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INTERVIEW

INTERVIEW 012

2021 Jan 14

マーケットに支持され、ユーザーの心を動かせるのは
「ロマン」と「ソロバン」を併せ持ったプロダクトだ。

株式会社リクルート
執行役員(プロダクト本部 教育・学習)
山口 文洋氏

山口 文洋氏(リクルート)のプロダクトマネージャーインタビュー

PROFILE

株式会社リクルート
執行役員(プロダクト本部 教育・学習)
山口 文洋氏

大学卒業後、2003年からITベンチャー企業にてマーケティング・システム開発を経験。2006年リクルートへ中途入社。進学事業本部で事業戦略・統括を担当したのち、メディアプロデュース統括部に異動。社内の新規事業コンテストでグランプリを獲得し、受験サプリの立ち上げを手がける。2012年にRMP統括部長、2013年ネットビジネス本部本部長、2015年4月より代表取締役社長を経て、2019年4月より現職。

INTERVIEWER

及川卓也 プロフィール

及川卓也 プロフィール

MicrosoftにてWindowsおよびその関連製品の開発を担当した後、Googleに転職し、ウェブ検索やGoogleニュースのプロダクトマネジメントやGoogle Chromeのエンジニアリングマネジメントに従事。その後、Qiitaの運営元であるIncrementsに転職。独立後、プロダクト戦略やエンジニアリング組織作りなどで企業への支援を行うTably株式会社を創業。2017年よりクライス&カンパニー顧問。

及川卓也について READ MORE

教育産業にイノベーションを起こし、社会の教育格差を是正するプロダクトを。

及川

山口さんは、リクルートのオンライン学習サービスの「スタディサプリ」を起ち上げられたプロダクトマネージャー(PdM)でいらっしゃいますが、まずはご自身の経歴を教えていただけますか。

山口

私がリクルートに入社したのは2006年、28歳の時です。それまでは大手SIer系のERPパッケージベンダーでSEを務めていました。私は学生時代に公認会計士を志し、会計の知識が多少あったのでERPのなかでも会計系のモジュールの開発を担当。そこで会計モジュールをインストール型ではなく、サブスクリプション型のWebサービスとして提供する仕組みを創るプロジェクトにも参加し、プロダクトマネジメントも経験しました。が、所属していた企業が売却されることになり、私も新天地を求めてリクルートに転職しました。

及川

「スタディサプリ」は、どのような経緯で開発に至ったのでしょうか。

山口

実は、リクルートに入社後はプロダクトマネジメントではなく、事業企画や戦略策定を担うポジションに就き、教育事業に関わることになりました。当時の教育事業は、高校生の進路選択の際に情報を提供し、大学や専門学校とのマッチングを図るという、まさにリクルートらしいビジネスを展開していました。しかし成長が鈍化していて、ブレイクスルーするのに苦戦していたんですね。そこで、私なりに教育業界のマーケットをインサイトすると、イノベーションの種がいくつもあることがわかってきた。特に注目したのが塾・予備校の業界。まったくネット化されておらず、アナログな手法で高価なサービスが提供されていて、この市場は変革できるチャンスが大いにあると。私がアクションを起こしたのは2010年頃ですが、すでにスマートフォンが広く普及し、子供たちがYouTubeを観るのも当たり前になりつつありました。そこに、大手予備校が通信衛星で実施していたビデオ授業のようなコンテンツを配信すれば、従来の塾や予備校の授業料と比べて圧倒的な低価格で学習サービスを提供できる。それは、経済的な理由による社会の教育格差を是正する上でも、非常に価値のあることだと思い、スタディサプリのビジネスモデルを社内の新規事業コンテストに出し、事業化の機会を与えてもらいました。以来、このサービスをゼロから立ち上げ、現在に至るまで事業責任者を担っています。

及川

山口さんは2015年から2019年まで、教育事業をカバーしている事業会社のリクルートマーケティングパートナーズの社長も務められています。

山口

ええ。おっしゃる通りリクルートマーケティングパートナーズの社長をしばらく務め、結婚情報サービスの「ゼクシィ」や中古車情報サービスの「カーセンサー」のプロダクト開発のトップも兼務していました。しかし、私が本当にやりたいのは事業や組織を取り締まることではなく、マーケットに入り込んでプロダクトを創り、それを磨き上げていくこと。あらためてそう感じて、やはり想いのある教育事業に専念したいと2019年に社長の座から降り、以来、リクルートの教育事業全体の責任者を務めています。

国内外で多様な学習支援事業を、内製かつワン・プラットフォームで推進。

及川

ではあらためて、山口さんがいま統括されているリクルートの教育事業について具体的に紹介していただけますか。

山口

大きく二つあります。ひとつは創業以来からの歴史を持つ、高校生の進路選択支援事業。そしてもうひとつは、ここ10年ほどで新たに起ち上げた学習支援事業です。前者は、偏差値に依存せず高校生に進路を選択してもらうサービスで、キャリア教育から始まり、自分のやりたいことを実現するためにはどんな学科で、どんな教授から学ぶべきかという情報を提供し、本質的な進路選択を支援しています。高校に向けてネットメディアを使ったキャリア教育の授業も展開しており、すでに全国の高校の4割がこのサービスを活用しています。
そして後者の学習支援事業は、さらに4つの領域に分かれていて、ひとつは小中高校生の受験勉強や普段の学習に、プロ講師による授業動画を配信するBtoCオンライン学習サービスの「スタディサプリ」です。さらに、このスタディサプリの機能を学校内で活用したいとのニーズに応え、先生向けのラーニングマネジメントシステム「スタディサプリ for TEACHERS」を提供しており、このBtoBサービスが二つ目の領域です。また、大学生や社会人に向けてもオンライン教育を提供できないかと考え、大きなニーズのある英語教育をターゲットにした「スタディサプリENGLISH」をまず起ち上げました。このリカレント教育にも対応するBtoCサービスが3つ目の領域です。「スタディサプリENGLISH」は順調に伸びており、企業の語学研修に活用される例も増えています。そして4つ目の領域が、海外事業。「スタディサプリ」のコンセプトを、日本と同様に受験のシステムがある東南アジアの新興国に展開しようというものです。こうした国々では塾や予備校などの教育産業も盛んで、少ない収入でも我が子の教育にかなり投資している親御さんも多い。一方、スマートデバイスの普及は非常に進んでおり、低価格で高品質なオンライン教育サービスを提供するこのビジネスが成功する可能性は大きい。すでにフィリピンとインドネシアで「Quipper」というブランドで展開しており、どちらもEdTech市場でトップを争うサービスに短期間で成長しています。

及川

幅広いサービスを展開していらっしゃるのですね。リクルートの教育事業の全容が理解できましたが、実際にプロダクトはどのような体制で開発されているのでしょうか。

山口

リクルートのプロダクト開発は、基本的に企画や仕様策定などの上流工程と開発のディレクションだけを社内で担い、開発工程の大半はパートナー企業と協業するSIモデルをとっていますが、「スタディサプリ」をはじめとする学習支援事業は、私の意向ですべて内製しています。というのも、以前にERPパッケージの開発に携わった際、パートナーモデルと内製モデルを両方経験し、内製のほうが品質やスピード感に勝ると感じていました。また、当初からグローバルを意識し、このスタディサプリで世界各国の教育環境格差の解消を図りたいとの思いから、「スタディサプリ ENGLISH」以外のサービスは海外に容易に展開できるようワン・プラットフォームで開発してきました。組織としては、進路選択支援事業と学習支援事業を合わせた5領域でプロダクトマネージャー(PdM)とテクニカルプロダクトマネージャー(TPdM)がそれぞれ約30名、そしてエンジニアが約120名います。

及川

PdMとTPdMは、それぞれどのような役割分担になっているんでしょうか。

山口

簡単に言うと、PdMは“What”、すなわち何をどんな目的で作るのかということに対して権限を与えています。一方、TPdMは“HOW”、すなわち“What”をどのように作り上げるのかということに対して権限を持ちます。社内では、PdMは「見立て」、TPdMは「仕立て」を担う役割だと言っています。

創りたい世界は、“Distributors of Wisdom”。

及川

山口さんが率いる教育事業でのプロダクト開発の流れを教えていただけますか。

山口

この教育事業には5つの領域があるとお話ししましたが、それぞれシニアPdMというポジションを設け、そこに就く人間が“ミニCEO”として各領域のプロダクトマネジメントを担います。まず半年ごとに、私と5領域のシニアPdMとでプロダクトのロードマップを作り、そこでは新機能の開発や既存機能の改善だけではなく、取り組まなければならない技術的な負の遺産の解消や開発基盤の整備なども踏まえ、バランスのいいリソースポートフォリオを組んで向こう半年間の大枠を決めています。それを基に、各領域において2週間のサイクルで定例会議を実施し、プロダクトの開発サイクルを回しています。

及川

開発時において、 アウトプットのクオリティを統一するために共通して導入している方法論などはありますか。

山口

TPdMにはスクラム研修を受けてもらい、基本的にスクラム開発の考え方をベースにサイクルを回しています。ただ、BtoBとBtoCでビジネスのスピードが異なるので、そこは個別で最適化を図っています。

及川

先ほど山口さんはPdMを“ミニCEO”と表現されましたが、こちらの教育事業では、PdMはどこまで収益責任を負うのでしょうか。

山口

各領域でPdMがすべて収益責任を負う形になります。半年ごとの開発のロードマップを決める前段で、マーケティングのチームと連携して売上計画を立て、目標となる新規会員の獲得数やチャーンレートを設定し、PdMが自ら経営会議で起案して承認を取ることになります。収益に責任を負うからこそ、PdMに委ねられる権限も大きい。一方、TPdMは収支ではなく、達成すべきことをQCDに沿って成し遂げていく責任を担います。

及川

どんなプロダクトを開発するかという方向性は、一般的にはミッションやビジョンに基づいて決められるものだと思いますが、御社ではどのような判断基準が設けられているのでしょうか。

山口

私たちも基本的にビジョンドリブンでプロダクトの開発を進めています。私たちが掲げているのは“Distributors of Wisdom”というビジョン。すなわち、私たちが創るプラットフォームの上に人類の叡智を流通させることで世界を変えていきたいのです。現状はまだ“Wisdom”には至っておらず、“Distributors of Basic Knowledge”のレベル。国語・数学・理科・社会・英語の基本的な学習コンテンツを流通させる仕組みは築き上げつつありますが、ゆくゆくはこのプラットフォームを子供も大人も活用できる、豊かな人生に必要なリベラルアーツを学べるものにしたい。また、“Wisdom”というのは“Knowledge”がぶつかりあって生み出されるものであり、このプラットフォーム上で世界の人々がインタラクティブにコミュニケーションできる環境も実現したいと思っています。

及川

“Distributors of Wisdom”は非常に良いビジョンだと思います。印象的で記憶に残り、程よく抽象的で、かつ具体的なイメージも湧き、PdMがどこに進むべきか判断しやすい。このビジョンに沿った価値のあるプロダクトを企画開発するために、PdMの方々はどのようにマーケットインサイトを得ているのでしょうか。

山口

これはリクルートの大きな特徴だと思うのですが、ユーザーインサイトはもちろん、クライアントインサイトもとてつもなく強力なんですね。営業組織がお客様に深く入り込み、本質的な課題を拾って来てくれますし、自ら一緒に拾いに行くこともできる。だから本当にマーケットにフィットしたプロダクトの要件や価値を整理できるのです。こうした土壌もあって、新しいプロダクトやサービスを起ち上げる際には徹底的なマーケットインサイトが積み重ねられ、これなら成功できると誰もが納得する計画がないと事業化されません。単なる思いつきの仮説は相手にされませんし、また、とりあえずフリーミアムでユーザーを集め、マネタイズは後で考えるというスタンスも、リクルートではありえない。ここまでやるからこそ成功確率の高いプロダクトやサービスを創り出せるのだという、そんな生々しい現場を体で学ぶことができ、それはPdMとして貴重なキャリアになると思いますね。

「ソロバン」だけでは計れないマーケットだからこそ「ロマン」が重要。

及川

では、山口さんが率いる組織では、具体的にどのようなスキルやマインドセットを持つプロダクトマネジメント人材を求めていらっしゃるのでしょうか。

山口

優れたプロダクトマネジメント組織というのは“ダイバーシティ&インクルージョン”が実践されており、そこから新たな価値をもたらす化学反応が起こると考えています。ですから、技術に詳しい人でも、マーケティング経験者でユーザー理解のある人でも、営業経験者でお客様を知っている人でも、コンサルティング経験者でロジカルな思考が得意な人でも、どんな人材でもいい。多様な個性が集まってチームが構成されるのを私は良しとしています。ただ、その根底として、担当するプロダクト領域に対して「ユーザーはこんな負を抱えているのではないか」「こんな仕組みをもたらせればユーザーが喜ぶのではないか」などと貪欲に探求し、やりたいことを発信できる姿勢を求めています。いま文科省が「主体性教育」を掲げ、自ら主体的に課題設定して探求する人材の育成を謳っていますが、まさにそれを実践できる人材を求めていて、採用面談の際にはいろんな観点から確認しています。

及川

いまお話のあった「自ら主体的に課題設定して探求できる人材」というのは、面談でどのように見極めていらっしゃるのでしょうか。

山口

過去の経験のなかで、好きなこと、夢中になったことにどれだけ没入したかというエピソードをよくうかがっています。そのうえで、挫折した経験があればぜひそれも聞きたい。
本当に興味のあることには、意欲的な目標を設定するでしょうし、それがアスピレーションであればあるほど失敗の可能性も大きくなる。失敗してしまった時、目標と現実のギャップをどう内省し、どんな想いをもって次のアクションに繋げていったかという話から、その人の胆力のようなものを見ています。

及川

では最後に、こちらでプロダクトマネジメントを担う醍醐味を、転職をお考えの方々に向けてアピールしていただけますか。

山口

教育事業も含めたリクルートマーケティングパートナーズのサービス領域に限ってお話しすると、私たちはライフイベントに関わるプロダクトを創っています。結婚を支援する「ゼクシィ」も、中古車購入を支援する「カーセンサー」も、どちらも人生の貴重なイベントに関わっていくもの。教育事業も、進路選択という人生の重大な局面に関わり、自分が望む道に進む力をつける学習を支援するものです。こうした結婚や自動車購入、そして教育のあり方について、世の中の人々がもっと幸せになれる形に私たちは変えていきたいと思っています。しかし、どれも人生で一度か二度しかないイベントであるため、すでに経験された人の話は参考にならない。現状のマーケットをファクトベースで分析するのは重要ですが、それだけではイノベーションには繋がらない領域なのです。リクルートでは、新しいイノベーションを生み出し、世の中を変えていくには「ロマン」と「ソロバン」が必要だとよく言われます。「ソロバン」、すなわち事業を成立させる科学的な根拠の上に、こんなプロダクトがあれば人々に喜んでもらえるという、アーティスティックな「ロマン」を加えることで、本当にユーザーの心を動かせるのだと思っています。

及川

PdMに「ロマン」と「ソロバン」が必要だというのはまさに言い得て妙で、私も大いに共感します。プロダクトマネジメントは、現状を最適化して収益を向上させる「ソロバン」が重視されがちですが、本来はユーザーが気づいていない価値を提供し、新しい未来を創り出していく素晴らしい仕事。リクルートなら「ロマン」を大いに発揮できるということですね。

山口

ええ。この「ロマン」と「ソロバン」をどちらも兼ね備えたプロダクトが、マーケットから支持を得て愛されていく。私たちが手がけるプロダクトはユーザーから本当に感謝いただける機会が多く、単純ですがやはりそれが大きなやりがいです。PdMとしてキャリアアップをお考えになられている方とともに、もっとそれを堪能していきたいですね。

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