株式会社ニトリデジタルベース

「製造物流IT小売業」を掲げてグローバルに挑む、 ニトリのDXとは

株式会社ニトリホールディングス 上席執行役員 CIO(最高情報責任者) 兼 ニトリデジタルベース 社長 佐藤昌久 氏

DXレポート

2023 Apr 8

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「住まいの豊かさを世界の人々に提供する。」というロマン(志)を実現するために、長期ビジョンである「2032年 3000店舗・売上高3兆円」の達成へ向けて、成長をいっそう加速するニトリ。他に類を見ないビジネスモデルである「製造物流IT小売業」を掲げる同社では、ITが事業拡大の重要な鍵を握っています。ニトリのデジタライゼーションをリードする執行役員CIOの佐藤氏を弊社の社内勉強会にお招きし、お話しいただいた内容をレポートします。(以下の内容は、2022年12月の勉強会実施当時の内容になります。)

Profile

株式会社ニトリホールディングス 上席執行役員 CIO(最高情報責任者) 兼 ニトリデジタルベース 社長
佐藤昌久 氏

1962年生まれ。1994年ニトリ入社後、配送、店舗勤務を経て、情報システム室へ配属。
以来社内システム構築に携わり、2003年には情報システム室室長就任。
2010年には情報システム室を離れ、新規事業立上げや海外出店等のいくつかのプロジェクトへ参画。その後、2020年にニトリグループCIOに就任し、現在は2022年4月に設立されたIT子会社ニトリデジタルベースの代表取締役社長を兼任している。

Contents
バリューチェーンをすべて自社で構築し、20年前からデジタル化を推進。
2032年の3000店舗・売上高3兆円達成へ、IT組織をさらに強化。
スピード感をもって変革していくために、ITの内製にこだわる。
あらゆるビジネス領域に深く入り込み、ITで経営に貢献していく。
勉強会を終えて/クライス&カンパニー半藤(コンサルタント)

1. バリューチェーンをすべて自社で構築し、20年前からデジタル化を推進。

――企業によってDXの定義は異なるかと思いますが、御社におけるDXとは何でしょうか。

佐藤 最初に申し上げておきますと、ニトリの社内で“DX”という言葉は使われていません。トップからも「DXを推進しよう」などという発言は一度も聞いたことがない。そもそも、我々の事業はデジタルで成り立っているという共通認識を誰もが持って入り、ITでさまざまな仕組みを柔軟に変えていくことが前提となっています。

たとえば、かつてニトリでは、店舗でお客様と商談して注文をいただき、商品を配達してお届けする一連の流れを、紙の伝票を受け渡していくことで管理していましたが、20年前にすべてデジタライゼーションしています。すなわち、ニトリで買い物をすると、タブレット端末にお客様情報を入力すれば後の工程に自動的につながり、商品の手配・配達がきわめて効率的に実行される。これは、まさにいま世間で言われている“DX”にあたると思いますが、それを我々はずっと以前から当たり前に手がけてきたんですね。

――では、なぜニトリは早くからデジタライゼーションを実現できたのでしょうか。

佐藤 それは、バリューチェーンをすべて自前で有していることが大きいと思います。商品を作ってお客様にお届けするまで、生産、物流、販売といった機能をすべて自社で担っている。ですから、一気通貫でシステムを構築し、あらゆる情報をデジタルで扱い、すべての業務をデジタルでつなぐ環境を早くから実現することができた。それがニトリの競争力の源泉にもなっています。

2. 2032年の3000店舗・売上高3兆円達成へ、IT組織をさらに強化。

――これからのニトリにおいて、ITが果たすべき役割をどのようにお考えですか。

佐藤 ニトリは、「ロマン」を原点に「ビジョン」の実現を目指すという企業理念を掲げています。「住まいの豊かさを世界の人々に提供する。」というロマンを社員全員で共有し、それを原点にした長期ビジョンの実現に全力を尽くしていく。

その長期ビジョンは30年スパンで立てており、現在は2032年までに3000店舗、売上高3兆円を目指す計画が進行中です。この壮大な目標を達成するための重要な手段がITであり、2032年から逆算して取り組むべき課題を設定し、解決に向けてのアクションを起こしています。ニトリにおける“DX”を敢えて定義するなら、この長期ビジョンを必ず実現する力を有していくことだと言えるでしょう。

――いまお話しいただいた2032年の目標達成に向けて、IT部門をどのように進化させていかれるのでしょうか。

佐藤 ニトリでは20年前からITを内製しています。1996年に4名からスタートし、20数年経って社内のIT部門はいま400名を超える規模にまで成長しています。この間、基本的にパッケージなどは使わず、ほとんど自分たちで設計、コーディングしてシステムを構築してきました。

しかし、2032年のビジョン達成に向けてはこの規模で到底対応できず、逆算すれば1000名体制にする必要がある。また、現状400名強のIT部門のスタッフのうち、約半数は外部の協力会社のエンジニアの方々が占めており、今後は社員比率を上げていっそうパフォーマンスを高めていきたい。組織の70%は、ビジネスの当事者として意思決定できる社員にしたいと考えており、そのための人材採用がIT部門における最も重要な課題です。

――2022年4月に新設された「ニトリデジタルベース」も、IT組織強化に向けての一環ですね。

佐藤 ええ。優秀なIT人材を確保し、能力を最大限に発揮していただくための場を作りました。小売業であるニトリ本体とは別の給与体系や労働条件を設定し、IT人材の方々が魅力を感じていただける環境を整えています。

また、世間ではニトリがITに非常に力を入れている企業だというイメージは薄いと思いますが、実は「製造物流IT小売業」という独自のビジネスモデルを展開しており、「ニトリデジタルベース」が注目されることで私たちが如何にITに力を入れているかを知って欲しいという思いもあります。

スピード感をもって変革していくために、ITの内製にこだわる。 画像

3. スピード感をもって変革していくために、ITの内製にこだわる。

――では、便宜上あえて“DX”という言葉を使わせていただきますが、御社がいま取り組まれている、あるいはこれから取り組もうとされているDXの具体策を教えていただけますか。

佐藤 小売業では、品揃えの特徴や販売方法などの分類を「フォーマット」と呼びますが、2032年に向けてこのフォーマットをさらに拡充していく戦略です。2021年に実施した、株式会社島忠との経営統合もその一環。グローバル展開にもいっそう注力し、海外出店も加速させていきます。向こう10年でビジネスの規模は現在の4倍になる見込みであり、システムもそれに耐えうるものにしなければなりません。

そのための具体的な取り組みの一つとして、まずデータドリブン経営の仕組みづくりを図っています。昨今、スマートフォンの普及によってお客様側のデジタル化も進み、個人の行動を把握できるようになっています。そのデータを分析して、いままでできなかったお客様のセグメンテーションを実行し、新しいビジネスに結び付けていきたい。そうしたデータ分析が担える人材の養成も全社的に進めるとともに、データウェアハウスなどのIT基盤も強化していく。

今後、お客様とより深くつながる仕組みを創るべく、ECサイトとアプリもゼロベースで再構築する方針です。一方、グローバル化が進んで生産国と販売国が多様になると、サプライチェーンもシンプルな一本道ではなく、n対nのネット状になります。それをコントロールしていく仕組みづくりも不可欠であり、チャレンジしなければならないテーマが山積しています。

――そうした施策を実行していく上で、どこに困難があるとお感じになられていますか。

佐藤 いかにスピード感をもって変革していくかが重要だと思っています。そのためには、たとえばAIによる分析など、新しいテクノロジーの活用も欠かせませんが、内製にあまりにこだわり過ぎるとスピードが遅くなる。とはいっても、ITを内製することがニトリを強くしていることは疑いなく、新技術を導入するスタート時には外部の知見を入れて、あとは自分たちで担うなど、そのバランスをうまく保たなければと考えています。

正直にお話しすれば、すべて内製するのは実はとても苦しいんです。過去、グローバルスタンダードとされているERPパッケージの導入を試みたこともありましたが、結局、途中でプロジェクトを止める決断をしました。というのも、先ほど申しました通り、ニトリはバリューチェーンをすべて自前で有しており、こうしたビジネスモデルを実現している企業は世界でもほとんど例がなく、既存のパッケージでは歯が立たないんですね。外部にあるナレッジの中に、我々が抱える問題の解はないので、自分たちで作るしかない。だから、自社の競争力に直結するところはこれからも内製し、どんなに大変であってもそれは貫きたいと思っています。

4. あらゆるビジネス領域に深く入り込み、ITで経営に貢献していく。

――御社において、DXを進めていく上での要諦は何だとお考えですか。

佐藤 やはり内製にこだわっていることでしょうか。だからこそスピード感をもって変革できますし、20年前からシステムを内製し、あらゆるビジネスを支える仕組みを自ら創り出してきたので、社内で「ITがなければ何も実現できない」という認識が根づいている。ビジネスの起点にITがあり、トップから現場までデジタルを前提とする文化が醸成されていることが、ニトリの大きな強みではないかと思っています。

――御社でDXに携わる面白味ややりがいについて、ご自身の想いをお聞かせください。

佐藤 ニトリは、非常にユニークなビジネスモデルを擁する企業です。小売業であることはもとより、自社で工場を構える製造業でもあり、自社でロジスティクスも担う物流業でもあり、さらに言えば貿易において自社通関を設けており、商社の要素もある。あらゆるビジネスの機能を有しており、経験できる領域が実に幅広い。技術面においても同様で、アプリケーションの企画開発はもちろん、インフラやネットワークの設計も自分たちで行っており、基盤のアーキテクチャを研究するチームも抱えています。

ITのすべてに関われる機会があり、若手のうちは部門内で積極的に担当領域をローテーションしていますので、大いにキャリアを高められる環境です。また、ニトリはIT部門と事業部門との垣根が低く、ビジネス課題を発掘するところから一緒にディスカッションし、ITの視点から事業戦略立案にも関わっていきます。IT部門が事業部門の下請けとして扱われるような関係性ではない。ビジネスに深く入りこんで経営に貢献していく醍醐味を存分に堪能できると思いますので、そうした志向を持つIT人材の方々にぜひ参画していただきたいですね。

5. 勉強会を終えて/クライス&カンパニー半藤(コンサルタント)

IT・デジタルの内製化に強いこだわりを持つニトリ。20年前からITの内製化を進め、課題解決・目標達成のためにビジネスとITが一体となって戦略およびマネジメントを進めており、事業部門とIT部門の垣根がなく同じベクトルを向いてビジネスや仕組みを創っている。IT・DXを推進するうえで「反対勢力はいない」という言葉は印象的だった。「2032年に3,000店舗、売上高3兆円」のビジョン実現に向けてやるべきことのひとつがDX。それを推進するために設立したニトリデジタルベース。DXありきで立ち上げたのではなく、これまで内製化にこだわってきたからこそ必要と判断して立ち上げた組織であり、本質的な取り組みができる良い環境だと感じた。

(こちらのレポートの内容は、2022年12月の勉強会実施当時の内容になります。)

構成:山下和彦

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