「GLOBIS学び放題」で、良質な学びの機会をすべての人へ広げたい。
及川
久津さんがグロービスでどんなプロダクトを担当されているのか教えてください。
久津
グロービスは創業ビジネスとして大学院と法人向けの研修事業を約30年前から行っており、8年前からは新規事業として「GLOBIS 学び放題」というサブスクリプション型の動画学習サービスを提供しています。私は「GLOBIS学び放題」のマネジメントに加えて、グローバルマーケット向けの「GLOBIS Unlimited」というプロダクトも担当しています。
「GLOBIS 学び放題」は動画で学習するサービス体験を提供しており、経営大学院で培ってきたナレッジをわかりやすくコンパクトに動画で観られるというのが基本的なコンセプトです。リーダーシップやマネジメント、アカウンティングや経営に必要なリーガル等の領域に加えて、最近は時代の流れに対応する形でデジタル系のコンテンツやダイバーシティ等、領域の幅を拡げて多様な学びに対応できるよう約2,300コース(2023年9月現在)をご提供しています。
及川
8年前という早い段階でプロダクト化を始められた背景について、お聞かせいただけますか?
久津
経営大学院は経済的にも時間的にも余裕がある方しか受けられないということに、デジタル・プラットフォーム部門責任者の井上が課題を感じたところからスタートしています。井上が広島で研修を行った際に、地方では良い学びの機会が得られにくい現状に直面し、デジタル化の時代の中で、経営大学院のコンテンツを応用して良質な学びを日本中に、更には世界中へ広げられるのではとの発想からこのサービスが生まれたという経緯です。
及川
グロービスの掲げておられるミッション・ビジョンは、「GLOBIS 学び放題」というプロダクトにどのように繋がっているのでしょうか?
久津
当社は社会にイノベーションを興せる人材を輩出すべく、「ヒト・カネ・チエ」のアプローチで様々な事業を展開しています。デジタル・プラットフォーム部門では「学びの未来を作りだし、人の可能性を広げていく」というミッションを掲げ、限られた一部の方々への良質な学びの提供だけでなく、それを広げていくことが重要だと考えています。「GLOBIS 学び放題」は、学ぶ楽しさを広げ、新たな一歩を後押しするため、学校の授業のような受動的な学びから能動的でポジティブな学びに変えて広げていくことを目指しています。また、学んで満足せずに新たな一歩を歩んで欲しいとの思いがあります。例えば仕事のやり方を変えてみる、転職や大学院に行く等、少しずつでも人々の行動を変えるきっかけになればという思いでプロダクト開発を行っています。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
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時間軸の異なる2つのグループと、コンパクトな新チーム編成とは。
及川
久津さんのご自身のこれまでのキャリアについてもお聞かせいただけますか?
久津
私のキャリアは製造業の社内SEからスタートし、受注から工場の生産プロセス・会計まで製造プロセスの全工程を経験しました。リクルートに移ってからはプロジェクトマネジメントを経験した後、徐々に事業側の人達との接点が増えてきて、自分もそちら側の領域に行きたいな、と。当時はまだプロダクトマネジメントという言葉がメジャーではなく、自然とそうなっていたという感覚です。その後、スタートアップでのプロダクト立ち上げ等を経て、グロービスへ入社しました。初めはtoB事業の基盤リプレースプロジェクトにアサインされた後、toB事業の人事の方が使う管理画面のPOを経験する等、色々な組織変更に伴って全体のプロダクトを見るようになり、現在は7チームを束ねています。
及川
7つのチームでは、どのようにプロダクトの担当を分割・分担しているのですか?
久津
まず、大きく2つに分けてミッショングループとプロジェクトグループがあります。ミッショングループは、何らかのミッションを持ち、Whyについて定めた後、Howに関しては各チームで決めてPDCAを回していく形です。プロジェクトグループは、基盤のリプレースや、事業の長期戦略にともなって現行のアーキテクチャから変えていく等、ロングスパンのプロジェクトを進めていきます。現在、ミッショングループは4チーム、プロジェクトグループは3チームあります。toB事業とtoC事業ではユーザーのタイプが異なるためチームを分けており、toBのチームは人事の方向けに機能開発やリサーチ・分析を行い、toCのチームはユーザー獲得時の購入動線やマーケティングを行っています。残りの2チームはtoB/toC双方に共通して受講者の体験を良くすることをミッションとしており、試行錯誤しながらジャーニー・ミッション・ペルソナで柔軟に2チームの分け方を変更しています。
及川
この2つのグループ間での連携というのはどのくらいあるのでしょうか。
久津
ミッショングループは1~2週間でスプリントを進めていくのに対し、プロジェクトグループはウォーターフォールに近い開発になるため、互いの時間軸が合わず、密なコミュニケーションが必要な構造だと効率が悪く認知負荷も高いことから、最低限のコミュニケーションで済むようにしています。ここから先のフェーズは密なコミュニケーションが必要だという判断になった場合は、組織編成の変更や会議体を設ける等、状況に合わせてチューニングしています。週次で現状の定点観測を行うリーダーミーティングを設けており、そこで何か気づいたらすぐに打ち手を講じるようにしています。
及川
各チームのプロダクトマネージャーとエンジニア、デザイナーの比率はどのようになっていますか?
久津
1人のプロダクトマネージャーに対してデザイナー1人、エンジニアが3~4人ぐらいが平均的なサイズです。加えて、リサーチが大事なチームの場合はリサーチャー、最近はジェネレ―ティブAIの開発も進めているのでデータエンジニアを入れるという形で編成しています。昨年までは3チーム体制で肥大化したチーム内のトレードオフが増えていたため、今年の4月からチームを細分化しています。
及川
「GLOBIS 学び放題」の売上について、久津さんのチームはどこまで関わっていらっしゃるのですか?
久津
部門が売上目標を持つ中で、プロダクトチームとしてはチャーン率やリピート率、NPS等の売上を分解した指標を追っているという役割分担になります。私とtoCの事業責任者、toBの事業責任者の3人が密になって議論して方針を決めていきます。時々意見が分かれることもありますが、良い意味でお互いに遠慮なく議論ができる関係性かなと思います。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
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どこにフォーカスすべきか、試行錯誤しながら進めていく。
及川
グロービスでのプロダクトマネジメントの進め方について、教えていただけますか?
久津
何をやるかというのはクォーター単位でチーム毎にOKRを立てているので、そこで大枠の方向性が決まります。その後、具体的にどうするかは各チームのプロダクトマネージャーが決めていきます。我々はtoCとtoBという両軸に加えて、「GLOBIS Unlimited」というグローバル向けのプロダクトもありますが、1プロダクトでリポジトリが一緒でその中のプランという形で分けているので、メリットとしては1回開発すればどちらにも反映できる、デメリットとしてはステークホルダーが2倍になるという点があります。特に一番コアな受講画面は全影響を考慮する必要があり、我々プロダクトマネージャーの難しいところですが、全体にインパクトを出せる施策になれば最強という点では面白いかなと思います。
基本的には、やることを決めたらステークホルダーを見つけて、スクラムでプロダクト開発を進めていき、金曜日にスプリントレビューでお披露目という流れでリリースしています。我々はサブスクリプション型のビジネスですが、何かを学習して意義を感じていただきリピートに繋がるまでに時間が長くかかるため、プロダクトの成果測定が非常に難しく、早いサイクルでのPDCAが回しづらいという点が特徴的です。そのため、最終成果の指標も要素分解した上で、データサイエンスチームと連携しながら「短期指標でこういう傾向のユーザーは最終的にはリピートしやすい」という相関関係や因果関係を見つけてこの施策のKPIにするということを模索しながら行っています。
及川
「GLOBIS 学び放題」はずっと学び続けてもらうことが目的かもしれませんが、一方で、学んで成長されたなら卒業することも考えられます。理想的な形の卒業と、チャーンとを明確に区別して把握することについての議論は社内でされていますか?
久津
その議論はよくしています。我々も退会の動線の中でアンケートを取っており、一番多い理由は「学習する時間が無かった」というものですが、次点で多いのが「一通り見終わったので」という方々です。一方で、数年以上継続されているユーザーの行動履歴を見ていくと、多様な使い方をしていただいています。特定のジャンルを集中的に学んだ後に、今度はトレンドのニュースや対談記事、イベント動画をメディア的に活用する等、「学ぶ」という中でも色々なグラデーションがあるため、我々もフォーカスを絞り切れていないというのが課題です。おっしゃる通り、ずっと使い続けていただくことがすべてにおいて良いわけでもないので、まだ答えが出ていないですね。
及川
明確に定義したペルソナ毎に異なるジャーニーに即した形のユーザー体験をつくっていくのがセオリーかと思いますが、なかなかそうはいかないということでしょうか。
久津
そのアプローチは今試みていますが、ペルソナもなかなか定まり切らず、どういう軸であればカバレッジが取れるかについても模索中です。これが難しいもう1つの理由として、法人の意思決定のプロセスが特殊である点が挙げられます。toCの場合は、ユーザーが自分の意思で決めてお金を払うというモチベーションがある大前提に立てますが、法人の場合は人事が意思決定しているため、学習する社員の意思とは無関係に導入される可能性があります。一方で、法人でも「公募」という形で社員の方が自ら希望してサービスを利用していただくユースケースがあり、この場合は俄然やる気に満ちているというように、バリエーションが豊富です。そこに対してフォーカスしきれていなかったという課題があり、現在リサーチャーやデータサイエンスのチームと協力して「今年度はここにフォーカスしよう」という定義を進めているところです。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
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多様性のあるメンバーが集う環境で、難しくも面白いチャレンジを。
及川
グロービスのプロダクトマネージャーは、どのような方々がいらっしゃるのですか?
久津
多様性のあるメンバーが揃っています。私はエンジニア出身ですが、デザイナー出身者やマーケティング出身者、経営を経験した方など様々なバックグラウンドを持つメンバーが集まっており、個々の強みを活かしたアサインを行っています。
及川
プロダクトマネージャーの育成や人事評価は、どのようにされていますか?
久津
今は全チームでスクラム開発を行っていますので、スクラムのPOとしての振る舞いは全員に習得いただくようにしています。マインド的な育成は、全員強みが違うので体系的には行っておらず、一人一人に合わせて個別にアレンジしているというのが現状ですね。
人事評価に関しても過渡期かと感じていますが、分かりやすく数字で結果を語れる状況ならプロダクトマネージャーとして何かを伸ばした実績の評価で良いかと思うものの、その指標がまだ出てこないとなると何で評価すれば良いのかが難しいところがあります。現状では、MBOの目標設定をする際に「定義としてはこうだけど、あなたの場合は今期これをやっていこう」と個別に対話をして目標を決めた上で、その達成度合いで評価しています。
及川
最後に、グロービスのプロダクトマネージャーとしての魅力もぜひお聞かせください。
久津
答えが「わからない」状態を科学して何かを発見していけるのは、相当ポテンシャルがあると思います。経産省の統計等で「日本人は全然学ばない」というデータが出てきますが、その長年の課題を我々が解決できる可能性があります。当社には良質なコンテンツが揃っており、学びのプロが多数いる組織なので、ここにチャレンジできる面白さがあります。もちろん非常に難しく、わからないことがストレスでもありますが、本当に社会を変えられる可能性があるというのが当社のプロダクトマネージャーの楽しいところかなと思います。
現在、当社ではプロダクトマネージャーの採用強化中です。昨年から少しずつプロダクトマネージャーも増えて来ていて、今日お話した通りまだまだ育成や様々な定義に関する課題は多いですが、これから整えていこうと考えており、色々なチャレンジもしていきたいと思っています。プロダクトマネジメント組織をつくることに興味がある方にとっても楽しい環境かと思いますので、もしご興味があればぜひエントリーいただければと思います。
構成:神田 昭子
撮影:波多野 匠
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
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