2022 Jul

21

Thu

セミナーレポート

経営者はCXO人材に何を求めるのか?
~時代に求められる経営幹部人材登用と採用を徹底討論~

高家 正行氏 株式会社カインズ 代表取締役社長CEO

髙島 宏平氏 オイシックス・ラ・大地株式会社 代表取締役社長

岡島 悦子氏 株式会社プロノバ 代表取締役社長

パネルディスカッション

岡島

それでは、パネルディスカッションを楽しく進めていきたいと思います。お二方とも、CXO人材や執行役員人材の内部登用、あるいは外部からの採用をやられていると思いますが、その際に求めておられる要件について、まずカインズさんではいかがでしょうか?

高家

では、カインズの組織図をスライドでお見せしながらお話しますね。この組織図上ではCXO6名が並んでいるのですが、実は1年半前にCXO体制を敷くまでは本部長制であり、社長の直下に本部が10個ほど並んでいました。ただ、カインズの次の事業成長のステップに入っていこうとしたときに、社長の下に事業本部長が10人いると自分で直接マネジメントしないといけないんですよね。そうすると自分が事業創りなど中長期的な戦略に割ける時間も労力も限られてしまうなと思って、CXO体制を敷くことにしました。

CXOは、CEOの権限を一部委譲して経営を担う人というのが僕の中での明確な基準です。本部長とはその本部をきっちりラインマネジメントしてくれる人なのですが、CXOはCEOがやるべきアジェンダ10個があった時に全部をフルにやるわけにはいかないので、いくつかはCXOの人達にやってもらうということです。それから、私は「CXOは自分の直下に自分のチームや部下を基本的には持たないようにして欲しい」と言っているんですね。

ラインマネジメントは本部にやらせて、CXOはXというテーマを僕との間で握って、その全社課題を実行していってくださいねという決め事の中で任命しています。裏を返すとそれができる人というのが、CXOに求める採用要件です。

岡島

非常によく分かりますね。ユーグレナもまったく同じ状況で、髙家さんのCEOの立場にあたるのが永田なのですが、彼はスーパーマンではあるもののドメインも増えて来る中で、彼がすべてをやるわけにはいかないので機能分化する形でCXOを置いています。

事業本部にいらっしゃる方のコンピテンシー、ケイパビリティとCXOに求められる役割は経営という観点からするとかなり違うのではと思うのですが、多くの企業で事業本部長の次のステップがCXOと言う風に捉えられているのではないかと。その点はどうお考えですか?

高家

まさにその通りで、事業本部長からCXOの間にはかなりの発想の転換があって、ガラッと見える景色が変わるんですよね。内部から登用して上がれる人ももちろんいますが、求められる要件が大きく違うと思っていて。当社もCHROがいるのですが、この人は外部から来ていて、CHROのミッションは「カインズでカインドネスを推進する」という一文なんですよ。

カインドネスは、社名の由来にもなっている理念的な言葉であるが故にきちんと定義をしておく必要があり、時代と共に中身が変わっていくときにちゃんと課題を抽出して進めていくのがミッションなので、そのミッションが与えられた時に、課題設定ができる人かどうか。人事部長は人事部の中での問題解決や上からの指示への対応という役割が大きいと思うんですけど。アジェンダ設定というのが能力的には一番の違いかと思いますね。

岡島

アジェンダ設定自体について、全体最適目線でCEOと合わせながら時間軸も空間軸としても大きく取って進めていくということですね。

髙島

当社の場合は、CEOやCOOはいないのにCMOはいるんですよね。名乗りたい人は勝手に名刺に書くのは自由というルールなので(笑)。今のカインズさんの話を聞いていて、成熟度合いが全然違うなと認識しています。僕らは同業の3社が一緒になって何とかワンチームにしていくぞというフェーズなので、組織としてはなるべく階層を減らしてフラットにやるという形で常勤役員も10数名いる状況です。

ただ、執行役員になる人と本部長の違いは、経営者なのか管理者なのかということだと思うんですよね。経営者の一翼を担い、人事の視点から経営ができるとかテクノロジーの視点から意見が言える人なのか、あるいは事業部を上手にまとめる管理者なのかという違いかなと。

内部登用の場合は、優秀な管理者の中から経営者の視点を持てそうな人を引き上げてみることが多いです。一方で、一昨年くらいから専門役員も置いていまして、ラインを持たないけれども良いことを言う人達に経営会議では色んな視点で言ってもらうようにしています。

岡島

専門役員って本当にすごい発明だなと思っています。ユーグレナでは、オイシックスさんのケースを大変参考にさせていただいています(笑)。専門役員の方々は、必ずしも常勤でラインを持つ必要は無く、イベントドリブンで例えば大きなM&Aで資金調達をやるから大物のCFOが必要になるとか、これはスタートアップで共有できると非常に大きな財産になるかもしれませんね。

髙島

専門役員CXOとアドバイザーの違いって何なのかというと、組織のケイパビリティとか文化やクセってあるじゃないですか。こういう時に皆夢中になるよね、とか、この人がYesと言わない限り物事が進まないよねという。

正しいけど実行難易度が高いアドバイスをいただくことは社外役員の方のケースが多く、それらは宿題としてちゃんとやっていかないといけないのですが、我々が専門役員に求めているのは、組織の特徴を理解した上で実現可能なレベルで発言してもらうということなんです。

イベントドリブンというのは賛成ですが、組織の内部をある程度理解してくれないといけないなと。

岡島

とても良く分かります。合理的に正しいけれど、皆が共感して動かないよねという。過去に「こういう人を登用してみたものの、失敗したな」ということってありますか?

高家

個別の人事は多数失敗してきているので後悔することもたくさんありますが、髙島さんが言う組織のクセみたいなものとして、カインズは創業35年くらい経っていて組織は良いものもそうでないものもクセだらけなんですね。従ってCXO体制を導入するとき、僕の中では時宜を慎重に図っていて、受け入れられる組織の土壌が無いと、どんなに優秀なCXOを引っ張ってきても機能しないなと。

自分も社長になって、本当は初めからCXO体制を敷きたかったけれども、最初は自分もCEOと名乗っていなくて、結局2年ぐらい待ったんですよね。CXO体制を早く導入していたら失敗しただろうなと。やはり組織に馴染ませる期間というのは必要で、しばらくは全部社長の直轄プロジェクトとしてやっていたんですよ。そこから組織がこなれてきたのでCXO体制にしたという流れですね。

髙島

失敗というよりも必ず起きることとしては、会社の成長と個人の成長のミスマッチです。会社のフェーズが変わった時に経営陣で居続けるためには、物凄い勢いでアンラーニングしないといけない。僕らの場合は初年度の売上7000万が現在1000億を超えてきて150倍に拡大した中で、もちろん創業時からずっと続けている経営メンバーもいますが、その組織フェーズの変化に対応しきれない人は去っていく。

経営陣に求められる役割は非連続的に変わっていくので、私も含めて全経営陣は、非連続的な組織の成長に対して個人も非連続的な成長をし続ける必要があります。

岡島

ありがとうございます。外部からCXO人材を採用する時にどのような点を見ているのかということについて、高家さんぜひ教えていただけますか?

高家

先ほどお話した人材要件の裏返しというか、そこに尽きますね。自分でアジェンダを設定してやってきた人かどうかというのを、履歴書の中のその人の一番エネルギーを注いでいた仕事をネタに聞きまくるということです。その時の状況を具体的に細かく聞いていく。

「〇〇の成果を挙げました」というのは良いのですが、「その仕事が振ってきたときにあなたは何から始めたのか?」「どういうことを考えたのか?」「部下は何人いて、どう使っていたのか?」「そこであなた自身は何をやっていたのか?」というのを臨場感を持って深く掘り下げて聞いていって、その中でどれだけ自分で考えてその仕事をやったのかについては、こちら側が感じ取るしかないかなと思うんですよね。

岡島

高家さんが見たいと思っていらっしゃるのは、課題抽出からの仕立てていく再現性なのかなと。具体的に聞くというのは、Whyを5回聞くみたいなことですかね。仕組みの中でそれができたのか、個人の適性としてできたのかという見極めは非常に難しいですよね。

高家

火消しプロジェクトみたいな課題解決請負人というのも1つの経験ですし、特殊な能力として良いと思いますが、ちょっとそことも違うんですよね。その違いを自分の中でも理解しておかないといけないなと思います。

岡島

今日はコンサルティングファームにいらっしゃる方も多数参加されているということで、よく皆さんからエージェント側からプリンシパル側に移るということへのご質問をいただくのですが、主体側としてやっていくとなった時に経営をサポートすることと意思決定することの間には非常に大きな差があると思っていて、意思決定する力の見極めはどうやっていらっしゃるんですか?

高家

これはとても難しくて、「本当にこれはあなたが意志決定したの?」というのは聞いてもわからないので、そう思っていたけど実際は違ったという失敗も過去に多くあります。

髙島

当社の考え方は、組織としてのフェーズが違うのでカインズさんと較べて成熟していないなと感じますが、元々今のフェーズで求める経営レイヤーはパワーが無いと務まらないので、自分達に馴染みそうもない人や文化を変えられそうな人を探しています。自分達の尺度で評価しづらい、よくわからない、優秀そうで何かざわざわする違和感がある人は誰なんだろうという感じで探しているので、NGポイントに該当しない人だったら採用してみようという考えなんですね。

NGポイントは3つあって、1個でも該当したら入れないと決めています。1つはアンラーニングできるかどうか。自信満々な人というか、自説を変えられないような人は難しい。2つ目は、エッセンシャルワーカー的な人も含めて多様な職種の人達をリスペクトできるかどうか。優秀な方の中には、経営的な仕事が物流倉庫の仕事よりも人間として上だという概念をお持ちの方がいます。その職種の違いはあくまでも役割分担であって優劣ではないので、そういう人は当社では絶対に入れられない。

3つ目は、派閥をつくる人ではないかどうか。政治的な動きをする人は絶対入れたくないと思っていて、悪意は無くても社内に仮想敵をつくるような人だと嫌な組織になってしまうので。この3つに当てはまらなければ、何か面白そうだから入れてみようという採用をしています。

岡島

これが言語化されているのは凄いですね。私も20年くらい人の目利きをしていますが、「私はこの人を知っていますよ」というネームドロッピングをする人は危険だなと。ビジネス上で人脈は重要ですが、そこは自分で勝負してよというところで私のNGリストに入っています。いや、本当に面白いですね。お時間もあるので、質疑応答に移りましょうか。

参加者からの質疑応答&ディスカッション

Q

マネージャーからエグゼクティブに上がる際の壁をどう乗り越えれば良いでしょうか?

髙島

難しいですけど、自分だったらどうかなと考えて、経営陣に対して提案してみると良いですよね。その提案に対して、「良いアイデアだね」とか「目線が低いね」とか言われるのが壁打ちとしては一番良いと思いますし、そういう提案をしてくる人は、こちらとしてもそういうレイヤーに行きたいんだなと感じられて、そういうトレーニングをしているんだなと思うので。失うものは何にもないから、提案してみると良いのではないかなと思います。

高家

人間は連続的に成長していっているわけで、マネージャーから事業部長とか責任範囲、守備範囲が広がる中でそこまでジャンプを強く意識する必要も無いのかなと。マネージャーでも何でもいいのですが、自分の仕事やプロジェクトにちゃんと目的設定ができているかということかと思いますね。

よく社内でアンデルセンの童話にあるレンガ職人の話をするのですが、「何のためにレンガを積み上げているんですか?」と聞いたときに、食べていくためにという人と、教会をつくるためにという人と、更に進んでその教会で人々が心を休める場をつくって街に貢献しているんだという人とでは、全然違うじゃないですか。どんな仕事も小さい1個1個の仕事から組み立てられていくんだけど、そこを意識している人としない人とでは全然仕事の仕方が違ってくると思っていて。社内研修でも「あなたは何のためにその仕事をしているのか?」とよく聞いていますね。

岡島

私は髙島さんがおっしゃったような違和感がある人をオーディション的な感じで探していて。その人たちに徹底的に山を持たせて、経営の練習というか、コーポレートからもほぼサポートが無いような状況でお金や人を集めて来るということをまず小規模でやってもらう、経営の打席に立ってもらう機会を社内で数多く用意していて。例えばコンサルファーム出身で経営企画に入っていただいた方に、新規事業を立ち上げてもらってグループ会社として切り出してそこの経営を担っていただくというようなことは実践していますね。

Q

CXOに対してプロフェッショナルな期待は納得ですが、パーパスへの共感度やエバンジェリスト的な役回りはどう期待されていますか?

髙島

最近思うのは、プロフェッショナルな人ほど企業文化や理念に対するコミットメントスピードが速いですよね。本当のプロってこういうことなんだなと思いますし、これからの世界は企業も個人も副業やリモートワークをしていく中で、じっくり時間をかけて文化を共有し合うということではなくて、接点はあまり無いんだけどクイックに企業理念を血肉にしてコミットできるということが企業も個人も絶対必要となると感じています。

岡島

企業のパーパスと個人のパーパスを結び付けられる能力はすごく重要で、自分がやっている仕事のミッションへの道筋をどうつけるかというところはプロフェッショナルの方は非常に上手にやられていますし、おっしゃる通りかと思いました。

高家

全く同感ですよね。プロってXの専門領域に加えて、何かそういうことができる人が本当のプロだと思いますし、マイクロソフトのナデラCEOが書かれた本にすごく良いことが書いてあって。要するに、「トップリーダーシップのところで考え方が1センチずれると、現場での実行は1キロずれる」ということを言われていたんですね、CXO同士のパーパスの方向があちこち向いたりして理念レベルの食い違いがあると現場は悲惨なことになるので。そういう人をそもそもリーダーシップチームに入れてはいけないなと思います。

Q

スタートアップでお金が無いということもあると思いますが、ポジションも報酬も提示しづらい中でCXO人材を口説く上での要諦は何でしょうか?

岡島

これは本当に難しくて、未だに結論は出ていません。ある程度はストックオプションを提示させていただいたり、市場価値レベルくらいには上げて行くということは理解してベンチマーキングしたりしながらやっていくのですが、その中で株式報酬を合わせていくということと、特に若い方の場合は我々と一緒にやるとこれだけのスピード感で成長できるということをご説明していますね。

髙島

当社だけでなく他のスタートアップでも同じかと思いますが、とにかく打率が低いので打席に立ち続けるしかないということで、口説きまくるというか、僕らの特徴的な採用方式としてストーキング方式があるのですが、同じ人と何度もごはんに行って最後はあきらめてもらうということをやっていて(笑)。別に採用できなくても、その個人は嬉しいんですよ。そこまで評価してくれる場所があるんだと思えれば、元気になるじゃないですか。

そう考えると世の中にとって良いことしか無いので、とにかく凄い量の打席に立ちまくることです。僕はストーキングリストをつくっていて、3ヶ月毎くらいに分担して連絡するんですよ。転職は相手の状況によるタイミングが非常に大きいので、「プロジェクトがちょうど終わったから」とか「ライバルが先に昇進したから」とか、そういう個人の事情による転機であるケースが多く、それをキャッチするには常に連絡し続けないといけないんです。

Q

外部から採用した人にいきなりCXOを任せるのは難しい一方で、候補者はCXOポジションを期待しているということも結構あるのではないかと思いますが、いかがですか?

高家

ご本人はやる気満々だったりするのですが、僕の経験から言ってもそんなに簡単ではないので。当社のようにそれなりに成熟してきた企業だと色んなクセもあったりして。「あなたのためにもいきなりCXOに就いてガンガンやるよりもブルペンで投球練習してからの方が良い」ということは結構諭しますけどね。CXOクラスの人を外部から採用した時は、ある程度準備期間を置くと共に、クイック・ウィンさせるためにこちらも結構気を配ってバックアップはしますよね。

髙島

当社は色々実験してみていて、今までは高家さんのような納得感を持たせるプロセスでやっていたのですが、今はデマンディングな人もいきなりCXOに引き上げてみたりしています。これは創業者だからできることなのかもしれないですね。

岡島

あとは、外部から入った方に早期で成果を出してもらって花を持たせるケースもあって、実績が出ると「この人ってこういう実績が出せる人なんだ」という見られ方になったりもするので、隠し玉みたいなものを最初から渡すということはありますね。

Q

アンラーニング出来る人や、ご自身よりも良い人を採用するためにはどうすれば良いですか?

髙島

そもそも何のために採用するかというと、自分ができないことをやってもらうために採用するので、自分より能力の高い人を採用する難しさというのはよくわからない。アンラーニング力をどうやって身に着けるのかというのは非常に大きな課題ですよね。それは自分自身もそうで、失ってはいけないものと、常に上書きしていかないといけないものを見極めないといけないので非常に難しいです。

僕は面接で失敗例や苦手なことばかり聞くのですが、そこから自責の中で何を変えられたのか変えられなかったのかを見ているので、僕の面接では皆嫌な思い出をすごく話していますね(笑)。

髙家

僕も同感ですね。CXOの人達は、Xの領域については自分よりも全然プロフェッショナルな人たちを集めてチームをつくらないと始まらないので。

岡島

経営者のスタイルもこの頃はかなり変わってきていて、素晴らしいなと思っているのは「私はこの領域は分からないから、助けて欲しい」と弱みを自己開示できるリーダーシップがチャーミングさにつながる経営者が増えてきています。それはCの部分で自分にめちゃくちゃ自信があるからこそ、また強いパーパスを持った上で言えることだと思いますね。

岡島

最後に、お二方より本日の感想や参加者の皆さんへのアドバイスをお願いします。

高家

あまり言い残したことはないですが、本日は多数のCXOを目指している方々が聴いておられると思います。小売業の中でも当社はこれだけ面白い非連続な改革を行っている環境だと思いますので、ぜひ興味のある方は手を挙げていただければと思います。

髙島

普段考えないことを久々に考える時間になり、多くのメモを取って勉強になりました。ありがとうございます。日本は人材流動性の低さが大きな問題だと思っていて、組織の新陳代謝能力が非常に落ちているので、この国が元気になるには皆が転職しまくるしかないと思っています。

1人1人が様々な業種、色々な企業をぐるぐる回るしかないかなと。皆さんの中で転職を考えている方は、年内に絶対転職してください。仮に失敗しても、また次に行けばいいと思うので。その時はぜひクライスさんを経由して転職をお願いします(笑)。

岡島

最近は、経営者に求められる素質として、経験年数はあまり関係なくなりつつあり、不確実な中での意思決定数が問われる時代になってきています。その意味では、社内でも社外に転職でもいいので、自ら意思決定の場を取りに行っていただければ良いかと思います。

構成:神田 昭子

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