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2021 Jul 08

デジタル・ITに関わる方が知っておくべきCDOの仕事と役割
~CDOの仕事の分解とキャリア事例~

登壇者

クライス&カンパニー 顧問 及川 卓也

中外製薬株式会社 執行役員デジタル・IT統轄部門長 志済 聡子氏

PENCIL&PAPER.COM株式会社/ Visionary Solutions株式会社 CEO 長瀬 次英氏

パネルディスカッション

及川

CDOの役割について、視聴者の方から2つ質問が寄せられています。まず一つ目は、「DXをビジネス変革ではなく業務効率化のツールとして捉えられることが多い。その誤解をどう解消すればいいか」という質問です。この点に関してご意見をいただけますか。

志済

DXには業務効率化の面もあると思います。当社においても、バリューチェーンを効率化することでコストを削減し、そのぶん投資を新薬の研究開発に回すこともDXだと捉えています。ただ、「企業としてどうありたいか」というビジョンを社長が描けていないと、身のまわりの課題を解決していく方向ばかりに進み、本当にインパクトのあるDXは実現できない。DXの推進役を担っている方のなかには、トップから「DXをやれ」と託されたものの、具体的に何をやりたいのか判然とせず、そこに悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。

ですからCDOの役割としては、社長に「最もやりたいことは何ですか?」と質して明確にし、コミットをもらうことが重要。社長が腹落ちしてくれれば、DXに対する投資も引き出せる。優秀な人材も充ててくれる。CDOにとっては社長が最大のスポンサーであり、お金があれば部門も動いてくれますし、また優秀な人材がDXに関わっていくと、社内にその重要性を訴えることができる。そうしてトップからDX推進のための意思決定を引き出すことを、私はひたすらやっている感じですね。

長瀬

DXを単なる業務効率化のツールにしないためには、ビジネスにおいて何がいちばん重要なのか、そこを起点にして考えることが大切です。ビジネスに求められるのはやはり収益であり、その収益をもたらしてくれるのはお客様。ですから、業務効率化のためのDXであっても、自分の仕事の先にいるお客様にどんなメリット提供できるのかを考えて導入を図れば、本来の目的を果たせると思います。

たとえば、お客様から寄せられた声をAIで分析して自動でレポートされるツールを導入するとして、それは業務の効率化につながることはもちろん、そのデータをもとに商品の改善につなげていくことで、お客様の満足度も上がっていく。こうしてお客様を巻き込んだ形でDXを進めていけば、ビジネス変革と業務効率化がリンクしていくと思いますね。

及川

続いて二つ目の質問です。これもよく聞かれると思いますが「DXにおけるAIの役割はどのように考えているか」ということです。長瀬さんからお願いできますか。

長瀬

実は私はあまりAIが好きではないんですね(笑)。過去にもほとんど活用したことがないのですが、少ない経験値の中からお話しすると、AIは業務効率化には有効だと思います。

たとえば、工場の生産現場での人員配置において、従業員が過去に犯したミスのデータや、あるいは従業員ひとりひとりのバイオリズムなどをAIに学習させ、パフォーマンスが最大化するシフトを組むために活用したことあります。が、こうした業務改革以外では、ほとんどAIを使っていないのが実情。

私がAIをあまり好んでいないのは、学習させなければいけないから。教える内容は人間の過去の経験に基づくものであり、変動要素が多すぎて、AIにきちんと学習させる自信がないんですね。研究開発など明確なロジックで成り立っている領域ならAIは実力を発揮すると思いますし、私自身、もっとAIを学んでいかなければと思っています。

志済

いまは何でもAIを活用しようという風潮ですが、AIにも得意不得意があり、いま長瀬さんがおっしゃったような分野に活用すると、劇的に効率が上がるんですね。

たとえば、当社では創薬研究にAIを活用しているのですが、薬の基というのはアミノ酸の配列であり、過去、多くの研究者が最適な配列を何千パターンと検証してきたんですね。その経験値をもとに機械学習によってパターンを探索させると、瞬く間に有望な配列をスクリーニングして候補を選び出してくれる。

こうしたパターン検索にAIは非常に効果を発揮します。また、判りにくい画像をパターン認識して解析することや、膨大な論文や記事を読み込んで整合性を見つけ出すコグニティブ・サーチも得意であり、この3つのアプローチによるAIを駆使してR&Dで展開しています。

及川

ありがとうございます。あと、面白い質問が視聴者の方から寄せられていまして、「デジタルが当たり前の時代になったら、CDOやデジタル責任者の役割はなくなってしまうのか」と。この指摘について、お二人はどうお考えですか。

長瀬

まさにその通りだと思いますね。以前、CDO of The Yearを受賞した時のスピーチで、「こんなポジションは早くなくなったほうがいい」と言ったこともあります(笑)。

CDOがいるということは、デジタル改革ができていないということを世間に晒しているようなもの。本来あるべき姿は、経営トップであるCEOが自らコードを書くことができ、どの部署にどのようなデジタル施策が必要で、どのぐらいの費用がかかり、ビジネスのエコシステムの中でどう回収するかをきちんとイメージできること。

そうした能力や経験を持つ、デジタルに長けたCEOがもっと増えていくべきだと思います。

及川

CDOはいずれなくなるポジションだとのお話ですが、現状ではCDOに魅力を感じ、このポジションを志向している方もたくさんいらっしゃいます。将来、デジタルが当たり前になる時代が訪れた時、CDO経験者はその次にどんなキャリアを目指していくべきだとお考えですか。

長瀬

“チーフ・コンシューマー・オフィサー”とか“チーフ・カスタマー・オフィサー”とか、そうしたポジションで力を発揮できると思いますね。私が在籍していたロレアルでは、すでにCDOがいなくなり、新たにチーフ・カスタマー・オフィサーが登場しています。

どんなビジネスにおいても、事業を成功させるためにはお客様と密に繋がる必要があり、お客様との関係値を高めていくプロが求められます。CDOを経験すると、個人のデータをどのように扱い、守り、活用していくかという知見が蓄えられるので、まさにそうしたプロになれる。

それはいわばマーケティングそのものであり、マーケティングはいつの時代も必要とされるものなので、CDOで培った強みは経営に直結すると思いますね。

志済

最近では“チーフ・イノベーション・オフィサー”のように、デジタルだけではなくイノベーションをリードする立場で力を振るうエグゼクティブも現れています。CxOの定義はいろいろありますので、会社が目指す方向に沿って多様なエグゼクティブのキャリアが得られるのではないでしょうか。

及川

続いては、CDOとして企業の文化を変革していくことへの質問です。「真にDXを推進していくためには、会社の風土や社員の意識を変えていくことが重要だと切に感じている。どのように実行していけばいいのか」ということですが、お二人のご意見をお聞かせください。

志済

座学での研修では、社員の意識はまず変わりません。我々がファシリテーションして、社員にチャレンジを体験してもらうことが大切だと思っています。お仕着せではなく、社員が自発的に参加できるプログラムをいろいろと用意したり、あるいは社内でデジタルサミットを開催し、自分たちの研究を部門横断的に発表できるような、そうした場をたくさん創ることを重視しています。

私自身がデジタルの施策をあれこれ指示するようなことはありません。部門の中堅や若手からアイデアを募集し、それを部門長にプレゼンさせるようなイベントを通じて、デジタル文脈を社内に浸透させていく。あくまでも主役は社員であり、彼らが気持ちよく踊れる環境を創ることが大切だと思っています。

長瀬

私もそう思います。ロレアルに在籍していた時、私が最も工数をかけたのは社員教育でした。社内にアカデミーを設け、従業員全員を対象にオンラインでトレーニングを実施したり、あとは毎週、どの部署の誰でも参加できるオープンなセミナーを自ら主催し、デジタルへの意識づけを地道に行っていました。

一方、各部署が手がけるデジタル施策を公開したり、R&D部門のデジタル技術の研究事例を披露するイベントなども社内で頻繁に企画開催。こうして現場で泥臭いアクションを重ねながら、社員全員が自分ゴト化するカルチャーの醸成に努めましたね。

及川

それではお二人に、CDOを目指す方々へキャリアに関するアドバイスをいただきたいと思います。長瀬さんには、これまでさまざまな企業で経験を積まれた中で、共通で発揮できたスキルやマインドは何かを教えてください。また志済さんには、IBMで得たキャリアで、いま中外製薬のデジタル責任者として生かせているものは何かをおうかがいできればと思います。

長瀬

共通して発揮できるマインドとしては、ビジネスの先にいるお客様のことを考えるということでしょうか。私はどの企業でも、どんなビジネスに関わっている時でも、自分が取り組んでいることとお客様がどう繋がっているかを強く意識してきました。そうした姿勢をとることで、常に正しい答えに辿り着けたように思います。

スキルの面では、言語で関係を築く能力でしょうか。ビジネスを回していくために大切なのは、やはり人間関係なんですね。きちんと言語でコミュニケーションをとって、相手から好かれることが重要。好かれていれば進んで力も貸してくれますし、こちらの都合も受け入れてくれて、仕事のスピードやクオリティが大きく変わる。

私はパラレルワーキングで同時にいくつものプロジェクトを回していますが、関係する方々から好かれていれば、万が一、ダブルブッキングでドタキャンするような事態になっても、問題なく許してもらえる(笑)。そうしたキャラを確立するのも大事だと思いますね。

及川

いま長瀬さんがおっしゃった、関係を築く言語能力や人から好かれる能力というのは、どのように高めてこられたのでしょうか。

長瀬

言語能力は、やはり経験値で養われるものだと思いますね。たとえばエンジニアと良好な関係を築こうとすれば、彼らと長い時間一緒に過ごし、自分でコードも書いてみて彼らの価値観を理解しようとする姿勢が必要。工場の現場の方々と関係を築く時も同じ。そうした経験を重ねていくことで言語能力は高まっていきます。

また、人から好かれることに関しては、素直であることが大切ですね。仲間が増えれば、仕事はとても進めやすくなる。互いに嫌いあう人と付き合うのは工数がかかるんです。コミュニケーションにもストレスがかかりますし、そのぶんのパワーを人から好かれることに費やせば、5人ぐらい仲間を増やせますから。

及川

志済さんはいかがですか。

志済

IBMでのキャリアはとても有意義で、セールスを起点にいろんなオポチュニティが与えられ、新しいチャレンジを次々と重ねることができました。いま振り返って、いちばん生きていると思うのはセールスの経験でしょうか。中外製薬に転職し、ベンダーからユーザーの立場に変わったわけですが、以前、セールスとしてさまざまな企業のITの責任者の方々に提案する仕事を経験しました。

なかには、なかなか決断されない経営層の方もいらっしゃって、なぜこれだけ材料があるのに意思決定しないのか、疑問を感じることもたびたびあった。その時の経験から、いまはベンダーやコンサルに対して率直にコミュニケーションしていて、満足できない提案にははっきりとNOだと伝えています。それが結果的には互いにとって利益になる。

また、ベンダーやコンサルの内情を理解しているので、彼らの言いなりにならず、対等に渡り合ってWin-Winの関係を築けるのも前職での経験があるからこそ。あと、IBM時代に社外のたくさんの異業種の方々と交流する機会があり、そこで築いた人脈はこちらに移ってからも生きています。

及川

志済さんはIT企業から製薬企業へと、まったく違うドメインに転身されました。コミュニケーションに苦労されていることもあるかと思いますが、業務を進める上で必要な言語能力をどのように身につけられたのでしょうか。また、志済さんが人脈を広げる際に意識されていたことは何ですか。

志済

言語能力に関しては、わからないことはわからないとはっきり言っています。創薬などはまったくの門外漢なので、研究者と対等にはとても話せない。しかし、デジタルのことは理解しているので、そこに私の価値がある。

自分が何のために中外製薬に存在しているのかを明確にして、周囲とコミュニケーションを取るように努めています。人脈を広げることについては、私はもともとフランクな性格で、あまりプライドが高くないんです。自分は何様でもないと思っていて、オープンマインドで人と接していくので相手も心理的なバリアを作らず、私を受け入れてくれるのだと思いますね。

構成:山下 和彦

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