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パイオニア株式会社

老舗の電機メーカー パイオニアが挑む変革とは

パイオニア株式会社CCO兼CMO 石戸亮 氏

DXレポート

2022 Jul 1

パイオニア株式会社 メインビジュアル

1938年の創業以来、数々の名機を生み出したAV機器メーカーとして、そしてカーナビやカーオーディオをはじめとする高性能なモビリティ機器メーカーとして、世界でその名の知られるパイオニア。2019年に経営不振からファンドからの出資を受け非上場化した同社であるが、近年は「モノ×コト」へのビジネスモデルの変革を強力に進め、復活の兆しが見えています。その変革を最前線でリードしているCCO兼CMOの石戸氏を弊社の社内勉強会にお招きし、お話いただいた内容をレポートします。(以下の内容は、2022年5月の勉強会実施当時の内容になります。)

Profile

パイオニア株式会社 CCO兼CMO 石戸亮 氏

モビリティサービスカンパニー エグゼクティブ・ディレクター
CCO(チーフ・カスタマー・オフィサー / 最高顧客責任者)兼 CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)
上智大学理工学部卒業後、サイバーエージェント入社、子会社2社の取締役を務め、営業現場から営業組織CRM構築のリード、最大手顧客アカウントマネジメントなど多岐に渡る経験を持つ。その後、Google Japanにおいてエンタメ、メディア企業の広告やマーケティングを支援、イスラエル発のAIスタートアップ企業のデートラマでは日本市場参入を推進。セールスフォース・ドットコムによるデートラマ買収時には、日本市場における統合をリード。2020年4月からパイオニアのモビリティサービスカンパニーのCDO(最高デジタル責任者)として参画し、2021年8月より現職。趣味はキャンプ。

Contents
DXを推進している意識はない。目指すべき姿へ自らを変革しているだけ。
「モノ×コト」で新たな価値を創造する基盤を、いま作り上げている。
ハードウエアとソリューションを融合し、パイオニアの強みを発揮する。
自分が愛着を持つ日本のブランドを、自分の力で再び盛り上がらせる。
勉強会を終えて / クライス&カンパニー和田(コンサルタント)

1. DXを推進している意識はない。目指すべき姿へ自らを変革しているだけ。

――まずパイオニアにおけるDXについてお伺いしたいのですが、石戸さんは以前にメディアでのインタビューで「DXという言葉は使わない」とおっしゃられています。その意図についてお聞かせ願えますか。

石戸 私は2020年4月にパイオニアにCDO(Chief Digital Officer)として入社しましたが、昨今世の中でDXが注目されていることもあり、いろいろなメディアから「パイオニアのDXとは何か?」という質問をたびたび受けました。しかし、結論としては、パイオニアでは経営陣も管理者層も現場のメンバーもDXを掲げて仕事をしている人はいない、というのが私の答えです。というのも、私が入社する前からパイオニアはソリューションサービス企業への変革を進め、ハードウエア中心のビジネスから、ソフトウエアによるソリューションをあわせて提供するビジネスモデルを立ち上げていました。現在は、車載専用AIプラットフォームを搭載したコネクテッドデバイスをSaaSで提供するビジネスなども展開しており、客観的に見ればそれがいわゆるDXなのかもしれませんが、我々としては目指すべき姿と現状とのギャップを埋めているという認識です。

――石戸さんとしては、DXを推進するという目的意識で仕事に取り組んでいるわけではないのですね。

石戸 ええ。私がパイオニアに参画したのは、何もDXがやりたかったわけではなく、この会社をより良くしたい、製造業や老舗企業に貢献したいという想いから。そもそも私は、DXが主語になって語られることに疑問を覚えていて、たとえば外部のパートナー企業から「御社のDX課題は何ですか」と問われても、DXそのものについて議論するのは無意味であり、そんなことに時間を費やしている場合ではありません。我々が求めているのは、顧客や市場起点で、当社のアセットを最大限活用し、組織や人材、システムなどの経営課題に関する解決策。ですから外部のパートナー企業から提案を受ける時は、「DXという言葉を使わないでほしい」とお願いしています。

2. 「モノ×コト」で新たな価値を創造する基盤を、いま作り上げている。

――パイオニアはいま強力に変革を進めているとのことですが、その背景についてお話しいただけますか。

石戸 パイオニアの事業はカーナビやカーオーディオなどのモビリティ領域が中心で、まだ8割以上をハードウエアの売上が占めています。しかし、いま100年に一度と言われる自動車業界の大変革の時代が訪れており、従来のビジネスモデルを変革しなければ顧客に価値を提供できず、パイオニア自身も存続することが難しくなります。そこで、ハードウエアの技術とこれまで蓄積されてきたデータを活かしてソリューションを強化する方針を掲げ、2019年3月末に非上場化してファンドからの資本を投入し、2020年1月から新たに矢原(史朗氏)がトップに就きました。矢原は「モノからコトへ」ではなく「モノ×コト」でソリューションサービス企業を目指すことを掲げており、パイオニアのモノづくりの強さを活かしつつ、これまで培ってきた膨大なモビリティデータを武器に新たな価値創造に挑んでいます。

――では、具体的にどのような取り組みを推し進めてこられたのでしょうか。

石戸 私が入社する半年前の2019年10月に社内カンパニー制が導入され、モビリティに関するモノづくりの事業を行う「モビリティプロダクトカンパニー」と、モビリティに関するデータソリューション事業を担う「モビリティサービスカンパニー」が発足しました。私はモビリティサービスカンパニーを牽引する立場ですが、まず取り組んだのは、このカンパニーの存在を世間に広く知らしめること。

パイオニアのブランドは多くの人に認知されているものの、我々が損害保険会社やリース会社、物流会社や車を保有している会社などに対してデータソリューション事業を営んでいることはほとんど知られていませんでした。そこで広報とも連携し、その魅力や可能性を社会に向けて積極的に発信。結果、注目度が高まり、新たなビジネス案件の発掘につながっています。同時に、デジタル系の人材の方々が当社の事業に興味を持っていただき、採用にも効果が出ています。

変革の基盤は整いつつあって、これから本格的にプロセスやシステムを変えたいと考えています。これまでパイオニアはOEMや市販向けのハードウェア売りのビジネスが中心で、プロセスやシステムがデータソリューション事業に対応しきれておらず、現場の社員に負荷がかかっていたのが実情でした。今年から来年にかけてプロセスとシステムを構築し、事業の成長を加速させていきます

ハードウエアとソリューションを融合し、パイオニアの強みを発揮する。 画像

3. ハードウエアとソリューションを融合し、パイオニアの強みを発揮する。

――いま御社はトランスフォーメーションの最中だと思いますが、石戸さんはどのような点に難しさを感じていらっしゃいますか。

石戸 経営陣は「モノ×コト」を掲げていますが、モビリティサービスカンパニーのメンバーはOEMや市販ビジネスなどパイオニアの主力であるカーエレクトロニクス事業をリードしてきた人材が多く、データソリューション事業におけるビジネスの捉え方にギャップがあるんですね。

市販ビジネスは、新商品を小売やチャネルに流通させるところが重要であり、組織構造やマインドシェアも、商品を売るまでの比重が高くなっていました。しかし、このカンパニーで展開しているSaaSやPaaSなどのリカーリングビジネスはお客様と契約してからがスタートであり、いかに定着させて継続してもらうかが重要。売った後のほうに力点を置かなければならないのです。それを想定してオペレーションを組み、顧客の声やデータからフィードバックループを回すようなプロダクトのマネジメントを設計する組織構造ではなかったので、いまパイオニアならではの「型」を作っているところです。

リカーリングビジネスのビジネスプロセスを現場に注入しなければならないのですが、一方でソフトウェア中心のSaaSなどのリカーリングビジネスに寄り過ぎてしまうと、ハードウエアにも通じているパイオニアの強みが失われてしまいます。それをいかに融合させるか、失敗も重ねながらいま取り組んでいるところ。この1年ほどで何とか形にできそうな手応えを感じています。

――モノからサービスへのシフトを進めている日本の大手製造業は数々見受けられますが、うまくいっていない企業も多いようです。そんななか、御社は変革が順調に進んでいる印象がありますが、なぜでしょうか。

石戸 本当に危機感を持っているからだと思います。そうはいってもYoYで百数%などで伸びている大手企業は、それはそれで凄いですが、それほど深刻な危機感は社内に浸透しないでしょう。なかには、DXプロジェクトが起ち上がっては、いつのまにか消滅したり、迷走したりしているというケースもよく聞きますし、危機感のない中で会社を変えるのはなかなか難しいと思います。しかし、パイオニアはファンドが参画して経営が大きく変わり、全社で「変わらなければ」という危機感を共有している。そのための意思決定も早い。私がパイオニアに転職したのも「本当に会社を変えられる」ことに魅力を感じたからですし、こうした気運が世間に伝わり、変革が進んでいる印象を与えているのだと思います。

4. 自分が愛着を持つ日本のブランドを、自分の力で再び盛り上がらせる。

――パイオニアでトランスフォーメーションを担うやりがいや面白味について、石戸さんはどのようにお考えですか。

石戸 デジタルでビジネスを変革したいという志向をお持ちの方は、いくつかタイプがあると思います。IT企業でイノベーティブなサービスを提供していきたいという方もいらっしゃれば、事業会社でそれを使いこなして新たな価値を創造したいという方もいらっしゃるはず。なかでも我々が属する製造業は日本のGDPの20%以上を占めており、製造業をより良く変えていくことで多くの消費者の方々がハッピーになる。パイオニアはそれを果たせる企業のひとつです。

IT業界でキャリアを積んで30代中盤ぐらいになると、「このままでいいのか」と今後のキャリアについて真剣に考えるようになる方も多いと思います。そんな時、自分が愛着のある日本のブランドを今一度盛り上がらせる力になりたい、日本企業の変革に貢献したいという想いをお持ちなら、パイオニアは有力な選択肢になると思います。

最近新たに入社されたデジタル系の人材も、自分の経験を活かしてパイオニアを良い企業にしたいと、そうした志を持って参画している方がほとんどです。また、私自身、パイオニアに入社してあらためて実感するのは、長年築き上げてきたブランドの力。私はかつて無名の外資ベンチャーの経営に関わっていましたが、そこでは営業したくても大企業の経営者などには簡単には会えなかったし、名前すら勿論知られているような会社ではなかった。でもパイオニアの名前を使えば、日本を代表するような企業の経営者にもコンタクトできる。たとえばデジタルの領域で売上10億円、時価総額100億円の新規事業を創りたいと思えば、パイオニアならベンチャーと比較して短い時間軸で成し遂げられると思いますね。

――いま石戸さんがおっしゃられたように、日本のためにという想いをもってDX人材へのキャリアチェンジを考えているITコンサルタントや大手SIのプロジェクトマネージャーの方は結構いらっしゃいます。一方でいまDXの領域では、実際に手を動かせる人材の求人が増えており、ITコンサルやSIのプロマネでは条件に合致しないケースも多い。こうした人材が変革に関わるにはどうすればよいのか、石戸さんのお考えをお聞かせ願えますか。

石戸 確かに、いまグローバルにDXを推進している有力企業は、自分でHands onで手を動かして有機的に動ける優秀な人材がそろってあり、これからDXに関わりたい方はどこかで手触り感をもってデジタルを経験しておくべきだと思いますね。身近なところからできると思っていて、私もそれは意識していて、たとえばナチュラルワインが好きなのですが、自分でワイン用のInstagramカウントを作って発信していると世界中から“いいね”がされ、たまに属性を見たり、投稿によるユーザーの違いの反応をみていたりするのですが、今では1000近い“いいね”もつきます。

また、私はキャンプが好きなのですが、家具屋を営む友人が暇な時間でキャンプのギアを作るというので、私がShopifyでページを作ってECサイトを運営しています。MiroやNotionなど使いやすい新しいサービスはどんどん使います。デジタルの世界は、士業と師業のように資格も無くても、良くも悪くもそんなに畏まらなくても日常でいくらでも触れられるんです。もし知人で飲食店を経営している方がいれば、無料で使えるfreeeとかAirレジとかを繋いで効率的なPOSシステムを構築してあげるとか、InstagramでPRの手伝いをしてあげるとか、いくらでも実務ができる環境がある。デジタル人材になれるハードルはまったく高くないので、ぜひチャレンジしてみてほしいですね。経営者も大仰にDXとか謳う前に、自分でInstagramのアカウント作って情報を発信して、Shopifyでモノを売ってみればいい(笑)。きっとその企業のDXが本当の意味で一気に進むと思いますから。

5. 勉強会を終えて / クライス&カンパニー和田(コンサルタント)

今回のインタビューで最も印象的だったのは、石戸様のやってみよう、自分で触ってみようという感覚の鋭敏さだ。ご本人はとても自然に、あたかも息を吸うようにそれをやっておられるが、これが普通の人にはなかなか簡単なことではない。こうした自分の中の好奇心を育む姿勢が、企業にとっても個人にとっても、世の中の変化に順応する第一歩なのだと思う。そういった変化に対する順応力が高いリーダーがCCO兼CMOとして事業を牽引していることが、パイオニアという企業の変革力に直結している。これからのパイオニアの変革にますます目が離せない。

(こちらのレポートの内容は、2022年5月の勉強会実施当時の内容になります。)

構成:山下和彦

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