2022 Feb

17

Thu

セミナーレポート

これからの時代のCIOに求められることとは何か?
~CIOとマネージャーに求められる資質・目線・経験の違いとは~

玉置 肇氏 パナソニック株式会社 グループCIO
パナソニックインフォメーションシステムズ株式会社 代表取締役社長

成田 敏博氏 日清食品ホールディングス株式会社 CIO グループ情報責任者

榊巻 亮氏 ケンブリッジテクノロジーパートナーズ 代表取締役社長

登壇者自己紹介

榊巻

皆さん、こんばんは。今日は「これからの時代のCIOに求められることとは何か?」というテーマで皆さんとディスカッションできればと思っています。日本を代表するトップ企業のCIOお二人のお話が聞けるのは相当贅沢だなと、私もワクワクしています。

お二人のお話を聞いて、CIOだからこそ見える世界を我々も垣間見たいなと、そして明日からエネルギッシュに仕事に向き合おうと思える場になれば良いと思っており、更には自分もCIOになりたいと思えるようなお時間になると嬉しいです。それで、転職したくなったらクライスさんに相談する、と(笑)。

まずは、玉置さんから自己紹介をいただけますでしょうか?

玉置

こんばんは、玉置です。今はパナソニックでCIOをしております。最初は外資製造・オーナー企業の小売・外資金融を経てパナソニックという経歴で、15年ほどずっとCIOの仕事をしてきています。今日は楽しみにしていました。よろしくお願いします。

成田

日清食品ホールディングスの成田です。私はアクセンチュアでキャリアをスタートしまして、その後DeNAやメルカリといったインターネット企業を経て、約2年前に日清食品ホールディングスに入社しています。本日はどうぞよろしくお願いします。

榊巻

ありがとうございます。私は大和ハウスで設計をした後、ITやコンサルタントの仕事を始めて10数年になります。昨年からケンブリッジというコンサルティングファームの代表を務めています。

さて、今日は僕がお二人に聞きたいことを7つほど挙げてみました。参加者の皆さんはどれを聞きたいか投票をお願いします。得票数の多いものから、お二人にお話を聞いていきます。7つの質問には、CIOの役割とキャリアの話があります。

 

【CIOの役割に関する質問】

A.CIOの役割は会社によって変わる?

B.職業としてCIOとは何か?

C.CIOの苦悩は?

 

【CIOのキャリアに関する質問】

D.CIOへの道程に対する考え方は?

E.ターニングポイントは?

F.転職の功罪、タイミングは?

G.成長に欠かせない習慣や意識は?

 

まずはこの7つから聞きたいテーマを選んでいただけると嬉しいです。投票結果を見ると、一番多いのはB、続いてD、G、Fですね。皆さん、自分のキャリアを意識されているのかなと。今日はSlidoで皆さんからの質問を募集したいので、この後ぜひ書き込んでください。

本イベントテーマにおけるパネルディスカッション

<B. 職業としてのCIOとは何か?>

玉置

私が考えるCxOというのは2つ役目があって、「経営者」と「変革リーダー」です。情報システム部門長は、CIOとは圧倒的に違うと思うんですよね。情報システム担当役員の中には、経営会議の場でITのことが議題になっていないから何も発言せずに経営の話を聞いているだけという人がいるのですが、それでは意味が無いと思います。CIOは、IT領域だけではなく様々な領域に対して経営ボードとして貢献していく必要があるし、情報システム部門に閉じることなく、会社の変革にリーダーシップを取っていくべきだと思いますね。

成田

私も玉置さんのおっしゃることに完全同意です。私はCIOになってまだ半年ですが、CIOになる前と後で大きく変化がありまして。経営会議や取締役会に参加する中で、いかに経営観点を持って課題意識を明確にしていくかという点がこれまでとはまったく違うなと思います。

あとは、CIOの魅力や難しさで言うと、非常に楽しいですし、やりがいがあります。誰にでもできるわけではないという立場で社内でも見ていただけますし、裁量や社内外に対する影響も非常に大きいので。一方で、短い期間で着実に目に見える成果を出していく必要があるため、良い意味でもプレッシャーにはなっているかなと思います。

以前、私と同じくコンサルティング会社から事業会社のCIOに移られた方が、「まずホワイトスペースで、自分ができて、会社にとってもニーズがあるという、この3つのところで1つ2つ実績を出していけば周りに必ず認めてもらえる」とおっしゃっていて。自分が考えていることも振り返って、本当に一緒だなと思ったのをよく覚えています。

榊巻

玉置さん、どういうことを考えながら経営会議に出るイメージですかね?参加者の方からすると、どうやって経営視点を持ったらいいんだろうと思われるかもしれないなと。

玉置

経営視点を持つには、自社の財務指標を意識した方が良いですね。私は常に株価を意識しています。あとは、情報システム担当役員や情報システム本部長の中にはシステム導入が仕事になってしまっている人がいますが、例えばシステム導入を検討している事業部であまり利益が出ていない場合は、大掛かりなシステム導入ではなくコストを抑えて内製で対応しようという判断をする必要があります。我々はやはり経営者なんですよね。

榊巻

なるほど。これは確かによく分かります。

玉置

あとは、成田さんが言われたホワイトスペースのお話はとても良いですよね。自分が貢献できる点として、私は常に社外の目を入れるようにしています。幸いにして私はIT業界経験が長く、色々なつながりもあるので、社外の意見や他社はこうなっていると社員の人達に伝えるのは有効かなと思っていて。

特にパナソニックにはソフトウェア技術者も多いので、彼らに社外の視点を入れるということはよくやっていますね。CIO同士で情報交換をする機会も多く、何かあれば他社のCIOの方々に連絡して聞いてみると結構情報が集まってくるので、CIOネットワークはとてもありがたいです。

成田

本当に外のネットワークって非常に大事ですね。私も玉置さんがおっしゃっている外の視点を持ち込むという点は非常に大事だなと思っていまして、私も日清食品に入社するときに副社長との面談の場で「社内でやっていることが必ずしも正しいこととは限らないので、社内を見てもし違うなと思うことがあればどんどん変えて欲しい」と言われて。

他の会社が何をやっているのかをできるだけ迅速に社内に提供できるようにチャネル構築しておくことを常日頃意識しています。

「成田に言うと、他の会社の情報を持ってきてくれる」という状態になると、IT以外の人事とか会計関連のことでも結構相談が来るんですよ。他社がやっていることを伝えていくことによって、経営陣はもちろんのこと、社内を説得しやすいというメリットはあるので。社外に対してのチャネルを持つこと、そのために逆に自分から発信していくことも非常に大事なので、それを心がけていますね。

榊巻

「こういう他社情報あるよ、良かったら出そうか?」とちゃんとアクションしていくということですね。社外に対する発信は誰向けにどうやっていらっしゃるんですか?

成田

今日のような場への参加や、メディアやベンダーさんのイベントに協力するなど、自分たちが何をやっているのかを社外の方に認知していただくようにしています。そうすることで、自分が情報を欲しい時には、他の会社さんにも確実に協力していただけるんですよね。SNSで「ちょっとこういうことを知りたいんですけど30分ミーティングできますか?」とご連絡すると、お力を貸していただけることが多いです。

あとは社外に情報を発信することによって、逆にその情報が社内に入ってくるような社内広報のような効果もあると思っていて、それも意識して行っています。メディアに出た記事を社員が見ることによって、「IT部門がやっていることって社外からこういう風に評価・注目されるんだ」とIT部門に対する見方も変わるので、そういったメリットも非常に大きいかなと思います。

<D.CIOへの道程に対する考え方は?>

成田

CIOになるための何か決まった道筋のようなものは無くても良いのかなという気はしていて。IT畑からCIOになる方が多いなと思いますが、ベンダーからCIOになられる方もいらっしゃいます。業務部門からCIOになるケースは少ないかと思いますが、実際にそういうご経歴の方ともお話した際に非常に感銘を受けたので、そういったキャリアも決して無しではないかなと。

私自身は、玉置さんをはじめこれまで様々なCIOの方を見ていて、自分もいずれは責任者として責任と裁量を持ってできる立場に就きたいと思っていました。

幸い、私は長谷川秀樹さんと喜多羅滋夫さんという二人のCIOの方と直接一緒に仕事をする機会に恵まれまして。お二人はCIOとしてのキャラクターも得意なことも全然違います。長谷川さんは、僕の中ではCIOというよりもイノベーターですね。

彼の強みはテクノロジーの目利きや着眼点、あとは社内外に知人が多くてリソースも多くお持ちなので、何かをやろうと思ったら他のリソースを巻き込んでやっていく推進力が圧倒的に強い。僕は彼と仕事をしている時は、日曜日になると「早く明日会社に行きたいな」と思うくらいでした。

私も長谷川さんも週末に様々なことを調べていて、月曜日に会社で「こんなことがありましたよ」とお互い無邪気に言い合うのが楽しくて。彼自身が楽しんでいるところが、一緒に働いていて非常に感銘を受けたところですね。

喜多羅さんは人間性の優れた方だなと思っていて、組織開発や社内調整力が図抜けている方だと思います。常に一段上から物事を考えて、こういった観点から考えるべきということをメンバーにおっしゃっていて。原理原則とリアリティの間のバランス感覚が非常に優れていて、調整能力に長けていらしたと感じています。

玉置

僕も喜多羅さんも同じP&Gのリーダーシップトレーニングを受けているので、喜多羅さんのことはよく分かるし、非常に共感できますね。業務部門や経理畑の人がCIOになることが昔は多かったと思いますが、僕はそれには反対です。

もちろん、中にはITのバックグラウンドが無くてもCIOとして成功されている方もいらっしゃるけれども、その方の場合は自ら技術の動向にアンテナを張っていて、ITの人のことをよく理解できているからうまくいっているのだと思います。ITコンサルやITベンダーの人であれば、情報システム部門の人達と一緒に仕事をしていて彼らの気持ちがよく分かると思うので、良いと思います。

情報システム部門の人達は、とても頑張っているのに社内的に報われないことも多いんです。システムは動いて当たり前だけど、障害が発生して止まるようなことがあれば大問題という、本当に大変な仕事ですよ。それでいて、頑張っていてもなかなか褒められない。多くの会社で営業や商品開発のアワードはよく目にしますが、ITのアワードってあまり聞かないですよね。縁の下の力持ちだけれど、何か問題があると批判が集まりやすい部署なので、情報システム部門の人達は大変だと思います。

僕はP&Gで仕事をしていた時に、情報システム部門の自分達が報われるためには経営者になったらいいんだと思って、30代後半の頃にCIOになろうと決意しました。だから、僕はITの人にCIOになって欲しい。僕は骨の髄までITの人なので、応援の意味も込めてそう思うんですよね。

CIOになるための決まった道筋は無いけれども、経営陣になりたいと強く思い続けることが大事だと思います。僕もずっと「自分が必ずCIOになって、情報システム部門の地位を上げてやるんだ」と思い続けていました。成田さんの社外発信の話は僕もまったく同感であり、僕は新聞で取材を受ける時も外で講演をするときも、パナソニックの人のことを考えて話をしています。必ず社員が見ているためです。皆頑張っているのだから、自身の仕事に誇りを持って欲しいと思います。

榊巻

お二人ともそれをおっしゃるのは興味深いです。やっぱりIT部門からCIOになっていくのが王道ですね。

<G.成長に欠かせない習慣や意識は?>

成田

玉置さんが常々おっしゃるBS・PLのところは本当にその通りだなと思っていて、IR情報は常にチェックしていますね。特に決算説明会の資料はもちろんですが、Q&Aも見るようにしています。経営がどういう状況なのかを知る意味でも大事ですし、それをIT部門に持ち帰って経営戦略からIT戦略に落とし込む文脈も非常に重要なので、常にIR情報をインプットするようにしています。

喜多羅さんがおっしゃっていたのは、「経営陣と話すには、日経新聞と日経ビジネスは必ず読んでおくように」と。これはCIOになってから本当に痛感していて、経営陣と同じ媒体を見るようになりました。「今朝の日経新聞に載っていた〇〇って」というところから会話が始まるので、目を通していないのは論外です。

あとは先ほどお話した情報発信や、それをもとにした情報収集、社外のチャネル構築など、何らかのホワイトスペースを見つけて、自分がそこに貢献できるかは意識しているところですね。

榊巻

よく分かります。新聞や雑誌を読んでおくのは前提で、それをもとにどうアクションするか、どういう思考を回すかが重要ですよね。情報発信は、自分ができるような立場になってからやろうと思いがちですが、成田さんは昔から情報発信はされているのですか?

成田

昔からですね。どんな立場からでもやれると思います。私は最初日経ITイノベーターズに入れてくださいと申し出ていましたし、あるCIOフォーラムでモデレーターが決まっていないというのを見て、「自分がやりますよ」と経験も無いのに事務局に申し出たこともありました。

そういうところから徐々に出られるようになっていったので、然るべきタイミングなんてものは無くて、小さなイベントでのライトニングトークから始める等でも良いと思います。自分からまず情報発信するのは本当に大事なことだという気がしますね。

榊巻

まず小さなところからですよね。私も結構あちこちで情報発信するんですけど、意外と発信させてくれと言ってみると「じゃあやってみろ」となるんですよね。自分でブログを書いてもいいですし、続けるというのも大事だなと思いますね。玉置さん、いかがですか?

玉置

成田さんがおっしゃったことは私もすべてアグリーですね。その他で言うと一点だけ、これは心構えとしての話ですが、私は大企業でずっと働いてきて、P&GでAPACのCIOを務めたときに部下が何百人もいて、そこから現職に至るまで常に数多くの仲間を持っています。

私はパナソニックインフォメーションシステムズという会社の社長もしているので、本当の経営者なんですね。ここにも連結会社含めたグローバルで2千人の社員がいて、その社員の方とご家族の生活を私は担っているので、リーダーとしての心構えとして、「自分ひとりじゃないんだ」ということを常に考えています。私の判断したことが皆さんの生活に関わってしまうというのはすごく怖いことなんですよね。これはいつも意識しているし、毎晩寝る前に「今日は誰かの人生に触れたかな」と思いながら寝るようにしています

榊巻

「変えられたかな」とかではなくて、「触ったかな」という表現が素敵だなと思いましたね。これは、ちゃんと誰かの人生に触っていきたいという想いですか?

玉置

ちゃんと経営者として、人の人生に関わっていきたいということですよね。我々は数字だけを追いかける経営者ではないので。

榊巻

分かります。数字を追いかけるだけの経営者なんて空しいですよね。人のために、社員のために会社はあると私は本当に思います。玉置さんにおっしゃっていただけると、とても後押しされた気がしました。

<F.転職の功罪について>

玉置

最初に入った会社で転職はなるべくしない方が良い。僕は最初の会社に21年いましたから。最初の会社で嫌だろうが何だろうが、縁があって入ったのだからまずはそこで頑張ってみて、自分がこれからどういう風に何をして社会に貢献していくのかが分かれば外に出ても良いと思います。

その前に転職を繰り返してしまうとよく分からなくなってしまうから、まず自分の芯をつくったほうがいいと思いますね。その後は自分の職業ということで、私はCIOが自分の職だと思っていて、就社をしているわけではないから、CIOとして請われればどこにでも行きますよ。基本的に私はどこの会社でも同じことをやっています。

榊巻

自分が社会にどう貢献していくかが分かってからというのは私もよく分かります。僕も最初の会社で色んなことをやってみたら、実は建築ではなくITと業務改革がやりたいと気づいてシフトして、そこからはブレていないんですよね。成田さんはいかがですか?

成田

私は転職には慎重派です。初回の転職の時に物凄く失敗をして、今思い出してもつらいですね。アクセンチュアで13年やっていたので、他の会社に行っても通用するだろうと思って転職したのですが、入社して数ヶ月は何もパフォーマンスが出せなくて、ここまでまったく通用しないものかとショックでした。

周りの人達からも、直接は言われないものの期待外れだったと思われているような雰囲気で。どんどん色々な事がうまく回らなくなって、常に気後れや萎縮している状況でした。

その経験が非常に強烈に残っていて、環境を変えることの怖さについては本当に今でもとても慎重です。その後2回会社を移りましたが、その不安はある中でも、飛び込んでみるのは良いかなと思えたところに転職をしてきています。

ただ、今振り返ると逆にその経験があったからその後があるんだなと本当に思っていて。当時は自分が勝負できる・できないに関わらず、悪循環に入ってしまってそこから自分では抜けることができなかったのですが、その経験をした後は「本当にそこで自分が戦えるんだっけ?」という、土俵の見極めをするようになりましたし、自分が思ったように言動できる環境に身を置くことが何よりも重要だと気づきました。

最初の転職時は自分の思ったことを言えない、思ったように行動できない環境になってしまっていて。それによって同じ人間でもパフォーマンスが大きく変わることが分かったので、それ以来そういう状況にならないように避けていたら、結果として色々な物事がうまく回り出した感覚があります。

その経験が無かったら、それ以降もっと大きな落とし穴に嵌っていたような気がするのですが、落とし穴に入らないように意識し続けてきたことが、自分の場合は良かったのかなと思います。

榊巻

これはちょっと意外でした。でもお話を聞いて納得です。成田さんのような方でもそうなんですね。今は、転職する上で気を付けていることはありますか?

成田

もし今仮に転職するとしたら、この人と一緒に働きたいかどうかという点を事情に重視すると思います。転職の良いところは、違った環境に身を置いてそれまでは得られなかった機会や経験が得られることであり、そこから成長機会を得られるし、自分が持っているものを違う環境で活かせるかどうかを試せることですよね。

それは非常に魅力的なことだなと思っていて、そういう要素があるなら、もちろん今後も転職も検討し得るかなと思っています。環境を変えることによるリスクや怖さと、新たに得られることを天秤にかけて、一緒に働ける方が誰なのか、その方と一緒であれば働きたいかどうかが転職する・しないの判断基準になっているかなと思います。

玉置

これはクライスさんのイベントだから持ち上げるわけではないですが、サーチファームのコンサルタントの人が親身にちゃんと考えてくれているかどうかは大事です。中には、転職をどんどんさせてトランザクションコストを稼ぐ人も残念ながらいますので、本当にサーチファームの方が親身に自分のことを考えてくれているかどうかは、転職する上で1つのクライテリアにしたら良いと思いますね。

僕は今まで二人のコンサルタントにお世話になっていますが、二人ともとても良かったです。

榊巻

いくつかのファームを見て、色んなコンサルタントと会うのも重要なんでしょうね。玉置さんは、成田さんがおっしゃった転職の怖さって感じられたことはありますか?

玉置

僕も最初の会社に21年間勤めていて、P&Gがとても良い会社だと思っていたから、そこから転職するのは怖かったですよ。特に私の場合は転職に伴いシンガポールから日本に単身で移るという大きな環境の変化もあったので、クライスさんに非常にサポートしていただきましたね。そのコンサルの方が私の今の人生を決めた人かなと思っています

榊巻

これは、、、褒めましたね(笑)。やっぱり転職も簡単に考えないで欲しいということですよね。特に最初の転職の時は、ちゃんと考えてしっかり準備して動くことが大切ですね。

玉置

できれば転職が決まったら、入社前に相当準備した方が良いと思います。私がパナソニックに移った時は、3ヶ月くらいは前の仕事をしながらずっと準備をしていました。100日間計画というのを作成して、どういう風に動くのか初日にはすべて準備ができていて、チームの顔も名前も覚えているという状態にしていました

成田

玉置さんが以前そのお話をされていて、私は非常に参考になりましたね。新しい環境に行くのに、いかにきっちり準備しておくのが重要かというところをあそこまでやられているのはすごいなと。他のCIOの方々も皆さん同じようなことをおっしゃっていましたね。

玉置

これは大事ですよね。ユニクロでこういうのを「前始末」と言うんですよ。この前始末をやっておくと全然違います。皆さんも転職する時や、あるいは社内でもアサインメントが来て新しいロールに就くときは前始末をされるといいと思いますね。

榊巻

非常に勉強になります。前始末をやっておくと初速が早くなるということですよね。

参加者からの質疑応答&ディスカッション

榊巻

皆さんからの質問に答えていきたいと思います。一番「いいね」が集まっている質問がこれですね。

「SIer勤務です。事業会社へ転職することを考えると、キャリアの幅が狭まるのではと不安を感じます。情報システム部門の地位が高い企業とそうでない企業の見分け方と、事業会社でのキャリア形成についてご意見をいただけないでしょうか?」

成田

今の会社では情報システム部門の地位が特に低いとも高いとも思わないですが、他の部門から「これからの時代はやっぱりIT部門が今まで以上に重要な位置づけになるよね」ということを言われたりはします。もちろん、定常的に動くはずのシステムがうまく動かない時に色々言われるというのはありますが。SIerから事業会社に行くと判断されるのであれば、キャリアの幅が狭まるということは無いかなと思います。私自身もSIerから事業会社に移って、先ほど話したように転職の最初は大きく躓きましたけど、その後はペースを取り戻して。

私が何で事業会社に行きたいと思っていたかというと、ITベンダー側だとやれることが限られていて責任範囲も限定されるので、もっと事業会社側で最後まで責任を持ってやりたいなと思っていて、その点は事業会社に移って思った通りのことがやれたので、キャリアとしては良かったと思います。情報システム部門が社内で地位が低いかというと、特に今後の世の中のことを考えれば必ずしもそうは見られていないかなと思いますね。特にコロナ禍になって、情報システム部門が無いと業務が全然できないことも皆ますます分かってきているので。

玉置

情報システム部門の地位が低いか高いかということはあまり意味が無くて、パーパスがあるかどうかが重要だと思うんですよ。自分たちがやっている仕事にパーパスがあるか。そのパーパスというのは、「経営に直接貢献する」「自社製品・サービスを使ってくださるお客様が喜ぶ」「誰かを助ける」「社内のシステムで社内の誰かが便利になる」等、何でも良いと思います。

あとは、CIOや情報システム担当役員がちゃんと社外発信しているかどうかは大事です。社外発信している会社の方が社員の誇りもありますね。私は、パナソニックのアニュアルレポートにCIOメッセージを2ページにわたり掲載してもらいました。

それから、SIerと事業会社ではパラダイムが全然違うので気を付けた方がいいですね。質問に「キャリアの幅が狭まる」とありましたが、そう思うのであればやめたほうがいい。事業会社に行くというのは、その会社で最後まで責任を取るということであり、「色々なアサインメントをやりたい」「様々な業界を経験したい」という意識ではダメなんですよ。

その覚悟を持った上で事業会社に移った先には、また色々なキャリアがあると思います。もしかしたらその会社の社長になるかもしれないし、そこは人それぞれではないですかね。

榊巻

私も事業会社にいたのでよく分かります。システムをつくって終わりではなく、その先を考えないといけないからまるで違うというのは本当にその通りですね。次の質問です。

「企業によって異なると思いますが、CIOとCDOの違いをどのようにお考えでしょうか。」

成田

私はこの違いはあまり意識していないのですが、CIOが元々いる中で、CIOだとDXを回しきれないからCDOを立てるというケースは、様々な観点でその後が難しくなるようにと思います。今まではIT部門がデジタル化を推進してきたのに、新たに違う組織ができて、場合によってはその両部門が連携しないという形になりうるとしたら。

ちなみに、当社の場合はCDOはおらず、IT部門出身ではなく営業畑の責任者がDX推進部長を務めています。私は彼と常に連携しているのですが、彼は当社のビジネスを熟知していますし、相互にお互いが持っていない知見を持っています。

また、本当にデジタライゼーションが実現されている企業ではCDOという役回りの方はいないので、あくまでも今後DXをやっていくという会社がそういう役割を推進していくためにある意味で過渡期としてCDOという役回りの位置づけを置いているように思います。

玉置

これは僕がずっと言っていることですが、CIOあるいはCEOがDXを推進する役目を担うべきだと思います。もちろん色々なご意見があると思いますが、僕は「情報システム部門が頑張らずして、自分達の会社のDXを実現できるはずが無い」と思っているので、情報システム部門に頑張って欲しいという願いでもあります。

榊巻

ありがとうございます。では、次の質問です。

「情報システム部門の地位が低いというのは頷けますが、最近の潮流ではITやデジタルはビジネスの競争力の源泉としても重要度が増してきていると思います。その重要性を理解していただくために、CIOの役割は非常に重要かと思いますが、どのように取り組まれていますでしょうか?」

玉置

経営会議で発言することですね。今の経営者は、ITの重要さだけではなくて、怖さも最近は分かりつつあると思うんですよ。システム障害で社長や経営陣が交替してしまうとか、セキュリティ事故があってお客様にご迷惑をかけたりしてしまうという危険性について、経営の言葉で易しく提言していかないといけない。これは我々から経営者に対して何度も繰り返し言い続ける必要があると思いますね。

成田

現場部門に売り込んでいくという動きはやっていますね。リソースも限られているのでなかなか難しいのですが、IT部門から入っていって現場のニーズを拾って、実現していく。最近ノーコードも出てきたので、現場の「こんなアプリがあったらいいよね」という要望に対して、クイックにモバイルアプリをつくって現場に持って行くと、「IT部門はこんなことをやってくれるリテラシーがあったんだ」という反応になるので。

こういう動きが複数部門で出てくると、「あっちの部門でこういうサポートをしてもらった」という情報を聞きつけて他の部門からもサポートデスクに問合せが来るようになります。以前よりもIT・デジタルを使って業務改善する余地は広がってきています。現場に入っていって売り込みをしてクイックに結果を出していくというのは意識しているところですね。

また、マーケティングや営業部門のデータ分析等の事業関連のITに関しても、データサイエンティストを数名採用して彼らと一緒に現場に入っていくということも行っています。経営陣や現場に対して、「実はIT部門にはサポートできるリテラシーはあるので、相談してください」というコミュニケーションを取っていく必要があるかなと思っています。

榊巻

これも成田さんが言われていた、負のスパイラルにハマらないようにちゃんと次の一手を打っていくということかと思いました。でも、IT部門に余力が無いとつらいですよね。

成田

余力が無い時は完全に守り一辺倒に陥ってしまうことはままありますよね。システムがうまく動かずこのままでは事業影響が出てしまうとか、例えば、セキュリティインシデントになる恐れがある状況などでは完全にそれにリソースを取られてしまって、こんなことはまったく考えられないです。

ただ、守りだけではなくて攻めの動きもやっていかないといけないですし、若いメンバーの方は攻めのITに携わることに興味がある方が多いので、そういう姿勢は見せていく必要があると思いますね。

玉置

このシステム障害やセキュリティインシデントのような緊急事態は、関係者の皆様にはご迷惑をおかけし、申し訳ないことではあるのですが、ピンチである反面、将来同じことを繰り返さず、よりよいシステムを構築するためのチャンスに変えなければと思うようにしています。

経営陣に逐一報告して、経営インパクトがどれくらいあるかを経営の言葉で語るというのはとても大事です。私は、システム障害発生時にはすぐに経営陣へチャットで報告を入れます。CIOの格好良くない一面かもしれませんが、これを地道にやることがITの重要性や怖さを経営陣や現場にも理解してもらうには非常に有効な手段だと思います。現場で頑張ってくれている情報システム部門の人達も、「今の状況を社長に報告した」と言うと盛り上がるわけですよ。「経営陣もわかってくれているんだ」と。

成田

まさにそうですよね、インシデントはチャンスクレームもチャンスですね。その時は本当につらいですけど、チャンスでもあるというのは本当にその通りですね。私も着任してから何回かこういう事態を経験しましたが、これをうまく生かすことでその後のIT部門に対する評価を変えることができるので、非常に共感しますね。

榊巻

ピンチをチャンスに変えるという気概を持つことが重要ですね。それでは、最後の質問です。

「CIO冥利に尽きると感じた瞬間を教えてください。」

成田

「グローバルの基幹業務システムの方向性をどうすべきか」という大きな課題があり、他の役員も含めて方針を詰めた上でCEOに説明に行き、承認を得ることができました。その際に、CEOから「他にも提案があるなら、聞きたいから持って来てほしい」と言われたんですね。

その言葉は非常に嬉しかったですし、今後やっていけそうだという確信を持てた瞬間でした。まだまだCIOとしては経験の浅い自分ですが、経営陣のニーズを先回りしてキャッチし、具体的に形にしていくことをやりたいと強く思いました。

榊巻

経営の力になれているという手応えですよね。玉置さんはいかがでしょうか。

玉置

僕はCIO冥利に尽きるという瞬間は無いですが、ファーストリテイリングでは組織創り、アクサ生命でも古い生命保険会社の変革をしに行っていて、今もどんどん変革を仕掛けているので、どこの会社でも社員から「来てくれてありがとう」とメッセージをもらったことがあるんですよね。それはCIOとしてというよりは、変革者として嬉しいですよね。

榊巻

素敵なお話ですね。確実に社員の方の人生にタッチしているのではないかと思います。僕もコンサルなので、お客さんにこういうことを言われると最高ですよね。一緒に仕事できて良かったです、とか言われるともう本当に良かったなと思います。まだまだいくらでもこのままお話したいところですが、そろそろお時間ですね。本日はありがとうございました。

構成:神田 昭子

CLOSE