せっかく苦労して転職活動をしても、新しい会社で活躍できなければ何のために転職をしたのかわからなくなってしまいます。転職は職場を変えることによってより一層自分が活躍できるようになることなのですから。今回は10社を超える会社にデスクを持ち、コンサルタントとして社員のように働いているAさんの「職場順応力」の秘密についてお話します。
Aさんは38歳。関西の有名国立大学を卒業後、情報出版会社に10年勤務した後、一念発起して独立、今まで5年間、誰にも雇われずフリーのコンサルタントとして現在顧客企業10社と様々なプロジェクトを進行されています。また著書も5冊出版するなど最近ではちょっと名の知れたコンサルタントになられています。
先日、仕事のことで久しぶりにAさんとお会いしました。
「とてもご活躍ですね。成功の秘訣は一体何ですか?」 という私の直球の質問に対してAさん、少し考えて、
「そうですね、強いて言えば職場への順応力ですかねぇ。」
経営戦略を立てる力やマーケティング力、人的ネットワークなどを想像していた私にはちょっと意外な感じがして、「え、職場順応力ですか?サラリーマンみたいですね。」
「そうなんですよ。僕の立場は社員じゃないんですよね。言ってしまえばいつもよそ者からスタートするんですよ。サラリーマンより不利ですよ。だからまずはその顧問先の雰囲気に一瞬にして順応していかないと仕事にならないんですよね。」
と、社長に請われてコンサルティングをスタートさせるものの、日常は経営企画部だったり営業部だったりラインで部長や課長と仕事をするそうです。社長と同じ価値観であるはずもなく、会社によっては社長に反発しているところもある。でもどんな状況であろうとプロジェクトを進めていかなくてはならないのです。
「なるほど。でも具体的にはどのようににして『順応』するんですか?」
「まず、事前の情報収集です。今はインターネットなどで会社や業界について様々な情報が得られます。次は今までの自分のやり方は完全に放棄することです。」
「自分のやり方を放棄するのですか?」
「そうです。一旦放棄して、やり方についてはその組織にまずは完全に合わせます。僕はチューニングと呼んでいるのですが、チューニングの初期段階は『放棄』なんですよ。」
Aさんによる例えば会議の企画書一つにしても、図や絵でわかりやすく簡潔に表現したものが評価される会社がある一方、ギッシリ文字で説明したものでないと見てもくれない会社があったり、データを重視するカルチャーだったり、データに対して拒否感があったり、様々な組織の常識というかローカルルールみたいなものがあるのだそうです。理屈で言えば、図にできればその方がわかりやすいし、データも重要。でもそれを最初から押し付けても決してプロジェクトは動き出さないのだそうです。コンサルタントだから、社長の命を受けているからと言っても現場は誰も最初から言う通りには動いてくれません。だから最初は、「どんな伝え方が一番伝わるのだろう」と考えるところからスタートするのだそうです。これが、結果的に「今までの自分のやり方を完全に放棄する」ということになるのです。
転職者の中には新しい会社の風土に馴染めなかったり、思うように力が発揮できなくて短期で辞めてしまう人もいます。もちろん会社自体がとんでもない場合もあるかも知れませんが、一般的には今までの自分のやり方を最初から通そうとしている人が多いのではないでしょうか。「新しい会社の組織風土とのチューニング」。転職者にも大切なことだと思いませんか?
(2012年2月25日)



よく中高年の転職者の失敗事例として、「前の会社では~だった」を連発することで、回りも経営者もうんざりするということがあります。特に成功体験のある人に多いようですが、過去の成功は一旦忘れて新入社員のつもりで新しいやり方を吸収していくことができれば、定着する確率はもっと上がるのではないでしょうか。転職に限らず人事異動や転勤などで新しい組織に入ったときにも心がけたい教訓です。

丸山 貴宏
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