INTERVIEW

INTERVIEW 003

2018 Jun 25

介護、医療、金融、働き方……社会が抱える重大なテーマに、AIでイノベーションを。

石山氏(エクサウィザーズ)のプロダクトマネージャーインタビュー

PROFILE

株式会社エクサウィザーズ 代表取締役社長 石山 洸 氏

東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。2006年4月、株式会社リクルートホールディングスに入社。同社のデジタル化を推進した後、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズにのせ売却した経験を経て、2014年4月、メディアテクノロジーラボ所長に就任。2015年4月、リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。2017年3月、デジタルセンセーション株式会社取締役COOに就任。2017年10月の合併を機に、現職就任。静岡大学客員教授、東京大学政策ビジョン研究センター客員准教授。

社会課題をAIで解決していく。まずは「介護×AI」の領域から。

及川

まずは石山さんが率いるエクサウィザーズについてご紹介いただけますか。

石山

当社は2017年の10月に「エクサインテリジェンス」と「デジタルセンセーション」という2つのAIのスタートアップが合併して生まれました。デジタルセンセーションは静岡大学発のベンチャーで、エクサインテリジェンスは京都大学や大阪大学のAI研究者たちが関西で立ち上げたベンチャーです。
 
我々はAIがもたらす社会的な価値を大変重視していて、世の中が抱える課題をAIで解決していくことをコンセプトに掲げています。たとえば、いま超高齢社会を迎えて介護が大きな社会問題になっていますが、我々は「介護×AI」でその解決に挑んでいます。
 
社名にある「ウィザード」は「達人」を意味する俗語です。我々の業界では、コンピュータを知り尽くした優秀なエンジニアのことを指しますが、あらゆる業界に「ウィザード」の方々はいらっしゃると思います。介護を熟知されている方もそう。
 
我々は、そうした世の中のさまざまな現場で活躍されている「ウィザード」の方々とコラボし、お互いの優れた知見を融合させて社会をより良くしていきたいと思っています。

及川

具体的にはどんな事業やサービスを手がけていらっしゃるのでしょう。

石山

企業のお客様がビジネスにAIを容易に導入できる仕組みとして、独自に開発したexaBase(エクサベース)という機械学習のプラットフォームを提供しています。
 
しかし、こうした汎用的なプラットフォームを展開するだけでは、社会課題の解決にはなかなか繋がらない。それでいま力を入れているのは、さまざまな領域に特化したAIのソリューションを創り出していくこと。さきほど触れた介護に加えて、医療やFintech、HR Tech、さらにはロボットの領域でAIをどう利活用できるか、いま追求しています。
 
これらのテーマはすべて社会課題に繋がっていて、介護や医療は世の中の人々が豊かな人生を送るために欠かせないものですし、増大する社会保障費を抑えるためにFintechはきっと大いに活用できる。
 
また、労働人口の減少に対応して生産性を向上させるためにはHR Techが必要であり、人手不足解消のためにロボットの導入も推進していかなければならない。そこにAIを絡めて、これからの日本に求められるイノベーションを起こしていきたいのです。

及川

御社の事業は、機械学習の汎用的なプラットフォームとバーティカルなSaaSを創るモデルなのですね。さきほど「介護×AI」の話がありましたが、個人的にも非常に興味深いテーマです。

石山

介護の世界ではいま「認知症情報学」という学問分野が注目されています。医療の世界では「エビデンス・ベースド・メディスン(科学的根拠に基づく医療)」が当たり前ですが、認知症の介護ではまったく行われておらず、解析する余地すらなかったのが実情でした。
 
しかし機械学習の進化によって、ケアをしている動画などの非構造データをそのままディープラーニングで解析できるようになった。その結果、どんなケアをすると、要介護者の方々が良好な反応をするのかを掴めるようになり、良いケアとは何かを科学できるようになったんですね。

及川

その認知症の介護のAIソリューションは、いまどこまで完成されているのですか。

石山

このソリューションは3つの要素から成り立っていて、ひとつは、そもそも介護をエビデンスベースにしていかなければならないということで、その解析にいま注力しています。
 
弊社の場合、「ユマニチュード」というフランスで発案された認知症ケアメソッドを基にしています。「ユマニチュード」は「見る」「話す」「触れる」といったマルチモーダルを重視するメソッドですが、その五感に対する複数の入力をどうコントロールすれば介護拒否などの行動や心理面に現れる認知症の症状を緩和できるのか、それによってどう介護者負担がなくなるのかについて解析しているところです。
 
そして、エビデンスベースで立証された良いケアを普及させていくのが次のテーマで、そのために取り入れているのが「コーチングAI」という技術です。介護の達人が行っているケアをAIが学習して初心者に教えるというもので、スマホでケアをしている動画を撮って送ると、AIがエビデンスベースで評価して改善点を自動的に返すという仕組みを開発中です。
 
さらにもうひとつ、認知症の方への介入効果を予測することも重要です。たとえば、これまで要介護度4の方へ介入した結果、要介護度4のままだと介入効果を評価できなかったのが、AIによる予測では要介護度5になるはずだったことが分かれば、介入効果があると判断できる。それをAIで解析し、認知症への介入効果を可視化するシステムの開発も進めています。

及川

認知症というのは人間にとって最も不幸な終末だと思います。肉体は健全なのに精神が崩壊していくのは、本人も家族も本当に辛い。いまや認知症は世界的にクローズアップされていますし、社会課題としては非常に重要なテーマですね。

石山

世界を見渡すと、認知症ケアにはいろいろなメソッドがあるんです。
 
我々が取り組んでいるのはフランス発の「ユマニチュード」ですが、アメリカでは「バリデーション」、イギリスでは「パーソン・センタード・ケア」あるいはオランダでは「ビュードゾルフ」と呼ばれるモデルが注目されていて、何が本当に優れたケアなのかがまだ判っていないのが実情。
 
こうしたケアのメソッドを機械学習で評価する取り組みはまだグローバルでも例がなく、我々もいろんなモデルを検証して最適なメソッドを確立し、世界に提示していきたいと思っています。

FintechやHR Techも究めて、日本の未来をリードしていきたい。

及川

介護以外の領域でも、AIによる新たなソリューションの開発がいま進んでいらっしゃるのでしょうか。

石山

ええ。医療の領域ではAIによる創薬に京都大学や理化学研究所と取り組んでいます。
 
化合物の構造をグラフ構造として捉え、Deep Learningを用いた学習モデル「Graph Convolution Network」を活用することで、創薬候補となる化合物の性質の予測が可能になり、創薬候補化合物のスクリーニングを効率化する。また、予測するだけでなく、活性予測理由の「見える化」や、創薬に適した化合物を、多様かつ大量に提案する「生成モデル」も開発しています。
 
そして面白いのが、Fintechの領域では企業間の取引データがグラフ構造になるんですね。創薬と類似のモデルを活用して与信のアルゴリズムを開発できるかもしれない。これからの日本経済を考えると、ベンチャーや中小企業がもっと活躍しなければならず、そこに資金を供給していくことが必要。
 
しかし、従来の銀行の与信のポリシーの中で、財務諸表を見るだけではなかなかそれがかなわないのが実情であり、別のデータを加えて新しい視点を与えることで、AIでイノベーションを起こせるチャンスがある。
 
そこで我々は、三菱UFJフィナンシャル・グループと資本業務提携して機械学習を使った新たなオンライン・ファイナンスのモデルの構築にも取り組んでいます。

及川

おっしゃる通り、日本の金融機関は与信が厳しいですよね。一方でAmazonなどはかなりアグレッシブな取り組みを行っていて、これまでの取引データをもとにAIで融資を実行しています。市場のトレンドを予測し、たとえばダイバーシティを重視している企業の成長可能性が大きいとAIが学習すれば、そこに投資していく。そんな手法が確立できれば面白いですよね。

石山

いま「ダイバーシティ」という言葉が出たので、その流れでお話しさせていただくと、HR Techも我々が力を入れているテーマのひとつです。人事というのはこれまであまり科学されてこなかった領域であり、解明する意義が大いにあると思います。

及川

確かに人事の世界はデータサイエンスとは無縁で、特に日本企業はデータをもとに戦略を練ることをやってきませんでした。GoogleもかつてはGPA至上主義で、書類選考時にGPAでスクリーニングしていたのですが、大学の成績と会社のパフォーマンスと連動しないことが判明し、方針を大きく変えたんですね。日本企業はこうした採用後のパフォーマンスをトラックしてこなかった。

石山

AIの世界は入力データが重要だと言われますが、HR Techにおいても、何をターゲットにするのか、評価関数をどうするのか、最適化するポイントをどこに置くのかなど、そのデザインが非常に大切なんですね。
 
そしてHR Techを究めていくと、いままで人事の特徴量として扱われていなかったデータ、従業員IDに紐付くデータなら何でも活用できるようになると思うんです。

及川

意外なデータを活用するのは、先ほど石山さんがお話になられたFintechの融資モデル構築とも似ていますね。

石山

我々はAIを使って、採用や配属、登用などで最適な人材を見極めてようとしているわけですが、それだけで終わってしまうと価値はないと思っています。
 
介護の世界と同じように、そこにコーチングAIを持ち込みたい。ハイパフォーマーの能力をAIが学習してローパフォーマーに教えられると、良い循環が生まれて全体が底上げできる。そこまで踏み込んでソリューションを提供していきたいと考えています。

及川

HR Techへの取り組みは、もはや人事の枠を超えて経営に関わっていくようなレベルの話ですね。おそらく、AIをはじめとするテクノロジーの進化によって、企業の将来のビジネスのあり方そのものが変革し、人員計画なども再考しなければならないと思います。

石山

先日、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士が著した論文「未来の雇用」が話題を呼びましたが、AIによって企業の事業ポートフォリオは大きく変わるでしょうし、それに応じて社内で人材の流動性をどう作るかが、特に日本企業においてこれからますます重要になるでしょう。
 
社員のデータを分析し、どうリカレント教育して将来生じるポジションにマッチングさせるかという、そんなテーマにも取り組んでいきたいと考えています。実はオズボーン博士は私と同じ36歳なんですね。とても刺激になります。

及川

AIの導入によって、外資系証券会社の数百名いたトレーディング部門がわずか数名になったというニュースもありましたよね。そこでAIによって職を追われた人がいま何をやっているのか、追跡調査してみるのも面白いかもしれませんね。

石山

確かにそうした観点も有効だと思います。この領域はまだまだわからないことが多いので、いろんな分析を行っていきたいですね。

二刀流人材が、バーティカルな競争優位を生み出している。

及川

御社で使われている技術についてもう少し詳しくおうかがいしたいのですが、たとえばexaBaseはどのようなテクノロジーで構成されているのでしょうか。

石山

実態をお話しすると、exaBase自体はTensorFlowとKerasを中心に作られています。このexaBaseの上で、企業のお客様に向けてAIのリテラシを獲得するためのトレーニングができる環境も提供しています。
 
いろんなタイプのデータセットを用意し、段階を踏んで機械学習を回してディープラーニングを体験していただく仕組みがあって、実際にPythonで動かしてAIに対する手触り感を感じてもらっています。

及川

機械学習を回す時は、入力するデータの処理がいちばん大変だと思うんですね。通常のディープラーニングだとデータ量が数十万に及ぶこともありますが、アノテーションはどう対処されているのですか。

石山

弊社の取締役の一人に、かつてパソナテックでJob-Hubというクラウドソーシングの事業を立ち上げた粟生という女性がいます。
 
アノテーションをやるにはやはりクラウドソーシングの力が必要で、彼女の指揮のもと、Job-Hubと提携してアノテーションを簡単にできるプロセスを構築しています。ディープラーニングのアルゴリズムも常にいろんな工夫が成されていて、アーカイブにどんどん上がっている状況です。
 
機械学習の前工程のリサーチをしているチームもあって、インドの大学と提携し、インド側で膨大なデータを扱って最も精度の上がるデータの捉え方なども研究しています。
 
また、弊社は顧問の先生方がたくさんいらっしゃり、AIの権威の方々からもアドバイスをいただきながら、どの技術を使うべきか絶えず擦りあわせています。こうしてアルゴリズムの候補を決め、Job-Hubでアノテーションし、exaBaseの上でどんどん回して事例を蓄積している感じです。

及川

御社ではいま、エンジニアの方を何名ぐらい抱えていて、どんな組織になっていらっしゃるのですか。

石山

いま社員は約70名で、そのうちの半数がエンジニアです。30名ほどが機械学習のエンジニアで、残りの5人ほどがソフトウェアエンジニア。
 
実は弊社はけっこうユニークで、母体の一社であるデジタルセンセーションは、マービン・ミンスキー(「人工知能の父」と呼ばれる米国のコンピュータ科学者)がずっと顧問を務めていた会社なんですね。
 
ですからディープラーニングだけではなく、高次元のシンボリックに関するアプローチも結構リサーチしているんです。一方、エクサインテリジェンスはとにかくディープラーニングを究めていて、異なるタイプのエンジニア集団をどう融合させて高めていくかは、組織を率いる私にとっても面白い課題です。

及川

機械学習系は2種類のタイプのエンジニアがいると聞きます。データサイエンスのリサーチャーを志向する人間と、アルゴリズムを仕組み化するエンジニアリングを志向する人間で、御社の場合はいかがですか。

石山

比較的、現場寄りで機械学習を利活用するライブラリを充実させていきたい、という人間が多いです。
 
この場合はドメインナレッジとの融合が重要になってくる。たとえば創薬の領域なら、薬学の博士号を取得してディープラーニングの知識を持っている技術者が弊社で活躍しています。バーティカルで競争優位となる技術を創ろうとすると、どうしてもそれが必要になるんですね。
 
介護の領域だと、「ユマニチュード」のインストラクター資格を10週間かけて取得した人間がいま開発に取り組んでいます。彼は大学で情報学の先生をしていたウィザード級のエンジニアなんですが、何かモノを作る時に現場志向じゃないと気が済まない人間で、わざわざ介護のインストラクターの資格を取ったんです。
 
こうした二刀流人材を弊社はたくさん抱えているのですが、全員が二刀流になりたいわけではないので、そこはうまくバランスを取りながら組織を運営しています。

及川

御社が携わっている介護や医療、金融、人事などは、それぞれ異なる専門性を求められるドメインなので、SaaS化まで見据えてソリューションを創り出そうとすると実に多様な人材が必要になりますね。

石山

しかも、それに加えてロボットまでやっていますから……いまVRでタオルの畳み方を教えると、自動的に畳んでくれるロボットをデンソーと一緒に開発していて、我々はその裏側の機械学習を手がけています。こうしたロボットはプログラムですべて制御するのは困難で、VRで使って機械学習で教えてあげて動かしています。
 
そこではリカレントニューラルネットワークを駆使していて、この技術は早稲田大学の尾形哲也先生と一緒に研究に取り組んでいます。こうしたプロジェクトが走っていることもあって、ロボットの研究開発を志して入社してくる人間も増えています。

及川

VRも究めていらっしゃるのですね。確かにコーチングAIはVRが向いていると思います。介護の領域でも、認知症患者の典型的な行動パターンをVR上にシミュレーションできれば、それは機械学習の教師データとしても活用できる。

石山

おっしゃる通りで、すでにそうした価値を見抜いて介護VRの研究開発に取り組んでいる人間もいます。VRで学習データを自ら生成できるようになると、すべて自分たちで完結して学習済みモデルを創ることができる。それは知財戦略においても非常に有利になりますし、ぜひチャレンジしていきたいですね。

仕事をディグり、敢えてジェットコースター感覚を楽しむ。

及川

石山さんいま、たいへんユニークで社会的意義のある事業に取り組んでいらっしゃるわけですが、現在に至るまでのご経歴を教えていただけますか。

石山

私はちょっと変わった人間なんです。子供の頃から算数や理科が得意で、自分は理系だという感覚はあったのですが、姉の入れ知恵で文系に進まないと女子がいないと知り、中学の頃から文系人間のように偽装し始めたんです(笑)。
 
結果、文系科目にリソースを割いたために数学や理科が次第にわからなくなり、すっかり文系人間になって大学も商学部に進んで学生生活を謳歌していました。
 
が、転機が訪れたのは大学2年の時で、9.11のテロが起こって海外に興味を持ち、アメリカを訪れてみたいと強く思うようになったんですね。でもお金はないし、何か方法はないかと探っていたら、CMU(カーネギーメロン大学)での学会のワークショップでプログラミングコンテストがあり、日本で予選を通過すると奨学金が出て無料でアメリカに行けると知って……それは金融市場でのトレーディングのアルゴリズムを作って取引のスコアを競うというものでしたが、深く考えずに「これはチャンスだ」と。プログラミングの勉強を始めたのは、実はそれがきっかけなんです(笑)。

及川

石山さんは文系出身で、しかも大学の中盤までプログラミングの経験がなかったのですね。

石山

ええ。プログラミングのスキルなどまったくなかったのですが、ただラッキーだったのは、そのトレーディングアルゴリズムを開発していたコミュニティが、この活動を通したプログラミング教育でどれぐらいの効果があるのかリサーチしていたんです。それは後でわかったことですが、私は格好の実験台だった(笑)。
 
そこでJavaとオブジェクト指向プログラミングを教えられ、商学部だったので金融に詳しい友人からいろいろと知見を引き出し、簡単なAIを書いて応募したら、予選を通過してCMUでのワークショップに参加できることに。そこで東工大の先生にお会いして「君は絶対に理系に転向したほうがいい」と勧められ、修士から理系に移りました。
 
マスター時代は一日中コード書いていて、金融取引のマルチエージェントシミュレーションを研究テーマに論文も20本近く書きました。そのうち最も面白いことがしたいと欲が出てきて、人間もログインして一緒にトレーディングできるようなプラットフォームを研究していたら、それが注目されて、アラン・ケイが名誉委員長を務める国際学会C5で発表する機会をいただいたんです。
 
そのキーノートで、アラン・ケイの話を聞いて非常に感動して……彼は「グーテンベルグの活版印刷技術が生まれたことで、メディアとしての聖書が普及し、人々のリテラシが上がって、宗教革命が起きた」と語り、「いまは我々コンピュータ科学者がデジタル革命をどう起こすかを考える時だ」と。
 
その話にたいへん触発されて、当時、紙からデジタルへと強力にメディアシフトしていたリクルートに可能性を感じて入社しました。

及川

リクルートのAI研究所は、石山さんが設立されたとうかがいました。

石山

ええ。私が立ち上げたのですが、アロン・ハレヴィ(Google Research出身でデータマネジメントと人工知能研究の世界的権威)を採用したので、もう辞めても大丈夫かなと思って(笑)リクルートを離れ、現在に至っています。

及川

そうした石山さんご自身のご経験も踏まえて、これからのキャリアに悩んでいる若い世代に向けて応援メッセージをいただけますか。

石山

私はよく「仕事をディグ(Dig)る」という表現を使うのですが、プログラミングを含めていろんなものに興味を持ってきたことで、いまの私が形成されたと思っています。
 
その興味の対象は「人」にも及んでいて、私は“ウィザード”のような人が身近にいると、その人がどんなメカニズムで動いているのか、とても気になるんですね。若い頃は、自分が凄いと感じた先輩をよく物真似していましたし、「石山さんのなかにはエミュレータがたくさん入っているよね」と言われたことも(笑)。そうして、DJが好みのレコードをディグるようなスタイルで仕事をして、いろんなプロセスを楽しめばいいいと思います。
 
ちょっと話は飛びますが、某有名テーマパークに「スプラッシュマウンテン」っていうジェットコースターがありますよね。困難に直面する時は、あれに乗っているよう感覚で、落っこちることを楽しみながら生きていけばいいのではと。我々がいま置かれている状況もまさにそう。まだ誰も経験していない人類の葛藤を先行して引き受けているわけで、スプラッシュマウンテンの連続。
 
先日も、看護師とエンジニアが同時に入社してきたのですが、お互いが生きていた世界がまったく違うわけですから、当然コンフリクトは起きる。それを乗り越えていかなければならいわけで、彼らにもスプラッシュマウンテンだよと言ってます(笑)。

及川

大企業はそんな経験を味わえる場が不足していると思うんですね。スプラッシュマウンテンというのは、言い換えれば修羅場。人というのは修羅場を経て成長するもので、大企業はとそれが経験できるポジションがなかなかない。一方でベンチャーに身を置くと、毎日が修羅場なので成長しかない。

石山

そうはいっても、ずっとスプラッシュマウンテンに乗っていると疲れますから(笑)、それを癒す趣味を持つことも大切だと思うんですね。
 
趣味を持つのはAIの研究開発では実は重要で、モデル化するための自分なりの言語を、趣味を通して獲得できる。私の場合はピアノの即興演奏で、自分が立ち戻れる言語があるとモデリングにも活きますし、心の安定にもつながる。
 
それこそ昔、エクストリーム・プログラミングでメタファーが大事だという話がありましたが、エンジニアリングとはまったく違う世界が自分のなかにひとつあってもいいと思いますね。

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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