4/15「PM育成虎の巻~明日から使えるOJTノウハウ~」

リアル会場&オンライン配信のハイブリッド開催!|汐アカ

MORE

4/15「PM育成虎の巻~明日から使えるOJTノウハウ~」会場&Zoom同時開催!|汐アカ MORE

INTERVIEW

INTERVIEW 026

2023 Feb 13

すべての合意をフェアにする。大企業を相手に、
自然言語処理技術で「契約」を革新するSaaSを。

Podcastで聞く

PROFILE

MNTSQ株式会社 Founder / CEO 板谷 隆平 氏

東京大学法学部卒業。在学中に司法試験に合格し、2014年に弁護士登録。同年に長島・大野・常松法律事務所(NO&T)に入所後、企業買収(M&A)、AI/IT等のテクノロジー関係のアドバイスに従事。同事務所で勤務する傍ら、2018年にMNTSQを創業。

「契約」が、新しいビジネスを抑止するような方向に働いてはいけない。

及川

御社はリーガルテックの領域のスタートアップ企業ですが、具体的にどのような事業を営まれているのでしょうか。

板谷

我々はリーガルテックのなかでも契約関連のプロダクトを手がけています。契約はあらゆるビジネスにおいて必須のものであり、けっして法務部の専任事項ではなく、取引を進める事業部も含めて全社が関わることになる。ですから、専門性の高い契約書を、専門家ではない人が作成して交渉を進めるというケースが多分に発生するんですね。これをシステムの世界になぞらえると、ローコード開発ツールが求められているということ。

ビジネスの現場は業務を革新できるソフトウエアを必要としているのに、それを開発できるエンジニアは限られている。契約も同じで、ビジネスで必要なのにドラフトできるのは弁護士など一握りの専門家だけ。そうした人材でなくても契約が作れる、昨今のIT業界でローコード開発と言われる文脈が、契約の世界にも押し寄せているのです。それを自然言語処理技術で実現していくことが、我々の追求するリーガルテックです。

及川

板谷さんは弁護士のご経験があり、法律の専門家でありながらITにも精通されています。ご自身のご経歴と創業の経緯をお聞かせいただけますか。

板谷

もともと私はITとは縁のない人生で、司法試験に合格後、日本有数のローファームである長島・大野・常松法律事務所で5年間、弁護士を務めていました。そこでは、ずっと同じ契約をクライアントの取引のたびに作っているような状況で、社会全体で契約に関する知見が共有されていないと感じたんですね。他方、弁護士業務の中で気づいたのは、契約というのは定型化されているということ。

この会社を創業したのは2018年ですが、当時、自然言語処理が実用化に近づいていて、アメリカで中学校の入試の問題を自然言語処理アルゴリズムが高い精度で解いたというニュースに触れ、機械学習と自然言語処理を駆使すれば、専門性がない人でも契約を扱えるようになるのではないかとMNTSQを立ち上げました。

及川

Forbes JAPANのサイトに掲載されていた板谷さんのインタビューで、あるベンチャーの融資に対するエピソードをご紹介されていましたが、それが起業の大きなきっかけになったのでしょうか。

板谷

ええ。弁護士時代にある金融機関を担当し、界隈で有名なベンチャーに融資する案件に関わったんですね。私は金融機関側の弁護士なので、膨大な契約条項を設けて、特定の条項を組み合わせると判例に照らし合わせて何時でも返済を求められる、という金融機関に有利な契約を作ったんです。それが弁護士の常套手段なのですが、細かく読み解かないとまず気づかないような内容で、弁護士として良い仕事ができたと意気揚々としてそのベンチャーの創業社長に契約を提示しました。

すると、すぐにその方から電話があり、「板谷先生、ありがとうございます。あなた方を信頼していますので、これでお願いします」と。通常であれば数カ月もかけて交渉する案件が、社長の一言で即決。その時、とても後ろめたい気持ちになって、自分は何のために社会に存在しているのかと、強い自責の念に襲われたのです。

彼が挑もうとしているビジネスは社会的な価値があり、一方、私は契約の小難しさを笠に着て、どうでもいい条項操作でそのビジネスを妨げようとしている。本来の契約行為は、事業の当事者であるお互いが協力して、社会を良くするためにあるべき。しかし、契約の難しさがアンフェアさをもたらす温床になっており、専門性がなくても当事者同士が契約を結べるようにしなければ、世の中のコラボレーションの質が上がらないと強く感じたのです。

及川

御社のサイトを拝見させていただくと、冒頭に「すべての合意をフェアにする」「契約のあらゆる課題をテクノロジーの力で解決する」と掲げていますが、これが企業としてのミッション・ビジョンなのでしょうか。

板谷

そうです。我々は「すべての合意がフェアになる社会であるべきだ」という信念のもと、それをプロダクトで実現したいと思っています。リーガルテックと言うと、法律の小難しい課題を扱っているように映りますが、我々がやりたいのは、誰かと誰かが約束して同じ方向を進むことが、低いコストかつ速いスピードで実現できる社会をテクノロジーの力で実現すること。アルゴリズムの良い点はフェアなところであり、誰が使っても同じ結果が出る。その上で、すべての合意をフェアにできるプラットフォームを創りたいのです。

この記事をPodcastで聞く

事業部、法務部、そして経営層とビジネスに関わるすべての人々の力になる。

及川

御社が掲げる「すべての合意をフェアにする」というミッションですが、契約というのは一種の闘争であり、双方が本当にフェアになりうるという社会を実現するのは極めて難しいように思います。その点についてはどのようにお考えですか。

板谷

確かに難しいミッションですが、我々は必ず実現できるという仮説をもってビジネスを進めています。まず、自然言語処理などのテクノロジーを駆使することで、その契約が標準的であるかどうか、その状況において一般的な合意であるかどうか、統計値を瞬時に出すことができます。

契約に書かれている内容というのは、ある程度パターンが決まっていて、自然言語処理技術を使うと、この条項は競業避止義務だなとか、秘密保持義務だなとか、文章の些細なばらつきを捨象して判定できるんですね。不利な条項があれば抽出してくれるので、誰でも瞬時に共通認識を持つことができる。

一方、自社で作成した契約も、特定の条件で有利な条項があれば抽出してくれるのですが、それを押し通すにはコストがかかる。おおよそ多くの契約は、交渉に時間をかけるぐらいなら、さっさと合意してビジネスを推し進めるほうがいいに決まっています。こう言うと弁護士として身も蓋もありませんが、事業サイドも有利な条項を獲得するより、自分たちが不利でなければ早く取引を始めたいと考えている。

アンフェアな合意を提示すると、ビジネスのスピードが遅くなり、余計なコストを要するんですね。こうした認識が当たり前になると、世の中の合意が自然とフェアな方向に収斂していく。アンフェアな合意を提示する側がリスクを負うという社会にすることで、合意を標準化していくことが我々の目論見です。

及川

なるほど。いわゆる社会規範が法律になっていくべきだという考え方がありますが、まさに御社の取り組みはそうですね。法律が社会を縛るのではなく、社会の実態を表すのが法律であるべきで、御社の考えが浸透すると良い社会になり、よりスピーディでダイナミズムのある経済活動が可能になると思います。

板谷

ご指摘の通りで、法律というのは民主主義で選ばれた代表者によってトップダウンで作られています。一方、契約というのはボトムアップであり、その両方がワークしないとフェアな社会は訪れない。このボトムアップをフェアにする装置、つまり法律を作る時の民主主義に相当するような装置を、いまの社会が必要としているという仮説があり、ここから我々のプロダクトが生み出されています。

及川

では、御社が提供しているプロダクトについて、もう少し詳しくご紹介いただけますか。

板谷

契約が生まれてからなくなるまで、すべてMNTSQの中で完結されるプロダクトになっています。ビジネスの当事者の事業部サイドによる契約の作成と交渉、法務部による審査、そして締結後の契約の管理まですべてワンストップでMNTSQが担う、いわゆる“コントラクト・ライフサイクル・マネジメント”を提供しています。さらに具体的にご説明すると、事業部サイドがこんな取引をしたいと考えた時、それが契約書になって出力される「自動ドラフティング」と呼ばれる機能を提供しています。システムにおけるローコード開発ツールのようなものです。

ただ、交渉が入り組んでくると自動ドラフティングでは対応できなくなるため、MNTSQ上で法務部に相談できる機能も備えています。この際、法務部内で蓄積している契約データの中から、最も近い事案をアルゴリズムで判定して提案し、過去のノウハウを参照することで審査の速度とクオリティを高めることができます。さらに契約締結後、MNTSQにアップロードすると、契約内容が抽出されて自動的に管理される仕組みとなっています。

及川

あらためてMNTSQがもたらす価値についておうかがいしたいのですが、このプロダクトはどのようなペインの解消に貢献しているのでしょうか。

板谷

いま世の中で5億件ほどの契約が締結されており、我々の試算だと日本社会で契約作業にかけている時間は10億時間に上り、2.6兆円もの人件費がかかっています。これは極めて大きなペインです。そもそも事業部サイドは、できれば契約などという煩わしいものに触りたくはなく、MNTSQの自動ドラフティングはそこにお応えしています。

一方、法務部サイドはナレッジがマネジメントされておらず、システム開発で言うところのライブラリがないため、毎回同じ作業を強いられている。そのペインの解消に向けて、過去事案をリコメンドする機能でサポートしています。さらに、法務は経営にとってもペインになっている。財務リスクはPLやBSを見れば数字で把握できますが、法務リスクはお化けのようなもので掴みにくい。MNTSQは、自然言語処理で契約の内容を抽出することで、自社に対する脅威を定量的に把握することができ、その点も大きな価値があると思っています。

この記事をPodcastで聞く

仮説を立ててベストプラクティスを更新し、ピュアなプロダクトであり続ける。

及川

御社は難しい社会課題の解決に挑まれていますが、どのような体制でプロダクトづくりを推進されているのでしょうか。

板谷

プロダクトづくりの前提として、我々が提供しているのは大企業に向けたSaaSであり、ほとんどのユーザーが売上高1000億円以上の企業です。こうしたエンタープライズ向けのSaaSは、いかにプロダクト要件を標準化させるかが難しく、我々は受託も個別カスタマイズも手がけていないため、業務要件を集約してプロダクトに落とし込むところに最も重きを置いています。

そのため、当社ではクライアント企業一社一社にコンサルタントがつき、そのコンサルタントが業務要件をお客様から吸い上げ、PMMと呼ばれているチームがお客様の要件を標準化した上でプロダクトマネージャー(PdM)に渡し、プロダクトごとに配置されたPdMが業務要件を分解して、エンジニアをディレクションしていく流れになっています。

及川

御社が手がけるSaaSは専門的であり、業務ドメインへの理解も必要かと思います。プロダクトづくりに関わる方々は、みなさんリーガル面でのリテラシをきちんと備えられているのでしょうか。

板谷

いまプロダクト開発に関わるメンバーで、入社時に法律に詳しかった人材はほぼいません。みな六法全書とは無縁で、プロダクトが面白そうだからと当社に参画した人がほとんどです。他方、及川さんのご指摘の通り、ドメインエキスパートを社内で抱えるのは非常に重要であり、私を含めて弁護士資格も持つ者が3人いて、さらに法律に精通した7~8人がリーガルチームを組み、お客様へのコンサルタントにあたっています。全メンバーのうち20%弱ぐらいがリーガルのメンバーですが、法律を学んでいない他のメンバーはまっさらな気持ちで、契約業務がどうあるべきかをむしろ批判的にディスカッションしてもらうことを奨励しています。

及川

顧客にコンサルタントが伴走するのは業務要件を吸い上げるには有効ですが、一方、顧客サイドが認識しているのは顕在化された課題だけであり、本当はその下に潜在的な課題が隠されていることをお客様自身が気づいていないケースも多々あります。そうした潜在的な課題はどう抽出されているのでしょうか。

板谷

エンタープライズ企業の方々は、みなさん強い意思と主張をもってビジネスに臨まれているので、我々も確かな仮説をもって臨まないとお客様の声に飲み込まれてしまいます。そこでドメインエキスパートである我々が、これまでの弁護士経験から「契約業務は日本全体でこう標準化すべきである」と、契約業務のベストプラクティスの仮説をまず提示しています。

それに対して指摘をいただいた上で、その本質を探り、お客様固有の課題なのか、それとも日本の契約業務一般の課題なのかを内部で討論し、一般的な課題だと判断したものだけを採用してベストプラクティスを更新。そのプロセスでは、我々が弁護士であることが強みになっています。大企業のお客様に「契約がこうあるべきだ」と訴えるのは勇気がいりますが、我々のバックグラウンドにある長島・大野・常松法律事務所は、契約法務の世界では非常に信用があるローファームであり、弁護士でもある我々の意見に耳を傾けてくださる。

ドメインの権威を上手に利用して、お客様の業務を強引にテクノロジーフレンドリーに変えようとしており、それができているからこそ、エンタープライズ相手でもSaaSが成立できる。そして、仮説に沿って単一的なベストプラクティスをアップデートする形で更新管理することで、ピュアなプロダクトであり続けられる。そこに私は、このビジネスに携わる面白味を大いに覚えています。

及川

ソフトウエア開発の部分についておうかがいします。いま御社は PKSHA Technologyと協業されています。自然言語処理は同社の技術を利用されていると思いますが、プロダクトのコアを他社に依存することに課題をお感じになられていませんか。

板谷

確かに重要な論点です。我々は、長島・大野・常松法律事務所からリーガルのリソースをいただき、PKSHA Technologyから自然言語処理技術のライセンスを受けて起業しましたが、しばらくして気づいたのは、契約分野の自然言語処理技術はこの領域に特化させ、自分たちで作ったほうが良いと。そこで、我々が独自で抱えている数十テラバイトの契約データをベースに、現在は100%内製しています。

及川

エンジニアとデザイナーも内部に抱えているのでしょうか。

板谷

フロントエンド、バックエンド、インフラ、サーチ、アルゴリズムと全領域のエンジニアを擁し、デザイナーも抱えています。同じようなプロダクトを作っている企業は海外を見渡してもほぼ存在しないので、デザインについてもどのようにカスタマージャーニーマップを描くのか、どのようなインターフェイスが法務部にとってわかりやすいのか、我々がゼロベースで考えています。私自身も、エンタープライズのSaaSでモダンなUI/UXにすることにはこだわっています。

この記事をPodcastで聞く

ゼロベースの思考力と、開発のディレクション力が求められるチャレンジングな環境。

及川

エンタープライズ向けのSaaSは、必要とされるセキュリティ要件やオンプレとのデータ連携なども、お客様に導入していただく上では重要なポイントになります。その点はどう対応してプロダクト開発を進めていらっしゃいますか。

板谷

確かにセキュリティ面はもちろん、権限の細かい設定とか、ログを取得できるようにするとかエンタープライズならではの非機能要件への要求は大きく、「守り」のための開発も分厚く存在しています。一方で、我々はテクノロジーを社会に実装する「攻め」のプロダクトを作りたいのであり、それが我々のアイデンティティでもある。そこで、チームを本質的に二つに分け、エンタープライズの堅牢な品質に慣れているIT部門を口説けるような、守りの部分を作るチームと、アジャイルにPDCAを繰り返してアルゴリズムを研ぎ澄ましていく攻めのチームを設け、それぞれにPdMを配置しています。

及川

PdMはいま社内に何人いらっしゃって、どのようなバックグラウンドをお持ちの方々なのでしょうか

板谷

現在は5名です。チームのトップは過去にGoogleなどでPdMの経験があり、規模の大きなプロダクトの開発に長けた人間です。その他の4人は、それぞれエンジニア、デザイナー、ビジネスディベロップメントなど多様なバックグラウンドを持つ人材が集っています。

及川

御社でPdMを務めるにはどのような要件が求められ、どのような人材が向いているのでしょうか。

板谷

先ほども述べましたように、我々のプロダクトは他社で似ているものはなく、すべて自分たちで業務要件を作り上げ、仮説検証を繰り返していかなければなりません。ですからゼロベースでの思考力と、それを現実的な開発に落としてディレクションしていく能力の両方が求められる。それぞれのPdMが自ら “Why”“What”を考えて“How”までドライブでき、とてもチャレンジングな環境だと思いますね。

及川

御社にPdMとして入社された後は、どのような形で育成されているのでしょうか。

板谷

ベンチャーでは珍しいかもしれませんが、我々は6か月間のオンボーディングのプログラムをしっかり組んでいます。“MNTSQ University”と銘打った教育システムを設け、最初の1~2カ月で20ぐらい講義を行い、そこでプロダクト開発の種を考えてもらって、それをもとにメンターと1on1でディスカッションしてPdMに求められる知見を深めていきます。その後、業務に入って先輩のPdMのもとで一緒にディレクションを行い、6か月後には独り立ちする流れです。

及川

それでは最後に、御社に興味をお持ちの読者の方々へメッセージをお願いします。

板谷

我々は、社会における契約のあり方を変えていくリーガルテックのプロダクトを作っていますが、もうひとつ特徴的なのが、エンタープライズ向けのSaaSを展開していることです。当社のコーポレートサイトをご覧いただければお分かりの通り、クライアントには日本の大企業がずらりと並んでいます。彼らのビジネスの基幹になる「契約」という非常にレガシーな業務を、最高のUXを備えたSaaSに置き換えるというユニークなチャレンジを繰り広げている。ある種、日本のビジネスのど真ん中にいる人たちを、自然言語処理で下支えされた最先端のテクノロジーの力でサポートしていこうとしているのです。「すべての合意をフェアにする」という我々の思想に共感してくださるお客様もたくさんいらっしゃり、既存の慣習を打ち破ってでもMNTSQを導入したいという声も多い。本当に挑戦しがいのあるフィールドが広がっており、優秀なPdMの方がジョインしてくださることを楽しみにしています。


構成:山下 和彦
撮影:波多野 匠

この記事をPodcastで聞く

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

OTHER INTERVIEW

CLOSE