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INTERVIEW

INTERVIEW 025

2022 Nov 16

顧客課題を解決していくことに、どれだけ夢中になれるか。
Shippioが向き合う貿易業界は、まさにそれが堪能できる場。

PROFILE

株式会社Shippio CPO 森 泰彦 氏

MicrosoftでOffice、Windows、Windows PhoneのPMとして従事後、Office部門のPMリードとしてグローバル市場向け新プロダクト・サービスの立ち上げを指揮。ラクスルで広告事業のプロダクトオーナー、フリーランスPdMを経て、2020年3月Shippioに参画。慶應義塾大学総合政策学部卒。

国際物流が抱える非効率を、テクノロジーの力で解消していく。

及川

まずはShippioについてご紹介いただけますか。

Shippioは貿易テックのスタートアップです。「理想の物流体験を社会に実装する」ことをミッションに掲げ、なかでも国際物流が抱える課題解決に挑んでいます。

国際物流には、輸出入を行う「荷主」、物流アセットを持つ船会社やトラック運送業者などの「物流事業者」、そして荷主と物流事業者の間に立って貨物輸送をコーディネートする「フォワーダー」の3つのプレイヤーが大きく存在します。Shippioはまず荷主とフォワーダーの業務をテクノロジーの力で効率化し、業界の新しいスタンダードを創ろうとしています。

及川

貿易業界はどのような課題を抱えているのでしょうか。

とにかく非効率な業務がまかり通っているのが現状です。コミュニケーションの手段は電話やFAXが主流で、案件の管理も紙ベースで行われており、いまなお旧態依然としたアナログの世界でビジネスが繰り広げられています。

さらに、サプライチェーンが長くてプレイヤーが多いので、各所で壮大な伝言ゲームが起こり、重複している作業も多々見受けられる。きわめて労働集約的であり、各プレイヤーにかかる業務負荷をテクノロジーで解消するクラウドサービスをShippioは展開しています。

及川

現在、Shippioは具体的にどんな事業を展開されているのですか。

いま手がけている事業は二つあります。一つはデジタルフォワーディング事業で、実際に当社がフォワーダーとしてお客様の輸出入を仲介するビジネスです。他のフォワーダーと大きく異なるのは、Shippioのクラウドサービスを使うことで非効率な作業と伝言ゲームをなくし、貿易業務を劇的に効率化していることです。現在の調査では、荷主様の業務コストを約50%削減できたという結果が出ています。

これに加えて、先日、新たにSaaS事業をスタートしました。これまではShippioが輸出入するコンテナしかクラウドサービスが使えず、貿易のDXを推進するには不完全でしたが、このSaaS事業により、あらゆる荷主様、あらゆる案件でShippioのクラウドサービスが利用できる世界をもたらしたいと考えています。

及川

プラットフォーマーを目指す企業が陥りがちなのが、机上論でサービスを開発してSaaSで提供するものの、ユーザーのニーズに応えきれずに失敗してしまうことです。まず自社でEnd to Endで完成したサービスをつくり、そこから他社が使えるものを切り出していくのは正しいアプローチだと思いますし、Shippioはまさにそれを実践されているのですね。

そもそもデジタルフォワーディングというサービス自体が業界に存在しない中、いきなりSaaSを展開しても業界にフィットしない恐れがありました。そこでまず自分たちでフォワーディングを手がけて解像度を上げ、PMFを達成したところでSaaSを起ち上げたのです。

私自身、過去にBtoBのサービス開発に携わり、そこでソフトウエアだけの空中戦をやって大きな後悔をした経験があります。リアルなビジネスに触れて、あるべき姿をきちんと理解した上でサービスを提供しないと絶対にうまくいかない。その意味でもShippioはテクノロジー企業でありながら自ら物流事業を営んでおり、それは我々の大きなアドバンテージであります。

及川

SaaSでデータが蓄積されていくと、国際物流に新たなバリューをもたらし、業界全体の物流の最適化も可能になるのではないでしょうか。

おっしゃる通りです。今回スタートしたのは荷主向けのSaaSですが、近いうちに物流事業者向けのSaaSも展開していきます。さらにデジタルフォワーディング、SaaSに次ぐ第三の事業として、自ら通関業務も手がけていく方針です。

そこから得たインサイトをもとにデジタル通関を作って横展開できれば、日本に輸出入される貨物の大部分がShippioのプラットフォーム上を通るような世界も実現できる。そこで得られるデータをもとに新しい顧客価値を次々と創り出して業界に還元できるでしょうし、これほどイノベーションの可能性を秘めた面白い業界はないと思っています。

一方で、長く歴史のある業界であり、新規参入事業者も少なく変化が起こりづらい。Shippioのプロダクトマネジメントは社会にもたらすインパクトは大きいものの、変革を起こしていくのは本当に大変であり、チャレンジしがいのある仕事だと感じています。

Shippioのプロダクトマネジメントは、顧客課題の理解が何より重要。

及川

あらためて森さんのご経歴を教えていただけますか。

私は新卒でマイクロソフトに入社し、Office部門でプロダクトマネジメントを担当していました。当時、隣のWindows部門にいらっしゃったのが及川さんで、こうして再会できてうれしく思っています。

マイクロソフトでは、OutlookやExchangeの日本向け機能をグローバルに展開するプロダクトマネジメントを手がけ、その後、日本のOffice部門がグローバルのインキュベーションチームになり、Microsoft LensやMicrosoft Swayなどのプロダクトローンチをリードしました。

そこでマイクロソフトが買収したスタートアップを一緒に仕事をする機会があり、スタートアップに大いに魅力を感じて、自分自身、マイクロソフトの看板を外してどこまで勝負できるか試してみたいという思いが募り、ネットサービスを展開するベンチャーのラクスルに転職しました。

しばらくして子供が小学生に進学するタイミングで、大自然の中でのびのびと育てたいと長野への移住を決断し、そのタイミングでラクスルを離れました。ちなみに現在も長野で暮らし、主にリモートで仕事をしています。

ラスクルを離れた後はフリーランスのPdMとして、アーリーステージのスタートアップの支援に携わっていました。もう組織に属する気はなかったのですが、そこでShippioと出会い、ファウンダーの佐藤(孝徳氏)と話をするうち、この企業の可能性に大いに惹かれて2年半ほど前にVP of Productとしてジョインしました。

及川

フリーランスですでに活躍されていた森さんが敢えてShippioに入社したのは、どこに魅力を覚えられたからでしょうか。

私は子供が生まれた頃から、日本のビジネスの国際化をライフワークにしたいという思いを抱くようになりました。私は小中高と海外で暮らしたのですが、子供の頃は素晴らしい製品はほぼ全て日本製、「日本は世界最強の国」だという印象があり、マイクロソフトに入社した当初も日本は最重要マーケットでしたが、その地位がだんだん落ちていった。自分の子供にも、やはり日本に誇りを持って、将来活躍する舞台の1オプションとして日本を検討してほしいですし、そこに貢献できることに力を注ぎたいと。

そして、いまの日本が抱える課題は国際ビジネスがやりづらいことはないではないかと感じ、個人的に貿易について調べていたんですね。日本はハードウェアの魅力的な商品が強いのに、それを世界に発信する貿易にイノベーションが起こっていない。まだ誰も手を付けていない問題であり、何とか解決できないかと考えていたところ、まさにShippioがうってつけの舞台だったのです。

及川

森さんは、日本をより良くするために貿易にイノベーションを起こしたいという志をお持ちでいらっしゃったのですね。では、Shippioのプロダクトマネジメントの組織について具体的におうかがいします。現在、御社ではプロダクトマネージャー(PdM)は何名いらっしゃるのでしょうか。

いまは4名のPdMが在籍しています。

及川

そのチームでどのように役割分担をされているのでしょうか。

基本的には1人のPdMに一つのドメインを任せています。現在、荷主向け、物流事業者向け、そしてフォワーディングとドメインが3つあるので、3名のPdMがそれぞれ分担しています。我々のプロダクト開発は、お客様の業界課題や業務フローを深く理解することが非常に重要なので、複数のドメインをカバーするのは難しいですね。

及川

PdMにはドメインへの理解が求められるとのことですが、特に貿易業界は業務が複雑で、知識を習得するのも大変かと思います。

その点、当社はフォワーダーとして輸出入のオペレーションを自ら手がけているので、ビジネスチームに貿易のエキスパートが揃っています。知りたいことがあればすぐに聞けますし、社内で勉強会もたびたび開催されています。

しかし、残念ながらこの業界は標準的なプロセスというのが存在せず、荷主も物流事業者も業務フローがバラバラなんですね。ドメイン知識も重要ですが、それよりもお客様固有の課題を探ることが大切であり、当社ではPdMにプロダクトのディスカバリー、すなわち顧客の課題特定に時間を費やすことを奨励しています。

それ以外の業務は極力減らし、たとえばプロダクトのデリバリーはほぼすべてエンジニア側で担う体制をとっており、PdMはほぼ毎日、セールスやCS(カスタマーサクセス)と一緒にお客様とコミュニケーションを取っている感じですね。

Happy Tomorrowをしっかりと描き、変化を嫌うユーザーを動かす。

及川

先ほど森さんは「この業界は保守的で変わりたくないプレイヤーが多い」とおっしゃっていましたが、変革を起こそうとすると軋轢が生じ、課題の解決策が理にかなっていても受け入れられないケースもあるように思います。プロダクト開発も非常に難しいのではないでしょうか。

まさにおっしゃる通りで、入社してからこの2年半、お客様にとって飛躍が大きすぎる世界をつくってしまったり、お客様に迎合して本質ではない課題解決に目が向いてしまったりと、いろんな失敗を重ねてきました。

そこからさまざまな学びを得て、基本的にいまのスタンスとしては、荷主様がお困りになっている事態をリサーチしつつ、なぜそれが起こっているのかを深掘りし、業務フローにおけるボトルネックをセールスやCSと議論しながら可視化することを重要視しています。

まずお客様個別の課題をしっかり理解した上で、業界全体に共通する課題を導き出し、業務フローそのものを改善するプロダクトを開発していく。一方、たとえば業界にはびこる「伝言ゲーム」をなくす業務フローを構築しようとすると、現場で実務をやられている方の中には、自分の存在価値がなくなると抵抗してなかなか受け入れてくださらない場合もあります。

そこでまず、誰もが「この業務は面倒で嫌だ」と思っているプロセスの負荷を軽減できることをフックにShippioを導入していただき、使っていくうちに自然と業務フローが最適化していくような仕掛けを意識しています。お客様のUnhappy TodayだけにとらわれずにHappy Tomorrowをしっかり描き、それを作っていく感じでしょうか。ただHappy Tomorrowへの一歩が、お客様にとっては飛躍が大きすぎる一歩だったりするので、0.3歩ぐらいづつのわかりやすい課題解決を図っています。

及川

いま森さんがお話しされたように、まずプロダクトを使っていただいて新たな体験をもたらし、プロダクトへのロイヤリティを高めて、気がついたら業務のやり方が変わっていたというのが理想ですね。

顧客のマインドを変えるのはやはり時間がかかるのですが、それでも先日、半年ほど前にShippioを導入いただいた荷主のお客様から「最初は上の人に言われて嫌々使っていたが、半年使って業務が本当に効率化し、定時で退社できるようになって人間らしい生活ができるようになった」というフィードバックをいただいたんですね。

こうして成果が出ると、お客様内でいろんな人が使われるようになり、Shippioを中心に業務を組むために組織変更したというケースも現れています。こうして少しずつ業界を変革していることを実感し、モチベーションがいっそう高まっています。

及川

御社はいま「荷主」「物流事業者」「フォワーダー」向けにそれぞれPdMを置いているとのことですが、全体を一気通貫してのプロダクトのコンセプトも必要だと思います。全体のビジョンやコンセプトはどのように設定し、どう細分化してプロダクトに落とし込み、一貫性を持って開発しているのでしょうか。

プロダクトのミッションは会社のミッションと同義で、「理想の物流体験を社会に実装する」ことです。それを果たすために、まず荷主に向かうのか、それとも物流事業者に向かうのか、大きなベクトルは私を含めて経営陣で決定しています。方向が決まったら、いまは2年の時間軸で実現したい世界観をビジネスの数字とリンクさせて描いています。

そして、その世界観を成立させるために必要な要素を細分化し、それぞれのプロダクトでObjective(目標)とKey Result(結果)を設定。2年後に実現したい世界観から、1年後、そして半年後に到達すべきゴールを逆算で明確化し、あとはそれぞれのPdMに任せて私はゴールラインまでノータッチです。CPOとしてサポートはしますが、顧客課題に常に触れているPdMの意思を尊重し、プロダクトマネジメントにはなるべく口出ししないようにしています。

及川

パフォーマンス管理にOKRを導入されているとのことですが、PdMもPL責任を負っているのでしょうか。

私自身は経営メンバーとしてPL責任を負っていますが、PdMは基本的にPLを持ちません。たとえば荷主向けのSaaSを担当しているPdMが抱える目標指標は、売上増につながる案件毎のEconomic Valueの向上。顧客数の目標はセールスに持ってもらい、PdMは案件あたりの単価を上げることを意識してプロダクト開発に取り組んでいます。

夢中になることを妨げない。そこから良いプロダクトは生まれていく。

及川

御社ではプロダクトの開発フェーズにおいて、PdMとエンジニアはどのような関係なのでしょうか

先ほども少しお話ししましたように、PdMはプロダクトディスカバリーに注力し、仕様策定も含めてデリバリーはエンジニアとプロダクトデザイナーが担う体制になっています。

スクラムには入るものの、そこでPdMが関与するのはスコーピングやリリースなどの大きな判断だけ。スクラムマネジメントもやりませんし、チケットを切ることもない。バックログを正しい優先順位にした後は、仕様をもとにチケットに分解するのはエンジニアの役割です。PdMが日々コミュニケーションを取るのは、3分の1がエンジニア・プロダクトデザイナー、3分の1がビジネスサイド、そして3分の1がお客様という感じでしょうか。

及川

PdMとエンジニアの関係が薄いと、エンジニア側が顧客課題への理解が薄くなる懸念があり、結果として良いプロダクトにつながらない恐れもあります。その点はいかがでしょうか。

PdMが担うとパワーが割かれるプロジェクトマネジメントへの手離れは良くしたいのですが、プロダクト開発のWhyの伝達には手を抜かないようにしています。エンジニアとコミュニケーションの大部分はそこに費やすことを意識しており、特に当社のエンジニアは外国人も多いので、Whyの伝達にはたいへん気を配っています。

及川

御社のPdMに求められるスキルやマインドセットについては、どのようにお考えでしょうか。

貿易業界に関わることは、私自身はとても面白いのですが、人によってはつまらないと感じられるかもしれません。

というのも、現状ではユーザーが必ずしも変わりたいと思っておらず、かつ、何か一つ変えるのに半年ぐらいかかるのが普通で、けっしてスピード感のある業界ではない。BtoCのようにアクション起こしたら3日で結果が出るようは世界とは違います。

日々大変な思いを味わっていますが、私たちが手がけているのはとてもスケールが大きく、社会的に意義のあるプロジェクトです。そこにチャレンジしたいという方、問題が難しければ難しいほど燃えるという方に、ぜひ参加していただきたいですね。

PdMの経験があるに越したことはありませんが、それよりも私たちが重視しているのはディスカバリーができる力。「虫の眼」で仮説を持ってお客様と向き合い、「鳥の眼」で俯瞰して課題を包括的に捉えて「あるべき姿」を描くことができる方を期待しています。

及川

いま「虫の眼」「鳥の眼」のお話がありましたが、そうした視点を持っているかどうかを採用時にどう判断されているのでしょうか。

「虫の眼」を持っているかどうかは、面接時にいままで向き合ってきた顧客課題についてお伺いしています。自分が取り組んできた顧客課題を前のめりに話されるような方は、やはり解決意欲が高い。

また、「鳥の眼」については、物事を構造的に捉えているか、さらに過去に正しい失敗をしてPDCAを利かせてきたかどうかを探っています。それができている方は、「鳥の眼」が身についていると判断しています。

及川

今後、Shippioはますます成長されていくと思いますが、PdMの組織をどう拡充されていくお考えですか。

少なくとも一ドメインに一スクラムユニットが必要であり、それぞれのスクラムにPdMを配置したいと思っています。いまは3ドメインなので3人のPdMでカバーできますが、先ほどお話ししたようにこれから通関業務にも進出し、また、荷主向けのドメインも一スクラムでは対応できなくなりつつあります。

1年後には8スクラムほどになると考えており、この規模にしては多いと思われるかもしれませんが、当社のPdMは他企業ならビジネスディベロップメントがやっているような課題発見からしっかりと担っており、PdMのパワーがさらに必要なのです。

及川

では最後に、Shippioでプロクトマネジメントを担う醍醐味についてお聞かせください。

まず、ひとつのドメインをまるごとお任せするので裁量は大きいと思います。

そして、これは私の主観ではありますが、Shippioは教科書通りのプロダクトマネジメントをやっており、顧客課題の発見からGo to Market、オペレーション設計、さらに市場からのフィードバック回収までPdMが責任を持って関わっていく。当社のPdMチームは「投げっぱなし禁止」であり、ど真ん中のプロダクトマネジメントをやりたい方は面白い経験が積めるのではないでしょうか。

また、プロダクトサイドとビジネスサイドの一体感が強いのもShippioの特徴であり、プロダクトが検証したい仮設とアウトカムを共有して自分ゴトとして捉え、顧客の課題を解決して新しい世界を創ることにみな夢中になっている。

こんなムードの企業は意外と少ないと思いますし、夢中になるからこそ良いプロダクトが生み出されていく。私もCPOとして、メンバーたちの夢中さを妨げないことを絶えず心がけており、これから参画される方もShippioで社会課題を解決していくことに夢中になってほしいですね。


構成:山下 和彦
撮影:波多野 匠

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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