これからCIOとして活躍するために求められるものは?
経営人材の育成にも力を注ぐ「武闘派CIO」に聞く。

喜多羅株式会社 Chief Evangelist
合同会社シゲオン 代表社員
喜多羅滋夫 氏

CIOインタビュー

2025 Dec 25

これからCIOとして活躍するために求められるものは? 経営人材の育成にも力を注ぐ「武闘派CIO」に聞く。 メインビジュアル

「DXとは何か?」「デジタルプロフェッショナルのキャリア」について、クライス&カンパニーのデジプロチームが第一線で活躍されている方々にインタビュー。今回は、外資系企業のIT部門で豊富なキャリアを積んだ後、日清食品グループの初代CIOとして事業や組織の変革をリードし、「武闘派CIO」としても知られる喜多羅滋夫氏にお話を伺いました。

Profile

P&Gとフィリップモリスにて20年余りIT部門に従事した後、2013年に日清食品グループ初のCIOに就任。グローバル化と標準化を軸に、グループの情報基盤改革の指揮を執り、働き方改革を進める。2021年4月に独立し、ITとイノベーションによる事業変革支援に取り組む。

Contents
紆余曲折のキャリアを重ねて、日清食品グループの初代CIOに就任。
CIO へのコーチングは、 実際にCIOを経験した人にしかできない。
自分が無力な場に敢えて出ることで、CIOとしての能力も磨かれる。
紆余曲折のキャリアを重ねて、日清食品グループの初代CIOに就任。 画像

紆余曲折のキャリアを重ねて、日清食品グループの初代CIOに就任。

――初めに、喜多羅さんのこれまでのキャリアについてご紹介いただけますか。

私は大学時代、工学部の情報工学科で AI の基礎研究に取り組んでいましたが、就職にあたってコンピュータサイエンスそのものを究めていくのは、あまり向いていないと感じていたんですね。そんな折、アメリカのエアラインが、チケット発券のためのルーティングをコンピュータシステムにやらせているという記事を読んで、単に情報を処理するだけではなく、企業の収益向上にシステムが寄与していることに感心したんです。いまでは当たり前のことですが、当時の私にはそれがとても新鮮で、そんな仕事がしたいと航空会社を志望したのですが、残念ながら落ちてしまった。それで、もうどこでもいいから就職しようと手当たり次第にアプローチしたところ、たまたまP&Gに同じ学科の先輩がいらっしゃり、声をかけていただいて入社することになりました。

P&Gには12年弱在籍し、様々なセールスマーケティング関連の案件に携わりながら最終的にはIT部門のマネージャーに就きましたが、マネジメントにはあまり興味がなくて、もっと商売に近いところでIT を使った新しい仕組みを創りたいとスタートアップに転職したんですね。でもその会社が私にまったく合わなくて、2カ月ほどで退職。しばらく無職の時期を過ごしました。その頃は精神的にも本当にきつくて、せっかくP&Gでそれなりのポジションにまで昇ったのに、それを捨てて挑戦したことが失敗してしまった。自分のキャリアはここで終わったと絶望して何も手につかない状況でした。いま思えば軽い鬱状態に陥ってしまったんですね。

その時、P&G時代の先輩で、フィリップモリスに転職された方から「仕事がないのなら、とりあえずうちに来れば? ここで働きながら自分の生き方を探せばいいじゃないか」と誘っていただき、入社することに。その方は本当に私にとっての恩人で、いまでもお会いするたびにお礼を述べています。そうして「とりあえず」のつもりで入社したフィリップモリスでしたが、こちらでもグローバルと関わりながらいろいろなテーマに挑戦する機会を与えていただき、結果として11年ほど在籍。最後は日本のIT本部長という役員のポジションを務めました。

――日清食品の初代CIOに就任されたのは、どのような経緯だったのでしょうか。

フィリップモリスを卒業して次のキャリアを考えていたのですが、また外資系に移るのは、同じことをコピー&ペーストするようで面白くないなと思っていたんです。すると、ある方から日清食品が CIOのポジションを探しているというお話をいただいて、やはり最終的には意思決定者になりたいという気持ちもあって、引き受けさせていただくことに。かつてはマネジメントなどやりたくないと思っていましたが、いつの間にか意識が変わって日清食品で8年間、CIOとして経営に貢献するITの強化に取り組みました。そして変革の成果をある程度上げたところで後任に託し、2021年に日清食品を卒業したという感じです。

――喜多羅さんは、日清食品にいらっしゃった時からよく「武闘派CIO」というキャッチフレーズで紹介されていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。

これは日清食品に在籍していた時、AWSのイベントで仲の良い長谷川秀樹さんと友岡賢二さん、そして私のCIO三人で登壇する機会があったんです。その時に何かキャッチフレーズがあったほうが面白いということで「武闘派CIO」を名乗ったんですね。それが業界内でバズって、我々3人の代名詞になったという感じです。

この「武闘派CIO」という言葉には、単に言われたことをやるのではなく、いろんな人と対峙して議論しながら物事を正しい方向へ進めていきたいという、そんな意思を込めています。実は世の中には武闘派CIOの方々は結構いらっしゃると思っていて、この言葉はフリーライセンスなのでみなさんもぜひ名乗っていただきたいですね(笑)。

――日清食品を卒業された後は、どのようなことに取り組まれてこられたのですか。

日清食品を退職した時、私は55歳でした。が、そこから先のキャリアを企業で考えると、一般には役職定年など5歳刻みでいろいろとゲートがあるんですね。自分のキャリアにあまり継続性を作れないのが嫌でした。その中、周囲を見渡すと大企業から独立してITやマーケティングの世界で活躍されている先輩方がいらっしゃった。ひょっとしたら私もできるのではと、諸先輩方に相談すると親身になってアドバイスをいただき、その後押しもあって独立を決心しました。

そして自分の会社を立ち上げてからは、業務委託で情報セキュリティ企業の CIO を 2年間務めたり、飲料メーカーのIT部門の立て直しをお手伝いしたり、ある大手企業からスピンオフした会社のCIO の採用支援や、実際にCIOとして入社された方の伴走なども務めてきました。そこでコーチ役を担ったことが、いまCIOの学校を監修することにもつながっています。

CIO へのコーチングは、 実際にCIOを経験した人にしかできない。 画像

CIO へのコーチングは、 実際にCIOを経験した人にしかできない。

――CIOの学校を監修されているとのお話がありましたが、どのような経緯から関わることになったのでしょうか。

私なりに問題意識を持っていたんですね。企業においてCIOが本当に重要なポジションで活躍できているかと言えば、まだまだ十分ではないのが実情です。いまCIO候補となっている方々、あるいはCIOに就任されたばかりの方々をもっとダイレクトに支援することで、経営へのIT活用をさらに推進したいとずっと考えていました。

私は過去、日清食品のCIO時代、業界内で次世代リーダー研修のようなプログラムを担当させていただき、CIOになる一歩手前の方々を対象に一泊二日の合宿形式で実施したことがあるんです。研修所に缶詰になって、CIOとして経営会議への提案を考えるケーススタディに取り組んだのですが、みな真剣に議論して、研修を終える頃には参加者も講師の私もヘトヘトに。大変だったものの、さまざまな気づきがあって本当に有意義な経験を得ることができ、こうした取り組みをもっとやっていきたいと個人的に思っていました。

私一人が頑張っても所詮一馬力ですが、いろんな人とつながり、同志を集めてスケールすれば、日本の産業界の競争力向上に貢献できるCIOをもっともっと輩出できる。そんな気持ちを募らせていたところ、2025年の春、以前からつきあいのある方がCIOに就任されることになり、「CIOとして何をやるべきか」と相談を受けたんですね。ぜひ力になってあげたいと、私の知り合いのCIOの方々に声をかけ、チャットグループを立ち上げて「この方を応援してほしい」とお願いしました。

そこでお声がけしたうちの一人が、富士通のCIOの福田譲さんで、そのグループを運営していくうちに福田さんから「喜多羅さん、これ面白過ぎる。もっとちゃんとした形でできませんか?」と提案いただいたのです。富士通が主導してCIOを養成する場を設けたいので、私に監修してほしいと。正直、私には荷が重いと躊躇したのですが、こんなに大きな機会を用意してくださったのに、これを逃すときっと後悔すると思って、お受けすることにしたということです。

――このCIOの学校で、喜多羅さんは優秀な人材をどのように養成していきたいとお考えですか。

ちょっと上から目線に映るかもしれませんが、CIO へのコーチングは、 実際にCIO を経験した人にしかできないと思っています。ですから、CIO を務めた人だけが語れる世界観を、このプログラムで最大化して提示していこうと。本当に成功を収めている CIO の方々に講師として参加していただき、その人たちの痛みを伴った生々しいストーリーをきちんと共有していきたいと考えました。

基本的にこの学校は一つのコミュニティだと位置づけていて、講師と受講者という関係ではなく、議論は対等な立場で行っていく。「勉強しに来ました」というスタンスでは参加しないでいただきたいと考えています。あくまでも CIOとCIO が生身で接して、お互いに包み隠さず真剣に議論する、そうした「ぶつかり稽古」を通して、新たにCIOに就かれた方々が早く成長できるようなプログラムを展開しています。

――これからのCIOに求められる資質や能力は何だと喜多羅さんはお考えですか。

一つは“Business Acumen”、つまりビジネスを深く理解していること。CIOというポジションは、やはりIT部門から昇格されるケースが多いと思いますが、たとえば自らが実行する施策によって、自社製品の競争力がどのように向上し、財務的にどのようなリターンがあるのかなど、ビジネスに及ぼすインパクトをきちんと語れなければ真に経営に貢献することはできません。ですから“Business Acumen”はまず何よりも重要ですね。

二つ目は、イノベーションを面白がれることですね。これも絶対に必要。今、いろんな企業で AIの活用が図られていますが、うまくいっている企業というのは、CIO自らがAIを触って遊んで面白がっているんです。社長に対しても自らデモしてプレゼンしている。

現在日清食品のCIOを務めておられる成田敏博さんはまさにそうで、経営の方々に巧みなシナリオでプレゼンしてトップの気持ちを盛り上げ、社内への導入を一気に進めたんですね。会社を成長させるために必要なテクノロジーを、用意周到に準備して経営に反映させるという、成田さんのようなアクションをとれる人がやはり成功するCIOなんじゃないかと思います。

巷ではよく、新しいことを進めると「抵抗勢力」に遭うという話を聞きますが、私はこの抵抗勢力という言葉が嫌いなんですね。ドラッカーも著書の中で語っていますが、もし自分と対立している相手が論理的な人間で、ロジックに基づいて行動しているのだとすれば、彼の立ち位置からどんな現実が見えているのかに思いを馳せることが非常に重要であると。相手の意思とこちらの意思がすり合っていないから対立してしまうわけで、そのなかに共通項は必ずあり、いち早く見出して合意のもとで物事を進めていけば、抵抗勢力など生まれない。成果を出すために、関係者と共通のゴールを設定してドライブできることも、CIOとして成功する大切な能力だと思いますね。

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自分が無力な場に敢えて出ることで、CIOとしての能力も磨かれる。 画像

自分が無力な場に敢えて出ることで、CIOとしての能力も磨かれる。

――ミドルマネージャークラスの方々がCIOにステップアップするには、どのようなキャリアを意識すればよいのでしょうか。

私がP&Gに在籍していた30歳ぐらいの時、タイ人の上司から教えられたことでいまも心に留めていることがあるのですが、キャリアというのは「椅子」だと。一本足の椅子ってグラグラしますよね。二本足でもまだちょっと不安定。ところが足が三本あると揺るがない。キャリアも同じで、3本の足を常に意識して、そこを伸ばしなさいというアドバイスをいただいたんです。

私の場合、一つはIT、一つはビジネス、そしてもう一つは英語。当時、ITが理解できる人、ビジネスを語れる人、英語で仕事ができる人はそれぞれたくさんいましたが、すべてを兼ね備えた人というのは希少で、そこに自分の価値が発揮できると考えて、この3本の足をとことん強くすることに努めました。

これからCIOを目指されるのであれば、やはりビジネスとITは外せないと思いますので、それ以外にもう一つ、たとえばイノベーションをいち早く捉える力であるとか、周囲の人を巻きこむ力であるとか、これだけは自分の強みだという三つ目の足をきっちりと作り、それを意識してスキルアップしていくことが有効ではないかと思いますね。

――新たにCIOに就任された方に向けて、何かアドバイスはありますでしょうか。

CIOにはビジネスとITの両方に深い知見が求められますが、特にIT部門出身の方はビジネスに関する理解が不足していることも多いと思います。そこでわからないことがあれば、素直に学ぶべき。私も日清食品のCIOに就いたばかりの頃は、そんな姿勢で臨んでいました。

当時、自らに課していたのは、敢えて自分が無力な場に出ていくこと。たとえば、かつてYahoo!アカデミアの学長を務められていた伊藤羊一さんが、コロナ禍の前に定期的にセッションを開催していたんですね。起業家や金融の専門家、教師から冒険家まで、いろんな方々が集って「これからの日本はどうあるべきか」をディスカッションする場でした。

私も機会をいただいてそこに参加させていただいたのですが、私の知らないスタートアップ界隈の話題になると、まったく議論についていけず、ただ呆然とするだけ。自分の無力を思い知らされましたが、じゃあこういう世界の人々とWin-Winの関係を作っていくためには、自分の武器をどう生かせるだろうかと考えるわけです。アナロジーをうまく使って共通点を見出しながら、その世界を理解しようと努め、知らないことは貪欲に学んで自分の価値を発揮していく。IT領域は一生勉強し続けなければならない世界なので、こうしたラーニングスキルを磨くことはとても重要ですし、それはビジネスを理解する上でも役に立つものだと思います。

あとは、興味のあることは何でも面白がって取り組むことでしょうか。仕事に直接関係ないことでもいい。そこからネットワークが広がって、仕事に還元されることもあるんですね。事実、私がいま手がけている仕事というのは、ほとんどが友人関係から舞い込んできた案件なんです。たとえば、私はある方の紹介で、東北大震災の陸前高田の被災者の方々に英語を教えるボランティアを十数年続けていました。その活動を続けてる中で、ボランティア仲間があるファンドのパートナーだったのです。何年も経ってから、「喜多羅さん、実はDXの件でご相談してもいいですか?」ということになり、それがきっかけである会社の支援を始め、CIOのコーチングにつながっていったわけです。こうして自分に関わることをすべて面白がっていくことも、CIOとしてのキャリアを豊かにするんじゃないかと思いますね。

――では最後に、これからCIOを志す方々にメッセージをお願いします。

やはり、将来なりたい自分をイメージすることがとても大事だと思います。肩書きではなく、こんなことが成し遂げられる人になりたいという、そうしたゴールイメージをぜひ持ってキャリアを積んでほしい。そこに向けて、さきほどお話しした椅子の三本の足のコアスキルを磨き続けて、かつ、自分が関わることを面白がっていけば、意外とCIOに近いところに辿り着けたり、まったく違う面白いダンジョンが見つかったりするんじゃないかと思いますね

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

この記事を書いたのは・・・

ハイクラスの転職支援を行う人材紹介会社クライス&カンパニーのデジタルプロフェッショナル(通称:デジプロ)支援チームです。私たちは、デジタルテクノロジーの力でDXをリードする方々のネクストキャリアを本気でご支援しています。本サイトでは、DX領域の第一線で活躍する著名な方や各企業のCIO・CDOに直接お会いしてお話を伺い、自らコンテンツを編集して最先端の生の情報をお届けしています。ぜひご自身のキャリアを考える上で活用ください。直近のご転職に限らず、中長期でのキャリアのご相談もお待ちしています。 転職・キャリア相談はこちら

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