今の時代は希望とチャンスに満ち溢れている。
松尾豊氏に聞く、AI×起業家輩出の可能性と未来

東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻 教授 松尾豊 氏

DXインタビュー

2023 Jul 26

今の時代は希望とチャンスに満ち溢れている。 松尾豊氏に聞く、AI×起業家輩出の可能性と未来 メインビジュアル

「DXとは何か?」「デジタルプロフェッショナルのキャリア」について、クライス&カンパニーのデジプロチームが第一線で活躍されている方々にインタビュー。今回は、東京大学で人工知能を研究されている松尾豊氏にお話を伺いました。

Profile

東京大学工学部電子情報工学科卒、同大学院博士課程修了。博士(工学)。スタンフォード大学客員研究員を経て、2007年東京大学工学系研究科准教授、2019年教授。人工知能学会では2012~2014年編集委員長、2014~2018年倫理委員長、2020年から理事。2017年に日本ディープラーニング協会を設立し理事長。ソフトバンクグループ社外取締役、新しい資本主義実現会議有識者構成員やAI戦略会議座長なども務める。専門は人工知能、ディープラーニング。

Contents
時代は変化していくもの。言い訳をせず、新しいテクノロジーを使ってみれば良い。
今の時代はチャンスと希望に満ち溢れている。松尾研で実現したいことも山積み。
「今日よりも明日、明日よりも明後日の方が良い」と思えれば、人生はきっと楽しい。
時代は変化していくもの。言い訳をせず、新しいテクノロジーを使ってみれば良い。 画像

時代は変化していくもの。言い訳をせず、新しいテクノロジーを使ってみれば良い。

―ChatGPTの登場を機に、今後の世の中のビジネスはどう変化していくのでしょうか?

ChatGPTによって、これから私達の社会やビジネスは大きく変化していくと思います。これまで以上に様々な形でAIが活用されるようになり、DXも更に進むでしょうし、今までに無かったようなビジネスも立ち上がっていく可能性があります。

これまでにも色々なAIテクノロジーが存在していましたが、ChatGPTの特長としては、「言葉を扱うAI」として、人間の問いに対して非常に高いレベルで回答できる点が挙げられます。我々からの「このように受け答えして欲しい」という様々なリクエストに応じた形で高度な回答をしてくれるので、その強みを応用して多様なタスクをChatGPTに任せることが可能となります。

新たなテクノロジーが我々の生活やビジネスに活用されるまでにはいくつかの段階があり、初めはシーズからスタートして世の中に色々な形で出て行き、やがて様々なサービスやアプリケーション・製品になっていくものです。例えば、ディープラーニングや画像認識のテクノロジーが2015年頃から世の中に出てきましたが、これは「画像を見た時に何があるかを認識できる」というテクノロジーをベースに、顔認証や画像診断・自動運転というサービスに繋がってきたということです。

現在、GhatGPTはシーズのフェーズにあるので、「このChatGPTを活用して何ができるか」が見えてくるのはこれからという段階ですが、上記のChatGPTの特長を踏まえると、その応用範囲は相当広いのではないかと考えられます。

―テクノロジーが進化する中で、個人のキャリアとしては何を意識すると良いでしょうか。

新しいテクノロジーを色々使ってみたら良いと思います。時代は変化していくものなので、自分もその変化する側に身を置けば良いという、シンプルな話ではないでしょうか。

スマホの例で考えると分かりやすいかと思いますが、スマホが登場した当時は「使いたくない」と拒絶する人達も数多くいたものの、今はそう言っていた人達も皆使っていますよね。つまり、新しいテクノロジーに対する私達の対応というのは、早く使い始めるのか、遅く使い始めるのかの違いに過ぎないと思います。

いずれにせよスマホが流行すると思うのであれば、自分も早く使ってみた方が良い。ずっとガラケーにこだわっていた人も、周囲にスマホユーザーが浸透するにつれて肩身が狭くなってくるものです。そういう人にスマホを使わない理由を聞くと「スマホは重い」とか「価格が高い」等と言いますが、単なる言い訳に過ぎない。人間は単純な生き物なので、いざ新しいものを試してみたら、今度はそんな自分を肯定したくなって「スマホって意外と使いやすいよ」と言うようになるんです(笑)。

スマホはほんの一例ですが、新しいテクノロジーが出てきた時に、それを自分が使っていないと人はその言い訳をしてしまいがちなので、まずは使ってみれば良いと思いますね。

今の時代はチャンスと希望に満ち溢れている。松尾研で実現したいことも山積み。 画像

今の時代はチャンスと希望に満ち溢れている。松尾研で実現したいことも山積み。

―松尾研が実現していきたいビジョンについて、お聞かせください。

松尾研では、「知能をつくる」「未来を切り拓く」というビジョンを掲げていますが、我々は普通の研究所ではなく、「先駆者」を育み、時代を変えることで「変化の連鎖」が生まれるエコシステムの創出を実現しています。

基礎研究を徹底し企業との共同研究で実装化まで磨きこみ、インキュベーション活動でそれらを実際に社会実装させていく、そしてそのために不可欠な人材育成まで一気通貫で行うことを目指しています。

今の時代はチャンスに満ち溢れていて、希望しか無いと私は思っています。松尾研でもこれからやるべきことは山のようにあります。例えば、インキュベーションで言うとスタートアップを松尾研から年間100社ペースで創出しようとしています。

その他にも、高専生は非常に優秀でAIとも相性が良いと感じたことから、数年前に始めた「松尾研・高専発スタートアップ」という取り組みも順調に伸びてきています。こういう機会が至るところに転がっているので、「やることが多くて面白くてしょうがない」という思いで私は日々生きていますし、松尾研でも実現したいことがあり過ぎて受けとめきれないほどです。

―これから新たに取り組んでみたいと思われているテーマはありますか?

学生時代に不良と言われていたような人を起業家にしたいと思っています。何でかというと、東大生にアントレプレナーシップを教える時に、口を酸っぱくして「とにかく行動しろ」と言うのですが、皆行動しない。皆良い子なので、授業中真面目に座ってメモを取っている。ですが、スタートアップを立ち上げるためにはとにかく行動しないといけない。

行動する人の典型例が、私は不良だと思っていて。彼らは世の中に対して「なぜ勉強しないといけないのか」「なぜ学校に行かなければいけないのか」といった問いを持っているんです。この問いに行動力が加わると、往々にして行動し過ぎた結果、ドロップアウトしてしまう。

ただ、これは本来正しい問いなんですよね。この問いに対して、大人が明確な答えを持っていないといけない。世の中を見渡してみると、今の学校制度に合わなかったけれども社会に出てから活躍している経営者や政治家は実は結構存在していて、彼らは精神的にタフで地頭も良く、人の心を掴むことにも長けているから最強なんです。そういう人材をもっと日本で育成していき、いずれ彼らが世界でイーロン・マスクと戦えるようになって欲しいと思っています。

私は、今の学校制度にうまく合ってない若い人達にAIを教えに行きたいんですよね。今まで社会からスポイルされていた人たちの才能が、もしかしたら大きく花開いてそこから凄いことが生まれてくるかもしれないと想像すると、とてもワクワクします。

彼らの中には本当に凄い能力を持つ人や元々地頭が良い人もいて、そういう人が覚醒して大活躍してくれたら皆希望も持てるだろうし、小さい頃から行動力がある子供に対する社会の見方も変わると思うんですね。

―東大生のような高学歴ではなくても、優秀な人たちに光が当たるということですね。

そういう優秀な人たちは日本に多数存在しますし、彼らに教える方法も色々あるのではと思います。それから、別の話として、高学歴の人たちも、もっと活躍させられるのではと思います。そもそも仕事をどのようにこなしていくかという教育もあまりできていない。結果として、まともな仕事ができる人が少ない。

まともな仕事とはまず、自分が何をやるかをきちんと確認し、合意を取る。期待値を調整する。そして、やるべきことに対してまずそれをどうやるかを分解し、1つ1つ実行して、適切なタイミングで報告する。実行する上で何か問題があれば、自分で解決するか、もしくはそれが難しい場合はアラートを上げる。基本はこれだけなのですが、ほとんどの人がトレーニングを受けていない。従って、経営者からみると仕事を任せられないんですね。自分自身で、モニターしないといけないということになる。そうすると、経営者のリソースが空かないので、あまり意味が無い。

今、コンサルタントやコンサルティングファーム出身の方が様々な環境で活躍していますが、それは彼らが普通に仕事をする方法を訓練されているからだと思います。自分が組織の中できちんと1つのピースとして機能できる術をきちんと身につけているわけです。そういう人が何人か集まれば、組織としてより大きな仕事ができるようになりますし、個人の得られる報酬も大幅に上がります。今まで、経営学やMBA等で近い講義はあったかもしれませんが、今の時代に、こういった仕事の仕方を体系化して教える講義を作れないかなとも思っています。

デジタルプロフェッショナル支援チームの転職支援とは?
「今日よりも明日、明日よりも明後日の方が良い」と思えれば、人生はきっと楽しい。 画像

「今日よりも明日、明日よりも明後日の方が良い」と思えれば、人生はきっと楽しい。

―デジタルプロフェッショナルの方々が松尾研に参画する魅力は何でしょうか?

松尾研は、基本的に高い成長モードにあるという点が挙げられるかと思います。人間は大体普通に生きていても(若くて元気なうちは)年間40%程度は成長するものだと私は勝手に思っています。人は、同じことを2回、3回と繰り返すと上達しますよね。なので、毎年、同じことを繰り返しても、成長して当たり前なのです。しかも、それにいろいろな新しい機会がありますから、それを取り込んでいくと、大きく成長して普通です。

ただ、ポイントは、それを普通だと思えるかどうかです。成長する企業やスタートアップでは、この感覚に近いと思います。そのような環境に身を置いて仕事をしていくと、メンバー全員が「前年と同じことをやっているだけでは、それはもはや仕事ではない」という共通認識を持つようになり、試行錯誤してより良い手法を見つけ出すようになる。そうすれば、その先にまた新たなオポチュニティが生まれて、またそれを自ら掴みに行くという動きを積み重ねています。

松尾研は「大学での基礎研究」「人材育成」「企業との共同研究」「インキュベーション」をいずれも行っており、スタートアップから大企業の経営者まで、幅広いステークホルダーとの繋がりがあります。有難いことに「新しい資本主義実現会議」の構成員や「AI戦略会議」の座長など、責任ある仕事もさせていただいています。

講演の機会やメディアに取り上げていただく機会も増えており、松尾研がしっかり動けば、実際に日本を良くしていくことができる立場だと思っています。松尾研のメンバーにとっても、これだけ幅広いセクターにおける経験が積める環境は、恐らく他にはまず無いかと思います。スタートアップ側に行くこともできますし、スタートアップに投資する大企業側に行く機会も持てますし、その制度をつくる役所側に協力して仕事をすることも可能です。

松尾研には多角的に世の中を見られる環境がありますので、その点も魅力の1つだと思います。

―松尾研は、起業家を数多く輩出されている印象があります。

まず、世の中の経済の仕組みを考えれば、起業できる人であれば起業した方が良いという大前提があります。もちろん起業をするためには様々な能力を必要とするので、「起業したいけれども自分はできなかった」という人がいるような、憧れの職業だと思います。そして、多くの人が挑戦し、結果として、自分は起業家に向いていないことが分かっても、だからこそ、今度は起業家を支援する側に回れば良い。

この考えが松尾研の中でほぼ当たり前の共通理解になっているため、松尾研の周りにいる学生は起業したいと思っている人がたくさんいますし、起業している多数の先輩に色々と話を聞いて、自分達も続々と起業していくという流れができていますね。

―最後に、この記事を読まれている方へのメッセージをぜひお願いします。

「松尾研に来ていただければ、明日は明るいですよ」とお伝えしたいですね(笑)。私は、日本中のあらゆる優秀な才能が松尾研に集まって、それぞれ刺激しあって大きく成長するようにしたいと心から思っています。若い人の才能をしっかり伸ばし、その後多方面で活躍してもらう、それが、また松尾研の活動に評判や人材という形で返ってくる、という循環を生み出したいです。

松尾研が社会に対して10の良いことをすると、そのうち1が回り回って自分達に還元されるという感覚を持って日々活動しています。日本の問題点としては、皆余裕がなくなっているので、近視眼的になり、少し遠い距離や長い時間を要する付加価値の創出に対して気づけないし、気づいても動けなくなっているんですね。

つまり、松尾研が、長い距離や時間がかかる付加価値を社会に提供していくことができれば、そこは他の人達が全然やっていないところなので価値や意義が出しやすく、またその次に我々が挑戦可能なことが見えてきて、より一層面白い仕事ができるというふうに進んでいます。

実際のところ、今の時代は自分次第で成長できるチャンスがいくらでも得られますし、誰だって「今日よりも明日、明日よりも明後日のほうが良い」と思えると楽しいですよね。でも、ちょっと外に出ると何か皆どんよりした雰囲気で、僕はそれが残念に感じます。時代やテクノロジーは移りゆくものなので、自身も変化する側に行けば良いのではないかと思います。

人生は一度きりしか無いのですから、皆さん、変化を味方にして、今日より明日は良くなると希望をもって、楽しんで生きていきましょう。

構成:神田 昭子
撮影:波多野 匠

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

この記事を書いたのは・・・

ハイクラスの転職支援を行う人材紹介会社クライス&カンパニーのデジタルプロフェッショナル(通称:デジプロ)支援チームです。私たちは、デジタルテクノロジーの力でDXをリードする方々のネクストキャリアを本気でご支援しています。本サイトでは、DX領域の第一線で活躍する著名な方や各企業のCIO・CDOに直接お会いしてお話を伺い、自らコンテンツを編集して最先端の生の情報をお届けしています。ぜひご自身のキャリアを考える上で活用ください。直近のご転職に限らず、中長期でのキャリアのご相談もお待ちしています。 転職・キャリア相談はこちら

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