パートナー企業からの出向者がいるくらい、期待が大きい領域。
及川
まず初めに、御社のプロダクトについて、紹介をお願いします。
植松
『Safie(セーフィー)』は、パソコンやスマホ上で映像が見られる、クラウド録画型映像プラットフォームです。当社では『Safie(セーフィー)』に対応するカメラをネットワークに接続することで、クラウドにあるサーバーにデータを自動蓄積し、そのデータをほぼリアルタイムにWebやモバイルなどで確認できるサービスを作っています。
『Safie(セーフィー)』に対応する代表的なカメラとしては、『Safie Pocket2(セーフィー ポケット2)』という誰でも、どこでも、ハンズフリーで使えるウェアラブルカメラや、『Safie GO(セーフィー ゴー)』という、建設現場で危険検知や防犯目的で利用される屋外型高機能カメラがあります。
現在、セーフィーに対応しているカメラは1000種類ほどで、そのうち、既に検証済かつ市場稼働しているものは200種類以上になります。当社でハードウェアを作らず、他社に委託したり、他社製のカメラにセーフィーのファームウェアを入れることで多種多様なカメラへの迅速な対応を実現しています。
現在は、防犯カメラなどのセキュリティカメラのクラウドサービスを中心にサービスを展開していますが、今後は映像を用いた解析や、他社サービスと連携して利用できるプラットフォームへと成長させていきたいと考えています。
及川
複数のプロダクトを展開されているとのことですが、それを創り出す体制について教えていただけますか。
植松
PdMを中心としたチームをプロダクト毎に組成しています。ハードウェアに関連するプロダクトの場合はデバイスの組み込みエンジニア、サーバーエンジニア、フロントエンドエンジニア、ディレクターで構成されています。
植松
15名ほどです。デバイス系、ウェブモバイル系、プラットフォーム系のPdMが在籍しておりまして、おおよそ3分の1ずつです。
及川
ひとつのプロダクトで、デバイス系やウェブモバイル系など組み合わせてプロジェクトが構成されると思うのですが、プロジェクト全体の方向性や戦略はどのように決めていますか?
植松
複数の領域が組み合わさっているときは、一人のPdMが企画の主旨を立て、関係するプロジェクトを巻き込んでいきます。
会社としての優先度に基づいてリソースを調整し、それぞれのプロジェクトにいつ割り当てるかを決めていきます。
及川
会社全体の方向性と、プロダクトの方向性はどう整合性をとっていますか?
経営側で決めた顧客やプロダクトに、具体的なプロダクト開発を当てはめていく「トップダウン」か、経営側はある程度の方向性を提示し、プロダクト側で数字を積み上げていく「ボトムアップ」でいうと、どちらでしょう?
植松
プロダクトサイドから見た場合、ボトムアップ型に近いです。とくに重要なプロダクトにリソースを寄せてはいますが、それ以外のプロダクトでは限られたリソースをうまく割り当てて、なるべく早くリリースできるスケジュールを立て、進めています。
及川
御社のプロダクトの企画から提供までの代表的な例を教えていただけますか?
植松
移動しながら撮影と会話が可能で、定点カメラとしても設置や装着ができ、GPS連携機能を搭載している『Sefie Pocket2(セーフィー ポケット2)』という製品があります。
大規模な工事現場などでは、作業員がどこにいるかわからないと大きな事故につながりかねません。この製品を作業員が装着し、誰がどこにいるか把握するという使い方をされています。
この製品の場合は、ユーザー様から「こういう使い方ができるようになったらいい」「こんな活用方法もある」という声を聞き、実際にプロトタイプを作って、ユーザー様に利用していただきました。そこでさらに意見をもらいブラッシュアップしていくというユーザー様を巻き込んだPDCAを回して改善していきました。
及川
意見を聞くユーザーは、どのように決めていますか?
植松
実は大手ゼネコンのほとんどが、当社の製品を利用しています。その中でも多くの台数を利用いただき、関係性が構築できている企業様を中心にヒアリングを行っています。
また、当社製品をヘルメットに装着できるような器具を自作していたり、プロモーション用の動画を制作していたりするパートナー企業経由でユーザー様にヒアリングすることもあります。
当社が特徴的なのは、大手電機メーカー、電力会社などのパートナー企業とのつながりが強いことです。パートナー企業からの出向者が社内にいるため、日常的にコミュニケーションが取れています。
及川
パートナー企業からの出向者がいるのは面白いですね。なぜでしょうか?
植松
例えば、大手電機メーカーのグループ会社では、自社でクラウド録画サービスを展開されていて、そのカメラのファームウェアを当社がOEMで提供しています。
そのため、パートナー企業は当社のファームウェアを自社サービスと捉えていて、一緒に開発や営業を行っています。
及川
御社のプラットフォームが、パートナー企業の事業にとっても欠かせない状態なのですね。プロダクトを進化させるために依頼したいことがあるので、御社に出向して組織内で働くのがいいと考えられているのでしょう。こうした取り組みはいつからされていますか?
植松
2017年9月から大手企業に出資いただいていますが、出資後すぐに出向していた方もいましたので、割と早期から取り組んでいました。
当社の場合、VCは入っておらず資本業務提携という形で企業から出資をしていただいています。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
プロダクトと営業がより一体となり、お客様と向き合うための組織変更。
及川
「映像から未来をつくる」というビジョンを掲げられています。ビジョンと照らし合わせて、自分たちがやるもの、やらないものをどのように決めていますか?
植松
いつも悩ましい問題です。実は、2021年12月に大きな組織変更を行い、お客様の業界ごとに特化した業界ユニット型のプロダクト体制にしました。各業界に対し、どのように我々のプロダクトを広めていくかを考えていくためです。
ユニットとしては、小売と建設と設備・インフラ、大きく3つに分けていますが、それら各業界にはさらに細分化された小さな業界が存在します。その一つひとつの業界の課題や、映像で解決できることを突き詰めていきながら、やる・やらないを決めています。
例えば、建設現場で多く使われている『Sefie Pocket2(セーフィー ポケット2)』を、ハウス業界の戸建てのお客様にご利用いただくなら、どんな課題が解決できそうか。まずはその点を明らかにすべく、ハウス業界の方にヒアリングしたり、戸建てのお客様を訪問して現場を見せていただいています。
及川
これまで付き合いのない業界の場合、業界への理解や知識がないと提案が難しいこともありそうですね。
植松
建設業界の場合は、前職が建設業界で詳しい知識をもつ社員がいたため、理解を深めることができました。ただし、他の業界も同様に社員を採用することは難しい面もあるので、代理店や投資会社などのネットワークで紹介してもらうこともあります。
こうしたネットワークを活用して、新たな業界の課題を積極的に見つけていき、今後も取り組んでいきたいです。
及川
会社のビジョンとは別に、プロダクトのビジョンも策定していますか?
植松
新たにプロダクトを作る際は、誰のどんな課題を解決するのか、どういったコンセプトなのかを必ず作るようにしています。
及川
御社では、PdMは事業責任をもっていますか?PdMと事業責任者の責任分界点を教えてください。
植松
現状は、以下の組織図のように、第1・第2ビジネスユニットの下に、プロダクト部と営業部が並列で存在しています。
例えば、私は第1ビジネスユニットのプロダクト部の掌握役員をしているのですが、営業サイドにも掌握役員がいて、2人体制になっています。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
及川
2人体制の場合、信頼関係や役割分担が必要になると思います。2人体制を機能させるための工夫はありますか?
植松
営業からの声はとても貴重で、プロダクトにも色濃く反映されています。だからこそ、営業との信頼関係を継続していくことが非常に大事ですし、同じお客様に一緒に向き合うことで、信頼関係が醸成されているように思います。
具体的なコミュニケーションとしては、ビジネスユニット合同で全体会を実施し、事例紹介やプロダクトの詳細を一緒に発表したり、営業からのVOCをどうプロダクトに反映させるかを伝えたりしています。
また、ビジネスユニット単位で毎月懇親会を行うなど、コミュニケーションの機会を作り続けています。
私は「プロダクトは売ってくれる人がいてこそ」だと考えています。営業は今のラインナップで頑張って売ってくれていますし、「プロダクトとして不足している部分は申し訳ない」という意識です。
日々の業務においては、ネガティブなことはなるべく早く伝え、営業からの要望に対してベストな対処が難しい場合はベターを提示することを心がけています。
及川
プロダクトと営業がコミュニケーションを取るのが当たり前という文化が醸成されているのですね。
別の質問になりますが、御社がプロダクトマネジメントと組織の体制を同じにしている理由を教えてください。
植松
一番は社内外のコミュニケーションロスを改善し、各業界のお客様により密接かつスピーディーに向き合うためです。
以前は業界ユニット型ではなく、営業部、エンジニアのいる開発部、PdMのいる企画部が独立して存在する組織体制でした。しかし、導入事例が増え、お客様の業界・課題が多様化していくにつれて、どうしてもコミュニケーションロスが発生しやすくなってしまったんです。
そのため、まずは営業とエンジニアを繋ぐ存在の企画部が各業界ユニットに入りこみ、営業と二人三脚でプロジェクトを進めていく形となりました。
また、開発部に関しても、現状はリソースマネジメント面や、フェーズ的に各ユニット間にて開発プロダクト/案件が重複しやすい面などから1つのチームで動いていますが、将来的には更に最適化できる形があると思っています。企画部〜開発部間に関しても、さらにコミュニケーションをスムーズ且つ効果的に行っていくため、連携の仕組み化に取り組んでいる最中です。
及川
プロダクトマネジメントの進め方の標準プロセスやフレームワークのようなものはありますか?
植松
プロジェクトのトールゲートは、プロジェクトキックオフの承認を行う事柄承認、BP(ビジネスプラン)承認、GTM(ゴートゥーマーケット)承認、S-in(サービスイン)判定の4つの商品会議で構成されています。それら以外の決定はPdMの裁量に任されており、各自が進めています。
プロジェクト毎にスクラムをしていたり、週次の定例をしていたりするのですが、プロジェクト数が増えてきたのでそろそろテンプレート化を進めたいと考えているところです。
及川
御社のプロダクトはハードウェアが関連しているため、OTAのような仕組みがあってもハードウェアそのものの改変が難しいという制約があるのではないでしょうか。制約を打破するために工夫していることはありますか?
植松
ハードウェアは一度作ると後戻りできない要素があります。また、ハードウェアは業務委託先の企業と相談しながら進めていますが、今の規模感ではロットが少なく、ハードウェアの品質をあげきることもなかなか難しい状況です。その点はまさに課題だと感じています。
及川
工事現場で活用されているとのことで、屋外利用などハードな環境で使用されるプロダクトは大変な部分がありそうです。
植松
そうですね。プロダクトそのものはもちろん、ハードウェアが壊れたときのオペレーションをスムーズにすることが重要だと考えています。「お客様に迷惑をかけないように業務フローをうまく回すところまでがプロダクト」という考え方です。
お客様の環境で問題なく使っていただくことをゴールだとすれば、壊れたとしてもすぐ代替品が届くならハッピーです。そのためにはリードタイムを短くしてカバーするしかないと考えています。もちろん、プロダクト自体の品質を上げていくことも必要です。
及川
プロダクトは技術の塊ではなく、「人を含めた全体としてサービスを継続させていくこと」だと捉えていらっしゃるんですね。
植松さんがそのような考えをもつようになったのは、いつ頃からですか?
植松
きっかけは、メーカーで一眼カメラにダウンロードできるアプリケーションのPMを担当したときです。周囲はハードウェアのみを重視していましたが、「今後はハードウェアをネットワークにつなげてどうなるか、という全体を考えることをやっていかなきゃいけないんだろうな」と、おぼろげに思ったんですよね。
さらに前職はオペレーションが非常に整っていた環境で、サービスの継続性はオペレーションがあってこそ、というのを身をもって体感したため、その想いはさらに強まりました。
及川
業界別ソリューションについてお聞きしたいのですが、建設業界の方はデジタルに疎い方もいらっしゃるような印象があります。プロダクトの作り方として工夫していることはありますか?
植松
例えば『Sefie Pocket2(セーフィー ポケット2)』は、スマホの操作が苦手な方でも扱いやすいことを意識しています。装着して電源を押せば撮影できる。レンズカバーを開けば録画される。ボイスのボタンを押しっぱなしにすれば話せる。といった感じで、お客様が設定など細かなことを考えずに操作できることを重視しています。やっぱりモノを使う上で操作感に障壁があると、使いたくなくなってしまいますよね。そのため、操作のハードルを下げることに注力しています。
逆にリテラシーが高い方にとっても、基本操作が容易という点で、プラスアルファ、例えば当社の製品とサードパーティーのサービスなどを組み合わせるなどして、やりたいこと・新しいチャレンジを実現していただけると考えています。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
新たな領域にチャレンジしたいPdMがフィットする。
及川
御社がPdMに求めるスキルについて教えてください。
植松
どの分野を担当するPdMなのかによって異なりますが、当社の場合、開発PMの役割も一部担うケース必要があるため、IoT、Web系、プラットフォーム系のエンジニアリング経験がある方が親和性高く、広く活躍しています。
また当社では、現場のお客様との直接の会話から課題やヒントを抽出し、要件に落とすことを重要視しています。なので、お客様のところへ行き、お客様の顔を見て、声を聞いて仕事をすることが好きな方、そういったスキルをお持ちの方はとてもマッチするのではと考えています。
及川
PdMの評価や育成は、どのように取り組まれていますか?
植松
評価については、半期に1度行っています。
一般企業と同様の定量目標と当社の7つのカルチャーを体現できたかどうかの定性評価があり、それぞれ8:2の割合です。定量目標はPdMの場合、いつ何をリリースするか、何に取り組むかをターゲットにしています。定性評価は、半期を振り返った時に、どういった行動でカルチャーを体現したかを自分で書き出すような形です。
育成プログラムは、今まさに作っているところです。まずはスキルマップを作る必要があると考えており、PdMとしての成果物やどんなプロセスを踏んでいくべきかを作成しています。
及川
育成プログラムの内容は、どんなものになりそうですか?
植松
座学は複数の書籍や動画から選ぶ形を考えています。さらに現在既に運用しているものでは、PdM座談会を隔月に1回ほど開催しています。外部のPdMを呼び、事例や課題、プロダクトをリリースする過程などを話してもらうという内容です。
将来的には、リードPdMを目指している人にイベントでの登壇もしてほしいと考えているので、育成計画に盛り込む予定です。
及川
経験談から、自分は何を盗めるだろうかと考えることは、PdMにとって非常に重要ですよね。
では最後に、御社でPdMとして働く魅力について教えてください。
植松
当社は、組み込み、AI、フロントエンド、業務システム、プラットフォームなど、技術領域が幅広く、また技術的難易度も高いため、PdMとして様々なトライができます。
例えば、デバイスを経験してきたけどWebでも経験を積んでみたいなど、どんどん新たな領域にチャレンジしていける面白さがあると思っています。
また、お客様やパートナー企業からいただいた課題・要望を、サービスの種として営業部門や開発部門とともに育て、PMFまで持っていける点にも、魅力や夢、いわゆるワクワク感を感じていただけるのではと思います。
スタートアップ・ベンチャーだけでなく大手企業出身のメンバーも多く在籍していますが、自身が手がける研究開発の成果やそれを元に作られるプロダクトが世の中に出て「負」を解決しているところを実感できる点、その実装までのスピード感に魅力を感じてくれているメンバーも多いです。
8年で320名もの組織へと拡大し日々なお増え続けている最中ですが、サービス・プロダクトでお客様の負に向き合い続けるという、セーフィーの根幹に流れる精神は変わりません。
今後もそのような志を同じくする仲間を増やし、さらに多くの現場・社会課題を解決していけるよう尽力していきます。
構成:久保 佳那
撮影:波多野 匠
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。