任を共有する。そして役割というのは分担されるものではなく、自らできることは何かを探してチームに貢献していく。監督に就任して2年目以降はそのことを常に意識し、選手たちと向き合って「君ができることは何か」「君は何に貢献できるのか」をひたすら説き、責任感を醸成していきました。

丸山
やはりフォロワーシップを実践する上での鍵は、コミュニケーションにあるのですね。
中竹

端的に言えばそうですが、コミュニケーションといっても一概には語れず、きちんと分けて考える必要があります。たとえばチームを作るためのミーティングにおいても、全体ミーティング、コーチなどとのスタッフミーティング、選手のリーダーとのミーティング、さらには選手との一対一の面談まで、さまざまな種類があります。そして、その内容は決定事項の伝達なのか、ディスカッションなのか、ブレインストーミングなのか、目的と意義を明確にし、さらにはタイミングや時間などもきちんとコントロールして実施しないと、組織は目指す方向には進まない。ミーティングのマネジメントはきわめて重要であり、ビジネスにおいてもミーティングをきちんと行うだけで企業は変わると思います。

丸山
なるほど。ミーティングをきちんと実施するだけで企業が変わる、というのは卓見ですね。一方で、中竹さんが監督として率いられてこられたのは、早稲田のラグビー部にせよ、U20(20歳以下)のラグビー日本代表チームにせよ、いわゆるラグビーエリートが揃っている集団であったかと存じます。そうした能力も意欲もある人材に対してフォロワーシップは有効だと思いますが、一般の組織にはいろいろなレベルの人間がいて、モチベーションもさまざまです。そうした状況ではどうマネジメントすればいいのでしょうか。
中竹

私自身はエリートを率いている感覚はないんです。早稲田のラグビー部はエリート揃いという時代でもありませんし、素人同然の学生もたくさん入部しています。実際、企業もそうだと思うのですが、組織にエリートなどごく少数しか存在しないのが普通です。偏差値や経験値などは関係なく、人はマインド次第で必ず伸びる。真剣に向かい合ってコミュニケーションすれば、誰でも成長できる。むしろ、エリート集団じゃないほうが伸び幅は圧倒的に大きい、というのが私の実感です。ただ、それを担うリーダーには当然高い能力が求められる。コミュニケーションなんて誰でもできると思いがちですが、真に機能するコミュニケーションというのはきちんと学ばないとできない。たとえば、クルマは免許を取らなければ運転してはいけませんよね。それと同様に、リーダーもきちんとトレーニングを受けなければ、組織を回したり人を育てたりしてはいけないと思います。

どんな組織も、マネジメントの本質は同じ。
リーダーに求められるのは“Unlearn”。

写真
お話をうかがっていると、いまは「リーダーを変えていくこと」に中竹さんの意識が強く向いてい るように見受けられます。
中竹

私は早稲田のラグビー部の監督を務めた後、日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターの職に就きました。これはラグビーのコーチをコーチするというポジションで、これまでの経験で得たことをもとに、ラグビー指導者の方々に組織マネジメントの考え方を伝えていくことに取り組んだのですが、そこでも最初はひどく反発を受けました。でも懸命に接していくうちに、私のことを理解してくださり、みなさんが変わっていくのを目の当たりにして、成功体験を共有でき、以降は逆に支援していただけるようにもなりました。その過程でビジネス界の方々と関わる機会も増えたのですが、多くのリーダーがどう人を育てて組織を作るかということに悩まれていることを知り、ならばその課題を解決したいとTEAMBOXという企業を自ら立ち上げました。

丸山
スポーツの世界で得た知見を、ビジネスの世界にも展開されていくということですね。
中竹

スポーツでもビジネスでも、組織で大切なものは一緒だと思うのです。ビジネスの世界はそれほど甘くない、という声も聞こえてきそうですが、結局は「人」が関わることであり、実は何も変わらない。人の習性を理解し、本質にアプローチすることで解決策は見えてくると考えています。

写真
スポーツ界でもビジネス界でも変わらない「本質」とは、いったい何だとお考えですか。
中竹

平たく言えば「言い訳せずに頑張りましょう」ということです。人間というのは、どうしても自己防制する生き物です。たとえ、事態がうまくいっていない原因が自分にあるとしても、それを認めたくない。プライドがそれを邪魔してしまう。特にリーダーほどその傾向が強い。失敗を認めて、そこから学ばない限りは人の成長はありません。ですから我々の会社では、リーダー層に向けて、余計なプライドを除去し、これまで武装してきた知識や経験をいったん取り払う「大人の学び」を通じて、グローバルリーダーへ導くトレーニングプログラムを提供しています。

丸山
「大人の学び」というのは、私もたいへん関心のあるテーマです。
中竹

そのキーワードとして我々はよく“Unlearn”という言葉を使っているのですが、これは「学ばない」ということではなく、「これまで学んだことをいったんゼロリセットにする」ということ。この“Unlearn”に関することで、いまさまざまな企業からお声掛けいただいており、そこに我々の価値があると感じています。

丸山
しかし、自分の知識や経験をいったんゼロリセットするのは非常な労力を要しますし、抵抗も大きいのではないでしょうか。
中竹

実際、企業のリーダーの方々と向かい合う現場では文句ばかり言われています(笑)。「大人の学び」は、いままで築いてきたのと違うものを取り入れる行為であり、自己否定につながりますし、どうしても痛みを伴う。でも、そこまでしてでも変わらなければならない。リーダーが変われば、メンバー全員がモチベートされ、組織全体が変わる。よく経営者が「部下が頼りない」などと不平を言っていますが、いやいや、それはあなたが変わらないからダメなんだと。変われないのはけっして能力云々の問題ではなく、ただ一点、学ぶ姿勢がないということだけなのです。

丸山
中竹さんがいま取り組まれていることは、もはやフォロワーシップという次元を超えていらっしゃるわけですね。
中竹

TEAMBOXとしてはフォロワーシップに特化しているわけではなく、先ほど述べたミーティングのマネジメントであるとか、あるいは「判断」と「決断」を分けるためのメソッドであるとか、リーダーを変革し、組織を強く変えていくためのトレーニングを展開しています。

丸山
リーダー自身が「大人の学び」をし、変化していくという環境が社会に広がり、そうしたメソッドを身につけた人がたくさん活躍するようになると、そこからまた新たなリーダーが生まれていくことにもつながっていきますね。
中竹

そうですね。いま我々が提供しているものは、そこに人が存在する限り、どのような組織にも適用できるものだと思っています。リーダー自身が“Unlearn”し、自らを変革し続けていく。スポーツやビジネスというジャンルはもちろん、今後は日本という枠も超え、世界のいたるところで社会に影響力のある本物のリーダーを輩出していきたいですね。それが、今の「自分にしかできない使命」なのだと思っています。

構成: 山下和彦
撮影: 櫻井健司

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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インタビューを終えて

中竹さんは早稲田ラグビー部監督就任後、「日本で一番オーラがない監督」と呼ばれながら、新たな組織論として「フォロワーシップ」論を展開し大いなる成果を出されました。今回のインタビュー前半では、その監督として様々な実践を経て導き出された組織論について、後半では更にその経験、知見を発展させ、スポーツ界、ビジネス界問わず人の本質にアプローチする、本当の意味でのグローバルリーダー育成について語っていただきました。中竹さんは、その著書「挫折と挑戦」の中でも赤裸々に語られているとおり、思いの強さとは裏腹に怪我や不運から様々な辛酸を味わおうとも、決して挫けない人生を歩んでこられた方です。また、身体能力や運動能力の低さも言い訳にせず、むしろ考え方を転換させて前に前に進んでこられました。今回のインタビューでは、そうした苦労や挫折の数々についてはお話しは及びませんでしたが、シンプルな一言一言の裏側に中竹さんの大いなる決意と覚悟を感じざるを得ませんでした。「リーダーの変革」という難題に立ち向かう中竹さんですが、どのような難題であったとしても、それを使命とおっしゃる限り、困難を乗り越え成功を成し遂げられる姿しかイメージ出来ません。人と組織の成長を支援する我々クライス&カンパニーとしましても、この挑戦を心から応援させていただきたいと思います。お話ありがとうございました。

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