戦略リターンと財務リターンを両立させるCVCを世の中に仕掛ける。
Spiral Capitalグループは、一般的な独立系のVCとは異なるストラクチャーを組まれているとおうかがいしました。まずは御社がどのような事業を営まれているのかご説明いただけますか。
それではあらためて、お二人のご経歴をお伺いします。鎌田さんはSIPに参画されるまで、どのようなキャリアを積まれてこられたのでしょうか。
鎌田
私は工学部の出身で、ITに興味があったことからフューチャー・アーキテクトに新卒で入社しました。そちらで3年間ITコンサルティングに関わりましたが、もっとビジネス寄りの経営コンサルティングを手がけてみたいとボストン・コンサルティング・グループに転職。その後、MBA取得のための米国留学を経て、それまで経験がなかったコーポレートファイナンスの領域にも幅を広げたいとゴールドマン・サックスに移籍し、投資銀行業務に11年ほど携わった後、2022年よりSIPに参画しています。
経営コンサルや投資銀行で豊富な実績をお持ちの鎌田さんが、キャピタリストを新たなキャリアとして選ばれたのは、どのようなお考えからでしょうか。
鎌田
私としては、大企業のアドバイザー的なポジションが自分の性に合っていると感じていました。一方でバックボーンが理系なので新しいテクノロジーにも興味があり、それらを駆使して新たなビジネスを生み出すスタートアップにも関心を持っていました。留学したビジネススクールの同級生もスタートアップを志向する人が多く、そのダイナミズムを身近に感じていたので、何らかの形でスタートアップを支援したいという思いもあり、前職の投資銀行でもスタートアップ投資を何件か実行しました。
そんななか、ご縁があってSIPに参画したのですが、CVCファンドは大企業のオープンイノベーションを支援しつつ、スタートアップの成長も支援して両者を橋渡しするものであり、非常にチャレンジングで社会的な意義も大きい仕事だと感じました。加えて、かねてより大企業のオープンイノベーションへのニーズは非常に大きいと感じており、私の経営コンサルや投資銀行での経験も活かしながらお役に立てるところがあるのではないかと、新たなキャリアへの転身を決意した次第です。

キャピタリストを志すコンサル・投資銀行出身者にとって、ここは絶好の入口。
続いて、魏さんのご経歴を教えていただけますか。
魏
私は早稲田大学の国際教養学部でリベラルアーツを学び、在学中に英国マンチェスター大学への留学も経験しました。当初、特に専門を絞らず、幅広く知識を吸収して自分を高めていきたいと考えていましたが、留学先で事業計画の立案という実践的な授業を受け、それがとても面白かったこともあって、ファイナンスを自分の強みにしてキャリアを築いていこうと。その軸で卒業後の進路を考え、さらにいろんな事業会社の経営を学びたいという思いから、投資銀行であるモルガン・スタンレーMUFG証券をファーストキャリアに選びました。
同社では資本市場部門に在籍し、海外の機関投資家向けのマーケティングを主に担当しました。資金調達したい大企業をカバレッジする部隊と、投資家側をカバレッジする部隊の間に立ち、私にとっては両方の知識を吸収できる絶好のポジションでした。3年ほどその業務に携わり、大企業のお客様の資金調達をチーム一丸となって成功に導くのはとてもやりがいがあり、学びも多かったのですが、やはりどうしても局所的にお客様の経営を支援することになり、そうした状況に徐々に物足りなさを覚えるようになりました。もっと企業の経営全般に関われる機会を得たほうが、私個人の成長にもつながると考え、2025年の1月にSIPに転職しました。
さらなる成長を志向されていた魏さんが、投資銀行の次のキャリアとしてVC、なかでもSIPを選ばれたのはどうしてですか。
魏
シンプルな回答ですが「私自身が本当に身につけたい力が得られる場だった」ということでしょうか。前職はプロダクトごとにチームが分かれていて、それぞれニッチな専門領域で特定のソリューションを提供していく体制でしたが、たとえば私が一歩外の世界に出て何か事業を始めたいと思った時、アーリーのステージから成長させていくためにはどんな戦略が必要で、どんな問題に直面してどう解決していくのか、それらをトータルに学べるのがVCではないかと考えて転職活動を進めていきました。
なかでもSIPに惹かれたのは、面談でお会いしたキャピタリストの方々からとても好印象を受けたからです。多様なバックボーンをお持ちの方々が集っているにも関わらず、共通した資質や価値観が感じられて、ここなら私もフィットしそうだと思いました。加えて、CVCを手がける機会があることもSIPを選択した大きな要因です。大企業にもスタートアップにも関われることができ、かつその間に立つポジションというのは、私がそれまで担ってきた投資銀行での業務と通じるところがあって、学びを得つつ自身のバリューを出せるのではないかと思ったのです。
鎌田
大企業のCVCを手がけることは、いま魏も申しました通り、未経験者がキャピタリストとしてスタートするには絶好の入口だと思います。コンサルや投資銀行の出身の方であれば、大企業に対する提案業務などのご経験をお持ちでしょうし、またスタートアップに対しても、通常のキャピタリストと比べてバリューを発揮しやすい。というのも、スタートアップ側は「大企業と事業連携したい」というアングルが明確なので、どのように提携すれば両者にとってプラスになるのかを考え、自らが窓口となって両者を結びつけることで、わかりやすく付加価値を生み出せると思います。
キャピタリスト未経験でSIPに参画された魏さんは、入社後どのようにキャッチアップされたのでしょうか。
魏
最初は、鎌田をはじめ他のキャピタリストの面談に同席し、それを受けていろいろな分析をしたり、次のプロセスに進むべきかどうかを先輩方と壁打ちしながら判断するなど、徐々に委ねていただくような形でVC業務の基本を把握していきました。また別の案件では、投資決定後のクロージングまわりの業務を担うなど、たくさんの成長の機会をいただいていますし、一人で自走するだけではなく、常に周りに相談しながら新たな知見を得られる環境です。私はSIPに参画する際、スピード感を持って網羅的に能力を高めていきたいと思っていましたが、まさにそれがかなっていると感じています。
鎌田
我々は複数のCVCファンドを運営しており、投資の件数も非常に多いので、魏のようなジュニアのメンバーも、早くから案件のさまざまなフェーズに携われる機会があります。彼女も入社数カ月で、運営するCVCファンドのLPへの投資先プレゼンをすべて自分でリードするなど急速に経験値を積んでいますし、こうした環境でキャリアを築けるのはSIPの魅力の一つではないでしょうか。

CVCのロールモデルを示し、日本の経済全体にインパクトを与えたい。
冒頭、Spiral Capitalグループは純投資ファンドとCVCファンドの両方を手がけており、それぞれ独立した組織が担っているとのお話でしたが、鎌田さんと魏さんが属しているCVC担当のSIPのメンバーが、純投資ファンドに関わる機会もあるのでしょうか。
鎌田
現状ではそれぞれ独立した組織として運営されており、私や魏が純投資に関わることは原則ありません。純投資ファンドとCVCファンドの両方を同じVCが手がけていると、優良な投資案件があった場合、どちらが投資するかでコンフリクトが生じてしまう。純粋な財務リターンを求めるLP投資家はその点を気にされると思いますので、そこはしっかりと分割しています。ただ、キャピタリストの観点から言えば、SIPに入ったものの、キャリアを積むうちに純投資のほうが向いていると感じることもあるでしょうから、両組織間で転籍できる仕組みなどは整えています。また、組織をまたいでの勉強会や懇親会なども定期的に開催されており、人材レベルでのナレッジ共有や交流は積極的に行っています。
Spiral Capitalグループの投資スタンスを教えてください。鎌田さんと魏さんがCVCファンドを立ち上げて運営される際、大切にされていることは何ですか。
鎌田
Spiral Capitalグループは、「インテグリティ」「オーナーシップ」「チームワーク」「スタートアップマインド」の4つのバリューを大切にしています。なかでも私は「インテグリティ」を特に大事にしており、CVCを手がけるにあたって、大企業のお客様に対して真摯に向き合って成果を出していくことはもちろん、スタートアップに対しても常にリスペクトをもって誠実に接することを心がけています。
魏
私は、いまの自分が提供できる価値を常に意識して、大企業やスタートアップの方々と向き合いたいと思っています。たとえば、スタートアップの方々は本業を成長させることに全精力を注いでいるので、業界内の情報を収集したり、事業に役立つネットワークを作る時間などを取りにくいのが実情です。それらをサポートできるのがキャピタリストだと個人的に考えていて、まだまだ駆け出しですが、できるだけスタートアップの方々のために費やせる時間を作り、バリューを出していきたいと思っています。
少し目線を上げて、CVCのあるべき姿についてお考えを聞かせていただけますか。
鎌田
大企業のCVCは、まだまだ本来のポテンシャルが発揮されていないのが実情です。事業連携を重視するあまり、たとえばPoCを実施しないと出資できないとか、投資判断に非常に時間がかかるケースも見受けられますし、また出資して事業連携に至ったとしても、なかなかインパクトのある成果につながらない。そうした状況を変えるべく、財務リターンをきちんと出しつつ、事業へのリターンもしっかり出すCVCのロールモデルを創り、日本のVC/スタートアップ業界全体にもポジティブな影響を与えていきたいと考えています。
あと個人的な思いとしては、やはり大企業はハード/ソフトの両面で豊富なアセットを抱えているので、それらを有望なスタートアップとうまく結びつけることができれば、両社にとって意味のある連携ができると思いますし、ひいては日本の経済全体に対してもプラスになるはずだと、そんな志で日々活動に取り組んでいます。
魏
鎌田の志に私もとても共感しています。一方で、少し違うアングルからスタートアップ業界を眺めると、最近はIPOのハードルが高くなっており、イグジットの形態もIPOだけでなくいろいろな可能性を探る必要があります。その解を探していくことがこれからの大きなテーマであり、私もそこに貢献できればと思っています。また、これからは海外のスタートアップとの事業連携にも果敢に取り組み、そこで得た知見を国内のスタートアップに還元できればとも考えています。
鎌田
日本の大企業と海外のスタートアップをつなげていくことにも、我々はこれから挑戦していきたいと思っており、中長期的にはSpiral Capitalグループとしても事業のスケールをグローバルに拡げていく方針です。

自らもスタートアップマインドをもって、VC業界に変化を起こしていく。
求める人材についてお伺いします。どのような方がSIPにフィットし、ここで成長機会を得られるとお考えでしょうか。
鎌田
我々はバリューの一つに「スタートアップマインド」を掲げていますが、これは我々自身もスタートアップ的な発想で活動し、変化を恐れず、むしろ自ら変化を生み出していこうという意思の表れです。さきほど魏から、スタートアップのイグジットに新たな可能性を探るべきだという話がありましたが、それを自ら編み出して実行に移すような、そんな姿勢を持つ方を歓迎したいです。また、魏のようにグローバル志向が強く、海外のスタートアップと連携したいのならば、自分で海外拠点を立ち上げて赴任するとか、そうしたアクションをどんどん後押ししたい。社員の意欲には、最大限応えていきたいと思っています。
魏
私も当社がとても魅力的だと思ったのは、Spiral Capitalグループ自体がスタートアップと近しく、これからさらに成長し変容していくフェーズにあるということ。この流れのなかで、自分が実現したいキャリアをかなえていきたいという、明確な意志を持った方がフィットするのではないでしょうか。
鎌田
あと、当社の人材に求めるバリューとして大切なのは「オーナーシップ」でしょうか。当社では、仕事の進め方や時間の管理などは原則個人の裁量に委ねる自由なカルチャーを大事にしています。私もこちらに参画してから、家族と過ごす時間が増えましたし、妻からも「良い会社だ」と評価してもらっています(笑)。その前提として求められるのは、各自がオーナーシップを持ち、かつ高いプロフェッショナリズムを持って、いま何をすべきかをきちんと考えて行動すること。キャピタリストの世界は、アウトプットが明確な仕事ではなく、この作業をしたからリターンが出るというものではない。投資家と投資先のために何をすべきか、すべて自分で一から考えなければならず、自由である一方で非常に難しい仕事であり、だからこそ挑戦しがいがあると思っています。
魏
確かにキャピタリストは絶対的な解のない仕事であり、自分で仮説を立てては検証し、それが正しいのか自分で判断していかなければなりません。日々悩ましいのですが、周囲には鎌田をはじめ壁打ちに付きあってくれる先輩キャピタリストがたくさんいて、みなさんと議論するなかで成長していくことができる。私はキャピタリストというのは個人プレーの世界だと思っていたのですが、もちろん個の力は求められるものの、当社はチームワークを重んじていて、面倒見のいい方ばかりです。お薦めの書籍を紹介してくださったり、必要な時にはいつでも気軽にアドバイスがもらえるなど、未経験で入社した私にとっては、本当に良い環境が整っていると感じています。
鎌田
「チームワーク」も我々の大切なバリューの一つです。キャピタリストとしての業務だけではなく、Spiralのチームや会社全体をより良くしたい、さらに成長させたいというマインドを持った方にぜひ仲間になっていただきたいですね。当社は本当に大きな成長余地を秘めていると日々感じていますので、意欲あるみなさんと一緒にチャレンジしていきたいと思っています。
鎌田
Spiral Capitalグループは、主に純投資のためのゼネラルファンドと、戦略投資を目的としたCVCファンドの両方を運営しています。独立系VCはゼネラルファンドのみを運営しているケースが多いと思いますが、我々はCVCファンドも手がけていることが大きな特徴です。ピュアに財務リターンを求める機関投資家はゼネラルファンドへ、自社のビジネスとのシナジーを得たい事業会社はCVCファンドへと、LPの方々の目的に合致するファンドに出資いただける形となっています。
特にCVCについては、オープンイノベーションを志向する大企業に、スタートアップとの事業連携による戦略リターンをもたらすことはもちろん、これまでCVCではなおざりにされがちだった財務リターンもしっかり出していくことを目指しています。また、CVCが抱える問題として、投資検討のプロセスが不透明で意思決定までに時間を要することがよく指摘されますが、我々はスタートアップファーストの思想で、タイムリーでスピーディーな意思決定をする。そして、CVCならではの特性を活かして、資金面からも事業連携面からもスタートアップを支援していくことでバリューを発揮し、他のVCやCVCと差別化していきたいと考えています。
Spiral Capitalグループでは、ゼネラルファンドとCVCファンドをそれぞれ独立したエンティティが運営しており、私と魏はCVCファンドを担う“Spiral Innovation Partners(SIP)”というグループカンパニーに属しています。キャピタリストの採用ニーズが特に大きいのはファンド組成の頻度が高いSIPであり、ここでは主にSIPの活動についてお話ししたいと思います。