起業家と伴走し、日本企業の働き方を革新すべくOne Capitalを起業。
まずはお二人のご経歴を教えていただけますか。
浅田さんがこのOne Capitalを起ち上げられた理由をお伺いできますか。
浅田
伊藤忠商事に在籍していた時、米国に留学してMBAを取得したのですが、そこで日本企業の生産性があまりにも低いことを痛感したんですね。当時の伊藤忠商事も、まだまだ判子のスタンプラリーで物事を決裁している状況でした。そこに問題意識を抱きつつ、セールスフォースが運営するCVCに移籍したのですが、セールスフォースは社内がすべて電子化されていて、生産性がものすごく高かった。そこで働いているのはJTCからの転職者がほとんどでしたが、優秀なツールが揃えば日本人中心の組織でもこれだけ生産性が上がるのだと感動しました。日本の大企業にモダンなSaaSをインストールできれば、仕事のパフォーマンスも大きく上がる、単純すぎるかもしれませんがそう思ったのです。海外製品ばかりが注目されるこのSaaS領域で、日本のために国産の優れたSaaSを生み出したいという思いが湧き、グローバルで通用するプロダクトを開発するベンチャーへ投資するファンドを起ち上げたいと思ったのです。また、セールスフォース・ベンチャーズの仕事も楽しかったのですが、追加投資したい局面でしづらい構造があり、起業家とアラインできない部分がありました。セールスフォース・ベンチャーズは、自社のビジネスとのシナジー創出が目的なので、一度投資して業務提携を交わせば再び投資する必要性はあまりない。とにかく投資件数を増やすことの優先度が高く、投資先が急成長してアップラウンドを迎えても、我々がそこに参加することはなかなか許されなかった。そうした状況に物足りなさを覚え、自分が信じる起業家をファイナンス面から全面的にサポートできる、そんなリード投資ファンドを作ろうとOne Capitalを起ち上げました。
プロダクトにフォーカスして企業を見極め、リード投資にこだわる。
One Capitalは、ボストン・コンサルティングティング・グループ出身の坂倉亘氏と共同起業されています。これはどのような経緯だったのでしょうか。
浅田
日本では、大企業を変革していくことが社会に与える影響が大きいという思いもあって、Consulting as a Serviceのようなモデルもあわせて開始できないかと考えていたんですね。そんな構想を旧知の坂倉さんに持ちかけたら、彼も短期間でアウトプットを出す従来のコンサルティングスタイルに限界を感じていたようで、日本の大企業をDXするには長期間にわたって密着伴走することが必要であり、そのほうが絶対にトランスフォームの確率が上がると。それで一緒に起業することになったのですが、我々のモデルによって大企業が2社でも3社でもDXに成功すれば、フォロワーシップが強い国民性なのでおそらく広く影響を及ぼすことができ、そうしたアングルからもデジタルによる日本企業の生産性向上に寄与できると思ったのです。スタートアップから大企業まで、かつハイブリッドで支援するという理想を掲げて起ち上げましたが、いま徐々に具現化しつつある感じです。
日本でも新興のVCが増えていますが、御社の特徴について浅田さんはどのように認識されていますか。
浅田
我々はプロダクトにフォーカスし、その企業の善し悪しを判断できるようになりたいと考えています。やはり起業家の作品というのはプロダクトだと思うんですね。それをいち早く理解できることが他社との差別化になる。少しズームアウトしてスタートアップ界隈を眺めてみると、日本の起業家というのはビジネスに長けた人材が多いんですね。プロダクトを作れる人が少ない。だから営業に重きを置くというモデルになりがちなのですが、欧米発のスタートアップは偉大なプロダクトを伴っており、セールスフォースをはじめBtoBの領域でもそう。偉大なプロダクトを生み出せるスタートアップこそが偉大だという信念があり、そのアングルで投資することにはこだわり続けたいと思っています。だからプロダクトに精通することに絶えず努めており、過去に在籍したVCで培った知見をバーションアップすることはもちろん、最近登場しているAI系のプロダクトも片っ端から触って機能やUIなどを確かめています。我々自身がプロダクトの勘所を理解しているので、プロダクトで社会を変えようとしている起業家との対話もスムーズに運び、結果として迅速に投資判断できる。未知の新事業に対する解像度が高く、投資実行のスピードが速いことも、起業家の方々から評価いただいているポイントだと感じています。
御社はリード投資の割合が高いとうかがっており、それも大きな特徴だとお見受けします。
浅田
おっしゃる通り、現在、我々が1号ファンドから出資している22社中、19社がリード投資です。日本のスタートアップというのはまだまだ資金調達額が小さくて、大企業や外資系企業の優秀な人材が流れ込まない構造でした。それはやはり優秀な人材に相応しい報酬を支払えないからで、我々がリード投資して多額の資金を供給し、1000万円以上の年収を普通に払えるような体制にいち早くしたいと思っています。我々を評価いただくLP投資家から大きな資金をお預かりしているので、ファンドサイズも大きく、結果としてそうしたリード投資が可能になっています。
投資にあたってプロダクトにフォーカスしているとのことですが、SaaS特化型のVCは他にも存在しています。そうした競合と比較して、御社の強みは何だと捉えていますか。
浅田
それは我々に投資してくださるLPからもよく聞かれることなのですが、私なりに比較すると、他社はマーケット起点で従来型のVCモデルを追求しています。マーケットがないとビジネスは起ち上がらないので、まさに正しいアプローチなのですが、すでに大きな市場が見込まれ、そこで素晴らしい経歴を持つ起業家が事業を起こすと、バリュエ―ションが高くなって我々が望む投資対効果は期待できない。何も輝かしい経歴を持っていなくても優れたプロダクトを作れる人は世の中にたくさんいると思っていて、米国ではそうした例がいくらでもある。それを早期に見出して、起業家と一緒に事業計画なども立てながら支援していくことが、他の同類のVCと差別化できる点だと思っています。
新たにヘルスケア領域を開拓する。その自由度に惹かれてOne Capitalへ。
続いて横田さんにおうかがいします。マッキンゼーを離れてOne Capitalを選ばれた理由を聞かせていただけますか。
横田
私はヘルスケア領域のコンサルタントとしてキャリアを重ねてきましたが、絶えずイノベーションに近いところに身を置き、日本のサイエンスを元気にしたいという思いをずっと抱いていたんですね。それを果たすべく転職を決意し、候補として大手の製薬企業からスタートアップ、さらにVCまで幅広く検討しました。たくさんの企業の方々とお会いしてオファーも多数いただいたのですが、そのなかでOne Capitalを選んだのは、これから新たにヘルスケア領域に投資していくと公言していて、何も決まっていないという自由度がとても魅力に映ったから。私が培ってきたヘルスケアの知見を買っていただき、リスクはあるけれども一緒に挑戦していきましょうと浅田さんから熱いオファーをいただいて、ぜひその力になりたいと思ったのです。一方でVCはまったくの未経験で、一から学ばなければならない立場で参画することに気兼ねもあったのですが、One Capitalは坂倉さんのもとでLPである大企業へのDXアドバイザリーも展開しています。そこではコンサルタントのキャリアを活かしてDay1から活躍できそうな感覚があり、そちらで会社に貢献しつつキャピタリストとして新たな学びを得て成長できるという、そのバランスにも惹かれました。
横田さんは、浅田さんと坂倉さんのトップお二人と関わりながら、投資とDXアドバイザリーの両面から企業を支援していらっしゃるのですね。
横田
ええ。浅田さんと坂倉さんはお互いすごく尖っていらっしゃって、同じ企業の中で並び立たないのではと思っていたのですが(笑)、お二人一緒にお会いした時に阿吽の呼吸のようなものを感じ、このユニークなビジネスモデルが実際にどう回っているのか純粋に興味が湧きました。そこに自分のやりたいことを重ね合わせると、日本のサイエンスのエコシステムを構築する上で、このモデルなら大手にも繋がることができ、スタートアップにも深く入り込めて、その真ん中で自分がエコシステムをぐるぐる回せるのではないかと、そんな可能性を大いに感じたこともOne Capitalを選んだ理由の一つです。
実際に横田さんの業務はいま、どのような割合なのでしょうか。
横田
投資とDXアドバイザリーがちょうど半々ぐらいでしょうか。DXアドバイザリーは、LPに入ってくださっている大手の製薬会社と製薬卸などのクライアントに、以前のコンサルティングとはまったく違った形で関与しています。もはや先方のシニアマネジメントの一員のような立場で、成果が出なかった時は責任を取るぐらいの覚悟で長期にわたって経営革新を伴走していく。前職とは異なるマインドセットが求められ、私にとってまた新たな刺激になっています。そして、もう半分がスタートアップへの投資であり、ヘルスケア領域を中心に、外部からの紹介や自分のネットワークを活用して多くの起業家の方とお会いしています。しかし、どのように投資判断すべきか分からないことだらけなので、浅田さんにその都度時間をいただいて議論させてもらっています。最先端のヘルスケアや、そこに関わるディープテックの知識もまだまだ不足しており、週末に本を読み漁ったり、友人と会って情報収集したり、あるいはスタートアップのイベントなどにも顔を出したりと、現状は稼働率150%ぐらいでしょうか(笑)。前職では、週末に進んで仕事をすることはあまりなかったのですが、いまは起業家をはじめいろんな人と会うのが面白くて、新たなナレッジが溜まっていくのも楽しい。こちらに移ってから、仕事と趣味がマージしているような感覚です。
横田さんはいま、どこにモチベーションを覚えながら投資先の発掘に取り組まれているのでしょうか。
横田
昨今、アカデミアでは生命科学と機械工学や情報科学のテクノロジーが融合して興味深い研究が数々進められています。ニッチな領域で新たな社会価値を生み出しそうな研究論文がいくつも見受けられるのですが、気概のあるファウンダーが存在せず、資金がつかずにビジネスにまで結びついていない。そうした研究をきちんとウォッチして、いままで手を差し伸べられていなかった研究者の力になりたいという思いがあります。そのためにも、ヘルスケア全般のテクノロジーについて理解をもっと深めなければならない。勉強し始めるといくら時間があっても足りないような状況ですが、そんななかでも最も大きな価値を生み出すためにはどこにフォーカスして投資すべきなのか、浅田さんがお持ちのVCの知見も吸収しながら、きちんと見極められるようになりたいと思っています。
人生を賭ける起業家の本気の想いに応えられる、幸せなポジション。
今度は浅田さんにおうかがいします。いまVC業界は大いに活況を呈していますが、One Capitalとしては中長期的にどのような方針を掲げていらっしゃるのでしょうか。
浅田
私が見てきたBtoBのSaaSと、いま横田がお話ししたヘルスケア、この2つの領域に絞ってこれからも起業家から選ばれる存在であり続けたいと思っています。いずれも社会に絶対に必要な領域であり、BtoBのSaaSは仕事の生産性向上を図るもので、社会人は自分の時間の大半を仕事に費やす以上、それをストレスなく効率的に楽しめたほうがいい。さらに、仕事も含めて自分の人生を楽しむためには健康でなければならず、ヘルスケアもきわめて重要。この2つは巨大なフィールドであり、いくらでも開拓していくことができると思っています。
今後、御社はキャピタリストをさらに採用されていかれるかと思いますが、浅田さんはどんな人材を求めていらっしゃいますか。
浅田
地頭が良く、自ら手を動かして業務を進められる人でしょうか。One Capitalは少数精鋭で経営していきたいと考えており、自社の人材採用であったり、マーケティングであったり、あるいは財務であったりと、キャピタリストと並行して実業/実務ができる人が望ましいですね。ですから採用面接においても、セールスでもリサーチでも何でもいいのですが、何か実務を通した成功体験をおうかがいしています。その専門性が非常に高い、いわばオタクのような人のほうが私は好きで(笑)、話をしていても面白いですし、ご自身のその専門性を投資先の発掘や支援、そして自社の経営にも活かしてほしいと思っています。
横田さんからご覧になられて、どんなマインドの人が御社にフィットしそうだとお感じですか。
横田
One Capitalは小さな組織であり、シェアオフィスが拠点で、全員が顔を合わせるのは週に一度だけです。ある意味放任主義で、仕事の進め方は個人に委ねられているので、自分でドライブできる人でなければ仕事は楽しめないと思います。自分のやりたいことが明確で、そこに向かって突っ走れる人。間違った方向に進んでいれば、浅田さんや坂倉さんをはじめ周囲の方が正してくれますので、まずは全力で走れることが大切。大手のように、新たに入社した社員に対してトレーニングのシステムが整備されているわけではありませんが、こちらから働きかければみなさん応えてくださる。自分が知りたいこと、学びたいことを社内から引き出していく、そうしたプロセスも楽しめる方が向いていると思いますね。
それでは最後に、One Capitalに興味をお持ちの読者の方々に向けて、お二人からメッセージをいただけますか。
横田
このポジションは、未知の可能性に人生を賭けているスタートアップの起業家の方々と出会い、その本気の志に直に触れて私自身も大いに鼓舞される。そうした経験を日々味わうことができる、とても幸せな職業だと感じていて、起業家の命懸けの想いにフルコミットしてお応えしていくことが、まさにOne Capitalでキャリアを積む醍醐味ではないでしょうか。さらにこの会社ならではのLPのDxアドバイザリーとして大手企業とのつながりも深く持ち続けることができることも大いなるユニークな部分だと思います。
浅田
新しい産業を創りたい人、それを通して社会が抱える問題を解決したい人にぜひ来てほしいですね。One Capitalが営むのはけっして金融業ではありません。もちろん、最終的にはリターンを出さなければなりませんが、問題解決に資するプロダクトを持つ企業に投資すれば、結果としてリターンは絶対に出る。だからこそ、社会に必要な問題解決は何かという問いが大切で、我々はそれを日本企業が抱える仕事の生産性の低さと、長寿国家でありながらヘルスケア領域のイノベーションがなかなか起きない現状にあると捉え、それを解決していきたいです。VC業界では、よく投資において「当てる」という表現が使われます。「数打てば当たる」という意味合いですが、我々は「当てる」のではなく、投資先と一緒に新たな産業を「創る」という姿勢で臨んでいます。そこに共鳴いただける方と、これから一緒にチャレンジしていきたいと思っています。
浅田
私は新卒で伊藤忠商事に入社し、IT関連の法人営業を担うなかで海外のクラウドサービスの導入やスタートアップ投資などにも携わり、その後、伊藤忠グループのCVCに移籍しました。そちらでメルカリやユーザベース、Boxなどの当時台頭していたスタートアップへの出資を実行しましたが、VCをもっと究めたいと考え、セールスフォースが日本で展開するCVCのセールスフォース・ベンチャーズに参画。BtoBのSaaS領域のスタートアップ投資を5年間手がけた後、何を血迷ったか、未曾有の危機と云われた初のコロナ 緊急事態宣言下のタイミングで独立し(笑)、このOne Capitalを創業しました。
横田
私は理系出身で、大学では生物工学を専攻していました。大学院に進学後、交換留学でアメリカに渡って微生物の研究に取り組みましたが、バイオ医薬品メーカーのBiogenにインターンシップで参画する機会を得て、医学系の研究にとても興味を持ったんです。そこで、医学の研究にキャリアを捧げたいと脳神経科学でPh.D.(博士号)を取得し、そのままアカデミアに進もうと心に決めていたのですが、一方で自分の研究がどう社会に貢献できるのかという疑問もあって、実社会の中で研究の価値を見極めたいという思いから、Ph.D.ホルダーを探していたマッキンゼーに入社しました。当初は1年ぐらい社会勉強できればと軽い気持ちだったのですが、ヘルスケア関連のコンサルティング業務に携わるうちに15年経ってしまい(笑)、次の15年はイノベーションの近くで違う形でサイエンスをサポートできたらと思いOne Capitalに転職した次第です。