「石の上にも三年」と言われるのと同じようなニュアンスで、世の中では会社で働くことも三年が一つの目安にされているように感じられます。「入社後一年や二年で転職するなんて早過ぎる。少なくとも三年は頑張って働かないといけない」。みなさんもそのような話を聞いたことがあると思います。果たして、三年間同じ会社に勤務し続けることでビジネスマンとして実力はどの程度向上するのでしょうか?
当たり前のことではありますが、三年間同じ会社にいたとしても、その過ごし方次第で成長の度合いは大きく異なります。では、どのような過ごし方をすれば、より力を付けていくことができるのか?そんなことを考えるきっかけになったのは、ちょうど一年前に転職のお手伝いをしたMさんからの質問でした。久しぶりにお会いしたMさんは35歳。この一年で一通りの業務を経験し、まずまずの成果も出され、さらに飛躍していこうとの意欲で満ち溢れていました。
「今の会社であとどのくらい頑張ると、転職市場で評価されるのでしょうか?」
「Mさんはどのくらいだと思います?」
「うーん、三年くらいでしょうか……」
「確かに三年は切りのいいスパンですよね。その点は同感です。ただ、肝心なのはその三年間の中身ですね。おおよそのイメージとしては、こんな感じでしょうか」
私はそう言って次のように説明しました。
1年目:周囲や上司のサポートをうけながら、業務や組織に慣れていくことに集中する段階。最終的には通期(一年間)で発生する業務を一通り経験し、小さいながらも成功や失敗も一通り体験する。
2年目:自力で考え、ときに冒険もして周囲のメンバーの強みや個性なども上手く活かしながら取り組んでいく状態。自己の責任のもとに大成功や大失敗も経験する。特に失敗体験をもとにした反省など、深い悩みも経験。組織として他メンバーとの相乗効果を発生させ、より高い成果をあげるための自分なりの方法、スタイルを模索する。
3年目:2年目の反省点を活かし、組織力を活用した行動を意識して業務に取り組む。失敗が減り、一人では成し得ない成功を経験する頻度が高まる。周囲や会社組織に対して、自分というキャラクターが根付き、結果として自分の行動や発言が組織にプラスにもマイナスにも影響を与える度合いが高くなる。周囲への良い影響を与える立ち振る舞いや行動を、強く意識するようになる。
このような状態になって初めて、組織で意味のある3年を過ごしたと言えます。
Mさんはこの説明に納得してくれた様子で、こう言われました。
「私はちょうど入社二年目に入るところですから、この三年スパンの二年目に自分を位置付けるとやるべきことが見えてきますね。今年はチャレンジと反省をメインテーマにして、来る三年目に飛躍するために周囲のメンバーがどんな人かを把握し、同時に自分の個性を組織に浸透させていこうと思います。やるべきことはまだまだたくさんありますね。楽しみになってきました。」実はMさんは入社から一年が過ぎ全体が見えるようになり、ちょっと踊り場に差しかかったような感覚でいたそうです。しかし最初の一年間でやるようなことは、業務経験というよりは業務体験のレベルと考えておいたほうがよいでしょう。
Mさんが言うように、やるべきことはたくさんあります。まして「この一年間で一通り経験したので、そろそろ転職を考えています」といった判断は早すぎます。業務を一人でこなす段階から、周囲の人たちを活かした協業を行いさらなる成果を出せる状態へ、そして自分の存在が組織によい影響を与えるように意識して行動できる状態になるまでには、最低で三年は必要だと思います。
付け加えると、「石の上にも三年」という言葉にはじっと辛抱強く我慢するというニュアンスがありますが、キャリアにおいてはそうではなく、自分から能動的にアクションして変化に富んだ時間を過ごしていくことが大切です。
(2012年8月20日)
今回の教訓&アドバイス
石の上にも三年「いるだけ」では本当の実力は付きません。
一年目で一通りの仕事を覚え、二年目は挑戦と反省を繰り返すこと。
三年目には周囲に対して強い影響力を発揮できる存在を目指しましょう。
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