エンジニアバックグラウンドを持つPdMがより重要に。
及川
いまエムスリーでは、プロダクトマネジメントの観点からどのような課題を抱えていらっしゃるのでしょうか。
山崎
現状での当社の課題は、企画バックグラウンドのプロダクトマネージャー(PdM)に加えて、エンジニアバックグランドを持つPdMをもっと増やしていきたいということですね。
及川
その背景を教えていただけますか。
山崎
当社は2000年の創業以来、2つの側面から事業を拡げてきました。
ひとつは、医療従事者にニュースやコンテンツを提供する情報ポータルの「m3.com」で、メディアとしての側面です。
もうひとつは、パーミッションを取得した医療従事者に向けて必要な医薬品の情報を配信する「MR君」や「Web講演会」などWebアプリケーションとしての側面です。
すなわち、メディア的な側面で集客し、アプリケーション的な側面でさらに詳しい情報を届けるというコンビネーションによって、我々は医療従事者の間で強固なプラットフォームを築くことができました。ですから、本来2つのタイプのPdMが必要なんです。
プラットフォームをメディアとして進化させ、グロースハックを追求するタイプのPdMと、その上で動くWebアプリケーションやモバイルアプリケーションをゼロイチで作れるタイプのPdM。それぞれ求められる知見は異なりますが、私がエムスリーの事業に関わるようになった2009年当時、社内では企画バックグラウンドのPdMが主流で、アプリケーション開発をリードできるようなエンジニアバックグラウンドのPdMはほとんどいなかったですね。
及川
エンジニアバックグラウンドのPdMが少ない状況で、「MR君」はどのようにして開発が進められたのですか。
山崎
創業当時はビジネスサイドから提案されたビジネスモデルを、企画バックグラウンドのPdMが製品仕様に落として、エンジニアが形にする形式が多かったと聞いています。
リリース後はビジネスサイドが集めてきた顧客のフィードバックとA/Bテストなどをインプットとして、企画バックグラウンドのPdMがPDCAの施策を提案し、プロダクトチームはROIの高い順にとにかく実装していくというスタイルが主流でした。
この手法はビジネスモデルが強力な場合はメリットも多いのですが、プロダクトがより多様化し、差別化により競争優位を保つ必要がある昨今は、ある種のデメリットもあると感じています。
及川
そうした方法でプロダクトを開発している企業はいまでも多いですね。黙っていても案件があるので、リスト化されたバックログを上からこなしていくだけでプロダクト開発が進んでいく。アーリーステージならそうしたやり方でも回っていく。
山崎
エムスリーでトップレベルのPdMは代表の谷村(格氏)なんです。
「MR君」や「Web講演会」もそうですが、誰のどんな問題を解決すべきか、誰をどれだけ幸せにするかというプロダクトの本質を彼が定義するんですね。
そうして解決すべき課題が設定されると、ビジネスサイドのメンバーが、市場規模や顧客ニーズ、本質的な課題がどこにあるのかを調査していく。ビジネスサイドは戦略コンサルの出身者が多く、そうした分析に長けた人間が集まっています。
そして、企画バックグラウンドのPdMがそれに対するソリューションの検討やITでどう実現するのかおおよそ道筋を立て、エンジニアが実際に形にしていくという流れです。
この進め方が悪いとは思いませんが、エンジニアバックグラウンドのPdMがこれをサポートできれば、システムやアプリケーションの面でさらに強力なソリューションが生み出せる可能性がさらに高まります。
特に新しいプラットフォームを構築したり、動画配信やクラウド対応、スマホ対応などの新たなアプリケーションの開発が必要とされる時代には、やはりエンジニアリングの知見を持つPdMがプロダクトに関わったほうが絶対にクオリティが上がると思っています。