転職の面談で希望条件をお聞きした際、「安定した企業で働きたい」と希望される方が多くいらっしゃいます。そこで、「安定した企業とは、どういうイメージでしょうか?」と聞くと、「潰れる心配がない」「給与が年齢に応じて上がっていく」「住宅補助などの福利厚生・手当が充実している」「退職金がしっかり出る」といった答えが返ってきます。
たしかに、いずれも魅力的です。しかし、「安定」という言葉には落とし穴が潜んでいます。
30年前の安定企業は、今の安定企業ではない
1989(平成元)年の日本企業の時価総額ランキングと、2023年の同ランキングを比較すると、TOP20の企業はほとんど入れ替わっています(残っているのはNTTとトヨタ自動車のみ)。
さらに、世界の企業の時価総額ランキングを見ると、1989年はトップ50社のうち32社が日本企業でした。しかし、2023年のランキングでは、日本企業は1社も入っていません(日本企業のトップは52位のトヨタ自動車)。
1980年代の日本は高い技術力を持ち、「Japan as No.1」と称賛され、世界を席巻していました。しかし、90年代以降はバブル崩壊によって日本経済は低迷。
例えば、日本の電機メーカーは、アメリカ・中国・韓国のメーカーとの競争に敗れ、衰退の一途をたどっています。SHARPが、下請けだった台湾の鴻海精密工業に買収されたのも記憶に新しいです。
また、コロナ禍による経済混乱が起き、主に航空業界や旅行業界、サービス業界が大打撃を受けました。人の流れが途絶えたことにより、2021年3月期にはJR東日本が民営化以降初めて最終赤字決算となりました。VUCAの時代と呼ばれる現代、このように「安定」は絶対ではないことがわかります。
さらに厚生労働省の調べでは、退職金の平均額は1997年から2018年にかけて約1000万円減少し、給与の高い管理職向けに早期退職制度を設ける企業が増えるなど、世の中は急激に変わりました。
「企業の安定性」より大事にしたい2つの視点
もちろん「安定した企業」を全否定するわけではありません。ただし、キャリアを考える際には、以下の2点をしっかりと考える必要があります。
1つ目は、「世の中の変化に対応しているのか」です。
例えば総合商社は、元々トレーディングが主力事業でしたが、現在では事業投資~投資先の事業経営まで担うようになり、今は急速にDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めています。
投資の神様と呼ばれるバフェット氏が日本の総合商社に投資をしたのは、総合商社が時代に合わせて変化し、強い企業になったからだと言えます。
また、医療IT企業の「エムスリー」は2000年に創業し、医療業界の不をデジタルの力で解決し続け、時価総額1兆円を超える企業に成長しました。
既存のあり方に安住せずに変化をしていけるのか、世の中に変化を起こしていけるのかは、長く働き続ける企業を探すならば非常に重要な視点です。
2つ目は「その企業で働くことで、どのようなスキルが身につくのか」です。
前述のコロナ禍のように、将来を100%先読みすることはできません。
従って、思いもよらない変化が起こったときにいつでも転職できるよう、どこでも通用するスキル・経験を積み上げられるかが最も重要です。
繰り返しになりますが、「安定した企業」を否定するつもりはまったくありません。
大切なのは今見えている世界だけでなく、その先の企業の姿、自分のありたい姿をしっかりとイメージして企業を選ぶことです。キャリアを考える際の参考にしていただければ幸いです。
(2023年12月20日)
今回の教訓&アドバイス
今の安定が、将来的にも続くことが保証される世の中ではない
「変化」に対して敏感な企業かを見極める
どこでも通用するスキル・経験を積み上げる
清水 大介
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