Column

2021 Aug 6

DXの本質と、企業が推進する上での 障壁と勘所について

青山学院大学 教授

アバナード株式会社 デジタル最高顧問

松永 エリック・匡史 氏

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Profile

1967年東京生まれ。青山学院大学国際政治経済学研究科修士課程修了。幼少期を南米(ドミニカ共和国)で過ごす。バークリー音楽院にてJazzを学び、プロミュージシャンとして活動。大手メーカーのシステムエンジニア、米国大手通信会社AT&Tを経て、ビジネスコンサルタントとして、アクセンチュア、野村総合研究所、日本IBMを経て、デロイトトーマツ コンサルティング メディアセクターAPAC統括パートナー・執行役員、PwCコンサルティング デジタルサービス日本統括パートナーとして、デジタル事業の立ち上げ、エクスペリエンスセンターをコンセプトデザインからリード、初代エクスペリエンスセンター長。 2018年よりアバナード(株) デジタル最高顧問。2019年4月より青山学院大学 地球社会共生学部 教授。2021年より事業構想大学院大学 特任教授。

Contents
DX=イノベーション。テクノロジーありきではなく、5年後に実現したい未来を描けるか。
DXは自社内でもできる。必要なのは、フラットに話せる「共感力」と、試してみる勇気。
次世代を担う若手社員による部門横断の連携が鍵。DXは、企業が生まれ変わる絶好の機会。
DX=イノベーション。テクノロジーありきではなく、5年後に実現したい未来を描けるか。 画像

DX=イノベーション。テクノロジーありきではなく、5年後に実現したい未来を描けるか。

よく「DXとは何か」と聞かれますが、まず初めにお伝えしたいのは「DXは、ITやテクノロジーを直接意味するものではない」ということです。リアルな作業をITで置き換えていくデジタライゼーションは今に始まったことではありません。

ではここ数年でなぜDXが盛んに叫ばれているかというと、「既存業界の中、競合他社を排除することで生き残れた」時代は終わり、テスラやUber、Facebookのように業界の垣根を壊し、全く新しい発想で出てきたスタートアップ企業が急成長してきて脅威となるケースが増えてきたからです。過去の成功事例に頼ることに意味がなくなり、答えの無い中で自社の5年後・10年後をCEOが描けるかどうかが問われる時代になったのです。

つまり、DXは一言で言えばイノベーションであり、それを支え実現に向かうためのツールがテクノロジーであるということです。「この最新テクノロジーを活用して何が出来るか」ではなく、「あるべき未来のために何をすべきか」から発想して最後にテクノロジーというツールでその未来をどう実現するかを考える。この順番の違いは非常に重要です。最初にテクノロジーから考えると発想が狭くなってしまうので注意しなければなりません。

現在、各企業でデザイン思考が求められているのは、従来のロジカルシンキングや過去の成功事例をベースに、あるべき姿を導き出すような手法によるビジネスでは成り立たなくなっているからです。

例えば、銀行の人と話す時にATMありきで話をしても、そもそも5年後に我々は日常的に現金を手にするような生活をしているでしょうか?仮想通貨はどのように流通していくのでしょうか?5年後10年後から発想していくのがデザイン思考なのです。

デザイン思考は、イノベーションの1つのツールとしてDXと一体化したものと捉えられています。しかしDXがテクノロジーありきではないことを証明した事例があります。ユーザー目線からサービス提供の方法をゼロベースで考えたSansanです。テクノロジーに頼らず、スキャンした名刺データをAIと人力の組み合わせで読み取る形にしたからこそ、高い精度でのデータ化が実現されました。

どこまでデジタル化するかではなく、結果として大きな変化を得られることがまさにトランスフォーメーションなのです。しかし、その発想は多くの企業に欠けているように思います。

DXは自社内でもできる。必要なのは、フラットに話せる「共感力」と、試してみる勇気。 画像

DXは自社内でもできる。必要なのは、フラットに話せる「共感力」と、試してみる勇気。

DXにおいてはデザイン思考で言う「共感」が最も重要と考えています。トランスフォーメーションは、様々な世代の個と個が共感するコミュニティでオープンにアイデアを出し合うことが必要になります。若手社員が、役職の壁を感じずに目線を合わせて対等に管理職と話すことができないと、企業のトランスフォーメーションなんかできません。徐々にですが、そういったことから変えていこうという大企業が増えてきています。

私は大手コンピュータメーカーで銀行のホストコンピュータの開発からキャリアをスタートしていますが、振り返れば当時からデザイン思考でした。仕事の内容うんぬんよりも、その人がどういった発想するのかがポイントなのです。外部からデザイナーのような異質な人材を入れることだけがDXに必要なのではなく、実は自社の多様な人材でDXはできるというのが私の持論です。

それから、これはDXに限らずデジタルの時代全てにおいて言えることですが、大事なのはアクションを起こすことです。頭で考えて悩んでいるぐらいなら、まずはサービスをβ版でも出してみようと。日本企業では、石橋を叩いて渡るような形で戦略を立てることが多いのですが、今の時代に確かなことなど何も無いし、何が正しいかもわからない。会議室で悩むより、サービスをクライアントに体験してもらい、その反応で動いていきましょうということです。

「DXとは何か?」という根本的な振り出しに戻ることなく、まずは試してみようという前進する勇気を持つこと、他社事例などのエビデンスが無いのは当たり前、とにかくやってみるというのがデザイン思考です。自分自身に「これはいけるぞ!」という感覚が無ければ、何も始まりません。

次世代を担う若手社員による部門横断の連携が鍵。DXは、企業が生まれ変わる絶好の機会。 画像

次世代を担う若手社員による部門横断の連携が鍵。DXは、企業が生まれ変わる絶好の機会。

それでは、実際にDXをどう企業で推進していけば良いのでしょうか?僕は、カルチャーを変えることが先決だと考えています。ただ、現実的には日本企業のトップ層を変えていくのはなかなか難しいので、別の方法として30代半ばくらいまでの次世代幹部候補となる若手を中心としたボランティアの組織を自主的につくっていくことを勧めます。

5年後の会社の未来を考える時には、まずハッピーなありたき世界を描き、そこからバックキャストして今何をすべきか、何ができるのかを考え、具体的なアクションプランに落として進めていきます。

例えば、「AIが仕事を奪うのではなく、あなたが人として幸せに生きる未来。今やっている単純作業は全てAIがしてくれるから、あなたはもっとクリエイティブで人を幸せにする仕事ができる。大いなる可能性があるはずです。だからもっと幸せな未来について前向きに考えましょう」と話すと、皆がワクワクしながら将来を描けるようになります。

さらに、DXを実現するには、まずは若手の声に耳を傾けること、そして味方になってくれる役員を見つけることは、とても重要なポイントです。この役員から長期的なサポートを得つつ、既存ビジネスと隔離するのではなく、まずは実績を出していくことが大事です。

大企業の場合、縦割りの組織で部門ごとに分断されている問題があり、事業部長も悩みを抱えているケースが多い。だからこそ若手社員同士が部門横断で横連携し、5年後の会社の未来につながるアイデアを出していけばDXの種となっていくはず。もちろん、その時に悲観的な未来予想をしても意味が無く、いかに明るい未来を想像してそちらの方向に近づけていくかを誘引していくのが、私のようなコンサルタントの仕事だと思っています。

DXが企業のモチベーションを下げることはあってはなりません。DXは、若手社員や企業が生まれ変わるきっかけでありチャンスと考えましょう。企業にとって盛り上がる存在であるべきなのです。

DXは、すべての企業に必須であり、もはや避けられないものです。僕が常日頃経営者に伝えているのは、「日本はすでに致命的に出遅れている」ということです。DXとは何か?などと悠長なことを言っている間に、競合も認識していなかったようなプレイヤーがいきなり現れマジョリティを取られる事態が現実に起きているのです。その危機感だけはしっかり持った上で、この先どうしていくのかはポジティブに楽しんで考えれば良いと思っています。

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