INTERVIEW

VC(ベンチャーキャピタル)インタビュー

既存のVCのフォーマットを打破し、人類や地球の
未来を本気で変えようとする起業家を支援していく。

ANRI株式会社

General Partner 河野 純一郎氏
Senior Associate 金井 絵里花氏

自己の利益の追求ではなく、スタートアップ投資を通じてあるべき未来を創る

まずはお二人のご経歴と、ANRIに入社された経緯を教えてください。

河野

私は2002年に新卒でジャフコ(現ジャフコグループ)に入社し、2008年に伊藤忠商事グループのベンチャーキャピタル(以下、VC)である伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)に移り、2019年よりANRIに在籍しています。ANRIは、代表の佐俣(アンリ氏)が2012年に起ち上げた独立系VCで、彼とは前職で同じスタートアップ企業への投資案件にいくつか関わり、親交がありました。ANRIとして新たなファンドを立ち上げるタイミングで私もANRIにGP(General Partner)として参画し、もう1人の鮫島と共に3GP体制でファンド運営を担うことになりました。

河野さんがANRIへの参画をご決断されたのは、どのような思いからだったのでしょうか。

河野

これは佐俣さんと私がそれぞれ抱えていた課題だったのですが、ANRIにせよITVにせよ、ファンドのサイズが小さいがゆえに、シード投資としてスタート時の資金は出資できても、その後の追加投資がかなわず、起業家の挑戦を長期にわたってサポートすることができないことがありました。起業家側から「河野さん、次のラウンドも引き続き支援してくれますよね」と期待いただいても、ファンドサイズが小さいからお金を出せない。気持ちの上では応援したいのですが、現実としてお金を出せない投資家というのは何の価値もない、と忸怩たる思いをすることもたびたびありました。そのような経験から、一貫した支援姿勢できちんとサポートできる、十分な規模のファンドがこれから必要だと考えていたところ、佐俣さんも同じような問題意識を持っており、問題意識を共有したことで一緒にやろうとANRIへの参画を決めました。

佐俣さんとは、前職のVCで同じ投資先に関わる機会があったとのことですが、どんな印象をお持ちだったのでしょうか。

河野

以前、佐俣さんがシード投資されていたスタートアップ企業でトラブルがあり、社会的にも大きな影響がありました。他のVCが資金を回収しようとしたり、我関せずという行動を取る中、佐俣さんはその投資先にコミットして最後まで付き合うと決断されたんです。そうした非常事態が起こった時にこそ、ベンチャーキャピタリストとしての本性が見えると思っていて、佐俣さんは本当に素晴らしい投資家だと尊敬していました。また、ANRIが掲げている「未来を創ろう、圧倒的な未来を」というビジョンにも惹かれました。彼をはじめここに集うメンバーは、投資を自己の利益につなげるためではなく、スタートアップ支援を通してあるべき未来を創るということにみな目が向いている。こうした仲間と一緒に働ける環境にも大いに魅力を感じました。

金井さんは、どのようなお考えからANRIを志されたのでしょうか。

金井

私は新卒でNTTドコモに入社し、そちらで16年ほどキャリアを積みました。この間、さまざまな部署を経験しましたが、そのなかで国際事業部に在籍していた時、海外の通信会社とのアライアンスに関わる機会があり、主にアジア諸国の出資先に出向いてCxOレベルの方々と議論しながらバリューアップを図っていく経験をしていました。そこで事業を創ることに興味が湧き、もっと知見を広げたいと社内の海外留学制度を利用してMBAを取得。帰国後は、新規事業を創出するセクションでヘルスケア関連のスタートアップと組んで新ビジネスの開発なども手がけました。さまざまなスタートアップの経営者と関わるなかで、社会課題解決に挑んでいる起業家がたくさんいらっしゃることを実感し、次第にそうした方々を応援したいという気持ちが強く湧いてきました。また、私自身もドコモの子会社のジョイントベンチャーで0→1のチャレンジを経験しましたが、その経験があるからこそ、VCのような役割ができるのではないかと感じ、まったく経験はなかったものの思い切ってANRIに飛び込みました。

なかでも金井さんが最終的にANRIを選ばれたのは、どのような理由からですか。

金井

まずはフレームワークの観点から言えば、起業家の挑戦に最初から関わり、一番近くで応援できるシード投資を手がけるVCを希望していました。また、いろんな領域で課題解決に挑む起業家を広く応援したいという気持ちもあり、ファンドサイズの大きなVCのほうが投資機会が多いと考え、その二点を満たしていたのがANRIでした。加えて、もっと惹かれたポイントとしては、ここに集う人たちがみなさんとても魅力的で、尊敬できる方々であったこと。プロフェッショナルでありながら人間味に溢れ、お互いに愛情をもって接していて、こうした環境で私も働きたいと純粋に思いました。また、起業家ファーストの姿勢が当たり前のように根づいていて、入社してからも、キャピタリストの先輩方が起業家の方々から感謝の言葉をたびたびいただくのを目の当たりにし、本当に誇りを持って仕事ができる場だとあらためて強く感じています。

若いキャピタリストを募り、自ら投資していく機会を積極的に与えていく

河野さんは、VCとしてのANRIの強みや魅力をどのように捉えていらっしゃいますか。

河野

やはりシードステージから、起業家の長い旅路を一貫して支援できることでしょうか。起業家が苦難を経て、偉大な経営者に駆け上がっていく様を一番近くで見守り、主体的にサポートできるというのは、ベンチャーキャピタリストを志す人からすると素晴らしい環境だと思います。また、我々は若いキャピタリストを増やしたいという意思を強く持っています。若いというのは年齢的な側面だけではなく、いろんな経験を経てこの業界に入ってくださる方の分母を増やしていきたい。それによって応援できる起業家の数も増え、厚みも出てくると思っています。加えてANRIの特徴としては、投資の領域を制限していないこと。個々人の興味、関心、偏愛に基づいた投資ができる環境であり、いろんなベストエフォートが存在しているので、それが交わった時に新しい化学反応が生まれる。その実際の場として社内に“CIRCLE by ANRI”(以下、CIRCLE) という投資先向けのインキュベーション施設を設けており、これもANRIの強みのひとつです。これは起業家の方々への単なる場所貸しではなく、“CIRCLE”を通じて我々自身が起業家と絶えずコミュニケーションを取り、またここに集う起業家同士で学び合い、刺激し合いながら、お互いが大きく成長できる環境を用意することがコンセプトで、一般的なインキュベーション施設とは思想が異なっています。

先ほど、若いベンチャーキャピタリストを増やしていきたいというお話がありましたが、入社後はどのように育成されているのでしょうか。

河野

投資というのは座学で学べるものではなく、実際の投資を通してしか学ぶことができないと思っています。そのため、ANRIでは若手のキャピタリストにも積極的に自らソーシングして投資を実行する機会を提供しています。金井さんも、入社1年半ですでに5件ほど投資先、支援先を抱えています。

異業種から転職されて1年半で、金井さんはもう5件も担当案件をお持ちなのですね。

金井

ええ、とても恵まれた環境に身を置いています。でも、やはり苦労することもあって、この業界はスタートアップの情報を入手する上で人脈が重要であり、異業界から入ってきた私はまったくゼロからのスタートでした。ただ、この業界は私のような新参者にもオープンでウエルカムな雰囲気で、自ら働きかければネットワークが広がっていく。河野さんをはじめGPのみなさんにも投資先とのミーティングなどに同席させていただき、起業家とのコミュニケーションなどを肌で学ばせてもらってますし、イベントなどでの登壇の機会も与えてもらっています。そんななかで、自らスタートアップを開拓したり、あるいはANRIがすでに投資している先の管理を引き継いだりと、現在5件ほど担当。最近は、支援させていただいている起業家の方に、他のスタートアップを紹介していただけることもあり、そんな時は自分への信頼を感じてとても嬉しいですし、新たなモチベーションにつながっています。

河野

金井さんが素晴らしいのは、自分が開拓した案件以外でも、自分の投資先として愛することができるところです。この間も、私が投資した案件を彼女に引き継いでもらい、CIRCLEから卒業したスタートアップがあるのですが、新しいオフィスに招待されたのは金井さんだけで、私は呼んでいただけなかった(笑)。その起業家にとって、パートナーとしてまず想起されるのが金井さんということであり、それほど信頼を得ているかと思うと嬉しく、頼もしいです。普通のキャピタリストだと、他人が投資した先を押し付けないでほしいと思うのでしょうが、金井さんは自分の担当と同等、もしくはそれ以上に投資先を愛してくれる。彼女自身も起業家から愛される人格を備えていて、これはキャピタリストとして本当に大切な資質です。我々の採用もキャピタリストとして成長したいという意欲より、起業家から認められるような人間性を持っているかどうかを重視しています。

重大な社会課題解決に挑む起業家を応援するために、自らを変革していく

VC業界は参入するプレイヤーも増え、大いに活況を呈していますが、今後VCはどのように変化していくとお考えですか。

河野

VC業界はいま、実は大きな岐路に立たされてると感じています。VCの存在意義がなくなるのではないかというぐらいの危機感がある。というのも、これまでスタートアップが多額の資金調達を行うのは、人材の採用に投資してチームアップして組織を拡大し、企業としてのケイパビリティを増やしていくか、もしくはBtoCの事業であれば宣伝広告費に投じて世間の認知を上げていくという、だいたいこの二つの資金使途でした。しかし、生成AIが急速に普及し、ビジネスのあり方そのものが変革されようとしている今、特に前者の使途でいえば、もうCEO以外全部AIで対応できる時代が訪れるかもしれない。そうなった暁には、もはや多額の資金調達など必要なく、ファンドの規模云々というVCの価値がまったく意味のないものになる。ですから、起業家の進化に合わせた形で、我々も常に新たな形の支援に挑戦していかなければ、社会から選ばれなくなると思っています。

いままでのVCのモデルが通用しなくなる可能性もあるのですね。

河野

ええ。これまでは、どちらかというと資本優位な状況で、VCが起業家を選ぶ時代が長く続いていました。現在はVCが増え、単に資金供給するだけでは意味のない時代になりつつあるなか、起業家から選ばれるために自分たちがどんな価値を起業家に提供できるのかを真剣に考え、競い合うことでその進化を促進していくという意味においては、特に起業家にとっては良い環境になっているのではないかと思っています。あとは、1970年代に考案された、”ファンド”という10年の時間軸で運用するモデルが、もしかしたら今の時代に合ってない可能性もあります。世の中の課題解決が人類や宇宙のような単位になってくると、20年30年かけて地球全体の課題解決に資するようなスタートアップが求められてきます。そうした起業家の挑戦をブーストすべきVCが10年という限られた時間軸で成長を求めてしまうことによって、支援しきれない恐れもある。そのような危機感から、我々の挑戦のひとつとして気候変動・環境問題に特化したANRI GREENファンドを設立しました。これは通常の10年を超え、最大15年という期間で、気候変動に対応するロングタームのテクノロジーにしっかりと投資できるフォーマットも新たに構築しています。

いまお話のあった気候変動への対応などは、特に時間がかかりそうです。

河野

ものすごく時間がかかると思いますし、そこに挑む起業家にとってVCが足枷になってしまうのではないかという課題感を強く覚えています。そのため、我々は2100年までの「未来年表」をオフィスのエントランスに掲げています。3年後5年後といったVC基準での時間軸で切り出してしまうと、近視眼的なリターンばかりを意識し、個別案件でどれだけ儲かるかいう金融業になってしまう。我々はそうでなく、人類の未来、地球の未来、もっと身近なところで言えば、我々の子孫の未来をきちんと創っていきたい。彼らにバトンをきちんと渡していきたいのです。そして自分たちの原点に立ち返るためにも「未来年表」をかなり先まで引き、未来に誕生しうる技術をバックキャストで考え、今から手をつけるべきものを常に意識しています。起業家にとっては孤独な一人旅になるかもしれませんが、だからこそ十分なファンドサイズを持って我々がその苦難を支えなければと、そんな強い想いをもって臨んでいます。

自分を主語に置くのではなく、他人の成長に喜びを覚える方に仲間になってほしい

今までのお話を踏まえて、どんな人材がベンチャーキャピタリストとして御社にフィットするとお考えですか。

河野

自分を主語にするのではなく、主語を大きく論じられるような人ですね。あとは、自分以外の成長を我が事のように喜べるかどうか。起業家が成功していく様を見て、そこに自分が主役として登場せずとも、影で見守りながら喜びと感じられることが大事だと思います。代表の佐俣さんの言葉で「起業家は太陽であり、我々投資家は月である。」という我々が考える起業家と投資家の関係性を端的に表している言葉があります。これは、投資家である僕らが輝くのではなく、強く輝く起業家の光を浴びることで僕らは初めて輝けるという意味なんですが、まさにその通りで、投資先の成長が何よりの喜びであるという利他的な考え方を持っている人が望ましいです。

金井さんは、どのような方がフィットしそうだと思われますか。

金井

いま河野さんのお話にあった通り、自分以外の人の成長を喜べる方が向いていると私も思います。ANRIはまだ25名ほどの企業で、いままさに成長の過程にありますが、ここにいるメンバー一同、同じ志を共有し、強い絆で結ばれていることが大きな強みだと感じていて、この組織にみなぎるパワーが起業家の方々にも波及していくのだと思っています。ですから、ベンチャーキャピタリストとしての成長を志向することはもちろん、この組織のために何ができるのか、一緒に働く同志のために何ができるのかをナチュラルに考えて行動できる、そんな方を仲間としてお迎えしたいです。

河野

あとはベンチャーキャピタリストとしての生き方を全うしたいと思っている人でしょうか。なかには、将来起業を考えていて、そのテーマを探すためにいったんVCに入社したいという方もいらっしゃいますが、我々としてはANRIの一員として業界を代表するようなベンチャーキャピタリストになり、GPまで駆け上がって次代のANRIを作ってほしいと考えているので、ベンチャーキャピタリストとしての矜持を持っている方に参画していただきたいです。

最後にVCを志す方々に対して、お二方からアドバイスをいただけますでしょうか。

金井

私の経験からひとことアドバイスさせていただくと、いまどんな経験をお持ちであろうと、スタートアップへの投資をやってみたいと思われるのなら、ぜひ挑戦していただきたいですね。私自身、先ほど申し上げましたように以前は事業会社に長年在籍していて、普通はここでキャリアチェンジしないだろうというタイミングでANRIに入社したわけですが、まったく後悔はありませんし、VCへの転身は早いに越したことはないのかもしれませんが、どんなタイミングでもチャレンジできる。特に、変化の激しいこのスタートアップ投資の世界は、いろんな経験を持っている方が関わっていくことがとても大事だと思いますし、そこに貢献したいという気持ちがあれば十分活躍できると感じていますので、興味があれば思い切ってANRIの門を叩いてほしいです。

河野

昨今、スタートアップという言葉が日常にあふれるような状況になってきて、多くの方々がキャリアの選択肢のひとつとして考えるようになっています。そのスタートアップを自ら起こすのではなく、それを後方から支えながら成長を促進させていくVCという仕事は非常に魅力的であり、非常にやりがいのある仕事です。これをご覧になるみなさんのなかにも、日本をもっと良くしたいとか、もっとより良い未来を創りたいとか、そんな志をお持ちの方はたくさんいらっしゃると思うんです。自ら起業するのはハードルが高くても、起業家を応援することによって、より良い世の中を作ることに直接的・間接的に関与できるのがVCの醍醐味。ですから、世の中を変えたいという確かな志をもって、人の挑戦を応援するこのVCという仕事に、ぜひチャレンジしていただければと思っています。

河野 純一郎氏

PROFILE

ANRI株式会社

General Partner

河野 純一郎氏

2002年、株式会社ジャフコ(現ジャフコグループ)入社。2008年に伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社に転じ、以来11年にわたって国内スタートアップへの投資業務に従事した後、2019年にANRIに参画。

金井 絵里花氏

PROFILE

ANRI株式会社

Senior Associate

金井 絵里花氏

慶応義塾大学環境情報学部卒業後、新卒で株式会社NTTドコモに入社。国際事業部にて海外の通信キャリアへの出資やアライアンス提携等の業務を担った後、米国The Wharton School of the University of PennsylvaniaにてMBA取得。卒業後NTTドコモに戻り、ヘルスケア事業に従事。エムスリー株式会社と健康経営支援事業を行うJVを設立し、サービス開発チームの事業部長として健康経営の課題可視化ツールや、健康教育プログラム等を開発、展開。2022年ANRIに参画。

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