小さいことが不利にならず、「好きだからやる」で経済が発展する社会を。
及川
最初に、塚原さんがプロダクト責任者を務めるヘイ株式会社についてご紹介いただけますか。
塚原
ヘイ株式会社は、誰でも簡単にネットショップが開設運営できるサービス「STORES」を展開するストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社と、実店舗でのキャッシュレス化を図る「STORES 決済」やオンライン決済サービスの「STORES 請求書決済」を提供するコイニー株式会社が経営統合して生まれた持株会社です。
なお2021年1月からは、M&Aで新たに傘下に収めた、オンライン予約システムを提供するクービック株式会社を加えた3社とヘイが合併し、ひとつの会社でサービスを複数展開していく体制となります。
私たちのサービスはSMB(Small and Medium Business)が対象であり、スモールチームのお客様に向けてお商売のデジタル化を支援しています。
及川
御社は、お客様のビジネスのことを「お商売」と表現されていらっしゃるのですね。そこにはどんな意図があるのでしょうか。
塚原
そもそも私たちは、サービスを提供していくにあたって“Just for Fun”を大切にしています。当社のサービスのユーザーであるショップオーナーさまのほとんどは、自分の好きなことを生業にしたい、というお考えです。
私たちは、オーナーさまがやりたい活動を楽しんで取り組めるようにサポートしていきたい。その活動を何と呼べばいいかと考えた時、「ビジネス」というと何か形式的で肩肘張っている感じがあって、あまりワクワクしないんですね。
かといって「商売」という直截的な言葉も、生々しくてがめついイメージがある。そこで商売に「お」という接頭語をつけて丁寧な表現にし、オーナーさまへのリスペクトも込めて「お商売」と呼んでいます。
及川
エンタープライズではなくSMBを対象にしているのは、どのようなこだわりがあるのでしょうか。
塚原
いま最先端のテクノロジーで生産性の高い仕組みがどんどん生まれていますが、その恩恵を受けているのは大企業が中心です。
サービスを提供する側も、エンタープライズを対象にしたほうがより高い収益を上げられますし、経済も回っていく。とはいえ、消費者への影響度の観点で考えると、今後のマーケットにおいてSMBは大企業と同等か、むしろそれ以上に力のある存在になっていくと思っています。
価値観やライフスタイルがいっそう多様化しているいま、たとえば1000人に向けて作るTシャツよりも、セグメントを絞ってたった10人のために作るTシャツのほうが顧客の熱狂度が高く、多少高価でも買うという消費行動が増えている。その10人の心を動かすのはSMBが生み出すオリジナリティであり、テクノロジーを駆使すればその10人を特定してリーチできる。
“Just for Fun”の精神を持ったスモールチームの方々が大企業と同じようにテクノロジーの恩恵を享受でき、小さいことが不利にならないような社会にしたいというのが私たちの想いです。
及川
「小さいことが不利にならない社会にしたい」という御社の考えにはたいへん共鳴します。“Just for Fun”という言葉もいいですね。
塚原
ご承知だと思いますが、“Just for Fun”はLinuxの生みの親であるリーナス・トーバルズの言葉で、彼の思想に共感してそのまま引用させていただいています。
どんなに社会の仕組みが最適化されて、誰もがネット上に自分のショップを簡単に開ける時代になっても、「この活動が楽しいからやりたい」という気持ちは自分の内から発露するものであり、周りから動機づけられるものではない。「好きだからやる」という尊い気持ちをもって、それを世の中でかなえたいと本気で取り組む人を、私たちはテクノロジーで応援したいと思っています。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
プロダクトの機能に関する最終的な判断を下すのが、ヘイのPdMの役割。
及川
では、御社におけるプロダクト開発についておうかがいします。プロダクトマネージャー(PdM)という職種は企業によってそれぞれ定義が異なりますが、ヘイにおけるPdMはどのような役割を担っているのでしょうか。
塚原
当社のPdMの役割は、事業責任者であるプロダクトオーナー(PO)とともに担当するプロダクトの方向性を示し、プロダクトを継続させることだと捉えています。社内のPdMの面々には、サービスという視点でプロダクトが継続的に使われることを最も重要視してほしいといつも伝えています。
及川
いまの塚原さんのお話からは「プロダクト」と「サービス」を区別されているように見受けられますが、それぞれどのような意味合いなのでしょうか。
塚原
「プロダクト」の上位概念が「サービス」という感じでしょうか。プロダクトは製品そのもの、システムそのものというイメージで、そこに加えてお客様サポートやユーザー体験なども含めたものがサービスだと位置付けています。
及川
POとPdMの役割の違いについても教えていただけますか。
塚原
先ほどお話ししたようにPOは事業責任者であり、事業にまつわるすべてをジャッジメントし、PL含めた事業に対して責任を負う立場です。
まずPOがこれから取り組むべき課題と重要指標を指し示し、開発のテーマをざっくりと設定します。そこに対してどんな機能を実現すべきかを、POとPdM、さらにはエンジニアリングマネージャーやデザイナーとも一緒にディスカッションして決定。
そこで決められた機能について最終的に製品仕様やユーザー体験を決めるのはPdMであり、開発フェーズもPdMがリーダーシップをとって推進し、リリース後の効果検証まで担います。
及川
いまお話しいただいた機能決定後のフェーズについて、PdMが具体的にどんな業務に取り組んでいくのか、事例を挙げてご説明いただけますでしょうか。
塚原
「STORES」を例にとってご説明しますと、先日、商品の品番管理ができる機能を追加したのですが、その際はPdMが大まかな仕様を決めてエンジニアやデザイナーにオリエンし、まずデザイナーがUIのデザイン案を作成。
それをもとに、エンジニアやビジネス部門の人間も議論に加わり、意見を集約してPdMが最終的な判断を下しました。そして開発プロジェクトが立ち上がると、開発リソースの配分はエンジニアリングマネージャーが行いますが、全体のスケジュール管理はPdMが担当。
そして、リリース間近になると、サポート体制を関係者と折衝して構築するなど、お客様のもとにサービスとして送り出すまでPdMが責任をもってリードしました。
及川
御社のPdMの役割について理解できました。ちなみにいまPOとPdMの方はそれぞれ何名いらっしゃるのでしょうか。
塚原
現在、POは3人でPdMは6人います。最もPdMを擁しているのは「STORES」で、6人のうち3人がこのプロダクトに関わっています。
及川
この「STORES」の3人のPdMの方は、どのように仕事を分担されているのでしょうか。
塚原
メンバーごとの得意分野とスキルセットに応じて、担当するプロダクトの機能を振り分けています。たとえばプロジェクトマネジメントに長けているPdMは、関係者が多くて調整力が必要な開発を任せるなど、それぞれの特徴が生きるようにアサインしています。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
裏側の管理画面もテンションの上がるものを作る。そこにヘイの真髄がある。
及川
塚原さんはプロダクトの組織を統括されるお立場ですが、どのようにPdMをマネジメントされているのでしょうか。
塚原
まだ小さな組織ですので、私が直接POとコミュニケーションをとって日々の開発で抱えている悩みに応え、その人の成長を促すようなフィードバックを行っています。
また、今後組織が大きくなってPdMの人数が増えると、目指す世界観の整合性がとれなくなる恐れが出てくるため、判断に迷った時に立ち戻れる価値観を示し、やるべきこと、やってはならないことを明文化する取り組みも一部のチームで取り入れ始めています。
及川
御社はいまいくつかプロダクトをお持ちで、複数のPdMがいらっしゃいますが、何か共通したプロセスやフレームワークを設けていらっしゃるのでしょうか。
塚原
いいえ。私としては特に統一したプロセスやフレームワークは導入しようという考えはありません。
事業をスケールさせるためには重要なことだと認識していますが、プロダクト開発のスタイルは人によって異なるので、無理にフレームワークなどを導入して共通化を図ろうとするとパフォーマンスが落ちる可能性がある。将来に向けて検討の余地はありますが、当面はPOやPdMそれぞれのスタイルに委ねたいと考えています。
及川
確かにフレームワークの導入はプロダクト開発に有効ですが、あくまでそれは方法論に過ぎず、その中にどんな魂を込めるかということのほうがはるかに重要です。御社の場合、魂を込めるためにPdMはどのようなマインドセットを持つべきだとお考えですか。
塚原
私はプロダクト部門を管轄する上で、PdMが常に意識してほしいことを2つ掲げています。
ひとつはお客様に「迷わせない」ということ。ユーザーであるスモールチームのオーナーさまが、「このサービスを使いたい」と迷わず判断していただけるように仕立て、プロダクトを使っていただく際も、何をすればいいかを直感的にわかるインターフェースを追求しています。
そしてもうひとつは「とにかくテンションの上がる管理画面を作ろう」ということ。私たちのサービスにおいて、オーナーさまが常に触れているのが管理画面です。
滞在時間の長い管理画面の操作においても“Just for Fun”を実践し、できる限りお商売を楽しんでほしい。ツールひとつとっても、扱うのが面倒くさいと思わせないようなつくりにしようとPdMたちに訴えています。
及川
その姿勢は素晴らしいですね。管理画面のUXは収益に直接結びつくわけではないので疎かにされがちですが、私もそれは違うと思うんですね。
ショップで商品を購入いただくお客様の体験だけではなく、オペレーションしている側、すなわちオーナーの方や御社の社員の方まで、すべての人の体験を良くすることが、最終的なユーザー体験に反映されていく。それがサービスデザインのあるべき形であり、管理画面でユーザーのテンションを上げようという企業に出会ったのは初めてで、とてもうれしく思います。
塚原
「テンションの上がる管理画面を作る」のはサービスの開始当初からずっと意識していて、優秀なデザイナーチームを抱えていることもあって当社の大きな強みになっていると思いますし、これからもこだわっていきたいですね。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
恵まれた環境の中で、腰を据えてサービスを拡大していくことができる。
及川
御社のPdMに求められるスキルについておうかがいします。よくPdMに必要なスキルは「ビジネス」「テクノロジー」「UX」の三角形で示されますが、御社の場合はいかがですか。
塚原
その3つについては、どのような形が当社のPdMにとって理想であるか、明確には定義していません。
私たちが最も重視しているスキルは、目標を設定し、そこを辿り着くための仮説を立て、実行したことを検証していくPDCAサイクルを回せること。テクノロジーに強いとか、デザインに強いとか、そうしたスキルはあくまでその人の特徴だと捉えていて、採用時にはチームを作る上でその特徴ができるだけ被らないようにしています。
及川
採用の面談時、どんな人にお会いできると塚原さんはテンションが上がりますか。
塚原
私が面談時に重視していることは2つあって、ひとつは物事の本質を見抜けるかどうかということ。
PdMの仕事は、多くのユーザーの方からさまざまな意見をいただき、それを取捨選択して「何を解決すれば最もお客様に喜んでいただけるのか」を導き出さなければなりません。ユーザーの方々の言葉に一喜一憂するのではなく、本質を見抜けそうな人にお会いできると、こちらもテンションが上がりますね。
そしてもうひとつは、自分の思い込みを切り離せること。当社が提供しているのはtoCのサービスではないので、自分がユーザーになれるわけではありません。ですから「自分ならこんな機能が欲しい」という独善的な意識を捨てて、あくまでもオーナーさまの立場、オーナーさまの視点で世界を見ることのできる人にお会いしたいですね。
及川
いま塚原さんが言われた「物事の本質を見抜ける人」や「自分の思い込みを切り離せる人」というのは、面談時にどう見極めていらっしゃるのですか。
塚原
それは本当に難しいです。とりあえず私が面談の場でおうかがいしているのは、いままで経験された案件での成功例や失敗例。なぜその決断をしたのか、実行後にどう振り返ったのかを質問して、具体的なケースから判断するようにしています。
及川
いま在籍されているPdMの方々の育成や評価は、どのように行われているのでしょうか。
塚原
グループ企業がヘイに統合されて企業の形態が変わり、いままさにPdMの組織を新たに作っている最中ですので、その育成評価の体制もこれから構築していくという段階です。
目指してほしいのは、高い目線でプロダクトを考え抜くことができる事業責任者のレベル。ゆくゆくはPOとして力を振るえる人材を育てていきたいと考えています。
及川
では最後に、PdMへの転職を考えているみなさんに向けて、ヘイでこのポジションを担う醍醐味をお伝えいただけますか。
塚原
ヘイのPdMの醍醐味は、長期でサービスが拡大していくことが保証された領域に携われることだと思っています。
私たちが向き合っているSMBの市場は、EC化率、SaaS化率、キャッシュレス化率などがまだまだ低く、確実に市場が大きくなることが見えています。適切なサービスをお客様にお届けさえすれば、事業はいくらでも成長していく。こんな恵まれた市場はないと思いますし、そこに腰を据えて長期的なスパンでプロダクト開発に取り組めることが、当社の大きな魅力ではないでしょうか。
さらに、私たちのサービスはネットショッピングやキャッシュレス決済など日々の生活に直結するものが多く、また、自分が提供したサービスでオーナーさまが喜んでくださり、お商売を楽しまれているのを実感できるのもうれしい。
そうしたサービスを実現する上で大きな決定権を持つポジションがPdMですので、興味をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひ当社にアプローチしていただきたいですね。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。