IT・オペレーティングモデル・カルチャーを変える。
パナソニックグループCIOに聞く、キャリアの原点と「PX」推進

パナソニックホールディングス株式会社 執行役員 グループCIO
パナソニックインフォメーションシステムズ株式会社 代表取締役社長
玉置肇 氏

CIOインタビュー

2023 Mar 27

IT・オペレーティングモデル・カルチャーを変える。パナソニックグループCIOに聞く、キャリアの原点と「PX」推進 メインビジュアル

「DXとは何か?」「デジタルプロフェッショナルのキャリア」について、クライス&カンパニーのデジプロチームが第一線で活躍されている方々にインタビュー。今回は、パナソニックのDXを推進されている玉置肇氏にお話を伺いました。

Profile

1993年、P&Gファー・イースト・インク(現P&Gジャパン合同会社)に入社後、20年以上システム畑を歩み、その間、日本、米国、シンガポールにおいて地域CIOやグローバル・ディレクターなどの要職を務め、会社のグローバル化を推進した。2014年、株式会社ファーストリテイリングに入社、グループCIOに就任。2017年、アクサ生命保険株式会社の執行役員インフォメーションテクノロジー本部長に就任。2021年5月、パナソニック株式会社執行役員グループCIOに就任。

Contents
CIOキャリアの礎となったのは、P&G時代にアメリカで味わった組織立て直しの経験だった。
一人ひとりの力は微力でも、昨日より今日が1ミリでも前進すれば、必ず岩は動く。
IT・デジタルが経営基盤そのものとなった今、求めたいのはテクノロジー+経営視点。
CIOキャリアの礎となったのは、P&G時代にアメリカで味わった組織立て直しの経験だった。 画像

CIOキャリアの礎となったのは、P&G時代にアメリカで味わった組織立て直しの経験だった。

―まず初めに、これまでのご経歴についてお聞かせください。

私は大阪大学大学院でニホンザルの研究を行っていたのですが、研究者の道を断念して就職することを選択し、新卒でP&Gに入社しました。当時私はサルの研究のために大型計算機センターでクラスター解析などをずっとやっていたので、システムの仕事なら良いかなというぐらいの軽い気持ちでしたが、いざ仕事を始めてみると一気にのめり込みまして。海外での経験や大規模なシステムの入替えなど面白い経験をさせていただき、15年で執行役員、ディレクターに昇進し、アジア中に数百名の部下もできました。

日本のP&Gを退職してアメリカに行き、シンガポールのP&Gに入り直した後は、世界中のインフラの責任者という非常に大きな仕事をしており、待遇も恵まれていましたが、生後間もないところからずっと海外で生活してきた子供を日本人として育てるには帰国しなければということで、P&Gを辞めることになりました。

その後、クライスの永田さんからご紹介いただいたご縁で、ファーストリテイリングに転職しました。ファーストリテイリングにはグローバル組織をゼロからつくりあげていく醍醐味があり、面白い経験を積むことができました。

次に入社したアクサ生命では、日本のために本気で変革しようとしているフランス人COOを私は日本人のIT本部長として支えようと、全力で取り組みました。最初は社員の人達から全然受け入れられず苦労しましたが、1年かけてオフィスや組織を変えていき、IT組織全体で400人程度、協力会社を合わせても1000人という規模感の中で、手触り感のある変革を経験できました。

パナソニックの専務だった樋口とは彼がマイクロソフト社長の時からの知り合いだった縁もあり、以前から誘っていただいていました。その後、現社長の楠見からCIOを探していると樋口にオーダーがあったタイミングで、あらためて樋口から声がかかり2021年の年明け早々に楠見と会い、その後大阪本社で会長の津賀にも会いました。帰りの新幹線で考えを巡らせているうちに、最終的には「自分がやらなかったら誰がやるのか」という思いに至りまして、2021年5月にパナソニックへ入社しました。

入社前からパナソニックに関わる多くの人達と話をして課題感を探り、楠見とも対話を重ねて3月には3層の変革のフレームワークをつくり、4月にはそれをもとに100日間計画を作成するという「前始末」をしていたので、5月の入社直後に垂直立ち上げを実現できたと思います。現在は、グループCIOとしてPX(Panasonic Transformation)を仲間達と共に推進しています。

こうして自分のキャリアを振り返ると、会社は変わっているのですが、私の中では「就職」をしたので職種は変わっていないんですね。一貫してずっと、CIOの仕事を続けてきています。P&Gを退職して次に何をしようかと考えた時に、アメリカでCIOに近い仕事をしていて、シンガポールでは世界中のデリバリの変革を経験しており、アサインメントは転々としながらいずれもITの経営職を担ってきたことに気づいて、「このダイナミズムは物凄く面白い、だったらこれを職業にしよう」と思ったのです。

これは是非キャリアに想いを寄せる皆さんへお伝えしたいのですが、ある程度自分が何で生きていくのかというキャリアの軸が明確になったら、「就社」ではなくて「就職」をしたほうが良いと思います。私のオキュペーションは、CIOです。

―初めての転職でファーストリテイリングへ移られた際には、他にも複数の選択肢があったかと思いますが、決断に迷いは無かったのでしょうか?

非常に悩みましたが、最終的に柳井さんのところに行くと決めたのは、当時ファーストリテイリングにはITの組織基盤が無く、これからグローバルで一からつくりあげていける醍醐味があると感じたためです。また、堂前さん(現・良品計画の社長)や横濱さん(現・良品計画の上席執行役員)と根を詰めてお話した中で、この人達と仕事ができるなら良いなと思ったということと、日本のために仕事をするということに高揚した気持ちを今でも鮮明に覚えています。私は、ファーストリテイリングでの3年間の経験があったからこそ今の自分があると思っています。

――過去のご経験の中で、CIOのお仕事に活きたと感じられていることはありますか?

私はP&Gでグローバルのディレクターとして様々な国の立て直しを何度も経験してきましたが、中でも2010年にアメリカのIT組織を立て直した経験は、その後に私がCIOとしての仕事をする上で貴重な体験となりました。

当時、ディレクターの男性がトップで上意下達の文化であり、かつ高齢化していた150名くらいの組織でした。業績が上がらず、メンバーの士気も上がらないので若い人が次々に辞めてしまう。そんな中で、プラットフォームとプロセス、16万人以上の全従業員のプロファイルをすべて刷新して世界中の人事マネジメントの仕組みをデジタル化するという、100数十億円規模の投資となる一大プロジェクトをこのチームでやらないといけない。

お盆で家族一緒にアメリカに引っ越して、初日にアメリカ人が皆暗い顔をして講堂で新任のディレクターのスピーチを待っていた時の光景は今でも覚えています。何で自分のボスが更迭させられて、代わりにこんな日本人が来たんだと、皆怪訝そうに、「この人は何しに来たのか」という感じで私を見ていました。そこから3年間で変えていった経験が非常に大きかったですね。

ここで学んだことは、トップダウンではなく、自分自身が人として仲間として認めてもらえるようにまずは努力を重ねていき、そこから皆の持っている変革のマインドセットに火をつけて一緒に推進していくというプロセスの重要性です。先ほどお話したアクサ生命の変革においても、この時の経験が大いに活きたと思っています。

一人ひとりの力は微力でも、昨日より今日が1ミリでも前進すれば、必ず岩は動く。 画像

一人ひとりの力は微力でも、昨日より今日が1ミリでも前進すれば、必ず岩は動く。

―これまで貴社で推進されてきたDXの取組み内容について、お聞かせいただけますか?

パナソニックグループは、企業価値を上げていかなければなりません。現状、当社はなかなか企業成長を感じられないという課題があります。今年の売上高は8兆2000億円の見通しですが、営業利益で言えば40年前とあまり変化していない。8兆円規模の売上をこれだけの長い期間ずっと維持しているという捉え方もありますが、やはり企業としては成長できていないと言わざるを得ません。

これから企業成長を図るためには、事業・ポートフォリオ・価値創出の考え方を変える必要があるのですが、それがなぜできていないかというと、数多くの様々な事業の会社が集結しているのがパナソニックグループだからです。松下電器、松下電工、三洋電機、松下電子工業、、、挙げればキリが無いほど多数の会社が存在しています。そのため、事業構造が各社によってバラバラであり、データの連携もできていません。システムも繋がっていないため、同じお客様をグループ内で捕捉することも不可能な状況です。

最初に、事業構造を変える前に足元の基盤であるITを整理しようということで、PX1.0をやり切るということを推進しています。実はパナソニックグループのITは世界中で社員と協力会社を合わせて1万人ぐらいの人が関わっているエコシステムなので、仕事の仕方をもっと効率的にして、不可逆的な変化をIT組織に起こしていく必要があります。

ITを変えるだけではなくて、ITのデリバリの仕組みを変える。この2層をやらないといけないということで、現在取り組んでいるところです。3層目はカルチャー変革であり、マインドセットの変革を推し進めていくことを行っています。一番我々が実現したいポートフォリオ・事業戦略・収益モデルの変革をする前に、まずは経営基盤をしっかりと整える。「IT」「ITを支える組織のオペレーティング・モデル」「カルチャー」を変革するというのがPXです。

―貴社のような巨大企業の変革においては、経営のコミットが不可欠かと思われますが、その点においてはいかがでしょうか?

幸いなことに、私は今の社長の楠見に呼ばれて参画していますし、楠見もこのDXの成否が会社の浮沈を握っているということを理解しているので、私と強力にタッグを組んでフルコミットしていただいています。例えば、私の発信に同期を取って業務プロセスの変革をシステム開発の前に行うということを楠見が全世界に動画で発信する、毎月楠見と我々とで定期的にPXの進捗を議論する等です。これは大変ありがたく、幸せなことだと思います。

―それは素晴らしいですね。とは言え、やはり難しさもあるのではないでしょうか。

もちろんグローバルで24万人という規模感の企業であり、事業も多種多様で500数十社ある中で変革していくのはなかなか難しいものです。私がPXを共に推進してくれている仲間の人達によく話しているのは、「なかなか物事が動かず、皆さんも無力感を覚えることがあるかもしれないが、私達一人一人の力は小さいけれども決して無力ではない。微力です」と。「微力でも各自が力を合わせて推進し続けていれば、必ず物事は動きます。昨日より今日が1ミリでも動いたら、それでいい」と。とにかくそのことを信じて粘り強くやっていこう、そうすれば少しずつ巨大な岩が動いていくのだと、日々言い聞かせながらやっています。

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IT・デジタルが経営基盤そのものとなった今、求めたいのはテクノロジー+経営視点。 画像

IT・デジタルが経営基盤そのものとなった今、求めたいのはテクノロジー+経営視点。

―IT・デジタル領域の方がパナソニックグループでキャリアを積む魅力は何でしょうか?

パナソニックグループには多様な事業体がありますので、様々なことを経験できます。また、本当の意味でグローバルの会社ですので、パナソニックでグローバルのフィールドで様々な事業体を相手にしてIT・デジタルの仕事ができるという環境は、とても魅力的だと思います。更には、グローバルと言っても外資系企業ではなく日本の会社なので、日の丸を背負って様々な仕事を多様な国の人達と一緒に経験することができます。私はパナソニックの情報システムに関わっている人達に常々話していますが、「パナソニックでIT・デジタル領域のキャリアを積む」=「市場価値を高める」ことに繋がって欲しいと心から思っています。

―それは大変興味深いです。もう少し詳しくお聞かせいただけますか。

PXのIT組織を変えていくということも変革のテーマの1つであるため、IT領域の人材類型について真剣に一昨年から取り組んでいます。従来の「IT企画部 企画課 課長」といった役職では意味が無いということで、「ビジネスアーキテクト」「データエンジニア」「アプリケーションエンジニア」等、グローバルで通用する人材類型を整備した上で、それをグローバルのすべてのIT組織に所属する社員に適用しました。

例えば、アプリケーションエンジニアの人が次のキャリアパスを考えた時に、もし今の領域を極めたい場合はシニアアプリケーションエンジニアを目指すことができます。そのためにはどういう経験を積むと良いのか、必要とされるスキルは何なのか。あるいは、アプリケーションエンジニアからビジネスアーキテクトになりたいという志向であれば、そのためにはどうすれば良いのかというように、一人ひとりの志向に応じてスキルを磨き、経験を積んでいけるようなキャリアパスを整備しています。

私はこのことによって、パナソニックの情報システムの人達が市場価値を非常に高められると考えています。もちろん転職して欲しくはないものの、外部から「パナソニックのIT人材が欲しい」と言われるようになって欲しいと願っています。

―最後に、IT・デジタル領域でキャリアを積んでいきたい方へメッセージをお願いします。

私が若い頃はITやデジタルというのは経営の便利ツールに過ぎず、オプションでありコストだという考え方が主流でしたが、今は経営基盤そのものですよね。昔と今ではまったく考え方が異なるので、ぜひ皆さんには「経営者だったらどのように思うのだろう」というのを少しずつで良いので考えてみるトレーニングをしていただきたいです。

テクノロジーを極めたいという方は専門領域を突き詰めていくのも良いと思いますが、企業の中枢でテクノロジーやIT・デジタルを使って経営を支えていく仕事を目指すなら、経営の視点を持った方が良いと思います。テクノロジーはとても重要であり、常にキャッチアップしていく必要がありますが、同時に経営視点を持つことが真のデジタルテクノクラートになるための有効な手段だと思います。

構成:神田 昭子
撮影:波多野 匠

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

この記事を書いたのは・・・

ハイクラスの転職支援を行う人材紹介会社クライス&カンパニーのデジタルプロフェッショナル(通称:デジプロ)支援チームです。私たちは、デジタルテクノロジーの力でDXをリードする方々のネクストキャリアを本気でご支援しています。本サイトでは、DX領域の第一線で活躍する著名な方や各企業のCIO・CDOに直接お会いしてお話を伺い、自らコンテンツを編集して最先端の生の情報をお届けしています。ぜひご自身のキャリアを考える上で活用ください。直近のご転職に限らず、中長期でのキャリアのご相談もお待ちしています。 転職・キャリア相談はこちら

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