トップダウンではなく、個の意思が尊重される。Archetype Venturesはそんなカルチャー。
まずはPartner/GPを務める向川さんのご経歴を教えていただけますか。
向川さんは、自らを敢えて流動的かつ混沌とした環境のなかに置くことを好まれているようにお見受けしますが、そうした人格が形成されたのは何かきっかけがあったのでしょうか。
向川
私はアメリカで生まれ、10歳までサンディエゴで暮らし、その後日本に帰国しました。まだアイデンティティが確立していない幼少期から学童期に国を跨いで移住した方によく見られる傾向だと思うのですが、日本/アメリカいずれのアイデンティティにも属している感覚が持てていませんでした。無いものねだりで帰ってきた当初は、日本に強く憧れ武士道に惹かれて中学高校と剣道に打ち込んだりしたのですが、当然アメリカ西海岸の楽観的、個人主義的、かつ合理的な思考もあります。このような経験から、モノカルチャーで、既成の社会規範がしっかりできた文化や組織に長く留まるのではなく、諸々流動的で混沌とした環境に身を置いた方が個人的にはしっくりくるのかもしれません。
日本流と米国流が融合した独特な価値観をお持ちの向川さんですが、Archetype Venturesに参画されるにあたって違和感なくフィットできましたか。
向川
元々Archetype Venturesには海外留学組が多いのみならず、広告、SIer、コンサル、政府、人材、投資銀行、ITなどスキルやバックグラウンド、そして考え方が多様なメンバーを採用してきました。一方で、僕は特に役職や立場に関係なく、最上のアウトカムを目指して、個々人の見解を全て卓上に乗せて忌憚なき議論を行うことを好むので、当初は組織内でも多少のハレーションを起こした部分もあったと思います。ただ、そこは福井や中嶋の器の大きさと、そもそも二人ともトップダウンで自分たちが好むカルチャーを築こうとするタイプではなく、輝くものを持っている人がいればそれを存分に活かそうとするマネジメントスタイルにだいぶ助けられたと思います。投資対象についても各自がそれぞれの観点から持ち込む面白い案件を尊重するところから始まりますし、それは私にとてもフィットしたように感じています。

いろいろなプレースタイルが許されるからこそ、VCとしてダイナミズムが生まれる。
続いて、中村さんのご経歴をおうかがいできますか。
中村
私が新卒で入社したのは野村證券のIB部門で、M&Aアドバイザリーを5年ほど手がけました。M&Aに関わるのはとても面白くて、非常に忙しかったものの充実した日々を送っていました。そんな中、VC業界に転身した優秀な同期がMBA留学したと聞き、私も興味をもってウォートンMBAに留学しました。一歩外に出てみると、世の中には様々な選択肢があると気付き、野村に帰任した後は、折角なら違うことに挑戦してみたいとECM(エクイティ・キャピタル・マーケッツ)に1年ほど携わりました。そんな折、知人からArchetype Venturesを紹介され、新たに3号ファンドを立ち上げるにあたって金融に通じたプレイヤーを探していると聞き、これは面白い機会だと移籍を決めました。
Archetype Venturesへの参画を決断される際、他の選択肢はご検討になられなかったのでしょうか。
中村
VCに関しては一通り情報を収集しました。ウォートンMBA出身者はVC業界で活躍されている方が結構いらっしゃって、日本のスタートアップ・エコシステムなどに関していろいろとお話をうかがう機会もありました。エスタブリッシュなVCになればなるほど、IBやプロフェッショナルファーム出身者が多いと個人的に感じました。せっかくVCの世界に飛び込むのであれば、IB出身の私とはまったく異なる思考の方々とご一緒したほうが、自分自身の余地が広がるのではないかと思いました。Archetype Venturesでお会いしたキャピタリストのみなさんは、それぞれ言うことがまったく違っていて、全員が異なる考え方を持ち、ある意味最も動物園的だった(笑)。それがArchetype Venturesに参画した一番の決め手ですね。
実際に入社されて、中村さんはArchetype Venturesのカルチャーをどのようにお感じですか。
中村
いろんなプレースタイルが許されるVCです。たとえば、ロジカルに投資仮説を形成していくプレイヤーもいれば、起業家が掲げるビジョンやそこに向かうストーリーに惚れ込み、応援したいと投資判断をするプレイヤーもいる。どれも正解だと私は思っていて、自らのアクションを合理的に説明できるのであれば、すべて許容するのがArchetype Venturesのカルチャーであり、それがVCとしてのダイナミズムを生んでいるように思いますね。
中村さんはArchetype Venturesに入社されて2年半ほど経ちますが、この間、どのようなキャリアを積まれてこられたのでしょうか。
中村
私はIB出身ですが、それまで経験してきたことはVCからは最も遠く離れたものでした。だからこそArchetype Venturesでのキャリアを選んだわけですが、最初の1年はそのギャップを埋めるべく、VCならではの思考を身につけることに注力しました。以前に手がけていたM&Aは、リスクをいかに特定してプロテクトするかという思考が求められましたが、VCは逆なんですね。いかに跳ねるかを探り出すゲームなので、その思考法と投資検討の仕方をGeneral Partnerに付き添って習得。そして2年目からは、ある程度自由に振る舞わせてもらえるようになり、自分の考えで案件を追求しています。

起業家が苦しい時にこそ、我々の存在価値がある。それがArchetype Venturesのハンズオン。
では、あらためてArchetype Venturesの特徴について教えていただけますか。
向川
我々はBtoB領域を中心とするシードからアーリーステージのスタートアップを支援しています。4つのファンドに跨り、240億円を運用し、66社に投資をしてきました。ただし、ファームとして明確な投資コンセプトを定めているわけでもなく、トップダウンで投資先を決めているわけでもありません。我々が重視しているのは、個々のキャピタリストが確かなインサイトを持ち、起業家に直接価値提供できるVCであることです。もちろん、ファンドに出資してくださる機関投資家や金融機関に対して、しっかりとリターンをお返しする責任を強く意識しています。そのために、説得力のある投資仮説を作って投資を実行していくとともに、投資先に対してしっかりと伴走していくことをテーマに掲げ、それ以外は特に縛りを設けてはいません。実際、GPも各々興味関心がまったく異なります。たとえば中嶋は電通出身で、その後Archetype Inc.という大企業とスタートアップの共創や新規事業コンサル・投資会社を設立しています。その後により投資に特化する目的でArchetype Venturesを創立した経緯もあり、彼の最大の関心事は大企業とスタートアップをつなげることによって、日本ならではのイノベーションを起こすことです。一方、福井はNTT Data出身でありながらも、自ら起業を経験しているので、起業家が最も辛いタイミングで出資し、しっかりと伴走したいという思いが強い。私が参画する前の1号・2号ファンドの投資先は合わせて40社ほどですが、フル稼働すればすべての投資先にしっかり向き合える規模感でもあります。実際、投資先が何か意思決定する際、事前に福井や中嶋のもとに相談が寄せられることが多々あって、持分に関係なく全力で応えています。そうした姿勢はArchetype Venturesのカルチャーとなって浸透しているように思います。
中村
いまの向川の話に付け加えるとすれば、それぞれ出自が異なるからこそ取れるアルファがあると考えていて、そうしたArchetype Venturesらしさを保っていくためにはエマージングであり続けなければならないと思っています。逆に「Archetype VenturesはエスタブリッシュなVCになった」と言われた瞬間に、我々が出せるアルファは消えるのではないかと、そんなふうに感じています。
起業家に伴走することを大切にされているとのお話ですが、具体的にどのように支援されているのでしょうか。
向川
起業家の方々と密にコミュニケーションを取りながら、事業戦略立案から営業、組織構築、人材採用、ファイナンスまで、支援先企業が抱えるあらゆる課題に各々のキャピタリストが持つ知見を結集させて一緒に解決したいと考えています。画一的なサービスをシステマチックに提供するのではなく、起業家ととことん向き合い、信頼関係を築くことで提供価値を最大化する。この点が、我々が一番拘っているところです。起業家の方々と深いリレーションを築いて初めて相談いただけることもあり、そこで議論されるものが事業の本質だと思っています。当社のメンバーは投資担当に限らずそのような関係を望んでおり、むしろ投資先企業が苦しい時ほど進んで関わっていこうとしています。
そもそもBtoB領域に特化されているのは、どのような方針のもとなのか、そして今後に向けて投資領域をどのように考えていらっしゃるのか、お聞かせ願えますか。
向川
Archetype Venturesは2013年に創立されたファンドですが、当時、アメリカのVC業界ではtoCと同等以上にtoBビジネスへの投資が行われており、米国留学から戻ってきた福井はtoBの方がリターンの再現性があるのではないかという仮説を持っていました。また、当時国内ではtoBを思考するスタートアップやそこに特化したVCもまだまだ少ない状況で、これから日本でもtoBの波が来ると判断したのがまず一つ。もう一つは、業歴が長い中嶋を中心に大企業の幹部層とのネットワークを築き上げていて、その強みを活かす上でも、toBの領域との相性がよかったことです。また、企業が抱える経営課題というのはいつの時代も大所高所から見たら不変であり、人々の価値観の変化にあまり左右されないということもtoBにフォーカスした要因です。ただ、toBは再現性があって堅実ではあるものの、なかなか跳ねを作りにくい領域でもあるので、有望な機会があれば隣接するようなtoCの領域への投資も検討はします。また1号ファンド、2号ファンドではエンタープライズソフトウェア領域での投資が中心でしたが、最近ではディープテックなどの国策とも重なるアジェンダへの投資も行っています。

「昭和的」なファンドであることも、実はArchetype Venturesの大きな魅力のひとつ。
お二人はいまArchetype VenturesのInvestment Professionalとして、どのような醍醐味を覚えていらっしゃるのでしょうか。
中村
以前に携わっていたM&Aは減点方式で、粗を探して潰していくゲームでした。もちろんそれも重要なのですが、我々のリターンは減点方式で生み出せるものではなく、多くの起業家と接し、自分の人生を賭けてまでチャレンジしようとしている魅力が何なのかを探り出さなければならない。そんな加点方式の目線で挑めることが、私としては非常に面白いですね。そして、お会いする起業家のなかには、日本経済を変える可能性を秘めた方々もたくさんいらっしゃいます。そんな起業家にご一緒できることもそうですし、単に資金を供給するだけではなく、我々だからこそ提供できるインサイトがあると信じて向き合っています。本来であれば10年かかっていたものが、自分が関与することで、8年で実現できれば、短縮された2年分でより多くの人にインパクトを与えることができる。そうした価値を社会に生み出していくことに、大きなやりがいを覚えています。元同僚などから「VCって楽しそうでいいね」と言われることが多々あって、周囲からも楽しそうに映っているようです(笑)。
向川
確かにポジティブな仕事であることは間違いなく、世の中を良くしていきたいという志にあふれた起業家の方々と日々対話し、応援できることが私も楽しいです。そして、新しい技術が出現し、それが社会実装されることで人々の生活が一気に変わるという、その瞬間に立ち会うことができる。再生医療や小型原子炉などの最先端のテクノロジーに触れる機会も多く、知的好奇心が旺盛な私としては毎日が非常に刺激的です。そして、起業家の方々と密な人間関係を築き、どん底の時期もともに過ごしながら長く伴走できるのも魅力だと思います。私は起業家の一番辛い時期や出来事を伴走してこそ、事業が成功した時に心から喜べるので、そうした経験を何十回と味わえるのは、やはりVCならではの醍醐味だと思っています。
続いて求める人材についてお伺いしたいのですが、Archetypeにフィットするのはどのような方だとお考えですか。
中村
VCは社会を変える力になれる存在なので、「こんな未来を実現したい」というビューをお持ちの方でしょうか。一方で、自分と違うビューの人たちと意見を交えるからこそ広がる世界があるので、お互いに意見を尊重しつつ違和感があればフラットに議論するマインドを持っていることも大切です。そして我々としては、一緒に時間が過ごせることを楽しいと感じる人に入って欲しい。また、Archetype Venturesは部分的に昭和的な価値観を持つファンドだと思っていて、みんなでよく飲みに行くんです(笑)。ファミリー文化があるというか、私自身もそうした関係性にフィットした感がある。採用の候補者の方々もチームディナーにお招きして、お互いに本音で交流してArchetype Venturesのことを理解いただいています。
向川
そうですね。昭和的であることを強調すると若い方々からは敬遠されるかもしれませんが(笑)、私も一緒に仕事をするなら、家族のように互いに仲良くなれる面白い人たちとチームを組みたいと思っています。だからこそ、まずはチームディナーに参加いただければ、Archetype Venturesにフィットできるかどうかは、おのずと判断できるのではないかと思います。合う人材像については、事業を作るために汗水をかくことも好きでありながら、深く物事を考えることも好きな方でしょうか。
最後に、御社に興味をお持ちの方に一言メッセージをお願いします。
中村
独立系VCに若手で参画すると、なかなか自分の意見を通すのが難しいという話も度々聞きます。その点、Archetype Venturesはきわめてフレキシブルであり、明確な投資コンセプトがないので若手でも自由に意見を述べることができる。自分の力を試したい方にとっては絶好のフィールドだと思います。
向川
Archetype Venturesは3号ファンドの設立によってAUMが240億円を超え、次のフェーズに入ろうとしています。機関投資家様などの参画により再現性のあるリターンが求められており、これまで築き上げた我々ならではのカルチャーベースに、いかにチームとしての出力を上げるかをいま議論しているところです。いろいろな活躍の機会があると思っていますので、意欲溢れる方にぜひ参画していただきたいですね。


向川
私は新卒で三菱商事に入社し、国内外の上下水道インフラ事業に7年ほど携わった後、University of California, BerkeleyにMBA留学しました。シリコンバレーエコシステムの一角を形成する学校で日々起業家やVCの方と交流する中で、5年、7年の時間軸で社会を変えていけるようなビジネスモデル・技術を世に出すスタートアップとそれを支援するVCが面白いと感じるようになりました。ご縁があって、DNX Venturesのアメリカオフィスでのインターンシップに参加する機会を得て、それがVC業界に転じる契機になりました。三菱商事で取り組んでいた水道事業も社会インフラづくりとして大きな意義を感じていたものの、プロジェクト期間が数十年という時間軸。卒業後は日本オフィスで勤務し、VCとしての礎を徹底的に叩き込んでもらいました。退職後に独立の道を模索していた時に、よく共同投資をしていた創業パートナーの福井と中嶋からよかったら一緒に3号ファンドの立ち上げをやらないかと声をかけていただいたことが始まりです。