既存の金融サービスの高解像度で捉え、まだ手が届いていない課題を解決。
及川
まずはスマートバンクという企業についてご紹介いただけますか。
稲垣
スマートバンクは、かつてフリマアプリの「フリル」を開発したメンバーが2019年に立ち上げたスタートアップで、フィンテックのスマートフォンアプリ「ワンバンク」を提供しています。この「ワンバンク」は、簡単に言えばコンシューマー向けに家計管理や決済、あと払いなどの金融サービスを提供するアプリです。2025年の3月まで「B/43」という名称でしたが、より多くの人に馴染んでいただけるよう、大規模なアップデートのタイミングで「ワンバンク」というわかりやすいサービス名に変更しました。
及川
スマートバンクの現在の組織や事業の規模についてお伺いしてもよろしいですか。
稲垣
現在、正社員で70名弱、その他の雇用形態の方も含めると80名ほどの組織です。スタートアップのフェーズとしては、2024年にシリーズBの資金調達を実施し、次のシリーズに向けて動いています。事業の規模感についてご説明すると、「ワンバンク」はリリース3年で100万ダウンロードに到達しました。その後も順調に伸びていてそろそろ200万ダウンロードが視野に入っています。この「ワンバンク」は決済サービスも提供していますが、毎月二桁億円のトランザクションが生まれており、めきめきと利用額が増加している状況です。
及川
コンシューマー向けのフィンテックの領域は競争が激しく、特に「ワンバンク」のような機能を提供している競合プレイヤーは多々存在しています。そんななかで「ワンバンク」の強みはどこにあるのでしょうか。
稲垣
おっしゃる通り、この領域は競合プレイヤーが多数存在しています。しかし、それぞれの領域を少し解像度を上げて捉えてみると、実はまだ解決されていない課題や捉えられていないニーズが多く存在しています。そうした課題やニーズを見つけて価値を生み出すことに、我々のプロダクトの特異性があると考えています。たとえば決済の領域で言うと、我々が提供する主力プロダクトのひとつに「ワンバンク ペアカード」があるのですが、これは一つの口座に対して二枚の専用プリペイドカードを発行し、二人でこのバーチャルな財布を共有できるというもの。この説明では、いわゆるクレジットカードの家族カードをイメージされるかもしれませんが、実は家族カードの多くは婚姻関係がなければ発行できなかったり、あるいはカードの契約者しかアプリを閲覧できなかったりするんですね。一方、我々が提供する「ワンバンク ペアカード」は、婚姻関係がなくても利用可能であり、二人とも同じアプリを見ることができます。まさに同じ財布を使う感覚で、お金の出入りも透明なので、同棲されているカップルの方々に支持いただいています。
及川
御社の特徴がよく理解できました。それでは、稲垣さんご自身の自己紹介もお願いできますか。
稲垣
いま私はスマートバンクのひとつのサービス領域の事業責任者と、この領域でのプロダクトマネージャー(PdM)を務めています。「ワンバンク」は一個のアプリですが、実はその中で先ほどお話しした「ペアカード」のようなサービスを複数展開しており、サービス領域ごとにミッションチームという事業体を設けています。私は「家計管理」の領域のチームを率いつつ、プロダクトマネジメントも担っています。
スマートバンクに入社する以前の経歴をお話ししますと、新卒でDeNAに入社し、ソーシャルゲームのプロデューサーからキャリアをスタートしました。そこでプロダクトマネージャー的な仕事を経験し、他の領域でも同じような動きで新しいサービスを開発してみたいと、社内異動してヘルスケアの領域に関わることに。そちらで新規事業開発などに携わり、ゼロから事業を起ち上げる面白さに魅せられ、医療系のスタートアップに転身してPdMや事業責任者を経験した後、スマートバンクに参画しました。
及川
ヘルスケアの領域から、まったく毛色が異なるフィンテックの領域に転身されたのは、どのようなお考えからですか。
稲垣
実は私自身、事業ドメインにものすごくこだわりがあるわけではなく、どちらかと言えば多様な領域でプロダクトづくりに挑戦してみたいタイプです。私の原体験は新卒で経験したゲーム開発を通じた「ものづくり」であり、それを非ゲーム領域で生かしてみたいという思いがあります。これまではヘルスケア領域でその思いをかなえてきましたが、今度はフィンテック領域を手がけてみたくなったという感じでしょうか。
