デジタルプロフェッショナルが世界を救う。
安間裕氏に聞く、ポジティブなITキャリアの創り方

アバナード株式会社 会長 安間裕 氏

DXインタビュー

2023 Jun 2

デジタルプロフェッショナルが世界を救う。安間裕氏に聞く、ポジティブなITキャリアの創り方 メインビジュアル

「DXとは何か?」「デジタルプロフェッショナルのキャリア」について、クライス&カンパニーのデジプロチームが第一線で活躍されている方々にインタビュー。今回は、IT業界で長年経営をされている安間裕氏にお話を伺いました。

Profile

アバナードに入社する前は、国内ITコンサルティングファームの経営に従事し、その前にはアクセンチュアにおいてアウトソーシング、BPO (ビジネス プロセス アウトソーシング) の責任者を務める。また、アクセンチュア テクノロジー ソリューションズ株式会社の設立に携わり、同社代表取締役を7年間務める。2014年5月から約8年間アバナード株式会社の代表取締役を務め、2022年9月に退任後、会長に就任。明治大学文学部文学科フランス文学専攻卒。

Contents
人生は1勝9敗で良い。自分にとっての正しさと、一緒に汗と涙を流す仲間を大切に。
IT人材が初めてセンターマイクに立てたこの絶好の機会を、我々は逃してはいけない。
デジタルプロフェッショナルの仕事は、どんな機会もポジティブに捉えると面白くなる。
人生は1勝9敗で良い。自分にとっての正しさと、一緒に汗と涙を流す仲間を大切に。 画像

人生は1勝9敗で良い。自分にとっての正しさと、一緒に汗と涙を流す仲間を大切に。

―初めに、これまでのキャリアについてお聞かせいただけますでしょうか。

私は学生時代にテナーサックスのプロになろうか迷っていたのですが、私より上手なミュージシャンの人達が食べていけない現状を目の当たりにしてプロになることを断念し、全労済に入りました。

私が就職した1980年代前半当時は、コンピューターのビジネスユースが始まった頃で、適性がある人は全員コンピューターの部門に行きなさいという時代でした。私は文学青年で絶対行きたくないと思っていたのに、適性試験が100点だったんです(笑)。でも実際に仕事を始めてみたら結構面白くて、いつの間にかコンピューターのことが好きになっていて。次のキャリアである輸出入系企業では、初めはIT部門に配属され、途中から意思決定支援部という部門に異動したのですが、このユーザー部門での経験が私にとっては非常にプラスでした。

企業のあらゆる意思決定をコンピューターや統計学で支援する部門だったので、会社のロジから工場まで全部署を回ってどんな業務をやっているのか聞いて回ったことで、「ITの俺たちが凄いことをやっている」という自身の驕りを心から反省して現場の人達への尊敬の思いを持てるようになった、貴重な体験でしたね。

次に転職したアクセンチュアでは、困難なプロジェクトを担当したことでヒーローのような扱いを受けましたが、ちょうどその頃に歯茎を痛めて歯医者に行ったら「テナーサックスをやめるか仕事をやめるしかないよ」と言われてアクセンチュアを辞めることになりました。その後、広告代理店のITリードを務めている時にアクセンチュアから声をかけられて出戻ることとなり、日本でアクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズという会社が立ち上がるということでその社長を務めました。

組織が800人規模に拡大した後、日本で本格的にBPOをやりたいという話があり面白そうだなと思って引き受けた後、やはり自分にはITの方が向いているのではないかなと思ってフューチャーに移り、現職のアバナードにジョインしたという流れですね。こうして振り返ってみても、私のキャリアはかなりユニークではないかと思います。

―これまでのキャリアにおいて、どんなことを大事にして歩んでこられましたか。

まず1つ目に、私の場合は「巨人の星」の星飛雄馬や、「耳をすませば」でヴァイオリン職人を目指す天沢聖司のように「この道一本で生きていく」という目標は大学卒業の時点で挫折したので、何か面白いことをやりたいなと思っていました。その中で感じたのは、ガリレオ・ガリレイやコペルニクスはやはり正しくて、私を中心に世の中は動いていないんだなと。それならば、意図しないものが目の前に提示されたときに、それが偶然だとしても否定せずに楽しんだほうが良いですし、世の中に起きる様々な出来事を受け入れて生きていく方が面白いと思います。

2つ目としては、私は自分にとって正しいのではないかと思えることをやろうとしてきました。私は、私のことを好きでいたいんです。物事が上手く進んだときよりも、自分が正しいと思っていることができたときの方が嬉しい。仮にプロジェクトでお客様にお叱りを受けて上手くいかなかったとしても、自分が一番大事な人のことを大切にできたのであれば心から嬉しいし、人から「大変だったでしょう」と言われても私自身は全然落ち込んでいないんです。私は、「人生は1勝9敗で良い」と思っているんですよ。

普段から仕事で人と口論になることは殆ど無くて、プライドは絶対持っていなければいけないと思うものの、物凄く低いほうが良い。自分がやりたいと思っていることに到達するまでに9回負けたとしても、最終的にそこに行ければ勝ちです。すべての場面において「べき論」で正しいことをやろうとすると疲れてしまうので、正しいと思うハードルは低いほうが良い。でも、絶対これだけは守りたいよなと思う時には、それを貫き通せば良いと思います。

―「お客様に喜んでもらいたい」「お客様と一緒に涙を流す」というお話を、他のメディアや過去の弊社イベントでも度々されている印象があります。

1つは、私たちがテクノロジーを使って世の中に何らかの爪痕を残すためには、自分たちだけではできなくて、共に汗と涙を流す仲間としてお客様がいるわけですよね。そのお客様と一体となって何かを成し遂げた結果、その企業が変わり、間接的にその企業のお客様を変えて世の中に何かしらの影響を与えられた時は本当に嬉しいですね。

もう1つは、人が一番大事だと思っていて。お客様と私は偶々別の会社にいるわけだけれども、もしかしたら将来的に同じ会社にいるかもしれないし、同じ人間同士なんです。そう考えると、協力会社の人達を下に見るような人間は、先ほどお話した私にとっての「絶対守らなければいけないライン」に触れるんですね。私は、会社の垣根を超えて仲間と肩を抱き合って泣くという、青春映画的な感じが好きなんです(笑)。その企業と一緒になって何かを変えようと思うのであれば、それぐらい思い入れを持った方が達成感も大きいし、仕事をしていて面白いと思います。

私はよくメンバーの皆さんに「目的意識を持ってくださいね」とお願いしていますが、「このプロジェクトは何のためにやっているのか」という目的を理解してそこに向かうことが大事です。

例えば、郵便局に行って来てというミッションがある場合、道順を細かく指定したらその道が工事中だと身動きが取れなくなってしまいますが、「どんな手段を使ってでも郵便局に行って来てね」と言えば、何としてでも辿り着こうとするはずです。「明日自分が何をやるかは、明朝にマネージャーから言われないとわからない」という状況では、休みも取れないし、明日になって徹夜と言われたら絶望しますよね。自分で仕事をコントロールしながら人生を自らの手の中に収めておけると、やりがいもあるし自由度も高く、人として尊重されていると感じられる。私は、そういうことを大切にしてきた気がします。

IT人材が初めてセンターマイクに立てたこの絶好の機会を、我々は逃してはいけない。 画像

IT人材が初めてセンターマイクに立てたこの絶好の機会を、我々は逃してはいけない。

―IT業界の現状について、どのように見ていらっしゃいますか?

全体的な傾向として、良い方向に向かっていると思います。まず、私がATSという会社を始めた頃、当時のSI業界の多段型の構造を変えたいと思っていて、階層を浅くしてお客様と直接相対するエンジニア人口を増やさなければと考えていましたが、現在は各社がM&Aで統合する動きも進み、3次請け・4次請けと呼ばれるSIの会社は減少してきています。

また、デジタルやDXという言葉が生まれたことで、政府の追い風もあり、「ITは縁の下の力持ちだが、デジタルは企業を変容するもの」と位置づけられて、ITはコストである一方でデジタルは投資なので積極的に活用しようという流れができました。我々エンジニアが、私の数十年にわたるIT人生において初めてセンターマイクに立てたこのチャンスを、ITに携わる人たちは逃すべきではないと思います。世の中が初めて我々の重要性に気づいてくれたという意味では、これを機に素晴らしい動きになってくれれば良いなと思っています。

一方で、その分我々に課せられた役割も大きくなったと言えます。従来は、「何をしたいのか」という要件定義をお客様が考えて、それを実現するツールとしてウォーターフォール型のシステム開発の仕事の仕方が成立していたわけですが、今ではITとビジネスが両輪で回る状態になったため、ビジネスに対してITが「こんなことができるんだけど、何かやれることない?」という形で双方が進化していく時代になりました。我々は、お客様が欲しい要件を待っていてはダメで、我々から提案していく必要があるということです。

―テクノロジーが進化する中で、例えば「世の中の仕事がAIに取って代わられるのではないか」という声を聞くことがあります。

むしろ、AIに仕事を代わってもらったら良いと思います。現在、世の中に出回っているお金や食料が仮に充足している状態だとすれば、それを保つために我々は相当頑張って働く必要がありますが、AIがお金もエネルギーも要らない存在として人間の代わりに働いてくれるのであれば、我々はそこまで無理して働かなくても、生きがいを保てる程度に働けば良くなりますよね。

加えて、日本は労働力人口が年々減少している中で、ダイバーシティを推進していくことで経済生産性が保たれるわけですが、それでも足りない部分を補えるのがAIなんです。だからこそ、AIエンジニアやデジタルエンジニアは世の中を救うんですよ。日本の人口が8000万人になったとしても、人間とAIが手に手を取って1億2000万人分の仕事をこなせれば良い。当社では2022年9月から「アバナードアカデミープラグラム」という、現在ITに携わっていない方々や、以前ITに関わっていて今は離れてしまっている方々を対象にしたトレーニングプログラムを開始しています。これは日本の未来にとって、非常に意義のあることではないかと考えています。

―これからのIT業界はデジタルを扱う方々がより花形になっていくからエキサイティングであり、一方でまだ人材が足りないので増やしていく努力も必要だということですね。

デジタルの専門家がこれだけ世の中で脚光を浴びる時代は無いと思いますが、まだまだデジタル人材が足りないので、もっと増やしていく必要があります。グローバルで半導体TOP10のランキングに日本企業は入らなくなってしまいましたが、日本の半導体の技術者は「給料が2倍になる」と言われたら海外の企業に行きますよね。恐らく、デジタル人材でも同じことが起きます。日本企業に技術者を繋ぎとめること、日本企業から出て行ってしまった人を呼び戻すこと、あるいは「必ず戻って来てね」と言って海外に送り出し、そこで非常に力をつけた人材になって日本企業に戻ってきてもらうことが大事だと思います。

デジタルプロフェッショナル支援チームの転職支援とは?
デジタルプロフェッショナルの仕事は、どんな機会もポジティブに捉えると面白くなる。 画像

デジタルプロフェッショナルの仕事は、どんな機会もポジティブに捉えると面白くなる。

―今後のIT業界も見据えた上で、デジタルプロフェッショナルは何を意識してキャリアを歩んでいくべきでしょうか?

私は、キャリアのジグソーパズルはどこから埋めても良いと思っています。例えば、プロジェクトマネジメントの仕事は、プロジェクトを1つの組織として捉えると、ミッションコマンド型やアメーバ型の組織運営の実践を積むのに非常に適した機会なんです。つまり、プロジェクトマネージャーを経験することで経営者の勉強をしていると言えます。

また、クラウドエンジニアにアサインされたなら、あなたは全チーム・全ての業務に触れられる貴重な機会を持つ人なんですね。「クラウドエンジニアなんて希望していなかったのに」と思うのではなくて、「私には免罪符が与えられたから、どんなチーム・どんなユーザーにも直接話をしに行けて、どんなことをやっているのかを知ることができる機会なんだ」と捉えてみる。自分が得られる機会のすべてを味方にできるようポジティブに物事を考えていくことで、ご自身の描くキャリア完成図のピースは自ずと埋めていけるものだと思います。

―想定外の新たな仕事もポジティブに捉えて挑戦してみるスタンスが大事ということですね。

私は、BIが非常に好きなのですが、基幹系のプロセスで考えるとBIは最下流にいるんですよ。発注が来て在庫と照らし合わせて生産指示を出して品質管理が、、、と、全部のデータが集まったところでようやくBIに至るんですね。一方で、「BIによって意思決定が行われて次の舵が決まっていく」と考えると、BIは輪の中心にいるとも言える。BIを考えることは未来を考えるということなので、「この会社はこんな風になりたいんだろうな、世の中がこうなっていくんだろうな、だとするときっとこういうデータが必要になるのでは」と考えながらつくっていけば面白いですよね。BI・インフラ・アプリはそれぞれとても面白いんですよ。テストを例に取っても、「テスト?嫌だな」と思ってしまうとつまらないけれども、「こういう風にこの企業のプロセスは回っているんだな。テストって面白いな」と考えた方が絶対に良い。これからキャリアを積む方には、ぜひこういう考え方をお伝えしたいと思います。

―最後に、この記事を読まれている方へのメッセージをぜひお願いします。

「デジタルプロフェッショナルが日本を救い、世界を救う」ということですね。すべての企業の経営者が考えるべきことは、地球を救うことだと思います。これからの技術に求められるのは、「いかに環境破壊を止めるか」ではなくて、南極に氷をつくるというような「いかに地球環境を元に戻すか」ということです。

ここまで私たちは不都合な現実から目を背けて来てしまいました。私は、ナバホ族の「地球は親から与えられたものではない。祖先からの授かりものでもない。子ども達から借りているのだ。」という言葉が好きなのですが、通り過ぎてゆく時間の一断面に我々は存在しているに過ぎず、その断面を継続させられるかどうかは我々の手にかかっています。2045年のシンギュラリティ問題の前に、地球が無くなってしまうかもしれない。その意味で、私はデジタルプロフェッショナルが地球を救うと心から思っています。

構成:神田 昭子
撮影:波多野 匠

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

この記事を書いたのは・・・

ハイクラスの転職支援を行う人材紹介会社クライス&カンパニーのデジタルプロフェッショナル(通称:デジプロ)支援チームです。私たちは、デジタルテクノロジーの力でDXをリードする方々のネクストキャリアを本気でご支援しています。本サイトでは、DX領域の第一線で活躍する著名な方や各企業のCIO・CDOに直接お会いしてお話を伺い、自らコンテンツを編集して最先端の生の情報をお届けしています。ぜひご自身のキャリアを考える上で活用ください。直近のご転職に限らず、中長期でのキャリアのご相談もお待ちしています。 転職・キャリア相談はこちら

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