約半年前、ある携帯電話端末メーカーに勤務される二名の方のご転職支援をさせて頂きました。転職後半年が経ち、お二方から近況を伺う機会がありました。その時のケースを題材に今回は「プロの仕事のこだわり」について取り上げさせて頂きます。
Aさんは34歳。これまで携帯電話端末メーカーにてアーキテクトとしてご活躍されてこられていました。スマートフォンアプリの台頭により端末メーカーよりも、プラットフォーム側に近いという意図で選ばれたご転職先は急成長中のインターネットモバイルビジネス大手。ご転職後半年でお会いしたAさんからは以下のような近況報告がありました。
「いや凄い環境ですね。自分の新しい力が開花されていっている感覚で毎日を非常に新鮮に過ごしています。前職で身に付けたスキル、例えば品質を担保したアーキテクチャー設計思想には、自信があったのですが、まだまだ学ぶことがあります。何せユーザーのリクエストがダイレクトかつタイムリーに飛び込んでくるのです。ユーザーはどんどん新しくて面白いものを求めてくる。その期待を超えなければと日々PDCAの高速回転です。じっくり企画し、製品を世にリリースしてきた前職では考えられないスピードとダイレクトさです。品質に対する考え方も変化させないとついていけません。環境が変わると本当に刺激的ですね!」
一方、Bさんは38歳。同じく携帯電話端末メーカーのマネージャーとしていくつもの製品開発チームの指揮をとり、数々の製品を世にリリースしてこられてきた方でした。Bさんは、その成長スピードに魅力を感じAさんの競合企業へマネージャー職でご転職されました。
しかし実はBさんとは、次のご転職についてのご相談でお会いすることとなりました。
「上層部がソフトウェア開発における品質のことがまるでわかってないのです。自分からみれば中途半端なものを市場に出してしまっている現状が目についてしまって。私はそれを開発プロセスの見直しやドキュメントルールなどを構築し、一から変革しようとしたのですが、経営陣からは肯定的な意見ももらえず、査定も低い状況になってしまっています。簡単に製品を市場に出し、都度修正や更新を掛けていくようなやり方は、市場を裏切っている気がしてならないのです。前職ではありえませんでした。転職を視野に入れています。」
「対社内で孤軍奮闘の半年でいらっしゃったのですね。考え方が違うということですね。ちなみにユーザーの声は聞かれましたか?市場の声です。」
「いえ、社内のテコ入れが最優先と考えて、正直市場の声どころでは無かったです。」
「そうですか。ではBさんは誰のために開発されていらっしゃるのでしたっけ?前職と現職でユーザーの方々のニーズは同じですか?」
「それは・・」
この後の会話はご想像にお任せしますが、色々悩まれた末Bさんは現職に残られました。考え方を根底から変える必要があると認識され、ポリシーを一旦横におき、苦労されながらも必死にユーザーのニーズに対し応える努力をされていらっしゃいます。
これまでに身に付けたスキルや考え方といった「仕事のこだわり」を、新しい環境からの刺激によって未知なる領域に進化成長させようと陽のエネルギーに溢れていらっしゃるAさん。
「仕事のこだわり」を普遍のものと考え、現状と理想のギャップに戸惑い、苛立ち、かつユーザーの求める声すら無視し陰のエネルギーに溢れていらっしゃるBさん。
仕事の中でこだわりを創っていくのはプロとして通るべき過程の一つです。しかし、そのこだわりが独り歩きしてしまっては、本末転倒といわざるをえません。サービスの対価は、ユーザー(顧客)の期待に応えることによって得られるという商売の原則に立ち返れば、仕事のこだわりは、顧客の期待が何かによって常に見直されるべきです。
本当のプロは市場の声に誰よりも敏感で、そして進化成長に誰よりも貪欲です。
今回の教訓&アドバイス
「自分のこだわり」に固執しない。
優先すべきは「顧客(ユーザー)が何を求めているか=市場の声」。
市場の声に合わせ、こだわりを進化成長させていくのがプロフェッショナル。
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