EVENT REPORT
2026 Jan 26
toCプロダクトの醍醐味とリアル
登壇者
アソビュー株式会社 上級執行役員 CPO 横峯 樹氏
株式会社令和トラベル 執行役員 CPO 麻柄 翔太郎氏
クライス&カンパニー 顧問 及川 卓也
※今回の汐留アカデミーは、以下のアジェンダで登壇者によるディスカッションが繰り広げられました。
■AIは脅威かチャンスか:toCプラットフォームの介在価値とAI活用の現在地
■toCの難しさの本質:意思決定の非合理・不確実性と、N1からマスへのギャップ
■ユーザーニーズをどう掴み、どう作るか:N1×データで回す仮説検証と、AI時代のPMの変化
本セミナーレポートでは、ユーザーニーズの捉え方を起点に、プロダクト開発の意思決定、そしてその意思決定を加速・補助する観点としてのAI活用に関する議論の一部と、参加者の皆様からの質疑応答の一部を抜粋してお届けします。
――パネルディスカッション
及川
ユーザーニーズを正確に把握するという観点で伺います。N1を聞いて解像度は高まる一方で、人数が増えると共通点が見えづらくなり、結局誰のためにプロダクトを作ればいいか迷ってしまうという話があると思います。現在どのように取り組んでいらっしゃいますか?
麻柄
もちろんユーザーヒアリングで解像度を高めることは大事ですが、「この人がこれを問題だと言っているから開発しよう」ということはしていません。どちらかというと、データを基に、現在のプロダクトのカスタマージャーニーのどこに、どんなボトルネックがあるのかを見ています。その課題に対する仮説の正しさや大きさのヒントを得るために、ユーザーヒアリングという定性的な「人の脳」を使うイメージです。「つまりこういうことだよね」と把握し、母数はわからないけれど一理あるかもしれないと考えます。
N1の声を聞いて、「一旦それが正しいとすると、こういうデータが出るはずだ」と仮説を立ててデータを見に行きます。今度はマスのデータでどういう動きをしているのかを確認します。単純な画面間のCTRなどだけだとわからないので、「こういう行動をしたセグメントはどうなっているか」を見ながら仮説を立て、ABテストなどを行って検証し、「セグメントで見たときにこういう動きをしているのか」を探しています。
及川
つまり、数字の裏側には一人のユーザーの行動があるので、それをカスタマージャーニーマップのような形にして「おそらくこうだろう」という仮説を持ち、その仮説に対してユーザーインタビューをする、あるいはユーザーインタビューの結果から「ここで離脱しているのでは」という仮説を立て、データをもとに検証する。そういった形で、定性と定量を組み合わせて進めていくイメージですか。
麻柄
そうですね。カスタマージャーニーを「こうだろう」とバシッとかっこよく決めることはできず、実際には「なんだこれは?」と思いながら進めています。そうした試行錯誤を繰り返しています。
及川
横峯さんのところは、麻柄さんがおっしゃったように、N1を聞いて解像度が上がって「なるほど」と感じることはありますか?
横峯
弊社では、Strategy Partnersの西口さんに入っていただき、N1の話をたくさん学びました。西口さんからN1分析をインストールしてもらったことも含めて、解像度はかなり高くなっています。最初は代表の山野が毎週ユーザーインタビューを行い、顧客解像度を高めるために継続していました。多いときは100名ほど、社員ほぼ全員が出席し、エンジニアもコーポレートも参加してユーザーインタビューをしていました。直近は隔週ぐらいで、山野は外れていますが、事業責任者レイヤーで回しています。
加えて、データで深く見るという点でも、データ上のN1をよく見ています。以前、私が「アソビュー!」事業の責任者だったとき、弊社で定義しているロイヤル顧客が、どういう購買履歴・行動で、どう検討し、どう活動したからエンゲージメントが高まり、繰り返し使っていただける状態になったのかを、ログで徹底的に見ていました。Googleアナリティクスをイベント単位で見て、どういう行動をしているかを毎週分析し、全社に発表することを続けていました。
N1の活動とマスの活動、施策の接続については、N1を蓄積していく中で「これが課題だからプロダクトを変えよう」と言って失敗することもあると思います。私の中では、社会の流れを掴むための「インプット」をひたすらしている感覚です。仮説は、自分の中にインプットされているものからしか出ません。顧客情報も含めて自分の中の引き出しを貯めていく活動で、ユーザーインタビューでN1を見るのも、マスをデータで見るのも、そのためです。たまってくると、次の戦略や「今の事業の課題はこの辺なんじゃないか」という仮説が研ぎ澄まされていくはずだ、という前提でインプットを重ねています。
及川
一時期、我々の会社でもプロダクトマネジメントをご支援する際に「豊かな仮説」という言い方をしていて、ペラペラの仮説じゃだめだよと言っていました。今のお話は、仮説を豊かにするためにデータやインタビューを蓄積している、という感じでしょうか。
横峯
そうですね。たまっていると、仮説が出たときに「インタビューのときにあの人がこう言っていた」という話が出てきます。あるいは「ここでロイヤルカスタマーになっていたけれど、この方のこの行動はこういうところから来ているのではないか」「じゃあロイヤルカスタマーになっていないこの人はどの辺にいるんだっけ?」といったことが、仮説の段階で出てくるはずです。そういう会話を増やすために、みんな蓄積しているイメージです。
及川
もう一つ質問ですが、お二方のサービスは自らもユーザーになれるサービスですよね。これは有利に働くことも多い一方で、「私の考える最高のNEWT(ニュート)」「私の考える最高のアソビュー」を皆が主張してしまうこともあり得ます。自分自身がユーザーになれることを、どのように捉えられているか教えていただけますか?
横峯
私も超ヘビーユーザーとして使っています。私には9歳の女の子と4歳の男の子がいるのですが、皆さんの認知も「アソビューはお子様ファミリー向け」になっていないでしょうか。これは私のミスで、私がサービスを作っているから「ファミリー向け」になってしまい、ファミリーに寄せたUI/UXがいろんなところに存在しています。結果、ファミリー以外の方が疎外感を感じる状態が拭い切れていません。事業責任者兼PMだったときのミスが、まだ残っていると思っています。
及川
それはミスなのでしょうか?解像度が高く、確実にそのセグメントが取れたのは良いこととも思えますが。
横峯
今は「ミス」と言いましたが、おっしゃる通り、当時の戦略としてはボリュームゾーンを都市部のファミリーに設定していました。ちょうど私自身がそのセグメントだったので、徹底的に使いやすくすることに限定して取り組んでいました。結果、かなりそこに寄せたUXになっているので、事業戦略上重要だったのは間違いありません。ただ、寄せすぎたので、社内でもファミリーじゃない方の意見に対して、「それはちょっとすみません」みたいなことが起きていました。
及川
令和トラベルさんはどうですか?
麻柄
自分がユーザーなので「これがあったらいいな」はたくさんあって、つい「みんなそう考えているだろう」と言いたくなるのですが、社内にも違う意見がたくさんあります。それだけで戦うと、「あなたは旅行にそれだけ行っているからそうかもしれないけど、私みたいなあまり行かない人からするとこっちの方が大事だし、NEWTのカスタマーもそうなんじゃないの?」という話になって、ふんわりした優先順位議論になりやすいです。
「これを作る」と言ったときに、細部まで「こういう使い方をするはずだから、ここまで情報を表示しよう」とクオリティを上げていく点ではユーザー視点は効きますが、「何を作るか」という意思決定においては意外と難しいです。直感が正しいこともありつつ、結局はカスタマーのN1と同じ事象が社内でも起きるので、難しいなと思いながらやっています。
及川
自分の意見や、社員、エンジニア、プロダクトマネージャーの意見も「一つのN1」というように考えるという感じですね。
横峯
それでも、かなり寄りますよね。弊社は遊びが好きな人が集まっています。社員もみんな詳しいので、「むちゃくちゃ遊んでいる人ベースで出したい情報」と、「ライトに遊びたい人や初心者に必要な情報」という視点が抜けがちになることが多いです。社内の意見だと玄人すぎて、「ここの見どころはここだから」みたいなところが伝わらないときもあるので、そこはPMやマーケが制御しに行っている側面はあると思います。
及川
解決の仕方として、プロダクトマネージャーなり、ファミリー層じゃない人をプロダクト企画に入れるとか、あまり外に出るのが好きではなく、旅行もするかどうかわからない人をあえて入れるとか、そういうこともありそうですね。そのあたりもやられる可能性はありますか?
横峯
全然あると思います。ミッションへの共感ベースで採用を強化してしまうと、どうしても遊び好きな人が集まってしまうのですが、今はまだ十分に採用できていなくても、本当はそういう方にも加わっていただけると良いと思っています。ライト層の方々がどうやって遊びに行くかは大きなテーマですし、「衣食住遊」と言うように、本当に社会を変えていくレベルになると、今めちゃくちゃ遊びに行けない人たちにどう遊んでもらうかはとても大事なので、その観点はあると思っています。
及川
旅行も同じような感じですか?
麻柄
そうですね、同じです。ただ、まだ小さい会社なので、多様性の点だけで採用することはできず、偏ってしまう部分はあります。即戦力で考えると「旅行に詳しい方がいい」「toCのPMをやっていた方がいい」となってしまうので。どちらかというと、カスタマーの声をちゃんと聞く文化を作ることや、CSがお問い合わせ対応した結果を反映できるようにしたり、解釈して組み込めるようにしています。あと、エンジニアも含めて、みんなで意見を出しやすい環境を作り、「そういう考え方もあったんだ」というところを、いろいろ聞くようにしているのが実態です。
及川
今度は「プロダクトマネージャーがAIをどう使っていくのか」「AIによってプロダクトマネージャーはどう変わっていくのか」についてです。ユーザーの理解や意思決定のプロセスに、AIがどう関わってくるのかも含めて、お二方はどう考えているかお聞かせください。
横峯
めちゃくちゃ変わりました。自分で確かめようと思って、8月頃から自分を1プロジェクトにアサインして、PMをやってみました。これまで通りのやり方と、AIネイティブな開発プロセスにしたらどうなるかを試行錯誤しました。CTOを巻き込んでエンジニアを2名ほどアサインしてやったのですが、ドキュメントの作り方やコンテキストの貯め方が圧倒的に効率化されて、自分がフォーカスすべきポイントだけにフォーカスできました。
そのときは、データを創りに行くところがコアだったので、私も久しぶりにコードを書き、AIを使って開発・実装しました。これを一人で完結し、プロジェクトをリードしながら、プロダクトバックログを含めて整理するPM的な動きもしつつ、実装も行いました。これだけのアウトプットを、一人で、週3日くらいの稼働でも出せるんだというのは、革命だなと思いました。拡張や、今までと違う領域へ越境するといった話はよく言われていますが、使いこなせればここまでできるんだなと体感できました。働き方やアサイン、進め方が社内全体でそこまで変わっているわけではないので、各々が体現するプロジェクトを少しずつ作りながら推進しています。
及川
お二人ともエンジニアのバックグラウンドがあるかもしれませんが、あってもなくても、コードが書けたりデザインができたりして、一人で完結できるところを増やせるはずだから、その能力を伸ばすべき、という方向になる感じですか?
横峯
そうですね。それは確実になると思っています。
麻柄
私もエンジニア出身なので、すごく気持ちはわかります。どちらかというと、エンジニアがそういう役割になっていくと思っています。実装やコードを書く、システムを設計するだけじゃなく、AIをメンバーとして使った上で、どうプロダクトとして、ソフトウェアとして問題を解くかが、よりエンジニア一人ひとりに求められてくると思います。
コードを書かなくなる世界は来ると思いますが、問題があったときに低レイヤーに潜って「何が問題なのか」を原理原則として理解した上でやれるのと、「WebアプリケーションフレームワークでこうやればHTMLが生成されてWebサイトが作れる」というレベルとでは、問題解決できるレベルや、コードに書かせるクオリティは違ってきます。そういう意味では、エンジニアがより上流に来て役割が変わっていき、PMはさらに上流の「事業をどうしていくか」「現実世界の問題をどう課題定義するか」に向かうのではないでしょうか。ユーザーヒアリングなども、AIがどれだけ代替できるのか、感情分析まで含めて全部できるようになるのかもしれませんが、結局それも含めて「意思決定する」「事業をどうするか」は人間が担う部分だと思っています。プロダクトマネージャーは、その重要性が増えるんじゃないかなと思っています。
及川
最近の話は2つあって、1つはプロダクトマネージャーが自分で作れちゃう世界です。Yコンビネーターの卒業生が、エンジニアじゃなくAIでプロダクトをガンガン開発しているという話もあります。
もう1つは、開発がコーディングから、設計、要件定義、要求分析、ビジネス戦略といった上流に上がってくる中で、今PMがやっている領域をエンジニアがやるようになっていくだろう、という流れです。そうなると、従来のPMの役割が不要になる可能性もある中で、今おっしゃったみたいに、事業など人間がやらざるを得ないところ、やるべきところに張っていくことが必要なのかなと思いました。
――参加者からの質疑応答&ディスカッション
Q
横峯さんに伺いたいのですが、toCはデータを見る力やロジックだけではなく、ある程度「山を張って当てに行く」ようなセンスも必要だと思っています。そうしたセンスを伸ばす方法はありますか?
横峯
インプットを増やすしかないんじゃないですかね。センスって、その人が持っているものから出てくると思っていて、じゃあ何で作られているかというと、基本はインプットの量だと思います。アーティストの方でも、幼少期の原体験がインプットになって、そこからインスピレーションが生まれてくるじゃないですか。我々がN1分析やユーザーインタビューをしているのも、まさにこれを磨くためだと思っています。徹底的にユーザーのインサイトに触れる、あるいは見ているユーザー数を増やしていくと、「こういう仮説があるんじゃないか」と、山を張って当てに行けるようになる。toCだと、歩いているときにふと思いつくことがあると思います。「たまたま目についたこれが、うちのサービスだとこう変わるかもしれない」みたいな。リラックスしているときの方が思いつきやすいんですけど、そういうのも前提として、自分の中に溜まっているインプットからしか出てこない。なので、徹底的にユーザーのインプットを増やすことですね。
Q
AIによる脅威・メリットを含めて、toCのプロダクトマネージャーとして何を鍛えればいいか。個人のプロダクトマネージャーのキャリアとして何を鍛えておけばいいでしょうか?
麻柄
PMとしてエンジニアリングやデザインも含めて、自分でプロダクトを作れる武器が手に入った一方で、キャッチアップしてプロレベルのクオリティでやるのは難しいですよね。「それはエンジニアがやるべき話で」という意見もあります。究極は、現実世界の問題解決における意思決定力をどれだけつけられるかに収束すると思って訓練しています。
横峯
一言で言うと洞察力かなと思いました。AIが台頭してきても、ユーザーの曖昧な意思決定や「この人が何を考えているんだろう」は、AIに聞いても「大体こんな感じ」しか出してくれません。深いところでその人が何を考え、どう意思決定しているのかをN1レベルで深く見ていく洞察力がないと、サービス設計や刺さる体験は作れないと思っています。
N1で見ていくときも、同じデータを見ていても「この人がなぜこの体験をしたのか」「なぜこのページがこのタイミングで起こったのか」と想像力を膨らませて、「今は歯を磨いているんじゃないか」「通勤電車の中なんじゃないか」という妄想をしていく。この妄想をつなげて、どのタイミングで何を考えたかまで深くできるかが重要だと思っています。
及川
我々は正解がない世界で正解を決めて、それに向かって進むので、「正解を決める」ことが重要です。唯一の正解があるわけではなく、例えば「うちの会社はファミリー層向けのレジャーで行くぞ」は、失敗したとしてもその時点で考えた正解です。「シニア世代に向けて」と考えるのも正解かもしれない。ここを決めるのを人間がやらなきゃいけないところで、特にプロダクトの意思決定なので重要です。
もう1つは、AIに相談して合理的な判断ができるとしても、あえて違う方、「外れだ」と思うところを選ぶときに、社内の人たちに納得してもらわなきゃいけない。結局は、人間に対して影響力をどれだけ行使できるかです。社内のステークホルダーやお客さんをいかに惹きつけ、共感してもらうかはAIではできません。裏でAIのアドバイスを採用していたとしても、「AIが言ってたから」ではなく、「このお二人が言ってたから」で社内がついてくる世界はあると思うので、そういった力が必要になるんじゃないかなと思いました。
クライス汐留アカデミーは今後も定期的に開催して参りますので、ご興味のあるテーマがございましたらぜひご参加ください。
(オフラインへのご参加は、弊社にご登録されている方を優先させていただくことがございます。ご了承ください)