イメージ力を鍛え、打席に立つ機会を増やす。
平井陽一朗氏に聞く、日本で新規事業を生み出す要諦

BCG X Managing Director & Senior Partner
BCG X 北東アジア地区共同リーダー
平井陽一朗 氏

DXインタビュー

2023 Dec 1

イメージ力を鍛え、打席に立つ機会を増やす。平井陽一朗氏に聞く、日本で新規事業を生み出す要諦 メインビジュアル

「DXとは何か?」「デジタルプロフェッショナルのキャリア」について、クライス&カンパニーのデジプロチームが第一線で活躍されている方々にインタビュー。今回は、デジタルを活用した新規事業立ち上げやイノベーションの創出を多くリードされてきた平井陽一朗氏にお話を伺いました。

Profile

三菱商事を経て2000年にボストン コンサルティング グループ(BCG)に入社。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパン、オリコンCOO、ザッパラス社長兼CEOを経て、2012年にBCGに再入社。キャリアを通し、一貫して事業開発に関わっており、特にデジタルを活用した新規事業立ち上げやイノベーションの創出を多く主導。
2016年にBCGデジタルベンチャーズ東京センター(現BCG X)を立上げ、同年よりジャパン・ヘッド、2021年からはアジア・パシフィック地区のヘッドとして、組織をリードしている。

Contents
日本企業の新規事業の数は驚くほど少ない。打率を恐れるよりも、打席数の指標化を。
大事なのは、「どの企業で働くか」よりも「何をやるのか」。自身に合った環境選びが重要。
デジタルネイティブで優秀な人が多い、若い世代に期待している。自分の力を信じて。
日本企業の新規事業の数は驚くほど少ない。打率を恐れるよりも、打席数の指標化を。 画像

日本企業の新規事業の数は驚くほど少ない。打率を恐れるよりも、打席数の指標化を。

―初めに、日本企業の新規事業やイノベーション創出の現状についてお聞かせください。

新規事業の数がまだまだ少ないと感じます。企業は常に新しい挑戦に対して様々なトライ&エラーを行っていく必要があると思いますが、日本では圧倒的にその打席に立つ回数が少ない。これは新規事業に限った話ではなく、M&Aも同業種ではなくて新しい事業領域への挑戦に絞ると非常に少ないんですね。そういった新たなチャレンジを育む環境が求められているのではないかと思います。テクノロジーが急速に進化している中で、それを活用した新たなチャンスは加速度的に増えているはずなのに対して、実態としてはあまりにも少ないので、もっと新規事業の件数やM&Aの件数が増えていくべきだと思います。

企業の新しいチャレンジという観点で言えば、これまでの枠組みの中で「いかに競争優位性をつくるか」ということに必要な新規事業や試みは一定やれてきたと思うのですが、今の時代は競争の定義も以前とは大きく変わってきているのが現状です。一例を挙げると、かつては消費財メーカーであれば業界内で生活者の日用品のシェア争いをしていたかもしれませんが、今ではDtoCスタートアップ企業が台頭してきたり、テレビCMを打っても若年層は普段テレビを見ていないため効果が無かったりという状況になっています。従来のように大企業同士、あるいは同業同士の戦いでは必ずしもなくなってきており、大手企業とスタートアップとの競合や、これまで消費財を作ったことのないプレイヤーが生活者との接点の強さを武器に消費財ビジネスを始めるといった現象も起きています。このようなゲームチェンジの背景にはテクノロジーの影響も一定ある中で、多くの企業が対応しきれていないという側面があると思います。

―そのような状況下において、なぜ打席数が少ないということが起きているのでしょうか。

いくつか要因がありますが、根本は日本企業の人事組織制度が硬直的で一昔前に最適化されたものであり、今の時代に合っていないということかと思います。新規事業は2~3年で結果が出るものではないので、頻繁な人事異動により中核メンバーが入れ替わってしまう状況では、オーナーシップを持ってやり切ることは困難です。また、人事評価も日本企業の多くは減点評価です。打席に多く立てば当然三振の回数も増えるため、打率は下がってしまう可能性が高い。今の日本企業の多くは「一発必中」というスタンスで新規事業に臨んでおり、失敗すると減点されてしまうのでなかなか進まない傾向があります。そうなると、1年に1件も新規事業が立ち上がらないという状況に陥ってしまうので、打率も大事ではあるものの、まずは打席を増やす、という考え方が必要ではないかと感じます。

更には、人材の流動性が挙げられます。多くの大企業は、今でも新卒採用・育成を人的リソースの原資にしていますが、何も手を打たずに自社のポジションを守れる状況ではなくなってきている中で、新卒だけで新しい挑戦をしていくのは難しく、中途採用の割合を相当増やさないと厳しいと思います。また、そうしないと良い意味での化学反応は生まれません。人材の流動性を高めようとすると、人事考課に加えて報酬制度の柔軟性も取り入れなければ、中途採用で優秀な方を獲得できませんよね。日本企業の報酬水準も以前と較べて徐々に上がってきたとは思いますが、海外と比較するとまだまだ低いというのが現状なので、更に上げていく必要があると思います。

―日本企業が新規事業やイノベーションを成功させるにはどうすれば良いでしょうか?

外部の血を入れていくこと、活用できるリソースは上手に取り入れていくこと、打席数をとにかく増やすことだと思います。ベンチャーは、リソースも資金も潤沢ではないため、事業は一発必中にならざるを得ません。一方で、大企業はリソースや資金は豊富でありながら、どうしても動きが遅くなりがちです。本来、大企業がやるべきなのは打席を増やして数多く打ってみることですが、今は1つ1つの新規事業をスモールスタートして、ベンチャー企業に比べてスピードの遅い中で進めているのが現状ですね。大企業は、資本力を活用してポートフォリオを増やしていくこと、それを実現できるタレントを中途採用で入れていくことがベストかと思います。

イノベーションが必要だと理解しながらもなかなか変われない日本企業が現状を打破するためには、「打席数を指標化する」ということが有効ではないかと思います。これは新規事業に限らず何でも構わないのですが、「この1年でどんな新しいチャレンジをしましたか?」という問いに対して、「どういう工夫をして、どんなことをやろうと努力したのか」を評価するということです。結果として「そのチャレンジが成功したかどうか」ではなく、「本当にどこまで深く考えて、どんなことをやったのか」という点を評価することが大事だと思います。そのポイントを見据えている企業は様々な新しいことに挑戦していて、実際に企業としても成長を遂げています。

大事なのは、「どの企業で働くか」よりも「何をやるのか」。自身に合った環境選びが重要。 画像

大事なのは、「どの企業で働くか」よりも「何をやるのか」。自身に合った環境選びが重要。

―ビジネスパーソンが新規事業やイノベーション創出を行うためには何が必要でしょうか。

座学で勉強しても実践できるようにはならないので、基本的にはOJTで経験を積んでいくしかないと思います。自ら新規事業ができるような環境に身を置くということが重要です。商社などはその代表例として挙げられますが、その他にも事業開発部のような組織が設けられている企業に行くことがスタートポイントかと思いますね。これは個人の志向性によりますが、新規事業やイノベーションを興すことを志すのであれば、30代前半ぐらいまでに、1~2回はキャリアを変えることを考えても良いと思います。海外においては、コンサルティングファームでもPEファンドであっても、ファーストキャリアとして運が良ければ2~3年ほど丁稚奉公できる環境が見つかりますが、通常はそこから起業など別の経験を積んでからまた戻る道が拓けるものです。自分のキャリアに若いうちから責任を持ち、やりたいことのために必要なスキルを会社の枠組みを超えて身に着けていくことが求められます。

日本では、職探しにおいて企業のブランドを優先する風潮がありますが、「どの企業で働くか」よりも「何をやるのか」が大事です。私は過去にディズニーで仕事をしていましたが、企業ブランドではなくビジネスディベロップメントのポジションを選択したのであって、もし営業やマーケティングのポジションだったらディズニーに行く選択はしていなかったかもしれません。また、究極を言えばベンチャーの社長はすべてを自分でやることになるので、若いうちに一度起業しておくとビジネスディベロップメントも営業もマーケティングも経営も経験できます。自分がやりたいことに直球で挑戦できる環境に身を置くことをお勧めします。

―打席に立つことを躊躇している方がその壁を打破するにはどうしたら良いでしょうか?

社内外含めての「転職」ではないでしょうか。その際に重要なのは、「ここでこういう人達と働いたらどうなるのかな」と具体的にイメージしてみることです。新卒で初めて就職した時点では、ある程度その会社に自身を合わせるという努力も必要だと思いますが、それでも「自分だったらこうする」とイメージする力を鍛えておくことが非常に大事です。このイメージ力が無い人はそもそも新規事業には向いていないですし、私はそういうタイプの人にはフィードバックの時に率直に伝えるようにしています。ただ、その人が優秀でないということでは決してなく、新規事業の立ち上げには向き不向きがあるということです。

―これまでのキャリアで、イノベーション創出の上で活きたご経験はありますか?

私の場合は、その時々で心の声に従ってきただけだと思います。常に自分が一番やりたいこと、自身に向いていることができそうな環境に身を置いてきました。自分が苦手なのは、毎日同じように同じ仕事をやること、数年後の自分が想像できてしまうことなので、そうではない環境を選んできたとも言えます。その観点で、新卒の時は商社を選んだのですが、やりたいことが全て最初から叶えられたわけではありません。最初の配属でいえば、情報通信の部署を希望したものの自動車の部署に配属されたんですね。その部署では、初めの2年間は船積書類の処理を担当するようにと言われて、テレックスの和訳や書類の捺印作業を延々と繰り返す日々に気が遠くなってしまって。そこで私は、「この仕事を学び切ったと証明できたら、自分のやりたいことをやっても良いですか?」と上司に直談判をして、各国の担当者にヒアリングして収集したナレッジを分厚い辞書のようなマニュアルにまとめて誰もが使えるようにました。その上で、コロンビアで何か新規事業をやりたいとメンテナンスリース事業を考えて、合弁会社を現地で立ち上げたのが入社1年目の時です。このようにWillがあればやりたいことは実現できます。とは言え、自由にやらせてくれた商社のカルチャーも大きく影響したと思うので、自身に合った環境を選ぶことが大事です。

デジタルプロフェッショナル支援チームの転職支援とは?
デジタルネイティブで優秀な人が多い、若い世代に期待している。自分の力を信じて。 画像

デジタルネイティブで優秀な人が多い、若い世代に期待している。自分の力を信じて。

―デジタルプロフェッショナルの方がBCG Xに参画する魅力について、お聞かせください。

これは当社のクライアントの社長の方からいただいたお言葉ですが、「自社でデジタル人材を採用しても良いが、そうなると採用した時点の能力がその人のMAXとなってしまい、自社の枠組みの中で動いてもらうことになる。我々はそれを求めているわけではない。座学ではなく、デジタル領域の最先端で多様な企業を支援しているからこそ、常に最新の手法や考え方がリフレッシュされているあなた達にお願いしたい」と言われたんですね。1つの領域に特化して専門性を深く掘り下げるというよりも、領域を横に拡げ、短期間で自身の血肉にして次のステージに向かっていきたいという人には、当社の環境はフィットしていると思います。また、当社でご支援するテーマはCEOアジェンダがメインであり、その経験が積めるという点も大きな成長に繋がる当社ならではの特徴かと思います。

―どういう方にBCG Xへご入社いただきたいとお考えですか?

求めるスキルは職種によって異なりますが、何か1つでも長けたスキルがあれば良いと思います。マインドセットに関して言えば、「自分だったらこうするな」という考えに基づいて自走できる人が良いですね。私が重視しているポイントは、成長が目的ではない人かどうかということです。成長はあくまでも手段であり、「成長したいから当社に入りたい」という人ではなく、成長した先に「仕事の幅を広げてこれをやっていきたい」「デザインだけでなくプロダクトマネージメントの領域にも手を広げたい」等々、新しいチャレンジをしてこんなインパクトを出したいというイメージを明確に描いている人が良いです。更に言うと、そのインパクトを出す上で決まったやり方など存在しないと理解していて、それを皆で議論してつくりあげていこうとする人にぜひご入社いただきたいと考えています。

―最後に、この記事を読まれている方へのメッセージをぜひお願いします。

大企業の方に対しては、「打席数を増やそう」ということですね。個人の方に向けたメッセージとしては、「自分の力を信じよう」とお伝えしたいです。何か決まった正しいやり方が存在するわけではないので、「自分だったらこうやる」というマインドを忘れずにいて欲しいです。今の若い世代はデジタルネイティブで優秀な人が多いので、私は特に若い人達に期待しており、ぜひ頑張って欲しいと願っています。私自身、社内外の若手から学ぶことが非常に多いですし、ビジネスのうえでは上下関係ではなくて役割分担だと思っています。今の時代は、世代を超えてお互いの仕事をリスペクトしながら補完し合っていく関係性が求められていると思います。

構成:神田 昭子
撮影:波多野 匠

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

この記事を書いたのは・・・

ハイクラスの転職支援を行う人材紹介会社クライス&カンパニーのデジタルプロフェッショナル(通称:デジプロ)支援チームです。私たちは、デジタルテクノロジーの力でDXをリードする方々のネクストキャリアを本気でご支援しています。本サイトでは、DX領域の第一線で活躍する著名な方や各企業のCIO・CDOに直接お会いしてお話を伺い、自らコンテンツを編集して最先端の生の情報をお届けしています。ぜひご自身のキャリアを考える上で活用ください。直近のご転職に限らず、中長期でのキャリアのご相談もお待ちしています。 転職・キャリア相談はこちら

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