2024 Sep

10

Tue

セミナーレポート

ITコンサルのネクストキャリア ~コンサルか、事業会社か?~

安間 裕氏 株式会社クライス&カンパニー アドバイザー

松田 真一郎氏 株式会社ジンズホールディングス 執行役員 CIO

山田 啓之氏 株式会社プテロン・コンサルティング 代表取締役社長

パネルディスカッション

2024年9月10日に開催した汐留アカデミーの内容から一部抜粋してお届けします。

山田

いま最前線でITコンサルタントとして活躍されているみなさんのなかには、このままコンサルティングを究めるべきか、それとも事業会社で自分のキャリアを活かすべきか、悩まれている方も多いかと思います。コンサルとして活躍できる人、事業会社で活躍できる人、それぞれどんな人材が向いているのか、お二人の考えを聞かせていただけますか。まずはコンサルタントの立場から安間さん、いかがでしょうか。

安間

いま世の中では、生成AIの台頭によってシンギュラリティがすでに起こり始めています。それを社会にとって有益な価値に変換していくことを、これからのITコンサルタントはリードしていかなければなりませんが、もちろん容易なことではない。でも、こうして時代の大きな過渡期に身を置き、新しい社会を創り出せる機会が溢れているのは、とてもラッキーなことだと思うんですね。私自身の話をさせていただくと、この業界に入って以来、コンサルタントとしてこれを成し遂げたいという明確なビジョンなどは特になかったんです。ただ、この世界でキャリアを積んでいると、世の中で次々と変化が起こり、面白そうだからちょっと勉強してみようと好奇心に任せてコンサルティングに取り組むうちに、どこでも広く通用する自分のエクスパティーズが築かれてきた。目の前の興味にとことん没頭するのは、きっと私の生まれ持った気質で、振り返ると私はいつも偶然を味方につけてきたように思います。世の中の変化を面白がって、そこに立ち向かうことを楽しめるようなコンサルタントが、きっと新しい社会を創る力になっていくのだと思いますね。

山田

私もコンサルティングファームを経営する身として、いまの安間さんのお話にはたいへん共感します。

安間

あと、ITコンサルタントは「いい人」でなければならないというのが私の持論です。デジタル戦略が経営の核になりつつあるいま、これまで裏方だったIT人材が舞台の中央に躍り出ようとしています。ですからITコンサルタントも、クライアントの経営層やIT部門だけではなく、あらゆる事業部門の方々と絡まなければならない場面がより増えていく。もはや企業全体がお客様なんですね。そして、シンギュラリティに応じてお客様のビジネスを進化させようと思えば、どんなにスーパーなコンサルタントであろうと、もはや一人の力では太刀打ちできない。さまざまなエクスパティーズを持った専門家を束ね、チームを組んで挑まなければならず、そのためには「いい人」でなければならない。この人となら一緒に仕事がしたいと社外からも社内からも思ってもらえて、チームの「糊」となるような存在。そうした資質を持つ方が、世の中を変えていくようなコンサルタントとして活躍できるのではないでしょうか。

山田

いま安間さんがおっしゃられた「いい人」を、もう少し言語化していただけますか。

安間

相手の言うことをきちんと聞いて、相手のことを尊重尊敬できる人ですね。私が思うのは、社内でパートナーやディレクターに昇格しても、ただそのポジションを託されたというだけで、人間的に偉いということではまったくない。他人を自分勝手に支配していいというわけではない。相手が日本人であろうと外国人であろうと、男性であろうと女性であろうとLGBTQの方であろうと、きっと自分とは違う経験をしていて、自分の知らないことを知っていると素直に尊敬できる人が「いい人」。誰にもそうした姿勢で接していくと、おのずとお互いを認め合い、共創するシーンがどんどん生まれ始めて、強力なチームが出来上がるのだと思っています。

山田

ありがとうございます。では、今度は松田さんに事業会社からの目線でどのような人が向いているのか、ご意見をいただけますか。

松田

私自身は正直、コンサルティング会社も事業会社も、求められる能力に何か特別な違いがあるわけではないと感じています。ただ、事業会社だからできることにチャレンジしてほしいと、私の部門のメンバーにはいつも伝えています。いまジンズホールディングスのデジタル本部はメンバーが35人ほどいますが、半分ぐらいはコンサルティング会社やSIerの出身者なんですね。彼らはやはりクライアントありきのアクションが染みついているので、入社当初は「事業サイドが要件を決めてくれないので進められない」という声がよく上がるのですが、そういう考え方はもうやめようと。あなたは事業会社の人間であり、別に自分で要件を決めてもいいんだよと。デジタル本部のメンバーが営業部門に働きかけてもまったく問題ないし、それで現場が意思決定してくれないのならば、私が営業本部長のもとに行って「これでいきますから」というだけの話。だから、そうした志向にマインドセットを変えてほしいと常に言っています。でなければ、単なる社内の外注先になってしまう。自ら意思決定をリードしていく姿勢は、どんな会社に所属しても求められるものだと思いますし、事業会社への転職時に意識してほしいですね。

山田

おっしゃる通り、自ら意思決定できるというのは、自ら事業を営んでいる場だからこそ味わえる面白さだと思います。

松田

そうなんです。事業会社というのは当然のことですが、ある目的のために事業を行っている集団です。ジンズホールディンクスで言えば、アイウェアを通して人々の生活を豊かにしていきたいというビジョンがあり、そのビジョン実現のためにさまざまな専門性を持つ方々がここに集っている。ITの専門家もその一員です。そして、我々の基本は小売業なので、このビジネスそのものを自分事として考えてほしい。もし自分自身がなけなしのお金で出資して個人で店舗を運営するとすれば、お客様に対してどのような商品や体験を提供すべきか、その商品はどう調達すべきなのか、事業を継続させるための資金繰りをどうすべきなのか、あらゆることを一人で考えて実行していかなければなりません。ジンズホールディングスの事業はその規模が大きくなっただけで、本来一人でやることを専門領域に分けているだけのこと。だからデジタル本部の人間も自分の専門領域だけにとらわれるのではなく、ジンズホールディングスの事業と100%連動して、ITの枠を超えてあらゆる部門と関わっていくことが求められる。先ほど安間さんのお話と通じますが、全社規模でチーム一体となって動けるかどうかが重要であり、ビジョンの実現のためにデジタルという専門性を活かして何ができるのかというマインドで事業に臨み、その醍醐味にどっぷり浸かってほしいと思っています。

安間

いままさに松田さんがおっしゃったように、主語を自分にして、企業のビジョンに共感し「この会社の未来を変えていきたい」と一点に集中して力を振るいたいタイプの方は、事業会社のほうが向いているように思います。一方で、コンサルタントはまた違った魅力があって、お客様も含め、「この人は凄い」と思えるプロフェッショナルの方々と知己を得て、そこからまた人間関係が大きく拡がって、自分を豊かにしてくれる。そういったネットワークこそが、私の人生の宝物です。確かにコンサルタントの仕事は毎日ブリザードに遭遇して大変なのですが(笑)、私が辿ってきたキャリアが魅力的に思えるような方はコンサルタントが向いていると思いますね。

松田

コンサルタントとしてキャリアを高めていくか、あるいは事業会社に身を移して力を振るうか、それはその方がその時点で何をやりたいのかという、シンプルな選択でいいと思っています。私も安間さんのように特に明確なキャリアプランがあったわけではなく、40代のうちに一度は新しいことにチャレンジしておくか、ぐらいの気持ちで事業会社への転職を考えました。もし、望んでいたキャリアが手に入らなかったら、またコンサルタントに復帰すればいいと思っていて、事実、コンサル業界からいったん離れてまた戻ってくる人も多いので、あまり深刻に捉えていなかったんですね。どうあろうと、人生の最後で笑えればいいという気軽な気持ちでこれからのキャリアを選んだほうが、結果としてうまくいくのではないでしょうか。

参加者からの質疑応答&ディスカッション

Q.

いまコンサルティング会社に在籍していますが、マネージャークラスの方々を見ていると、現場でのデリバリーよりも社内調整のウエートが多くなっているように見受けられて、あまり魅力的に感じられません。事業会社に移ったとしても、やはり社内政治のような仕事は多いのでしょうか。

松田

やりたいことを最短で成し遂げようとした時、社内の誰と誰を押さえて、どんな話をして合意を得ておけば最もスムーズに物事が動くのか、それを考えて実行に移すのは私自身、特に嫌ではないんですね。これを社内政治と呼ぶかどうかは別にして、そのプロセスを踏める力は、コンサルティング会社だろうが事業会社だろうが、どのみち身につけておいたほうがいいスキルだと思いますし、自分よりも得意な人がチームにいれば、その方の力を借りればいいだけのことなので、それほど構える必要はないと思います。

安間

転職時にはよく「隣の芝は青い」ように映りますが(笑)、社内政治に関していえば、おそらくどこも同じような感じだと思いますね。だから、それはいま松田さんがおっしゃったようにポジティブに捉えたほうがいい。また、昇格すると売上責任を負うことになり、プレッシャーが大きくなることに腰が引けている方もいらっしゃるようです。数字を追いかけることが大変だという声もよく聞きますが、数字は単に達成することよりも、何をして達成するかの方がはるかに大切です。また、評価され昇進すると景色が変わり、できることも大きく広がるので、達成した後、次はどんなおもしろいことをしてやろうか、などと想像するだけで、おのずとモチベーションも上がる。目標を達成することは、いまの自分とは違う自分になるための手段だと捉えて、ぜひキャリアを重ねてほしいですね。

クライス汐留アカデミーは今後も定期的に開催して参りますので、ご興味あるテーマがございましたら是非ご参加ください。
(オフラインへのご参加は、弊社にご登録されている方を優先させていただくことがございます。ご了承ください)

構成:山下 和彦

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