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IT産業は世界史に残る産業革命となるのか。
成田悠輔氏が語るDXの将来とこれからのキャリア戦略

半熟仮想株式会社代表 イェール大学助教授 成田悠輔 氏

インタビュー

2022 Aug 5

IT産業は世界史に残る産業革命となるのか。
成田悠輔氏が語るDXの将来とこれからのキャリア戦略 メインビジュアル

Profile

東京大学卒業後、マサチューセッツ工科大学(MIT)でPh.D.を取得。現在はアメリカでイェール大学の助教授、日本で半熟仮想株式会社代表。専門はデータ・アルゴリズム・数学・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、多くの企業や自治体と共同研究・事業を行う。混沌とした表現スタイルを求めて、報道・討論・バラエティ・お笑いなど様々なテレビ・YouTube番組の企画や出演にも関わる。内閣総理大臣賞・オープンイノベーション大賞・MITテクノロジーレビューInnovators under 35 Japan・KDDI Foundation Award貢献賞など受賞。

Contents
DXは、デジタル化への終わりなき旅。IT産業が第六次産業革命になり得る未来はあるか。
IT業界の人は、別のロールやスキルセットを持つことで唯一無二の存在になれる。
競争戦略や他人の評価を脱ぎ捨てて、自分の好奇心に従って「何者でもない」道を行く。
DXは、デジタル化への終わりなき旅。IT産業が第六次産業革命になり得る未来はあるか。 画像

DXは、デジタル化への終わりなき旅。IT産業が第六次産業革命になり得る未来はあるか。

―初めに、「DXとは何か」について成田さんのお考えをお聞かせいただけますか?

DXという言葉には明確な定義が存在しておらず、現状への懐疑と改革へのエネルギーを象徴する言葉ですよね。「これができたらDX達成でゴール」という明確なチェックシートがあるわけではないので、「DXとは、デジタル化への終わりなき旅であり、絶えざる運動である」と言えます。こういう理念を大昔の哲学者・カントは「統整的理念」と小難しく呼びました。DXは統整的理念といえそうです。

DXと言うと「本当に革新的なトランスフォーメーションと呼べるのか」が気になってしまいますが、多くの公的機関、自治体、レガシーな企業等においては、大掛かりなDXではなくシンプルに情報や手続きのデジタル化をするだけでインパクトが出る場合も多い。「20世紀版DX(過去に達成しておくべきだったDX)」「21世紀に今ここで取り組むべきDX」「長期的に22世紀を見据えたDX」という3つの軸で考えると、いま日本の組織で求められるDXの大半は20世紀版のDXではないかと思います。

―日本のDXという観点で、現状と将来の見通しについてお伺いしたいです。

DXが後退している印象を受けることもあります。たとえば私が仕事をしている日本の大手IT企業で印鑑を復活させる動きがあったりします。背景には、政府や自民党のIT企業に対する規制や締め付けが厳しくなっていることがあるのかもしれません。

一方で、良い動きもあります。デジタル庁やデジタル臨時行政調査会と呼ばれるデジタル化に向けた規制緩和のための会議、さらに岸田内閣が始めるデジタル田園都市構想は、かつてない規模のレガシーな規制の撤廃やデジタル化の運動となる可能性があると思います。身近で小さなところでも、コロナのワクチン接種証明アプリをデジタル庁が開発しましたが、民間企業の水準で見ても驚くほどレベルの高いUI/UX設計となっていて、とても利便性が高い。その他にも、こども家庭庁とデジタル庁が連携して、家庭に問題を抱えた子供に関するデータに関して部署を跨いで統合することで自治体の側から見守り支援を行う取り組みがあり、これは単なるデジタル化・効率化を超越した、データ活用的なDXを見据えた試みかと思います。そういうポジティブな兆しも様々なところで出てきていると感じます。

―AIやメタバース等の先端技術によって、今後社会はどう変化していくと思われますか?

メタバースもブロックチェーンもNFTもAIも、コンピューターとインターネット技術の自然な延長線上にありますよね。果たして、コンピューターとインターネットは本当に世界史に残る大きな産業革命を創り出せるのか。第一次・第二次産業革命の時に、技術革新の前後で経済的な生産性が誰の目にも明らかなほど伸びたことと比較すると、IT産業が生まれてからのこの数十年は産業革命と呼ぶには程遠いことが知られています。特に2000年台半ば以降は、数百年の近現代史上、最も経済的な生産性の伸びが鈍化した時代と言われており、インターネットの経済的価値はまだまったく花開いていないのが現状です。

ただ、今後の新しい技術の開発と浸透がその停滞状況を逆転できる可能性はあります。メタバースはデジタル空間に作られる新世界なので、いま私たちが生きる現実世界とは比較にならない質と量のデジタルデータが生成されるはずです。原理的には、無数の並行世界や並行地球のような新しい世界を無制限に複製・生成することが可能になります。デジタルデータのIDや所有権の確定にNFTやブロックチェーン技術が活用されて、あらゆるものが市場取引や経済契約の対象になっていく可能性が高いです。すべてがデジタルデータなので、未来に何か起こるかに紐づけた証券や保険をつくることも容易になるでしょうし、従来は株式会社でしかできなかった未来の価値の先取りを個人や小さいプロジェクト単位でできるようになるでしょう。最後にデータにAIや機械学習を噛ませることで、世界のデザインや様々なサービス・商品の改善や個別最適化がやりやすくなります。

これらの技術群が一気に組み合わさることで、デジタルで仮想的な無数の並行宇宙の上に、21世紀的なデジタル資本主義の究極形のような世界が生まれる可能性があります。今後数十年から21世紀全体にかけて、第六次産業革命の動きが本当に立ち上がるかもしれません。

―その未来をリードする存在はGAFAのようなIT企業なのでしょうか?

いや、次のメタバース時代においては、今のGAFAのようなプラットフォーマーの力は弱まると思います。今のプラットフォームで流通しているコンテンツは自然言語や画像、短時間の動画、ゲームなどに限られますが、今後私たちの生活そのものや体験、世界そのものなどがコンテンツになっていくと、単純化してプラットフォーム上で流通させることは難しくなります。プラットフォーマーは、App Storeのようなスタイルから、将来的にはディズニーランドのようなエンタメ空間に近づいていくと考えています。その場所と体験そのもののワクワクドキドキの強烈さが大事なディズニーランド的体験型・世界型プラットフォームと、今の無味乾燥なGAFA的プラットフォームとの間には、水と油ほどの強烈なカルチャーの違いがあると思います。

IT業界の人は、別のロールやスキルセットを持つことで唯一無二の存在になれる。 画像

IT業界の人は、別のロールやスキルセットを持つことで唯一無二の存在になれる。

―デジタルプロフェッショナル(デジタルテクノロジーの力で企業・ビジネスの変革や成長をリードし、社会を良くする人材)は、この変わりゆく時代にどう考え、行動していけば良いでしょうか?

今後世界がいつどうなっていくかは誰にも分からないので、変わり続ける時代の変化と戯れ続けていくしかないと思います。toCのデジタル産業は、2~3年も経つとまったく別世界になっています。どういうコンテンツフォーマットが一番多くの人に届くのかも分からないし、どういうプラットフォーマーやクリエイターが勝つのかも読めない。下剋上の戦国時代の超高速バージョンのようなものです(笑)。TikTokがここまで伸びるなど誰も想像できなかったし、思いもしない方向に今後も進化していくと思うので、数年後を予測したり準備したりしてもあまり意味がない。

そうなると二つの戦略しかないと思います。その都度トレンドやテクノロジーの変化を高速で追いかけつづける早い変化のスタイルを取るか、あるいは数十年のスパンで不変の大きなトレンドにじっくり賭け続けるスタイルを取るか。その二つです。その観点で言えば、変わらないものが何なのかを理解することも大事です。今のIT産業でそれを上手く実現できているのはAmazonだと思います。十年くらいのトレンドでは絶対に覆らないようなユーザー・クライアントの基本的欲求である、「品揃えを良くする」「早く確実に届ける」「安くする」「落ちない」ことに愚直に徹底的にフォーカスする戦略です。

IT業界の人達を見ていると、複数の業界にわたるスキルセットや2つ以上のロールを同時に持っている人が非常に少ない印象があります。例えば、「SE兼SNSインフルエンサー」「大規模ITプロジェクトのPM兼政府のIT政策に影響を与えるようなロビイスト」という人はほとんど見かけないですね。特定産業の中の特定ロールを究めている職人肌の人が非常に多いので、そこから少しでも逸脱して複数のロールを持つ人は唯一無二の価値を発揮しやすいと思います。

研究者の世界もIT業界と似たところがあり、外から見ると謎でしかないニッチ領域の中で専門性レベルを評価する仕組みが整っています。それには良い部分もありますが、裏を返せばニッチすぎるスキルをひたすら突き詰め続けるインセンティブが強すぎるという落とし穴もあるんですね。それに較べると、たとえば経営コンサルタントの人達が持っているスキルセットはもうちょっと曖昧でソフトスキルとも言えます。ソフトな業界とハードな業界のそれぞれの良さを組み合わせて活用できる人がもっと増えていくと良いと思います。

―企業で変革しようとしても、社内の抵抗勢力や自身の思い込みに縛られて動けない人も多いと思いますが、そういう人はどうすればアクションが起こせるのでしょうか。

抵抗勢力側の論理を理解することと、同時に理解しないことの両方が重要です。どんな変化を生み出す場合でも、古いやり方に固執する人達を私たちは得てして老害的な扱いにしがちです。ただ、彼らにとっての内的な論理や大事な価値観を肌感覚で理解しないかぎり、彼らを動かすことは難しい。そのために無駄に飲みに行ったりゴルフに行ったりするなど時間を一緒に過ごすことは、武器になることも多いですよね。ただ、単に彼らに共感するだけではその一員になってしまうので、彼らの論理を理解しつつも、その論理に強い必然性や根拠はないことを相対的に理解することが大事です。

相対化のために大事なのが、まったく別の業界のカルチャーや論理を体感することだと思います。たとえば僕も研究者の世界で誰も読まない論文を書いたかと思えばテレビのお笑い番組にも出演して、彼らの心の力学を理解しようとすると同時に、それを無意味だと相対化する、不要な論理はゴミ箱に捨てるという動きを繰り返すようなことをしています。最近は、副業や兼業などのトレンドが増えつつあるので、単に収入を増やすためだけではなく、複数の領域の世界観を自分の中に共存させるためにこういった働き方を活用できると良いと思います。

競争戦略や他人の評価を脱ぎ捨てて、自分の好奇心に従って「何者でもない」道を行く。 画像

競争戦略や他人の評価を脱ぎ捨てて、自分の好奇心に従って「何者でもない」道を行く。

―世の中に劇的な変化が起こり続け、企業の終身雇用も無くなっていく中で、私達は今後どのようにキャリアを創っていけば良いでしょうか?

今の30代や40代は地獄の世代ではないかと思います。上の世代のようにこのまま逃げ切ることもできないし、古い昭和な産業やメディアに中途半端に浸ってきているので、時間を無駄にしてきている。30代後半から40代の世代は、ちょうど親の介護や子供の教育、家族が大きなウェイトを占める時期でもあるので、仕事だけに100%全力投球することも難しく、保守的にならざるを得ない一方で、保守的になると古いシステムとともに海の藻屑になりかねず将来がマズいという、非常に危険な時期と言えます。思考停止や現実逃避したくなるプチ中年世代ですね。

―成田さんは、ご自身の今後のキャリアについてどのようなプランをお持ちですか?

私自身は何のプランも持っていません(笑)。できるだけ固定の職業や役割を持ちたくないので、価値や意味があるのか怪しいことを大量に色々とやっています。普通の人がやろうとせず、他人から理解されない活動の組み合わせをすることで、「あの人は何がやりたいんだろう」とか「何者なんだろう」と言われ続けることが重要なのかなと。自分が飽きっぽく好奇心が強いので、色々なことをやっているのが楽しいというのもありますが、人気が無くて人に理解されないような生き方は誰とも競争しなくて良いので、競争相手のいないカテゴリを創るのは意外と良いキャリア戦略かもしれないと後付けで気づいたんですね(笑)。
人の好き嫌いやプライドがあって「これはやりたくない」「誰それとは話したくない」と言っている人が多いですよね。ただ、私は意外と好き嫌いが無くて、NG的な人や事はなくて新しい人とは会ってみたいし、新しいことやよくわからない変なことであればやってみるかという感覚があります。このインタビューも正直ナゾだなと思いながら受けています(笑)

時間ややる気がある範囲でランダムに仕事を受けて、どれかが他人と共鳴するとたまたま社会的に価値を持ってしまうということですね。そう考えると、キャリアプランやプロフェッショナルとしての競争戦略を徹底的に考え「ない」という方法もありですね。業界からの評価などを脱ぎ捨てて、ひたすら自分の興味だけに従って動いてみると、少なくとも他の人とは違うことができると思います。ただし、その結果プロフェッショナルとしての評価は終わる可能性が高いので(笑)、初めから内輪の評価を気にしない心の強さは必要です。

―とは言え、成田さんの場合はイェール大学の助教授というメインジョブもありますよね。

他人がそういう規定をしているだけで、私自身は本業と副業を切り分ける意識も弱いですね。論文も自身の興味のままに書いていますが、研究がうまくいっているかというと停滞していますし、色々なことを同時に手掛けているために時間配分もバラバラになるので効率が悪く、あらゆる仕事が停滞しているといえば停滞してる。人からの連絡にも返信が追いつかなくて既読スルーばかりしてますし、自分がテレビやYouTubeにどう映ってるのかも分かりませんし、ひどいです。

でも、周囲から「そんなことしている場合じゃない」とか「本業はどうした」とか色々言われても気にしない心の強さが持てるのであれば、別のタイプの価値や評価が生まれる可能性もあると思います。評価や価値の源泉は実は様々なところに眠っていて、典型的なキャリアは王道の大きな池として存在する一方で、寄り道して裏道を散歩している間に、誰も知らない小さな井戸を偶然見つけるような生き方もあるのではと感じます。

―確かにそうですね。でも、こういうお話をすると周囲から「将来不安じゃないですか?」と聞かれたりしませんか?

結局、大きな池であれ小さな裏道の井戸であれ、どちらを選んでもリスクは大して変わらないと思います。そもそも、日本企業で20~30年後も本当に安泰と言える会社などあるでしょうか?日系最大手のメーカーや大手金融機関のここ数十年の没落を見ればわかるように、誰も数十年後のことなど分からない。自分もそうですが、誰でもいつ体や心を壊すかもしれないし、突然事故に遭う可能性もあると考えると、キャリアパスをガチガチに固めておくことで将来のリスクが大きく増減するということでもないので、その時々で変わりゆく世界に応じて自分がやれることを見つけていけば良いと思います。

構成:神田 昭子
撮影:櫻井 健司

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