太陽ホールディングス株式会社

デジタルで新規事業創出に挑む、 老舗化学メーカーのDXとは

太陽ホールディングス株式会社 常務執行役員 CDO 俵輝道 氏

DXレポート

2023 Sep 5

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太陽ホールディングスは、あらゆるエレクトロニクス製品に利用されるソルダーレジストという素材で世界トップシェアを誇る化学メーカーです。近年は、長年にわたって培ってきた高度な技術力をもとに事業の多様化を図っており、DXにも注力しています。同社のDXの大きな特徴は、社内での成果を外部に展開し、それを新規事業に繋げていること。同社のDXをリードする常務執行役員CDOの俵輝道氏を弊社の社内勉強会にお招きし、お話いただいた内容をリポートします。

Profile

太陽ホールディングス株式会社 常務執行役員 CDO
俵輝道 氏

住友電気工業(株)国際事業部にて海外戦略企画・実行に従事後、VCを経てスタートアップを4年間経営。会社売却後(株)ミスミに勤務し日本で金型部門の事業統括ディレクター、米国駐在で米国社買収後のPMI業務に従事。その後アマゾンジャパン合同会社でDIY用品事業部長 兼 産業・研究開発用品事業部長。現在はエレクトロニクス素材及び医薬品メーカーである太陽ホールディングス株式会社にてIT部門を統括しつつグループ全体のDX推進を責任者として推進中。慶應義塾大学法学部、ダートマス大学タックスクール卒。

Contents
自社の課題解決を新規事業創出に繋げる「攻めのDX」
社内で構築したAIナレッジマネジメントの事業化に挑む
「人」の意識がついてこなければ、DXは成功しない
これからの社会に求められるDX人材になるための絶好の場
勉強会を終えて/クライス&カンパニー永田(コンサルタント)

1. 自社の課題解決を新規事業創出に繋げる「攻めのDX」

――企業によってDXの定義は異なりますが、御社はDXをどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。

俵 我々は、DXが果たすべき役割を「守りのDX」「攻めのDX」「DXを進める上での基盤強化」の3つに分けて捉えています。太陽グループは、エレクトロニクス事業と医療・医薬品事業の2つを大きな柱に据え、その他にもエネルギーや食品、ファインケミカルなど多様な事業を展開しています。デジタル技術によって各事業の生産性向上や業務高度化を図るのが「守りのDX」です。そして、他社と比較して特徴的だと思われるのは、自社で蓄積したデータや経験をもとにデジタルを活用して新規事業を創出しようとしていること。IT領域で第3の大きな事業の柱を築くことを目指しており、それが「攻めのDX」です。

「DXを進める上での基盤強化」に関しては、事業を支える基盤となる人事や経理、法務などの機能もデジタルで強化し、グループ経営の効率化・高度化を図ると共に、DXを推進する上で重要なのはやはり人材なので、デジタル人材の育成にも注力しています。

現在、当社は様々な経営課題に直面し、それらをデジタルで解決していこうとしていますが、他社でも同様の課題を抱えているのではないかと思っています。そこで、社内をいわば実験場にして、開発した課題解決のシステムをファンリードというIT子会社を通じて外販することに取り組んでおり、それを我々はデジタルを活用した新規事業創出と位置づけています。

更には、これは少し先の話になりますが、デジタル活用を通じて既存顧客への提供価値を刷新し、圧倒的に顧客満足度を上げていくことも目指しています。

――DXへの取り組みをここまで明確に定義されている企業は少ないように思います。現在御社がDXに力を入れているのはどのような背景からなのでしょうか。

俵 やはりデジタルを活用しないと、もはや企業として生き残ってはいけないという危機感からですね。直近では、生成AIなどがその典型だと思うのですが、こうした先進のデジタルを活かすか活かさないかで、企業の競争力は大きく違ってくる。だからこそ我々はDXをきわめて重要な経営戦略に掲げているのです。

2. 社内で構築したAIナレッジマネジメントの事業化に挑む

――いま御社で進行しているDX施策について、具体例をご紹介いただけますか。

俵 当社は主力事業のひとつとして医療・医薬品事業を展開していますが、ナレッジマネジメントがうまく機能していないという課題を抱えていました。医薬品を製造する時、国が定めた色々な基準に則って作らなければならず、しかもそれは頻繁に変更されます。医薬品製造に求められる監査資料なども膨大にあり、こうした情報が社内で一元化されておらず、シニア層に知識が偏って若手にトランスファーできていないため、業務がスムーズに運んでいなかったんですね。

そこで、AIを使って必要なナレッジを容易に入手できるシステムを構築し、現場での運用を開始しました。このシステムを特許出願し、これから外販していく方針です。すでにトライアルでいくつかの企業に使っていただいていますが、非常に好評で手応えを感じています。DXを担う我々のチームは、社内の課題解決だけでなく、広く社会が抱える課題まで解決していくというミッションを掲げており、事業化まで見据えて取り組んでいるケースがほとんどです。

また、エレクトロニクス事業における例を挙げますと、これまで日本と海外でデータの共有が十分に図られておらず、横軸で戦略が立てられないという課題を抱えていたため、マスターデータマネジメントを導入してデータ統合を進めているところです。これは、基盤強化の取り組みですね。あとは、先ほど申し上げたナレッジマネジメントのシステムをエレクトロニクス事業にも導入し、暗黙知をナレッジ化してグローバルで共有する施策も展開中です。

――社内の業務革新に留まるDXが多い中、そこで得た知見を外販し、他社の課題解決にまで及ぶ企業は珍しいと思いますが、なぜ御社はそうした姿勢をお持ちなのでしょうか。

俵 それには二つの理由があると思っています。ひとつは、当社は新規事業創出に非常に重きを置く企業だということ。いま我々は2030年に向けて目指す姿を示した長期経営構想「Beyond Imagination 2030」を掲げていますが、そこでも新規事業を創ることを明確に謳っています。なぜここまで新規事業にこだわるのかといえば、強烈な危機意識があるからです。

当社は過去、かなりの売上を上げていた主力製品のひとつが、技術革新のあおりをうけて市場を失ってしまった経験があるんです。そこから経営が企業存続について常に危機感を抱くようになり、その後、M&Aなども推進して医療・医薬品事業を第二の柱に築き上げるなど、新事業の創出を強く志向しています。もうひとつは、当社のDXをリードする私自身が、これまで新事業の立ち上げなどを数々手がけてきた人間ですので、部門全体がそうしたマインドになっていることも影響しているように思います。

――社内で創り出したプロダクトやサービスが、外販されて広く社会に提供されていくのは、IT人材の方にとって大きなやりがいになるのではないでしょうか。

俵 まさにそう思います。当社は対外的にも新規事業創出を企業戦略として打ち出していますので、そこに惹かれてキャリア入社される方も多いですね。

「人」の意識がついてこなければ、DXは成功しない 画像

3. 「人」の意識がついてこなければ、DXは成功しない

――御社において、DXを進めていく上での要諦は何だとお考えですか。

俵 その答えはきわめてシンプルで、要は「人」だと思っています。DXを進めていく上では、事業側の人たちをいかにうまく巻き込んでいくかが重要です。DXというのは手段に過ぎず、会社が掲げる経営戦略の上で事業を動かす「人」の気持ちがこもっていないと、結局はうまくいかない。

ですから、現場で事業に携わる人たちを巻き込み、DXを他人事ではなく自分事として捉えていただき、行動につなげていく。そうした泥臭い取り組みが、当社のDXでは大切だと考えています。

――どうすれば事業側の人たちの当事者意識をより高めることができるのでしょうか。

俵 やはり正しくコミュニケーションすることではないでしょうか。事業側がどのような競争環境に置かれていて、どのような課題を抱えているのかを、こちらがしっかりと理解して提言していく。そして、DXによって実現される事業の将来像を描き、それを共有して意識を合わせるようなコミュニケーションをすることが大切だと思っています。

また、経営トップに働きかけて、現場に向けてDXの価値や意義を発信し続けてもらうことも重要ですね。私も執行役員クラス以上のマネジメント層に向けてDXの勉強会などを開催し、経営陣の啓蒙に努めています。

――DXの推進にあたって、事業側と正しくコミュニケーションすることが肝要とのお話ですが、配下のメンバーの方々にもそうした意識づけをされていらっしゃるのでしょうか。

俵 ええ。いま我々の部署では、自らのバリューや行動規範についての議論を重ねています、その場で、我々が大切すべきはユーザーファーストであり、しっかりと事業側の目線に立ってコミュニケーションすることや、プロフェッショナルとして自分の付加価値を大切に考えることなど、我々があるべき姿をメンバーに対してよく説いています。

また、決算説明会など、会社の経営に関する情報開示の場にメンバーを出席させたり、あるいは私が決算について解説をした資料を部内に展開するなど、技術だけではなく経営についても興味を持って理解を深められるような環境づくりに努めています。

4. これからの社会に求められるDX人材になるための絶好の場

――御社でDXに携わるやりがいはどこにあると俵さんはお考えですか。

俵 太陽ホールディングスはDXをきわめて重要な経営戦略に掲げており、トップもDXで企業価値を高めていくことにコミットしています。ですから、DXを推進していく中で梯子を外されるようなことはありませんし、的を射た企画であれば予算も下ります。私自身がトップと直接やりとりできるポジションにあるので、企画から実行までスピーディーに動ける体制なのも、DXに携わる人材にとっては魅力だと思います。

当社は強い意思を持って事業を拡大していこうとしており、チャレンジできることが数多くあります。DXによる新規事業創出もこれからより一層加速していきますし、こうした成長期にある企業のほうがやりがいは大きいと思いますね。

――逆に、御社でDXを推進する上での難しさについてもおうかがいできますでしょうか。

俵 当社はまだまだ組織が縦割りであり、個別最適になっている側面が見受けられます。ITでデータ連携などを図って全体最適を実現していくためには、組織間の壁を乗り超えなければならない。逆に言えば、そうした壁があるからこそ、それを突き崩すことができれば大きなバリューを生み出せる。

また、当社の主力商品であるソルダーレジストは、お客様のニーズに沿ってカスタマイズすることで市場を拡大してきた経緯があり、製造プロセスも商品ごとにカスタマイズされています。IT導入の大きな目的は、標準化することで価値を生み出そうというものなので、当社のメインビジネスと相反する面があるために手つかずとなっている部分も残っており、そこに手を入れれば発揮できるバリューも大きいと思っています。

――DXによる業務変革や事業創出を志向する人材にとって、御社は非常に魅力的な場に映りますが、そうした方々が御社でキャリアを積むことで得られるものは何でしょうか。

俵 我々のチームが必要としているのは自律した人材であり、これから参画される方々にも、オーナーシップを持ち、自ら考えて行動することを求めています。それは大変なことだと思いますが、たとえ困難に直面しても自らの意思で物事を進めるほうが成長に繋がりますし、キャリアも高めていけます。

誤解を恐れず言うと、従来のIT技術者の方々は割と受け身で仕事してきたように思います。しかし、これからの時代は、そうした姿勢では生成AI等のテクノロジーに仕事を奪われてしまう。単にモノを作ることしかできない人材は、生き残っていくのが厳しい時代になるのではないでしょうか。

自分で仮説を立てて、社内ユーザーとコミュニケーションを取って検証し、改善策を考えて新たなシステムを生み出していくという能動的な人材こそがこれからの時代には求められていく。そのための経験が、当社であればいくらでも積めると思います。

構成:山下和彦

5. 勉強会を終えて/クライス&カンパニー永田(コンサルタント)

DXが果たすべき役割を「守りのDX」「攻めのDX」「DXを進める上での基盤強化」の3つと定義していることと、デジタルを活用して新規事業を創出することによりIT領域で第3の大きな事業の柱を築くことを目指していることが、同社のDXの特徴だ。過去に大きな売り上げを失ってしまった経験から、強烈な危機意識があり、長期経営構想の中で新規事業を創ることを明確に謳っている同社において、自分事としてDXを推進する機会は、デジタルプロフェッショナルにとって魅力的なオポチュニティと感じた。

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