2023 Apr

24

Mon

セミナーレポート

これからの時代に求められるCHROとは?

小林 賢治氏 シニフィアン株式会社 共同創業者

武田 雅子氏 株式会社メンバーズ 専務執行役員CHRO

菅原 啓太氏 株式会社ディー・エヌ・エー ヒューマンリソース本部 本部長

パネルディスカッション

小林

まずは、CHROはどんな仕事を担い、どんな役割が求められているのかについて、お二人のご意見をお聞かせ願えますか。

菅原

ひとことで言うなら、社長の目線で人事を行うということでしょうか。最近、企業の人事においてHRBP(Human Resource Business Partner)が注目され、私もかつてDeNAでこのポジションを務めましたが、経営からのオーダーに応えるのがHRBPであり、それに対してオーダーする側に立つのがCHRO。

よくCHROは、経営者の人事面での右腕となる存在だと言われますが、本来的には一経営メンバーとして常に社長目線でなければならないと思っています。

小林

経営目線で臨むと、組織改革など事業部側にとってハードな意思決定をしなければならないケースもあると思います。CHROはそうした場面で率先してリーダーシップを取るのか、それともCEOのアクションをサポートするのか、どのような立ち位置なのでしょうか。

菅原

経営の一員としてまさにそうした意思決定をする際、現場の温度感がわかった上でジャッジできることがCHROの存在意義ではないかと思います。

小林

組織への影響など、意思決定を行う上での情報をより多面的にすることがCHROに求められるのですね。武田さんは、CHROの役割についてどうお考えですか。

武田

端的に言えば、戦略の実現に必要な人材を採用・育成していくことだと思いますが、いま小林さんがおっしゃったように、戦略の実現に向けて現場に痛みを強いなければならないこともあり、一方で社員のウェルビーイングも大切にしなければならない。相反するお皿を同時に回していくような、そんな芸当もCHROに求められるイメージですね。

また、CEOが大胆な戦略を打ち出した時に、現場にまでその意図が伝わり切らないことがよくあります。時には、CEOの壁打ち相手になり、「実はそのメッセージでは通じていない」ことをそっと伝え、メッセージを現場に伝わり切るように翻訳してあげることもCHROの役割だと思っています。

ある意味、どの部門のトップよりも現場の従業員の声を代弁すべきポジションであり、CHROの立場からボス・マネジメント、ボス・プロデュースしていくことも重要だと、最近は特に強く感じています。

小林

私も過去、DeNAでHR組織のヘッドを務めていた時、経営のメッセージを翻訳する機会が多かった気がします。その際にCHROと、CEOをはじめ意思決定する経営陣とのシンクロ度が高くなかったとすると結局、現場に真意が伝わらないという事態にも陥りかねない。

お二人は、経営陣と意識をすり合わせるために、どのような取り組みをされていますか。

武田

事あるごとに、少しでもわからないことがあればCEOやCOOを捕まえて都度話をしていますね。なかには苦手なタイプの方もいらっしゃいますが、そういう人ほど回数を重ね、まず共感からスタートできるように心がけています。

もともと目指している姿は同じですし、どこかでズレを感じるようであれば、自分が納得いくまで対話を続けています。

あと、CEOやCOOなどの経営陣と一緒に企業をマネジメントしていく上で、ときには自分が孤立して異物にならなければいけないシーンもあると思っています。

たとえば、まわりの役員が戦術を考えることばかりが好きな“チャンバラ”好きな人ばかりだと、みな刀を振り回して「会社をこう変えるんだ」と猪突猛進してしまう。でも現場とは温度差があり、経営の考えが届かず逆に組織が混乱してしまうこともよくある。

そんな予兆を感じたら、「その調子で現場と関わると狙った通りの結果につながらないですよ」と、たとえ役員内で孤立してでも主張をしますし、唯一の女性である立場もうまく利用して経営の独善を止める異物であらなければと腹を括っています。

菅原

いま武田さんがおっしゃったように、経営陣との意識のすり合わせはコミュニケーションの量と密度が大切だと私も思っています。何かあればすぐに社長に電話しますし、社長からも頻繁に電話がかかってくる。家族よりも社長と話している時間のほうが長いこともあるくらいですね(笑)。

小林

確かに私もDeNA時代、HRのヘッドを務めていた時がいちばん南場さん(南場智子氏/DeNA創業者・代表取締役会長)からの電話が多かったですね。毎日何かしら連絡があり、ある時は「新卒採用サイトの写真のノリがおかしい。うちはこういうノリの会社ではない」というクレームが入ったことも。

こうしたやりとりを繰り返していくと、トップがどのような人材観を持っているのかがわかってきますね。

あと、次のトップをどうするかなど、HR部門は他の部門がタッチしないセンシティブな案件に関わることも多いと思いますが、これもCHROが経営陣とやりとりして進めているのでしょうか。

菅原

DeNAは2021年に社長が交代しましたが、その際は指名委員会で議論と検討を重ねていきました。現在のサクセッションプランはCEOと私が主だって策定、指名委員会と連携しながら運用しています。

武田

私は指名委員会のメンバーではなく、事務局を務めてサポートする役割でした。指名について直接意見を言う立場ではありませんでしたが、委員会メンバーの社外取締役の方々から「武田さんは現場をよく知っているから」と、時に内容によっては意見を聞かれるということもありました。

小林

私もラクスル社の社外取締役を務め、指名報酬委員会に入っているのですが、経営メンバーの指名にあたっては事務局のCHROに何度も質問し、候補者の資質や組織への影響などを確認しています。いま武田さんがおっしゃったように、経営陣の選任においてもCHROの関与は大きいですし、そこにもCHROの存在意義があるように思います。

続いて、俗っぽい表現ですが「CHROの作り方」についておうかがいします。たとえば、自分の後任のCHROをいますぐ探さなければならなくなったとしたら、どんな人材を登用されますか。

菅原

自分のキャリアと似たような人材、すなわちHRBPの経験のある方の中から引き上げますね。先ほど武田さんがおっしゃっていたように、CHROはいろんなお皿を回さなければなりません。ですから、経営も現場もわかり、人事にもビジネスにも精通して、いろんな目線を持っている人でないと務まらない。そうした経験を最も積んでいる人としてHRBPから任命する感じでしょうか。

小林

その前段階として、HRBPになるためには何を経験しておいたほうがいいのでしょうか。やはり事業サイドの経験が必要でしょうか。

菅原

できれば、どんな形でもいいので経営に携わる経験をしてほしいですね。規模の大小は関係なく、ひとつの事業や組織をまるごと担うような経験。

武田さんも、クレディセゾンで早いうちから店舗運営をまるごとマネジメントしてきたことがいま活きていらっしゃるように思いますし、何かひとつまるっと背負ってリーダーシップを発揮した経験を持つ人のほうが、CHROになっても社長目線で物事を考えられると思いますね。

小林

いまの話を聞いて「なるほど」と思ったことがあります。単純に勢いがあるだけのスタートアップは人を変動費のように捉えがちで、人事がまるで調達部門のようにどんどん人材を採って現場にあてがっていくのですが、社員が増えて固定費が上がるのはリスクでもある。

ですから、成長している時ほど「こんなに採用して果たして大丈夫か」と客観的に事業や組織を捉えることが重要ですし、それができるにはやはり何かしらの経営経験が必要だと思いますね。

武田

私もCHROには現場でのマネジメント経験を求めたいですね。現場では、往々にして理不尽なことが発生し、相反することを回さなければならないというジレンマも味わっておいてほしい。

直近、私が顧問として経営をお手伝している企業で同じことをディスカッションしていて、みなが同意したのが「CHROには人事のみならず他職種の経験、加えて自分でチームをマネジメントする経験がないと務まらないのではないか」ということ。良いマネジメントの経験を持つ方というのは、人の可能性を信じられるんですね。

最もレバレッジが利くリソースが人であり、それを身をもって理解している人は意外と少ないので、そうした経験があれば最高ですね。

参加者からの質疑応答&ディスカッション

Q.

将来のキャリアとしてCHROを志向していますが、人事部長の延長線上にCHROはないとアドバイスを受けました。人事部長とCHROの違いとは何でしょうか?

菅原

人事部長は、人事の専門性を深めていくなかで到達するポジションですが、CHROは経営の専門性を極めた先にあるポジション。まったく違うラインにあるものだと思いますね。

小林

私もその通りだと思いますが、なかには人事にずっと携わってきて、今後CHROを目指している方もいらっしゃるかと思います。そうした方は、どうすればCHRO視点を得られるのでしょうか。

武田

加えていえば、チェンジエージェントになろうとする意志、会社全体を引っ張っていこうとする気概を持つことが大切だと思います。人事の役割を定義した「ウルリッチの4象限」で、左上までが人事部長で、右上がどれだけできるかでCHROに近づけるイメージです。

Q.

いま採用業務に携わっています。CHROを目指してHR領域でのキャリアを広げたいと考えていますが、社内で異動や兼任ができず、採用に関する経験しかできない状況です。どうすればCHROへの道が拓けるでしょうか。

武田

率直にお話しすると、いまいらっしゃる会社で万策尽きたのであれば、転職も結論の一つかもしれません。その一方、採用業務にはマーケティングからプロモーション、セールスからリテンションまでビジネスのすべての要素が詰まっているんですね。その経験から学べることは本当に多い。

また、採用活動において社内で誰を巻き込むかによって、会社を変革できる可能性も大いにある。社内のハイパフォーマーを一定数巻き込めば、社内の共通言語を変えられたりもするのです。

小林

いまの武田さんの話にはとても共感します。私もDeNAで採用に関わっていた時、絶対に事業部を巻き込もうと考えていました。良い人材に選ばれるためには良い組織にしなければならず、採用活動はそうした意識を事業部側にも事業部にも伝播させるいい機会だと捉えていましたね。

では最後に、お二方からCHROを目指す方へのアドバイスをお願いします。

菅原

先ほど武田さんがおっしゃった「CHROはボス・プロデューサーだ」という言葉は、私もなるほどな、と思いました。CEOに対してプロデュースするような気持ちで仕事に臨んでいくことがCHROへのパスになるという、そうした意識をもってトライしてほしいですね。

武田

CHROを目指す上で、いままでの経験は決して無駄になりませんし、そこから敢えてはみ出すことにもチャレンジして、新しい視座をいくつも作ってほしいですね。CHROはやりがいのある、みなを幸せにできる仕事なので、いろんな分野からこのポジションを目指す人が現れてほしいと思っています。

構成:山下 和彦

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