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DXの本質と、企業が推進する上での
障壁と勘所について

ロケスタ株式会社 代表取締役社長 長谷川 秀樹 氏

DXコラム

2021 Jul 7

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Profile

1994年にアクセンチュアに⼊社後、国内外の⼩売業の業務改⾰、コスト削減、マーケティング⽀援等に従事。2008年に東急ハンズに⼊社後、情報システム部⾨、物流部⾨、通販事業の責任者として改⾰を実施。ソーシャルメディア活⽤を推進。レガシーシステムを完全クラウドコンピューティング化・自社開発化を実現、コストをかけずにシステム開発できる体制を構築。オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは次世代のお買い物体験への変⾰を推進。2011年に同社執⾏役員に昇進、2013年ハンズラボを⽴ち上げ代表取締役社⻑に就任。2018年10月よりメルカリCIOに着任。19年11月に独立、現職。

Contents
DXには様々な定義があるが、目指すのは「オンラインでなめらかに業務が完結する世界」。
DXに立ちはだかる情シスとSIer、古い思想を切替えられない人間の性という厚い壁。
DXを成功させるには、未来の世界から連れてきた人と社内展開のプロがタッグを組むこと。

DXには様々な定義があるが、目指すのは「オンラインでなめらかに業務が完結する世界」。

世間で言われるDXとは何なのか?

様々な立場のポジショントークがあり、SIerは「2025年問題等でシステムのアップデートが必要」、クラウドベンダは「オンプレの時代が終わるからクラウドへ移行すべき」、コンサルタントは「業務革新の話で、システムの話ではない」とDXを語ります。

どれも正しいのですが、僕の考えるDXは下図の通りです。
STEP2→STEP3はExcelがG Suiteになっただけにも見えますが、実は大きな違いがあります。

DX図
出典:ロケスタ株式会社

以前の変化(STEP1→2)は紙からデジタルと分かりやすかったのですが、紙の請求書をExcelでA4×タテの帳票にそのまま置き換えただけでした。一方、メルカリなどSTEP3のネット企業では帳票という発想が無い。僕の定義するDX(STEP2→3)は、「オンラインでなめらかに全ての仕事が完結する世界」です。

ローカルフォルダのファイルをメールで送受信する必要も無く全てスマホで対応でき、SaaSプロダクトをセキュリティが担保された状態で使えて、LAN/WANのネットワークも不要です。このことから、「世の中の全てがコンシューマー向けインターネットテクノロジーの世界に収斂している」と言えます。

DXに立ちはだかる情シスとSIer、古い思想を切替えられない人間の性という厚い壁。 画像

DXに立ちはだかる情シスとSIer、古い思想を切替えられない人間の性という厚い壁。

優れた最新テクノロジーを個人は先んじて活用する一方で、BtoBが追いつけない現状があります。個人のPCだとサクサク動くのに、会社のPCはIE バージョン縛りがあって動きが遅いということがよくありました。「何でそんなにBtoBは面倒くさいの?」という疑問に名前を付けたのがDXだと考えます。実はDXとはBtoBの人達がレガシーと決別してコンシューマーと同様に思想を切替えるだけの話であり、進むべき方向は見えているのになかなか踏み出せないのですね。

一例を挙げると、今の若い人達は「ググる」ことはほぼ無く、情報を得たい時はTwitterかYouTubeで検索します。動画は説明が分かりやすく便利ですが、企業は遊びの動画も多いとの理由でYouTubeへのアクセスを禁止しているから未だに業務ではググるしかない。そういう思想を1つ1つ切替えていけば良いと思います。

DXの一番の障壁となっているのは、実は情報システム部門とSIerだと思います。これまでネットワークは会社で全部守っていくという集中型でしたが、今やPCにエージェントを入れるだけでセキュリティをフィルタリング含めて守れるZscaler等の製品があるのに、もし何かあれば責任が取れないという新しいものへの不安からか、導入に消極的なネットワーク領域の人は多いですね。

SIerは企業側がカスタマイズをすることで収益があがるビジネスモデルであり、オンラインで完結する世界を容認すると自分達の仕事が無くなるため、企業からのAWS移行の検討依頼を一度は受けるものの、最後は反対して「AWSに行ったら僕らは何もできません」と言うと、情シス部長が怖気づいてやめておこうとなるケースが多いです。SaaSプロダクトの展開やSlackの販売・コンサルをしているSIerは別ですが。

オンラインやデジタルの本質を理解した上でDXを進めないと、旧来の考え方を引っ張る恐れがあるので要注意です。クラウドサインの導入時に、法務部長から「紙の契約書を必ず確認して捺印していたけど、この仕組みだとログイン・パスワードを知る社員なら誰でも勝手に契約書を相手先に送れますよね?」と聞かれますが、「オンライン上でやるとはログが全部残ること。会社員が証拠を残してまで不正をするでしょうか?」と言いたい。

この質問はログが残るというオンラインの特徴に実感が無いためですが、これは海外でも同様で、電子契約はサインや印影も不要で承認者のIDが判別できればOKなのに、アメリカで一番売れているDocuSignでも承認すると謎の手書き風サインが表示されます。人間はそうそう頭の中を切替えられず、既存を引きずりつつ次の船に乗ってしまうのかなと思いますね。

DXを成功させるには、未来の世界から連れてきた人と社内展開のプロがタッグを組むこと。 画像

DXを成功させるには、未来の世界から連れてきた人と社内展開のプロがタッグを組むこと。

実際に企業でDXを推進していくには、2種類の人間が必要です。1人は社外にいてオンラインで全業務が完結されている世界を経験している人、もう1人は新しいオンライン上の世界における業務プロセスを社内にインストールしていく人であり、CIOかCDOかはその会社で決めればOKです。

コープさっぽろの事例を挙げると、CDOの対馬さんが社内説明の天才で、展開がスムーズでした。トップのコミットメントも重要であり、同社のトップにSlackについて10分説明したらその場で「これからはSlackに切替える」と確約して役員全員に一斉メールを送る等、非常に理解と意思決定が速かったことも成功の要因です。

大半の企業では僕の定義するDXは実現できていません。僕が強調したいのは、インフラやコミュニケーションインフラの整備をしっかりやらないと、SaaSを部分的に入れただけでは継ぎ接ぎになってしまうということです。まずインフラでは、スマホの使用を認め、どこでも仕事できるネットワークとセキュリティ、AWSにすることが先決です。その上でコミュニケーションインフラを整備し、G Suite、Slackを入れていく。

発注処理の例を挙げると、従来は発注が取れた後データ入力するという伝票起点のシステムでしたが、取引先や上司と話す・提案書作成等様々なコミュニケーションを経て発注につながるにも関わらず、そのプロセスがデジタル化されずに結果だけ登録されています。コミュニケーションの中に発注登録があっても良いのに融合・統合できておらず、会話か電話かメールでやり取りするしかない。

ホワイトカラーの人達が業務時間の8~9割を割いている会議や資料作成の効率化ができれば圧倒的に生産性が上がります。コミュニケーションインフラを見直した上で、オンライン上の業務を自動化する手順を踏むことがDX成功の要諦と考えています。

過去に脱ホストやオープン化等の歴史もあり、DXにおいても企業がレガシーと決別することは可能です。ただ、それはベンダやSIerから大きな抵抗に遭うことでもあるので、相当強い覚悟と意志が必要です。

僕が自身の経験からお伝えしたいのは、データ移行に関する点です。昔、某巨大スーパーのプロジェクトでIT子会社が機能しておらずシステムの切替えを試みたものの、データ移行で40億の見積を出されて結局払えずベンダの粘り勝ちとなった手痛い経験があり、東急ハンズでシステムをベンダから自社開発に切替えた際には、データを送ってもらい溜まった時点で一気に切替えました。

ただ、これは僕が転職組で新参者だからできたことで、新卒からいる会社で上下関係もある中での改革は難しいし、10~20年もその会社にいたら変われるとも思っていなかったはずです。だからこそ、未来の世界から来た人に「え!こんな世界はおかしい」と言ってもらう必要があります。社内で改善できるならとっくに実現できているはずですから。机上の空論で終わらないためにも、未来を体験していて具体の話ができる人を社外から連れてくることが重要です。

構成:神田 昭子
撮影:櫻井 健司

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