専門性と多様性を備えたプロダクトマネジメント組織で、多くのプロダクト開発を推進
及川
まずはGOについてご紹介いただけますでしょうか。
黒澤
GO株式会社は、2020年4月にJapanTaxiとDeNAのオートモーティブ事業が統合して生まれた企業です。社名が示す通り、人やモノの移動をテクノロジーのチカラで便利に快適にアップデートしていくことを使命に掲げています。
中核となるサービスはタクシーアプリの“GO”であり、そのほか“DRIVE CHART”というAIで運転中の危険シーンを自動検知し交通事故削減にアプローチする革新的なドライブレコーダーや、最近はモノの移動領域にも進出し、当社のタクシーネットワークを活用してフードデリバリー事業も運営しています。
その一方で、自動運転車両の社会実装やスマートシティの可能性を探る実証実験にも積極的に参画しています。
及川
黒澤さんご自身の経歴についても教えていただけますか。
黒澤
もともと製造業のソフトウェアエンジニアからキャリアをスタートし、2008年から楽天でプロダクト開発に携わるようになりました。当初はエンジニアリングマネージャーとプロダクトマネージャーの役割を兼務していましたが、社内公用語が英語化されたタイミングでプロダクト開発に関わるメンバーも急速にグローバル化し、並行してプロダクト開発プロセスもグローバルスタンダードにフィットさせる取り組みがありました。そんな中でプロダクトマネージャーの専門職化も進められ、そこからPdMとしてキャリアを重ねています。
2018年にDeNAに移籍し、プロダクトマネジメント組織の立ち上げとプロダクト開発力の強化を担いつつ、オートモーティブ事業にてタクシー配車サービスのプロダクト責任者を務めました。2020年4月よりGOに転籍しています。
及川
GOに転籍後、どのようなポジションを務めていらっしゃるのでしょうか。
黒澤
執行役員およびプロダクトマネジメント本部の本部長を務めています。
プロダクトマネジメント本部には、PdMだけではなく、プロダクトの企画・設計に一緒に関わるデザイナーやUXリサーチャー、データアナリストなども所属しています。
及川
黒澤さんが率いる組織では、PdM以外にもプロダクトに関わる専門家を多数抱えていらっしゃるようですが、どのような人員構成になっているのですか。
黒澤
現在、PdMが12名、デザイナーが14名、データアナリストが7名、そしてUXリサーチャーが2名在籍しています。企業によってはPdMがユーザーインタビューを担うケースもありますが、当社では専門のUXリサーチャーを配置しています。
ユーザーインタビューにも経験やスキルが求められ、かつその結果をフラットに分析する必要があります。プロダクトに想いのあるPdMが担当すると恣意的な誘導や判断をしてしまう恐れがあるので、第三者の専門家に委ねています。
我々の組織は専門性と多様性を重視しており、「餅は餅屋」でその道のプロが担う体制をとっています。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
事業面を担うサービスマネージャーと二人三脚で、プロダクト開発を進める体制
及川
御社ではプロダクト開発がどのように進められているのか、具体的に教えていただけますか。
黒澤
GOを例にとってご説明しますと、プロダクト開発の大きな方向性やロードマップは、プロダクト責任者である私が中心となって事業責任者や開発責任者と議論しながら進め、この3者で判断しきれないことは各部門の代表が集う経営会議に類する場で判断しています。
GOはサービスを構成するプロダクトの数が多く、ユーザー側、車載器側、タクシー事業者側および基盤まわりの3領域に分けてそれぞれPdMを数名配置しています。そして、その領域ごとに事業部サイドからもサービスマネージャーがアサインされ、PdMはそのサービスマネージャーと二人三脚でプロダクト開発を進めています。
及川
PdMと伴走するサービスマネージャーは、どのような役割を担うポジションなのでしょうか。
黒澤
PdMはプロダクトを作ることに専念し、サービスマネージャーはそのプロダクトを正しく認知してもらうためにどのようなユーザーコミュニケーションを取るべきか、価格設定は適切か、またプロモーションなどマーケティング施策も含めて、プロダクトを通して事業計画を達成するために必要な打ち手を考えて、実行しています。
及川
PdMにとって、サービスマネージャーの存在はどのようなメリットがあるのでしょうか。
黒澤
PdMがユーザーコミュニケーションやマーケティングまで一気通貫で担えれば理想的ではありますが、プロダクトを狙ったタイミングと品質でしっかり世の中に届けていくには、日々取り組まなければならないことが山のようにあります。
また、PdMに売上アップのための施策まで背負わせると、プロダクト開発が近視眼的になり、目の前の数字を求めて局所的な個別最適に陥りかねない。
もちろん事業計画達成に向けてのコミットメントは求められますが、売上拡大のための施策はサービスマネージャーが担うことで、PdMは本質的に優れたプロダクトを作ることに専念できる環境を整えています。
及川
先ほどGOはプロダクトを3領域に分けているとのお話でしたが、領域間で横連携して新たなプロダクトを企画開発するケースもあるかと思います。
その際、どちらの領域のPdMが担当するのか、あるいはどのプロダクトの開発を優先するのか、いろいろとコンフリクトが生じることもあるのではないでしょうか。それを回避するために、どんな手を打っているのかを教えてください。
黒澤
GOでは日常的に領域をまたいで複数のプロダクト開発が並行して進められており、常に10本前後のプロジェクトが同時進行しています。こうした状況になると、リソース配分などを横軸でマネジメントする必要があり、専門のプロジェクトマネージャーをアサインしています。
PdMがプロジェクトマネジメント業務を兼務すると、開発工数やスケジュールへの忖度が働いて必ず妥協する。また、横軸でマネジメントできていない組織では、複数のチーム横断で新しいことをやろうとすると、その調整にものすごくパワーがかかり、ローンチできるのは半年後、1年後、みたいなことも往々にして起こりがちです。そもそも自チーム内で完結できる案件のほうが圧倒的に楽ですから、そんな案件ばかり手がけるようになり、全体最適が図られなくなる。
そのため、当社では常にプロジェクトマネージャーをアサインして、横軸でしっかりと全体を把握しながら、優先すべき案件を最適なタイミングでローンチするためにリソースをダイナミックに再配分しています。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
PRDをしっかり書くことは、PdMとしての成長を促すことにもつながる
及川
昨今のコロナ禍で人の移動が減少し、御社を取り巻く事業環境も大きく変わっているように思います。この変化に対応するために、プロダクト開発において何か取り組まれていることはありますか。
黒澤
コロナ禍で人の移動は制限されましたが、GOは2020年9月のリリース以降、この1年間で500万ダウンロードを突破し、GO経由の配車数は5倍に拡大しています。
理由として、数少ない外出機会の質を高めるトレンドが考えられます。コロナ禍だからこそ、限られたお出かけの機会や人と会う貴重な時間を、より安心・安全・快適に過ごしたい。加えて、いつでもどこでもアプリで簡単にタクシーを呼べて、行きたい場所へ自由に行けるオンデマンド性が受け入れられています。
より快適な移動体験を実現するプロダクト作りに実直に向き合い続けることで、どのような時代においてもさらに多くの利用者から信頼を獲得していけると考えています。
及川
プロダクトマネジメントにおいて、御社で導入しているフレームワークやプロセスなどの方法論はありますか。
黒澤
プロダクトを開発する前に、PRD(製品要求仕様書)を書くことが当社のルールです。とても基本的なことですが、そのプロセスが非常に重要だと考えています。
サービス立ち上げ当初はプロダクトも取り組むべき優先課題もシンプルですが、プロダクトマーケットフィットしてユーザー数が右肩上がりに増えていくようなフェーズになると、プロダクトも複雑になり、考慮すべき要素も爆発的に増えます。
その場の議論の流れだけで物事を決めてしまうと、結果的にEnd to Endで考え抜かれておらず、多くの矛盾や見落としを招きます。PdMが責任を持ってPRDを書き、プロダクトを一気通貫で考え尽くしてもらう。それを関係するメンバーがフラットな眼でレビューすることで、優れたプロダクトを手戻り少なく開発できると考えています。
また、事業メンバーやエンジニア、QA観点も含めて、それぞれの視点からさまざまなフィードバックをもらうことで、多くの学びを得ることができます。PRDをしっかり書くことは、PdMとしての成長を促すことにもつながるのです。
及川
PdMの育成はどのように行っているのでしょうか。
黒澤
先程お話ししたように、まずはPRDをしっかり書いてもらうことを大切にしています。また、GOを例にとっても、その中にはさまざまなプロダクトがあり、その周辺ではいくつかの新規事業も起ち上がっているので、多くの開発案件を抱えています。
それぞれのPdMに任せる案件の難易度をコントロールしながら、より高度なプロダクト開発にチャレンジできる機会を提供することで成長を促しています。
及川
いま御社ではPdMが12名いらっしゃるとのことですが、どのようなバックボーンをお持ちの方々なのでしょうか。
黒澤
多種多様ですね。私のようにエンジニアからPdMへシフトした人間もいれば、マーケティングやテータ分析、デザイナーとしての知見を持つPdMもいます。
及川
多様性があることはPdM組織においてきわめて重要です。一方、御社で活躍するために必要なスキルやマインドセットもあると思います。それらをどのように定義されますか。
黒澤
まず求められるのは、当社が掲げる「移動で人を幸せに。」というミッションや、事業ビジョンへのコミットメントです。
我々が手がけているのは単なるタクシーアプリではなく、その先に「100年続く交通プラットフォームを創る」という大きな目標を掲げています。このビジョンの達成に向けて、想いを持ってプロダクト開発に臨んでほしい。
その上で当社のPdMに求められる資質としては、リーダーシップとバランス感覚ですね。リーダーシップというのは、何も力ずくでプロダクト開発を引っ張っていくことではありません。ビジネスサイドにもエンジニアサイドにも各々の主張があり、それぞれの立場で正しい。
そんなとき、プロダクトとしての「あるべき」を軸に考え、その正しい落としどころを探して両者のバランスをとることも、PdMの重要な役割です。自分の軸をしっかりと持って関係者の想いをまとめ上げ、正しいプロダクトのカタチに落とし込んでいく力が求められます。
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。
100年続く交通プラットフォームを創る、そんな我々のビジョンに共感できる方を迎えたい。
及川
「100年続く交通プラットフォームを創る」ことをビジョンとして掲げられているとのことですが、そこにはどんな想いが込められているのでしょうか。
黒澤
いま我々はタクシー配車アプリのGOを展開していますが、これは100年続く交通プラットフォームへの入口だと捉えています。すでにGOでは、全国10万台のタクシーをネットワークで繋ぎ、アプリで簡単に呼べる仕組みを実現しました。
この仕組みを使えば、さまざまな状況やニーズに応じて、いつでも乗りたい車両をお届けすることができるようになります。それは乗り合いの車両であったり、自動運転車両であったり、シェアリングされた自動車かもしれません。
既存の交通インフラに合わせて、場所や時間の制約を受けながら生活するのではなく、自らのライフスタイルや、新たな都市の形に最適なモビリティをオンデマンドで利用できる、そんなプラットフォームを我々は創りたいのです。
「100年続く」という言葉には、我々の子供の世代だけでなく、孫の世代にも使われるプラットフォームを創りたい、という想いが込められています。
及川
PdMの採用にも力を入れているとのことですが、黒澤さんとしてはどんな方に応募していただきたいとお考えですか。
黒澤
やはり我々の掲げるミッションや事業ビジョンに強く共感してくださる方、加えて、我々は専門性と多様性を重んじているので、PdMとしてより高いスペシャリティを持ってキャリアを積んでいきたいと考えている方にとって、大きなやりがいを持って働いていただける環境だと思います。
同じチーム内にさまざまな個性を持つPdMやデザイナー、UXリサーチャーやデータアナリストがいるので、日々彼らと壁打ちして、互いに刺激を受け、学び合いながらプロダクト開発に取り組むことができる。
PdMとしての能力バランスに凸凹がある方も大歓迎です。尖った個性はきっと他のメンバーにも良い影響を与えてくれますし、足りない能力はチームでサポートできる。
チームで協働できる体制だからこそ、より高いパフォーマンスが発揮できるのではないかと思っています。
及川
PdMの採用プロセスについても教えてください。
黒澤
採用プロセスは非常にシンプルで、面接ベースで進めています。一次面接でスキルチェックを行い、二次面接でキャリア志向やチームフィット、最終面接で当社で働く仲間としてのフィット感を見ています。
及川
では最後に、GOのPdMの魅力をアピールしていただけますか。
黒澤
昨今、DXが社会の重要なテーマになっていますが、交通業界は重要な社会インフラを担っているからこそ、自らリスクをとって変革することが容易ではありません。だからこそ、我々のように高い技術力を持ち、独創的なプロダクトで変革していくことのできるプレイヤーが求められています。
当社にはビジネスサイドにもエンジニアサイドにも専門性と多様性にあふれたメンバーが揃っており、まさに交通プラットフォームの変革を実現していくトップランナーだと自負しています。IoTプロダクトの開発に精通したメンバーやAI人材が豊富に在籍しているのも当社の特徴です。
そんなスペシャリストたちと協働しながら、世の中の「移動」をより便利で快適なものにアップデートし、社会を正しく前進させていく。そんなプロダクト開発をリードしていけることこそ、GOのPdMの魅力だと思います。
構成:山下 和彦
撮影:波多野 匠
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。