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EVENT REPORT

2021 Apr 19

「KPI設定でプロダクトはここまで伸びる!」 ~成功したプロダクトに共通するKPIの設計思想とは~

登壇者

クライス&カンパニー 顧問 及川 卓也
Amplitude,Inc. Japan Country Manager 米田 匡克氏
株式会社エウレカ VP of Product, Pairs 金田 悠希氏

オープニング

山本

司会のクライス&カンパニー山本と申します。当社では、2017年から顧問として本日のモデレーターでもある及川に入っていただき、PdMの人材紹介サービスを強化してきました。2019年からPdMカンファレンスのプラチナスポンサーも務めております。PdM専用の転職サイト(https://www.kandc.com/eng/)にてPdMの方へのインタビュー、キャリアの参考情報をお届けしていますので是非ご確認ください。

PdMの方はリファーラルで転職される方が多いと思いますが、及川さんから見てPdMの方が人材紹介サービスを使うメリットを簡単に教えていただけますでしょうか?

及川

第三者の視点でキャリアを一緒に考えてくれる人がいることかと思います。PdMは他のプロダクト開発に関わる職種とくらべてキャリア構築を個々人も模索されていて、ご本人でさえ自分の強み弱みが何か、今後どういった方向にキャリアを伸ばしていけば良いか整理しきれていないことがある。ですから、まず一緒にキャリアの方向性を考えていき、そのためにはどういう企業が良いのかご紹介できるのは良いと思います。

結果として知合いの企業に転職するとしても、キャリアを考える際には色々な人のアドバイスも重要ですので、様々な企業の求人案件を持つエージェントに相談してみるのは有効かと思います。

山本

及川さんから見て当社のPdM転職支援はどのように映っておられますか?

及川

私は顧問なのでポジショントークと思われそうですが(笑)、掛け値なしにPdMに関する知見は圧倒的に溜まっています。PdMカンファレンスのスポンサーからスタートし、自然と求人案件も集まり、求職者やクライアントさんと一緒に知見を溜めている効果があるので、日本のPdM転職に関してトップを走っている。

私の研修を受け、私のキャリアコンサルに同席しているクライスの皆さんが転職相談に乗るのは圧倒的な強みだと思います。

山本

ありがとうございます。当社ではPdM転職、もしくは転職ありきではないキャリア相談も承っております。ぜひご登録いただいて、ご相談や求人のご確認をいただければと思います。また、企業の方々も採用のご支援等のご要望ございましたらぜひお声がけください。

それでは、本日のスピーカーをご紹介します。モデレーターは、弊社顧問でありTably創業者の及川卓也さん。パネラーのAmplitudeのジャパンカントリーマネージャーの米田匡克さん。Paisでお馴染みのエウレカのVPoPの金田悠希さんにご登壇いただきます。

及川

本日モデレーターを務めます、クライス&カンパニー顧問、かつTablyの創業者・代表取締役の及川です。ソフトウェアエンジニアからキャリアをスタートし、エンジニアのマネジメントからプロダクトマネジメントまで一通り経験して、今はスタートアップから大企業まで色々な支援をさせていただいております。

米田

米田でございます。今日は楽しみにしております。Amplitudeという名前はあまりご存知ないかと思いますが、実はPdMがよく使う分析ツールの1つでこの分野ではNo.1であり、Facebook、Amazon、Microsoft等で実績があります。その他、Twitter、Airbnb、Tinder、Paypal、Dropbox等に採用いただき、ビッグデータの中から先行指標を求め、どうプロダクトを伸ばしていくかという支援ツールを提供する企業の日本代表を務めております。

及川

私が米田さんを存じあげたのは、プロダクトにおけるKPI、NSMという概念を調べていったらありとあらゆる所にAmplitudeの名前が出てきて(笑)。米田さんがnoteで発言されているのを拝見して、今回お声がけさせていただいた次第です。

金田

エウレカの金田と申します。Pairsという日本最大級マッチングアプリのVPoPを担当しております。経歴としては、主にコンシューマ向けのプロダクトがすごく好きで、前職ではモバイル向けのゲームに携わり、5年前にエウレカへ転職してからはずっとPairsのプロダクトマネジメントを手掛けております。

今日はテーマがKPIということで、僕も米田さんのnoteを拝見しており色々学びたいというのと、事業会社で10年近く色々な経験を積んできたので、現場でKPIをどう設定しているか、それを推し進めていく上でどういう困難があるかといった、現場に寄った視点でも色々お話できればと考えています。

及川

金田さんとは長い知り合いでして、プロダクトマネジメントやPdMが日本でまだ認知が少なかった時からコミュニティでご一緒しており、PdMカンファレンスではほぼ常連かと。Pairsで溜まった知見を情報発信されて、日本のPdMコミュニティに多大なる貢献をいただいています。Pairsが非常に分かりやすいサービスでもあり、KPIの運用で色々工夫されている点や悩まれている点もあるのではということから本日ご登壇いただきました。

今あらためて指標を振り返る

及川

既に怒涛のようにご質問が来ていますが(笑)、以下アンケートにご回答ください。

★KPIなどの指標をどの程度活用しているか?

★NSMについて知っているか?

アンケート結果を画面に表示しますね。なかなか面白い結果になっています。皆さんがKPIに課題を抱えていることが如実に表れているかなと。

NSMは知らない方が多いですね。今日の参加者がこのような方々だと我々登壇者は頭に置きながら進めていければと思います。

それでは早速、本題に入ります。指標とは「進むべき方向に向かう道標であり、着実に目標に近づいていることを計測できるもの」と定義しています。KPI・KGI・NSMとは、それぞれ目標や何をするかは違うにせよ、道標であり計測可能なものであることは変わりないと思います。その中で、具体的にどう使い分けていくのか?を米田さんから説明いただきます。

North Star Metric(NSM)について

米田

NSMをご案内します。グロースハッカーズというPdMの方々が集まるグループが2020年に統計を取ったところ、欧米では500社中97%の企業が事業評価の指標を設定していることが分かりました。

明確な指標を設定している人が72%、何かしらの指標を設定している人が25%いた一方、指標を設定していない人達はわずか3%でした。グローバルでは、指標をしっかり設定してビジネスを拡げていく習慣が根付いています。

ここでおさらいですが、指標を構成する要素は大きく2つあります。

1つはKGI(Key Goal Indicator)という重要目標達成指標で、一般的に事業においては売上であることが多いと思います。

次にKPI(Key Performance Indicator)という重要事業評価指標でして、複数設定しながらKGIを支えるツリー構造になっています。このKGIとKPIを使ってビジネスを評価していきます。

我々はNSMのお話をさせていただく際に、「皆さんのKPI・KGIはどうなっていますか?」とよくお聞きするのですが、大体売上に対する道標としてKGIを設計していることが多いです。

じゃあ売上を支えているKPIは?と考えた時に、売上を因数分解して、課金ユーザー数と課金単価(ARPPU)を掛け合わせると売上になりますのでこの2つがKPIになる。では課金ユーザー数を支えるKPIは?と考えると、アクティブユーザー数と購入率です。アクティブユーザー数を支えているのは、新規ユーザー数と再訪ユーザー数になる。

このように、5つのKPIをどう向上させていくのかにフォーカスを当てるプロダクト設計をされているかと思います。

また、ARPPUは購入点数や購入単価が構成要素となりますので、この2つのKPIをフォーカスしながらビジネスを強化していくといった使い方をしています。

このようなお話をすると、「うちもこんな感じですよ」と皆さん言われますが、実はこのKPIには課題があるんです。ユーザーの「プロダクト体験」の評価が入っていないんですね。

今ご覧いただいたKPIはあくまでも企業目線で設定されていて、ユーザーがどれだけ自分達のサービスにロイヤリティを持っているかという評価が入っていない。これを推し進めてしまいますと、例えば課金ユーザー数を増やそう、ARPPUを増やそうとなったら個々のアイテムの金額を上げれば良く、単価は上がるが、逆にどこかが足を引っ張る形になります。一番重要なのは、ユーザーのエンゲージメント、評価軸をツリーに入れるということです。

そこで注目されているのがNSMです。NSMには、ビジネス成長だけでなくユーザーのプロダクト体験評価を入れています。ユーザーがこのプロダクトは面白いからエンゲージメントを高めて課金しようという気持ちになって初めて、その企業がビジネスを成長させていくという考え方です。

この考え方は実は5~6年前からDropboxやSalesforce、Facebookなど著名企業で採用されています。

Airbnbの例を挙げると、ユーザーが泊まりたいと思わないとサービスとして回らないので、予約された宿泊数をNSMに設定している。Amazon ですとプライムユーザーの購買点数、Netflixでは視聴コンテンツ数です。

North Starとは日本語で言うと北極星であり、軸がブレないものを中心の評価軸にするということです。

例えばAmazonの例で言うと、営業やマーケティングの方々、運用やカスタマーサクセスの人達がプライムユーザーの購買点数を上げるためにどうしたらいいのかを念頭に置いてビジネスをやっているというところです。

NSMの位置づけとは何かと言うと、KPIとKGIの間にNSMを置くということです。結局はカスタマーのエンゲージメントが上がっていくと売上が上がりますよね。NSMを持ち上げるためにKPIを再設計するという形です。

それでは、NSMをどう設計していくのかについてお話します。Amplitudeもどうやったらうまく設計できるのかを試行錯誤してきまして、そこで編み出した方法をご案内します。

まず、NSMを構成する3要素を以下の通り整理します。皆さんが担当されているプロダクトで、企業としてどんなプロダクト・サービスを提供したいのか。サービスを提供するにあたって、どんな体験を持つとユーザーに「このサービスはいいな」と思ってもらえるのか。それが売上につながるわけですが。

実は、当社も社内でNSMを運用しています。我々はプロダクトアナリティクスを提供しており、ユーザーがプロダクトを解析してその課題を追跡する度にクエリが回るため、当初はWQU(Weekly Quely User)をNSMとして設定していましたが、2~3年前にこれではプロダクトの満足度が評価できていないということでNSMを変えています。クエリだとごく一部の人たちしか使わないにも関わらず、企業皆で使ってくれていると思ってしまうんですね。

そこで、WQUではなくWLU(Weekly Learning User)に変えました。「1週間に2人以上の人たちが見つけた示唆を共有する」ことを評価軸にしたんです。Amplitudeをきっちり使っていただくと評価している人達はちゃんと自分達で課題を見つけ、それに対する示唆出しをやって、それを社内の人達に組織横断で共有する。これが良いプロダクトライフサイクルになるので、それをつくろうという形で我々はWLUを設定しています。

これを設定すると、次は自分のプロダクトを分類します。NSMを支えるKPIを設定するにあたって、何を因数分解しなくてはいけないかを考えた時に、あまりにもKPIをいっぱい考えすぎるので絞らないといけない。その時に、以下の3つにプロダクトを分けています。

自分のサービス・プロダクトがどの分野に入るのか、お考えいただければと思います。我々は40,000サービスに提供していますが、NSMの設定時にこの3つにほぼ当てはまります。

ここで初めて先ほどの3つの軸(ユーザー軸、企業軸、売上)の重なったところと、滞在時間やトランザクション、Productivityのタスク数を頭に入れてNSMを仮決めします。

例えば滞在時間で言うと、Netflixの例のようにコンテンツの再生数を入れるといった軸になります。

仮決めをした後は、最後のステップとしてNSMを支えるKPIを考えます。KPIは広がり、深さ、頻度、効率の4軸で求めます。ビジネスを拡げていく際には「課金ユーザーを増やす」「課金単価を増やす」「課金回数を増やす」という売上を伸ばす3大要素があります。

ただ、最近は色々なサービスがありますので、面倒くさいUXだと人が離れていってしまうということで、効率という点が4番目の要素です。

この軸で、課金ユーザー数を増やすためにはどうすれば良いのか?課金の深さ、課金の頻度をどうやって増やせば良いのか?その観点でKPIを設定していき、NSMを支える形で設計することをお勧めしています。

Spotifyの例で考えてみると、音楽ストリーミングサービスなのでAttentionの種別です。KGIは「プレミアム会員による月額サブスクリプション収益の増加」、NSMは「月間コンテンツの再生時間」、広がり・深さ・頻度・効率は「プレミアムプログラムのトライアル数が増える」「ユーザー数を増やす」「コンテンツの共有数を増やす」。

KPIが設定されると、KPIを伸ばす施策も決まります。このようにNSMを決め、KPIを設定し、毎日定点指標を持って評価する形で運用します。それに伴い、時にはUXも変えていくのがNSMです。

NSMを採用していただくと色々な効果が出てきており、主に以下の3点が挙げられます。

・サービス成長のための本質的なKPIの設定が可能になる

・追うべき指標が明確になり、チームに一体感が生まれる

・無意味な開発・分析に割いていた工数の削減になる

NSMのご説明は以上となります。

及川

ありがとうございます。Spotifyの例で設定されたKPIについて、「プレミアムユーザー転換率/週」は事業側の視点であり、「検索ヒット数」の視点はユーザー側の視点かと。ここは混在しても構わないのか、どちらかで統一した方が良いのでしょうか?

米田

効率を上げるための先行指標がデータから導かれるならその指標を入れるのがベストですが、データドリブンでない場合には時には事業寄りで入れるのもありかと思います。

「Pairs」におけるKPI設計について

金田

PairsのKPIにおける失敗例を具体的にお話していきます。これをクリアできていれば結構大丈夫かなというのもあり、あえて失敗というテーマでお話をさせていただきます。

1点目に関しては、先ほど米田さんからもNSMは売上の先行指標で設計すべきというお話があったかと思います。Pairsも過去に売上など財務的な指標で設定してしまうことがよくありました。

重要なのは、売上は結局アウトカムであり、何かを行った結果によって得られる数値なので、見ておくべきではあるけれどコントロールできないということです。「私達のサービス・事業は何を対価にして売上をもらっているんですか?」という質問にしっかり答えることが大事かと思います。

Pairsの場合、対価をいただけるのは「異性の方を紹介する」「マッチングする」「メッセージの交換」「デート」「ご成婚」のいずれなのかを自問しながら、どこに一番お客様にとって売上をいただけるバリューがあるんだろうと考えて、じゃあこうしようとチームで決めていくのが私なりのNSMの決め方と解釈しています。

特に売上や財務的な指標を設定してしまいがちな時に、色々な人を巻き込んで「私達は何を対価に売上をいただいているのか?」という質問を組織にしていくことが重要です。

2点目と3点目のお話は、KPIの設定よりもKPI設定後のエグゼキューションで失敗することの方が多いと感じています。皆さんからも冒頭のアンケートでKPI設定後の運用に困っているという回答の方が多かったと思います。これは私自身との経験ともすごく一致するところで、皆すごい成果を出したい人達だからこそハマる罠だと思っています。

2点目について、例えばマッチング数を掲げた時に、サービスが大きくなればなるほど小さな改善提案では動きにくくなる。その時に人間は成果を出したいので、自分が動かせそうな小さな数字に分解して、その数字を動かしてグロースハックしてしまう傾向が強くなると思います。

これはPdMに任命された時に誰しもが気をつけないといけないところですが、目先の数字を改善して私の成果ですと見せたくなる欲求が出る、あるいはチームメンバーがそういう罠にハマる。結果的にインパクトが出ないKPIばかり改善して喜んでしまいがちですが、本来インパクトを与えるべきところや売上がなかなか動かせずにサービスが停滞してしまう。

これをどう回避していたかというと2つあって、1つはKPIをかなり絞り、期初に会社として追いかける大きなKPIを決めてそれ以外はKPIと呼ばないことをマネジメントレイヤーが徹底し続けました。

もう1つは1on1で個々のPdMと対話を続けたことで、小さな数字の改善ではなく、本当にお客さんにインパクトのあることをやり続けようと伝えることがすごく大事だなと感じています。

3点目については、今開発に関わる人たちが70~80人くらいいて、1チームでのプロダクト開発ではなく、複数のチームに分かれてプロダクト開発を進めています。

これはサービスが成長するとどのプロダクトチームや組織でも起こり得ることですが、組織が分かれた時にそれぞれにKPIが設定されて部分最適になってしまうという罠に陥ります。

これは2点目のトラップが起こるメカニズムと似ていて、自分のチームの成果を出すために小さいKPIや部分最適なKPIを設定してそこを上げにいって喜んだり、これが私の成果ですと言いたくなったりする。

こういった問題を回避するためにも、KPIを統一し、組織内で対話を促進させることをマネージャーとしては心掛けています。各チーム内だけで話すのではなく、お互いにやっていることをミーティングでシェアしたり、どういう成果に向き合うかを常にお互いのチームがズレないように会話を促したりすることを意識しています。

米田さんのお話でも色々なNSMのTipsが紹介されていましたが、僕はこれを読んだ時に「Pairsってどうなるんだろう?」と考えました。PairsではKPIを絞って設定している状態なのでNSMの本格運用はしていないのですが、「Transaction型なのか、Attention型なのか、Productivity型なのか?」どれも当てはまるのではと思いました。

その時の事業環境や競合の動向によって捉え方も変わりますし、ずっと同じ型ということも無いと思うので、常に自分のプロダクトはどういう型なのかを問い続けることが重要と理解しています。

今日はエクササイズ的に問いを投げかけますが、例えばTransaction型という見方をすると、異性の方にいいね!をしてマッチングする部分ではそうかもしれない。好みの異性を探して回遊することがPairsにとって重要という考え方も当然あります。マッチングできた時に、相手とデートに行くまでにいくつか踏まないといけないステップを管理したりちゃんとこなせるようにしたりする側面もありますが、お客さんに提供している価値を考えた時にどういうNSMなのか?は考えるべきポイントかと思います。

以上で私のお話を終わります。

及川

これは米田さんに問いを投げかけられた感じですけど、どう考えられますか?

米田

これは、実は社内でも結構議論しました。金田さんがおっしゃったように全部に当てはまると思いますが、議論を重ねた結果一旦落ち着いたのはProductivityでした。貴社の場合は違うかもしれませんが、Tinderの場合、結局ユーザーはデートに行きたい、実際に会って仲良くなりたいという希望があるので、そこがユーザーに対するエンゲージメントではないか?と。

ただ、Transactionで長く回遊して多くのいいね!をできるようにディスカバリーを強化した方がいいというのもあり、暇な時にどんな異性がいるのか見るのも楽しいというAttentionの部分もありましたが、結局はProductivityになりました。

金田

ありがとうございます。エンゲージメントという言葉が印象的でしたが、Tinderがお客さんに何を提供しているからこのサービスを使ってくれている意義があると一番感じてもらえる部分が「デートに行った」ということだから、という理解だったんですかね。

米田

はい、当時はそういったところを軸に置いていたようです。

及川

この議論はすごく本質的だなと思っていまして、KPI、特にNSMを考えることは「自分たちのプロダクトは一体何か」という軸をしっかり定めることだと思うんですね。よく誰をどんな状態にしたいかということに単純化してそのプロダクトの価値を語ることがありますが、その状態になったと何をもって計測するかということなので、やはり金田さんが言われていた「何を対価に」という話そのものかと思います。

マッチングも色々なサービスがあるので、どれが正解ということは無いのですが、それぞれの特徴がこのNSMの違いに出てくると思いました。私は使ったことが無いので間違っていたら教えていただきたいのですが(笑)、Tinderは確か既婚者でも使えると思います。そうなると出会いをできるだけ増やすことが一番の価値になりますし、Pairsは基本的に婚活のアプリなので、単にデートだけではなく本来何を求めるのかがそのままNSMに表れてくるのかなと。

NSMはこの3つの型のどれかに絶対当てはまると考えるべきなんでしょうか?

米田

NSMの設計をする上で、どれか型に入れておかないと発散しすぎてなかなか収束しないなと。これは色々な企業の中でも、営業やマーケターなど色々な人たちの意見をいただきながら、うちのサービスはどこが軸なのかを色んな目線でヒアリングしないといけないので、どこかの型にあてはめないと延々とNSMが決まらない。

我々のお勧めとしては、とにかく3つのどれかにあてはめましょうというのが最初のドアを開けるところになります。

及川

わかりました。金田さん、この後どれかの型にあてはめられそうですか?

金田

あてはめられる自信は無いですが…(笑)。2つキーポイントがあるかなと。1つ目は、僕が自分達のプロダクトは何なのかというスタンスを決める上で重要視しているのはマーケット環境など外部環境で、そこってすごく変わるなと思っていて。

例えば、今Pairsはマッチングした後の価値を大事に置いていますが、もしマーケット環境がガラッと変わって、僕らが2番目とか3番目のプレーヤーで同じポジショニングで上位2社が他にいる状況であれば、違う戦い方をしないと市場で生き残っていけない。そうすると、Attention型に切り替えていく発想で変わってもいいという考え方ができると理解しています。

2つ目は、3つ全部を総掛けすればいいという話もありますが、経験上90人のリソースを30・30・30で振り分けると改善がすごく小さくなり、どこかに全部投入した方が大きいインパクトが出せるという肌感があるので、1000人まで増えたらまたどうなるか分からないですが、100人くらいまでのプロダクトチームであれば、3つの型のどれかに今期もしくは来期以降もベットするという意思決定がすごく大事かと思いました。

パネルディスカッション

及川

参加者の皆さんからの質問に答えていきます。

「プロダクトのステージの違いによって、指標は変えるべきでしょうか?」。

今の金田さんのお話とも通じるものがあるし、先ほど米田さんからもAmplitudeも途中でNSMを変えた話があった一方で、NSMは北極星だとすると変わらないものという考え方もあり、どこまで変えていいのか?変える時にはどういう理由で変えればいいのか、変えてはいけないのはどういう時なのでしょうか?

米田

なるべく変えない方がいいという社内議論がありました。ただ、どうしても変えなくてはいけない時には変えるべきということです。

当社でクエリからラーンに変える時も本当にいいの?という議論がありました。ビッグデータ解析をオートメーションで行うツールを自社で提供しているので、WQUをビッグデータとして導き出したら先行指標として出てこなかった(笑)。ユーザーがどんな先行指標をベースにリテンションが伸びていくのか求められますので、そこから明確にしていくアジャストをかける使い方をしています。

及川

今まで北極星のすぐ近くにあったけど、そっちじゃなくてこっちだというのを見つけた、みたいなことですかね。Pairsは結構長く色々な試行錯誤があったかと思いますが、どんな時に変えてどんな時に変えてはいけないのかという点では経験上いかがですか?

金田

結構変えてきていますが、3ヶ月とか半年というタイムスパンで切っていたかなと。一旦このKPIでやってみて、あまり数字が動かなかったとか、本体にインパクトが出ないとかであれば変えるということをやっていて。あまり綺麗に回した記憶が無いですね(笑)。

Pairsってお客さんから見た時にどういう価値が受けているのか?という根幹の部分はずっとブラさずやってきて、そこに僕らが適切な価値を提供できているかという議論は死ぬほど行われている中で、何度も何度も色んなものを新たに試してきたという気がします。

及川

今のお話を聞いていると、指標を一旦仮であてて仮説検証することでこの指標を追っていって良いかを計測していく仕組みや文化があったので、そこを変えても大丈夫ということがあったのかなと。

これは私が個人的に聞きたいのですが、本来プロダクト価値を高めるために考えた指標で収益を上げるためにはビジネスモデルを変えなくてはいけないケースも出てくるのではないかと。指標を考える時にそこまでやることはありますか?それとも、それはKPIとかNSMの範疇を越えて経営判断になるような話ですかね?

金田

経営判断かなと思います。会社のフェーズにもよりますが、プロダクト以外の資金調達などにも影響が出てくるので、稼ぎ方を変えるときは結構慎重になるかと。Paisの場合は、欧米ではサブスク型のオンラインデーティングサービスは立ち上がってきており、ビジネスモデルとして優秀なことは分かっていて、あとは日本で適用できるかどうかでした。それで言うと、今までビジネスモデルを変えたことは無かったですね。

米田

基本的にKPIやNSMが変わることは無いと思いますが、どこにフォーカスを置くのかは変わると思います。例えば新聞のサブスクやブルーエプロン、Uber Eatsのようなサービスでは、どこから課金するのかというペイウォールが大きなポイントとなります。

サブスクでは1ヶ月無料で使っていただき、翌月から課金というケースがありますが、はたして1ヶ月がベストなのか。もしくは機能制限をして、ある機能以上から課金するのか。それによって収益が大きく変わることを実は今までにかなり見てきています。

そこで我々は課金ユーザーのコホートをつくり、そのユーザーは何が決め手となって課金を始めたのか?というデジタルな足跡が分かるので、そこの相関関係を求めて、ここをペイウォールの境目にしようという形で運用を行っています。KPIとビジネスモデルは変わらないのですが、それを上げるためにどこをペイウォールの境目にするかを変えることはよくあると思います。

及川

ユーザーに対するプロダクト価値を上げても収益に結びつかない例を間近に見たこともあり、この質問をさせていただきました。

気づくともうあと10分しか無いので(笑)、手短に皆さんからの質問に回答します。

「B2B2CなSaaSモデルの場合、NSMを一意に決めるのがとても難しいと思うのですが、考え方のコツや事例などありますでしょうか?」

米田

めちゃくちゃ難しい質問です(笑)。これはB2BとB2CでそれぞれNSMが分かれるのではないかと思います。B2B2Cではなく別の話になりますが、YouTubeにはコンテンツを消費する人とつくる人がいて、その人たちはそれぞれNSMが違うと思うんですね。そういったところで、B2BとB2Cで分けてNSMを設計するという手法になるかと思います。

及川

なるほど。あえて突っ込ませてもらうと、需給のマッチングという点ではAirbnbも同じだと思いますが、一意のNSMがあるので本当はYouTubeみたいなモデルでも1つのNSMが良いのかなと思うのですが。NSMは2つあっても構わないんですか?

米田

非常にレアなケースではあり得ますが、1つにできるならその方が望ましいですね。

及川

多くの場合B2BかB2Cに簡略化できるので、NSMも1つでシンプルに考えた方がいいのかなと思いました。「NSMが適さないプロダクトで何か考えられるものはありますか?」これは、プロダクトのKPI/NSMをつくれ!の一言でいいのかなと思いますが。

米田

そうだと思います!(笑)

及川

ありがとうございます。次の質問はすごく重要ですね。

「営業チームはKGI/KPIのほうが好きです。NSMなどのプロダクト指標がしっくりきません。営業チームの理解を得る方法はありますか?」

これは大きく頷いていらっしゃる金田さんにお聞きしたいです(笑)。

金田

基本的に営業やマーケティングチームは売上が好きですし、そういう人達がいるからこそ良い議論ができ、ユーザー体験もビジネスも成長する側面は結構あると思うんですね。なので、質問者の方の状況にもよりますが、適切な議論ができる形が一番望ましいのかなと。

プロダクトとしてのNSMはこうです、なぜなら僕らのチームはお客さんに喜ばれるユーザー体験をつくっているからという軸で話をする。営業チームは、しっかりそれをお客さんに届けて価値を感じてもらって、困ったことがあればそれを聞き取る役割の人達なので、お互いが違うことをやっているけど最終的には1つの部隊でビジネスもプロダクト体験も伸ばしているわけだから頑張ろうよ、という方向に僕なら持っていく気がします。

米田

当社の場合、一応NSMは営業でもマーケティングでも理解していますが、じゃあマーケティングは実際何をKPIとして見ているかといったら、MQLしか見ていなくて、営業は売上のためにフォーキャストとパイプラインしか見てない状態だと思います(笑)。

及川

なるほど、これはもう仕方ないということですかね。恐らく営業のトップはプロダクト指標に対する理解があるので、そこでグリップをきかせているのが最低限重要ではと推測しました。

では続きまして、これも良い質問ですね。

「NSM、理論としては素晴らしいですが実際現場で運用できるんでしょうか?Amazon、NETFLIXの例がありましたが、あくまでも外部からの推測なのでどこまで実際運用されているかが分からない。現場での運用可能性についてお伺いしたいです」。

確かに先ほどのSpotifyの例も推測だったかと思いますが、一方でAmplitudeを運用されている企業も多くいらっしゃるのかなと。

米田

こういう質問をいただいて本当にありがとうございます。営業としては、ぜひデモをご覧になってください(笑)。コード分析ができるようになっていて、例えば1週間にどのぐらい何を見たのか等、NSM設定後の運用状況を追える設計ができる状態になっています。

及川

わかりました、OKです。

「OKRにおける個人目標数字と、プロダクトのNSMやKPIは連携していますか?」これはちょっと質問を変えて、OKRとNSM・KPIの運用はどう使い分けるべきか、もしくは片方だけで良いならそう思われる理由を教えてください。

金田

まず現状で言いますと、KPIとしてOKRで言うキーリザルトに近いものを設定しています。それに対して、特にプロダクトチームにはできる限り定量化して個人の目標をつくってくださいとお願いしています。それが各マネージャーのところに集まり、最終的には経営陣に集約される流れになっています。プロセス的にはOKRに近い実態です。

元々OKRは私が入った時に導入していましたが、担当者に熱意があるのかということと、経営陣も含めて説得して会社全体にそれを落とし込めるのかが一番大きい気がしていて。当時のエウレカはそこが信じきれずOKRをやめたというのが一番大きな理由だったと思います。

及川

確かに自分達が理解しきれず熱意が持てないものを、形骸化したまま運用するのは良くないですからね。非常によくわかりました。米田さん、いかがでしょうか?

米田

我々社内の話として申し上げますと、一応両方やっていますが、NSMやKPIはプロダクト中心で設定しており、OKRは人事評価になっています。その人事評価とNSMはあまりリンクしていない状態が多いんじゃないかなという気がしています。

及川

わかりました。まだまだ質問は頂いていますが、残念ながらお時間ですので以上とさせていただきます。ちょうど議論も熱くなってきたところでもったいないですが(笑)、またこの3人でお話できればと思います。本日はどうもありがとうございました。

構成:神田 昭子

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