INTERVIEW

INTERVIEW 027

2023 May 10

同じ志を持つクリニックと密に連携し、
医療の世界に新たなユーザー体験を。

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PROFILE

株式会社Linc’well 執行役員/プロダクト統括 原 悠貴 氏

外資系化粧品メーカー、コンサルティングファーム、リクルート、スタートアップでの事業責任者を経て2022年にリンクウェルに入社。プロダクトの責任者を務めている。

あくまでも患者ファーストで体験を設計し、DXで実現していく。

及川

まずはLinc’wellについてご紹介いただけますか。

Linc’wellは2018年に創業したヘルスケア領域のスタートアップです。現在、「クリニックへのDX支援」「オンライン診療」「ヘルスケアEC」の大きく3つの事業を展開しています。

祖業はクリニックへのDX支援ですが、その後、コロナ禍でオンライン診療の初診解禁や規制緩和されたことを受けて、オンライン診療のプラットフォーム構築に注力しており、並行してヘルスケア関連製品のECも始めました。

及川

いまお話のあった「クリニックへのDX支援」とは、具体的にどのような取り組みでしょうか。

弊社は現在、全国で10院のクリニックを展開する「クリニックフォア」のDXを支援しています。クリニックフォアさんは、オンラインでの予約や事前問診が可能で、待ち時間ゼロで受診できる医療環境を実現するなど、患者体験の向上にフォーカスしているクリニックです。そちらでお使いいただいている各種のシステムを我々が開発提供しています。

及川

オンラインの予約・診療システムなど医療に関わるDXは、いま注目度の高い領域であり各社取り組んでいますが、そのなかでLinc’wellはどんな特徴をお持ちなのでしょうか。

患者さんファーストで体験設計を追求していることでしょうか。単なる業務効率化ではなく、患者体験を良くしたいというクリニックさんと一緒に、患者視点でいままでにないユーザー体験を創り出していることが我々の特徴だと思っています。

すでにオンライン予約を実施している医療機関もたくさんありますが、たとえば朝9時に予約しても実際の受診まで15分か20分待たされたりするケースも多く、実はストレスを感じている患者さんも多い。我々は、そうしたことが起きないように業務設計から関わり、医師のシフト管理などをプロダクト上で最適化し、9時に予約すれば確実に9時から診療を受けられる体制を実現しています。

及川

現在はクリニックフォアさんと連携して新たな患者体験を創出されているとのことですが、このプロダクトを横展開することは可能なのでしょうか。

可能ですが、けっしてそれを優先しているわけではありません。我々としては、より多くの医療機関に使っていただきたいという想いはあるものの、患者さんファーストの体験を提供するにはオペレーションの変革が必要であり、一般的なSaaSではそこまで踏み込みにくい。

ですから、まずは我々のコンセプトに賛同いただける医療機関さんと理想の体験を机上で描くだけではなく、実際に世の中に提供していくことにこだわっています。

及川

先ほどご説明いただいた3つの事業のうちで「ヘルスケアEC」は、新たな患者体験を提供するという方向性から少し外れているように映ります。この事業はどのようなお考えのもとで取り組まれているのでしょうか。

「ヘルスケアEC」では、医師の問診が必要なクリニック専売商品やOTC医薬品などを扱っています。おっしゃる通り、他の二つとは少し方向性が異なりますが、これもLinc’wellのミッション・ビジョンに通じるもの。我々は「テクノロジーを通じて、医療を一歩前へ」というミッションと、「全ての人々に最高の医療体験の提供」というビジョンを掲げています。

このミッション・ビジョンの実現を通して目指しているのは、すべての方が自身の心身を最善の状態に能動的にコントロールできる世の中。弊社が提供するプラットフォームのアカウントを持っていれば、病める時も健やかなる時も、ご自身に必要なモノやサービスや情報が手に入るという、そんな状態にすることがあるべき姿だと捉えています。

対面診療やオンライン診療は、治療のニーズが顕在化しているフェーズで必要とされるものですが、未病や予防のフェーズでは価値を提供しづらい。そこに価値を提供するための事業が「ヘルスケアEC」であり、ポートフォリオのひとつとして必要だと考えています。

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さまざまな医療従事者と絶えず議論し、体験の質を高めていく。

及川

原さんのご経歴も教えていただけますか。

私は2022年1月にLinc’wellに参画し、執行役員としてプロダクトマネジメント部門とデザイン部門を管掌しています。Linc’wellは5社目で、新卒で外資系の化粧品メーカーに入社し、ヘアケア製品開発のマーケティングに携わりました。

その後、コンサルティングファームに転職して日本企業の海外進出や事業再生の支援を手がけ、リクルートに移って美容室向けの検索予約サービスのプロダクトマネジメントを担い、スタートアップの事業責任者を経てLinc’wellに至っています。有形と無形、両方のサービスの立ち上げやグロースに関わってきたことが、自分のキャリアの特徴だと思っています。

及川

Linc’wellに参画されたのは、どのようなお考えからですか。

ひとつは、医療ドメインに対して挑戦する価値を大いに感じたからです。恥ずかしながら、私はこれまで「これを成し遂げたい」という明確なキャリアビジョンがなく、目の前の打席に全力で臨んで結果を出すことにモチベーションを覚えていました。

しかし、30歳を超えて、社会の負の解決に貢献したいという想いが強くなり、医療ドメインはユーザー体験を革新できる可能性にあふれていると思ったのです。そのなかでLinc’wellは、同じ志をもって体験を創り出そうとするクリニックを支援することでけっして絵に描いた餅ではなく、オペレーションから改革して世の中に価値提供ができることに魅力を感じたのです。

また、Linc’wellの経営陣はみなコンサルティングファーム出身でありながら、ただロジカルに正解を追い求めるだけではなく、リアルな商売の生々しさもきちんと理解し、優れたバランス感覚を持つ方々でした。こうした経営陣のもとでなら、たとえ成功確率が低くても、大きな成果につながるかもしれないチャレンジが心置きなくできそうだと感じ、彼らと議論を重ねることで自分の視野も広がると思ったのです。

及川

いま原さんがおっしゃった「体験を創る」ことについて、もう少し詳しく教えてください。Linc’wellでは、患者さんが望む体験をどのように捉えていらっしゃるのですか。

その定義は非常に難しいですね。多くの患者さんは、診療の予約や会計などの煩わしさからできるだけ解放されたいと思っていますが、一方で医療は命に関わることなので、誠実で信頼できるかどうかもたいへん重視されている。定性的な言い方になりますが、そのベストバランスを実現することが、患者さんにとって理想の体験だと考えています。

及川

おっしゃる通り、医療に関することなので、患者さんが望まれる体験の軸はいろいろあると思います。それを実現していく上、プロダクトに対するKPIをどのように設定し、どのように検証されているのでしょうか。

医療の領域では、明確で画一的な指標は設定しづらいですし、設定する意味もないと思っています。診療時間ひとつとっても、仕事が忙しいので15分で終わらせてほしいという方もいらっしゃれば、自分の不安な気持ちに寄り添ってくれるのなら1時間2時間かかってもいいという方もいらっしゃる。そして1人の患者さんでも悩みや症状によって重視するポイントや度合いが変わってきます。

患者さんが満足される基準は多様であり、そこにお応えするには、診療のラインナップごとに細分化して何が最適なのかを定義していくことが大切。我々は医療の専門家ではないので、クリニックの方々とどうすればベストな体験を提供できるかを一緒に議論・検討しながら決めています。そして、実際に診療を受けた患者さんにアンケートを取り、寄せられた意見をクリニックの方々にフィードバックして、さらに体験の質を高めていくことに努めています。

及川

一般的なSaaSとは異なり、御社が手がけているのはアナログでのオペレーションも含めて全体がプロダクトになっているように思います。良質なユーザー体験を提供する上で、ITが担えるのは一部であり、実際には医師や看護師、薬剤師、医療事務などさまざまな方々がオペレーションに関わっています。多くのステークホルダーが絡むなかで提供体験を改善していくのは非常に難しいことだと思いますが、どのように取り組まれているのでしょうか。

すべての関係者が集って日々、喧々諤々議論しながら進めています。ご指摘の通り、特定の人間だけが当事者意識をもって他のステークホルダーに働きかけるのでは、バランスに欠けて結果的に最善の着地点に到達できないと思っています。関係者はみなそれぞれの見地から実現したいことがあるので、まずはそれを各々テーブルに出し、毎回全員で議論しています。その過程において、互いの事情を理解した上で優先すべきことは何かを定め、最終的に収束させていくのが我々のスタイルです。

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難しい課題を突破していく道筋を、自ら描いていく醍醐味。

及川

それでは、Linc’wellのプロダクト開発についておうかがいします。いま御社では、どのような組織で事業を運営されているのでしょうか。

現在、90名強の社員を擁し、「経営戦略部」「事業部」「プロダクト部」「開発部」「オペレーション部」「経営管理部」の6つの部門があります。サービスの運営に携わるのは「事業部」「プロダクト部」「開発部」「オペレーション部」で、事業部はマーケティングを担い、各事業のPL責任者が所属しています。

プロダクト部は私が管掌しており、プロダクトマネジメントとデザインを担っています。開発部はエンジニアが在籍し、その名の通り開発を担当。そしてオペレーション部は医師やサプライチェーンのメンバーが所属しており、クリニックとの折衝にあたっています。プロダクトマネージャー(PdM)は私を含めて現在5名体制で、このチームで冒頭にお話しした3事業のプロダクト開発を進めています。

及川

Linc’wellのプロダクトマネジメントの進め方について、具体的にご説明いただけますでしょうか。

プロダクト開発の起点は、事業サイドからの要望もあれば、クリニックさんからの要望もあります。また、PdMが顧客価値の向上という文脈で仕掛けていくこともあれば、開発部から技術革新でプロダクトを改善したいというオファーが寄せられるケースもあります。

プロダクト開発のスタイルはオーソドックスで、PdMはプロダクトのロードマップの作成とバックログの管理を担い、各ステークホルダーからの要望を吸い上げてその都度、ロードマップやバックログに反映。そのなかで優先順位をつけて、あらためてステークホルダーと合意して開発を進めています。

及川

プロダクトのロードマップは事業計画にも紐づくものだと思いますが、企業によってはトップダウンで方向性が示され、PdMが落とし込んでいくケースもあれば、逆のパターンもあります。御社ではどのようにロードマップを作成されているのでしょうか。

現状では各プロダクトのKGI・KPIを明確に設定し、指標を達成することで成長を図ろうとしています。PdMは、それぞれが担当するプロダクトのKGI・KPI、さらにPL責任を持つ事業部が掲げる売上目標も鑑みて、そこに最短距離で到達するためのロードマップを作っていく形です。

及川

医療ドメインは規制も多く、また高度な倫理も要求されるため、単純な事業構造ではないと思います。そのなかで、PdMとしてプロダクト開発に取り組む難しさや面白さはどこにあるのでしょうか。

確かに医療ドメインは法律面などでの制約が多く、考慮すべき観点がたくさんあります。ただ、個人的には問題が難しいほうがやりがいはあると思っていて、やりたいことに対して周囲から協力が得られない環境なら辛いでしょうが、ここは一緒に難しい問題の解決に挑む仲間が周りにいて、互いに刺激しあいながら目標に向かうことができる。こうした場で力をふるえるのはPdM冥利に尽きると思いますね。

及川

医療ドメインのような規制産業は、テクノロジーでディスラプトすることで社会変革につながる可能性が大いにあります。一方、社会の負を解決していくためには、あるべき姿へ向けて自ら国の規制を変えていくようなアクションも必要だと思いますが、そうした姿勢もお持ちなのでしょうか。

我々はあくまでも、患者さんをはじめとするユーザーにとって価値ある体験の創造を目指しており、それを世の中に出現させて人々から支持されれば、おそらく規制や法律もアジャストする流れになるはずです。

現時点の規制を未来永劫続くものと捉えてこじんまりとビジネスを営むつもりはありませんし、創業者である社長も医師であり、社内にもドクターを何名も抱えているので、医療の本質を突いて業界そのものを変えられる可能性を大いに秘めた企業だと思っています。

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打席にいくらでも立てる。PdMとしてこれほど面白い場はない。

及川

御社はこれからPdMの組織をさらに強化されていくことと思いますが、具体的にどのような人材を求めているのでしょうか。

平たく言うと「コトに向かう人」でしょうか。我々は、創りたい世の中に向けてスタート地点からようやく一歩二歩踏み出たところであり、それを成し遂げるために試行錯誤できる人に期待しています。

及川

採用面接時、御社にふさわしい人材であるかどうかを確かめるために、原さんは候補者のどこを見ていらっしゃるのですか。

大きく二つあって、ひとつは課題設定がきちんとできるかどうかということです。コトに向かうにしても、正しく努力しないと、時間も有限なので無駄になりかねない。ですから、全体を俯瞰して解決すべき課題を見極め、そこに力を注げるかどうかを見ています。

もうひとつは、決断できる人であるかどうかということ。我々はスタートアップなので、正解がわからないこともたくさんあります。そんななか、いますぐ進むべき方向を決めなければならない局面もたびたび訪れる。そこで臆するのではなく、果敢に決断して説明責任を果たせることが大事であり、そうした姿勢を備えた人を採用したいですね。

及川

いま課題設定についてのお話がありましたが、ユーザー体験を改善してビジネスを大きく成長させるためには、目の前に見えている顕在的な課題ではなく、いかに潜在的な問題を発掘して解決できるかが重要だと思います。原さんご自身は、これはどうすればできるとお考えですか。

たいへん難しいことですが、個人的には、常に少し夢にも近いような非連続的のTobeを思い描き、現状との差分を踏まえてどうすればそのギャップが埋まるかを考えるようにしています。

及川

新たにPdMを採用されるにあたって、医療業界のドメイン知識はどこまで求めていらっしゃるのでしょうか。

採用時には特に求めてはいません。医療に対する興味関心は絶対に必要ですが、このドメインにおける就業経験はまったく重視しておらず、社内のPdMも業界経験があるのは一人だけです。ドメインの知識については、入社後にチーム内でナレッジ共有しますし、また社内に医師を抱えていることも大きく、わからないことはSlackで気軽に聞ける環境です。逆に医師側からも、社内のニュースチャネルに必要な情報が絶えず発信されているので、そこでナレッジをキャッチアップできます。

及川

PdMの育成はどのように行われているのでしょうか。

少し乱暴な言い方ですが、PdMとして成長するためには、どれだけ自分で意思をもって決断したかという打席数が大切だと思っています。ですから我々としては、できるだけ打席に立ってバットを思い切り振れるよう、そのお膳立てをすることに注力しています。

まだまだLinc’wellは発展途上にあり、患者さんへの診療だけではなく、その前後の未病や予後など、価値を提供できていないドメインもたくさんある。これから参画いただくPdMの方々にも、できるだけ打席に立てる機会を提供したいと考えています。

及川

打席に立ってもヒットを飛ばせなかった場合、PdMがモチベーションを失ってしまうこともあるかと思います。その点、御社はどのように対応されていますか。

一流の野球選手でも3割打てれば御の字であり、失敗することが当たり前だと思っています。逆に10打数10安打なら、それはチャレンジしていないようにも見える。弊社ではプロセスを重視しているので、正しくチャレンジした結果の失敗で評価が下がることはなく、私もメンバーに対して「なぜ打てなかったのか?」を一緒に振り返り、次へのモチベーションを高めていくことを意識しています。

及川

では最後に、PdMを志す人へメッセージをお願いします。

PdMという職種はチャレンジングであり、結果を出すために日々試行錯誤していくポジションです。大変ですが、解決すべき問題が難しければ難しいほど、それが解けた時は素晴らしい景色が見える。いかに社会に新たな価値をもたらしていくかがPdMの真髄だと捉えると、医療ドメインは本当に大きな価値を生み出せる可能性を秘めています。

なかでも弊社は、医療の最前線で患者さんと向き合っているクリニックさんと、単なる取引関係ではなく、同じ志を持って一緒に世の中に最高の医療体験を創っていこうとしています。これから、とんでもない数の打席に立ち、自分の意思で決断できる機会が豊富にある。こうした環境の中で、難しい問題にチャレンジして、より大きな価値を社会に還元したいと志す方がいらっしゃれば、ぜひLinc’wellに参画していただき、一緒にチャレンジできればと思っています。


構成:山下 和彦

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※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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