2021 Oct

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Thu

セミナーレポート

スタートアップのCXO・経営幹部に求められる役割、資質とは何か?
~CxOを目指すキャリアに必要な経験、スキル、マインドとは~

福島 広造氏 ラクスル株式会社 取締役COO

竹田 正信氏 株式会社マネーフォワード 取締役 ビジネスカンパニーCOO

湯浅 エムレ 秀和氏 株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター

登壇者自己紹介

湯浅

皆さま、こんばんは。既に140名という多くの方に参加いただき嬉しく思います。本日は日本を代表するスタートアップCxOのお二人をお呼びしています。私はモデレーターでありつつもお二人に3時間くらいお聞きしたいことがありますが(笑)、後半はQ&Aの時間も設けますので、質問もどしどしお願いします。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。

福島

福島と申します。ボストン・コンサルティング・グループで今DXと呼ばれているトランスフォーメーションの領域を8年間手掛けており、その後ドイツで1年間同じようなプロジェクトをやった後、2015年にラクスルに入社しました。当時は30人で30億ぐらいのタイミングで経営企画部長として入り、そこから印刷事業をみて、今は全体のポートフォリオマネジメントと取締役をやらせていただいています。今日はよろしくお願いします。

竹田

マネーフォワードの竹田です。私は2000年頃にインターネット関連の会社に入り、その後「インターネット×ベンチャー」みたいな会社を転々としてきたキャリアです。直近は、2016年にジョインして経営をしていた会社が2017年11月にマネーフォワードグループにジョインし、数ヶ月後にマネーフォワード本体の事業責任者をやらせていただく中で、今はBtoB事業全体の責任者を務めております。今日はよろしくお願いいたします。

湯浅

ありがとうございます。私は今グロービス・キャピタル・パートナーズに所属しているベンチャーキャピタリストです。我々は1996年から既に200社近くのスタートアップに累計で1000億円近くを投資してきています。私は2014年から所属して、主に最近DX領域で数多く投資させていただいております。今日はどうぞよろしくお願いします。

本イベントテーマにおけるパネルディスカッション

【COO・経営幹部に求められる役割とは?】

湯浅

福島さんがラクスルに入られた当初はCxOではなく経営企画部長から事業責任者にステップアップされていったと思いますが、それぞれの立場の違いもご覧になってきたのではと。それを踏まえてCOOと経営幹部はどのような役割なのかお聞かせいただけますか?

福島

ラクスルはこの5年で30億から300億という約10倍規模になった中で、大きく分けると3つのフェーズがありました。一般的な役割として抽象化してしまうと難しく、事業フェーズによってかなり役割が違ってくる。

スタートアップの面白くもチャレンジな点は、フェーズによって違う会社になっていくことを理解して、「どのフェーズが自分には合うか」「どのフェーズのCxO・経営幹部になるのか」が、選ぶ上での大事なポイントかと思います。

まず自分が入った時は30人・30億くらいの会社だったので、社長が全部見られる。ではCxOの役割は一体何かと。経営そのものはファウンダーが立ち上げてきた事業ですし、ファウンダーが熱量も解像度も高い状況なので、そのフェーズはタイトルが何であれやることはエグゼキューションとかサプライチェーンとかマーケティングとか、機能でバリューを出していくのがファウンダーCEOではない人の役割かなと。

私もコンサルティングから入ってきたので、何となくつけた名前が「経営企画部」だったという(笑)。でもロールも何も決まっておらず、結局入って1年半くらいサプライチェーンの部長をひたすらやって粗利率を改善しました。

このフェーズは全部ファウンダーが見られる中で、経営幹部は基本的に機能に入って非連続な粗利改善やグロースに貢献していくフェーズかと思います。

その次のフェーズでIPO前の100~150億規模で事業も2つになり150人くらいになると、本格的にCxOという役割に応じた背中を預けて経営していく。ファウンダーがハコベルという新規事業をやるということで、私がラクスルの事業責任者というのが当時の役割でした。

当時は100億のうち90億ほどがラクスル事業だったので、全体の9割を私が見ていて、ファウンダーや他のメンバーが広告事業や今の広がりのある事業を手掛けていました。

今は本格的なポートフォリオになってきたので、各事業には経営チームがいて、経営の方のコーポレートポートフォリオマネジメントとしての役割に変化しました。

この3つのフェーズで自分自身の役割がまったく変わってきたなと。経営幹部は自分の事業とどこに価値があるかというところで「変化し続ける」ということが、フェーズを跨いでやってみて一番学んだことの1つかと思います。

湯浅

ありがとうございます。スタートからもうロケットダッシュで(笑)。2つ目から3つ目におけるご自身の変化やマインドセットの違いについてもう少しお伺いできますか?

福島

SCMや事業責任者という機能部長は1つのKPIを背負っている感覚で、次の事業ヘッドは外部環境を含めて事業価値を背負っていく。それは「自分が背負う」感覚に近いので、自分が一番前に立ってリーダーシップを発揮して、一番大切な難しい課題に自分がタックルしていく形です。

今の3つ目の300億くらいのCxOは、「経営チームを創る」「創ったチームがパフォーマンスをあげられる環境をセットアップしていく」という経営環境の整備みたいなマインドに自分自身が移ってきて。「自分の価値」ではなく、自分が手を出せない試合のコーチのような立場で、どういう11人を揃えてどういう環境に置くと一番パフォームしてくれるのかという、間接的にバリューをどう出していくかのチャレンジに移ってきて、今苦労しているというのが3つのフェーズですね。

竹田

めちゃくちゃ既にすごく勉強になっていて、メモってしまいました(笑)。

福島

いやいや、ラクスルなんてまだラクスル・ノバセル・ハコベル・ジョーシス・ダンボールワンという5つの大きなポートフォリオでやっていますけど、マネーフォワードは10~20のポートフォリオを持たれているので異次元のポートフォリオマネジメントかなと。私自身は5つの経営チームを創っていくことに注力している感じですね。

竹田

なるほど。それで言うと確かにマネーフォワードは色々なポートフォリオがある感じですけど、大きくは4つの事業ドメインに分けていまして、私はその中で一番大きな事業ドメインのCOOという立場なんですね。

今のお話を伺うと、福島さんの第2フェーズにおけるラクスル事業の責任者に私自身が今いる位置は近いのかなと。

今一番大きい事業ドメインが500名以上になって、全体の売上が100億規模になってきているので、そこからどう経営チームがパフォーマンスを最大化できるようにするかという第3フェーズになってきた感じですね。

湯浅

マネフォでは各事業を更に束ねている方が他にいらっしゃる構造なのですか?

竹田

束ねているというほど明確な人がいるわけではないです。代表の辻がいまして、調達や全体のエグゼキューションをするという意味では金坂というCFOが全体を見ていて、あとは各事業の責任者を置いて比較的そのメンバーに任せて事業を推進している状況です。

私は取締役も兼務する形になっていますが、他の3事業は執行役員が事業責任者を担っている構造です。すごく過渡期にいる感じかなと思いますね。

湯浅

事業責任者であればその事業を伸ばすことが求められる役割だと思いますが、色々な事業を束ねる今の福島さんのCOOというお立場だとKPIをどう設計されていますか?

福島

一義的にラクスルで言うと30%成長自体はもちろん自分自身のミッションとしてもありますが、じゃあ来年・再来年も30%成長をやり遂げるかというと、今回のコロナ禍のような事態でもポートフォリオが大ゴケしないかとか、2024年以降に30%成長していくための仕込みとこの2年のための仕込みは別なので。

どの時間軸に今一番課題があるかとか、何に一番ポートフォリオ上の注意ポイントあるいは変えていかないといけないポイントがあるか。そこの設定をリスクサイドとアップサイドをずっと考えながらやっていくので。

分かりやすいKPIや目標はあるものの、色々な時間軸の色んな打ち手を駆使していく感覚に近いですね。なので色んな事やってます、という感じです。

湯浅

すごく高度な感じですね。純粋な成長率だけではなく、定性だとか短期/中期/長期を使い分けていらっしゃると。

福島

ポートフォリオだと引くレバーが何個かあって、もちろん事業が伸びるとか事業買収という事業レイヤーはありますが、より長期のポートフォリオ経営になっていくと人材ポートフォリオの方が大事になってくるので。

今は経営チームを今5個あるポートフォリオを8個くらいにしていかないと事業が創れないので、自分自身は経営チームを何個創れるかにチャレンジしています。

事業レイヤーではないドライバーを引きに行きながら、最後は事業のポートフォリオの積み上がりを達成していくことを今はミッションとしていますね。

湯浅

なるほど、分かりました。竹田さんはこれまで既に4社で取締役をされていて、色んな会社の経営陣や経営パターンをご覧になってきたと思いますが、全部一緒なのか、会社によって違うのか。取締役やCOOに求められる役割って各社ごとにどうなのでしょうか?

竹田

最初のマクロミルには10年ほどいて、営業マンから色んな経験をさせていただき、現場たたき上げで取締役になったという感じでした。

当時まだ30代前半だったこともあり、「お客さんと事業部のメンバーがより活性化していくためにどうするか」という視点で経営陣の一人として入っており、事業責任者のロールが非常に強かったと思います。

その後、縁があって入ったイオレではターンアラウンド的な経験をさせていただきました。そこで初めて会社の事業自体をどう成長させていくのかということを考えると、事業のトップラインだけを見る話ではなくて、システムやバックオフィスの部分などもちゃんとつながった形で一体になっていかないとパフォーマンスがでないと感じて。

それで臨時のCTOをやったり、一時的にCFOみたいなことをやったりして立て直す経験をさせていただき、初めて経営がどういうものなのかという広さを経験できた気がします。

その次はスタートアップに行ったので、一気にキャッシュフローというか、とにかく明日死なないことが大事という世界で(笑)。

その時はゼロイチの苦労や事業をゼロから創っていくこと、根源のお金をどう調達してくるのか等、会社はとにかくあきらめないことがすべてなんだという胆力の部分をめちゃくちゃ鍛えさせてもらった経験だったと思います。

今のマネーフォワードでは、色々なフェーズの企業を経験した上で、あらためて形になってきてこれから組織になっていかなくてはいけないフェーズで役員を任せていただいた感じです。

10年前に同じフェーズのマクロミルで事業責任者ロールでしかできることがなくて正直躓いてしまった経験をしたのですが、改めて本当の意味で経営者として会社の非連続成長の実現や、再現性の高い組織を複数創っていくという再チャレンジをさせてもらっている感じですね。

なので、それぞれ全然違うフェーズで色んな経験をしたのですが、先ほど福島さんのお話を聞いていると、スタートアップが成長していくというフェーズを私は違う会社で経験したのかなという気がします。

湯浅

なるほど、本当に4社4様というか(笑)。そういう経験を経て、今マネーフォワードの取締役COOとしてご自身の役割をどのようなものだと定義されていますか?

竹田

COO論を福島さんの前で語るのも憚られますが(笑)。どれだけ組織が一丸となって1+1=3にも4にもなる力を発揮できるようにするかが自分の役割だと思います。

戦略を立てる人やビジョンを創って引っ張る創業者、資金を調達してくれる力のある経営メンバーもいますし、優秀なメンバーも集まってきている。

問題はこれだけ優秀な人が集まってきたのにパフォーマンスしないケースが世の中多いので、そこをどう具現化できるか、エグゼキューションできるか、結果につながる行動ができるかが自分の存在価値でもあり、やらなきゃいけないところだと思います。

「何をやっているのですか?」と聞かれるとすごく多岐に渡ってしまっていて。調整や誰かの翻訳をしていたり、コーチング的なことをしたり、お客さん先に行って背中を見せることもある。

とにかく、会社が一丸となって最短距離で早く成長していき、中長期の基盤をつくっているという観点において最速を出すためにやるべきことすべてをやるというスタンスかと思います。

湯浅

今の竹田さんのお話を聞かれて、福島さんも頷いたり笑ったりされていましたが。

福島

非常に共感するところが多かったです。そもそも経営幹部・CXOという役割がある中で、COOがあるという2段階に分けて考える必要があるかなと思います。

まず、経営幹部・CXOは事業責任者や機能部長と何が違うのかと言うと、先ほど竹田さんが仰ったように、「企業や事業価値が伸びればいい」というところを背負うのが一番の違いかなと。

いくら社内で頑張ってもシェアが落ちたら価値無いよねとか、コロナで業績が落ちた時に「しょうがないよね」なのか、「それも自分のせいで何とかしなきゃ」と思うのか。

外部環境も含めて企業価値や事業価値を背負って外の評価を持ち込むところが1つのマインドとして切り替わるポイントだと思います。

もう1つは、コンサルティングから移ってきて思ったことですが、コンサルタントは経営イシューに触れているし、経営幹部に近い。

では何が違うかと言うと、経営者は事業・プロダクト・組織・財務のような色々なレイヤーのイシューのどこが今会社の一番の経営課題なのかを決めて、明日・1年後・5年後という時間軸も複数ある中で、「1年後の組織が一番課題だ」と決めなくてはいけない。

それが決まればプロジェクトにしてコンサルティングや各部門に落とすこともあるかもしれませんが、「課題領域と時間軸を設定する」行為自体は経営者のみがやることかと。色んな課題が山積する中で、「結局何をするんですか?」という設定をするのは経営者の役割かと思います。

次に、COOの役割としては2つあると思います。

1つは、COOは長い時間軸のことをやっていますが、スタートアップの組織自体は足元に寄っていく中で誰も見えていない3年後・5年後のロードマップを描いて「1年後にここに行こうよ」と示すこと。

1年後に価値がある事業でないとVCの方々やIPO後のマーケットから評価されない。「いつか価値が出る」と言っても信じてもらえないので、現在の価値をプルーフし続ける必要があり、1年後の価値は今より上がっていて、かつ3年後にも近づいていないといけない。

サグラダ・ファミリアが凄いのは、完成していないのに世界遺産になっている。そういう状態がCOOの理想だと思っていて、まだ途中だし、あるべきすごく高い姿を目指しているけど、その途中ですら価値があるところを描き切るのがミッション。

もう1つは、皆すごく強いのにワークしていないとかかみ合っていないことがよくある。

竹田さんが仰るように、誰にも評価されないけど解決しないといけないものが会社にはある。誰もやりたくないけど事業価値のためには必要なので、チームや組織の三遊間を埋めるロールを「Chief Other Officer」と私は呼んでいて、皆が走り切るために誰も持てない時間軸や役割として浮いているものをカバーする。

それがCxOの中でもマーケティングやテクノロジーのように意味合いを持たないオフィサーの役割かと思います。確かに「何やってるの?」と言われると考えさせられますね(笑)。やっていることを書き出すと、すごく色んなことをやっているだけで雑務担当みたい。

竹田

そうそう。だからこうやってまとめていただくと、「ありがとうございます」という感じですね。僕なんか自信つきますもん(笑)。こうやって皆がすぐに持って帰れる、響く言葉化できる、フレームワーク化できるのは、コンサル時代に鍛えられた力なのですか?

福島

それは違っていて、今私のミッションは「5つの事業それぞれにCOOをつくっていく」ことをやっていて。自分がやったことを言語化して伝えないとそうならないので。

「どうしたら伝わるかな?」とか、そういう役割を定義してあげないとその人はなかなか評価されないけど、会社とか事業のグロースには必要なので。その人の役割をどうやったら分かりやすくできるかなというのは、経営チームを創る上でのトライの中で今やっていることですね。

湯浅

今5人COOをつくるとのお話でしたが、今後何人くらいまでいくのでしょうか?

福島

ファウンダーが10個統合バーティカルプラットフォームを創ると言っているので、10チームとして事業は5個あるので「50人COOをつくっていこう」というのがラクスルの長期プランであり、クライスさんに「20人くらいCxOを送り込んでください」とお願いしています(笑)。

属人的に立ち上がるのではなく、10個きちんと立ち上がるためには、言語化して仕組化して役割定義することにチャレンジしないといけないと思ってやっています。

【COOキャリアへのターニングポイントについて】

湯浅

お二人とも今までの役割・お立場に来られる前に色んなことがあったと思います。今までのキャリアのターニングポイントを竹田さんからお話いただけますか?

竹田

最初は営業マンとして会社に入ったのですが、20代後半の頃に突然「お前の営業力を活かして採用をやってくれ」と人事に異動させられて、初めて自分が未経験の職種で責任者を経験したのはすごく大きなターニングポイントでした。

マネジメントとは自分ができたことを人にコピーすることかと思っていましたが、全然そうではないなと。

個々の力やケイパビリティをちゃんと理解して、きっかけを与えて一人一人が120%の力を発揮できるチームをつくることがマネジメントの仕事だと気づいたことが、自分の中で世界が半分以上広がったような経験でした。

その後、34才の頃に当時業界2番手だった会社をM&Aすることになり、買収した350人ほどの会社の責任者をやらせていただいたのですが、買収した会社に居続けるわけにはいかないと、キーマンの人達から「辞めます」と宣言されたこともありました。

結果的にはキーマンの人達が辞めずに支えてくれて、当初計画を超える業績を創ることができたのは大きな成功体験でした。こういうドラマチックなシーンが何回もある人生ってすごく素敵だなと。

その後、キャリアをリセットして誰も自分の過去の実績を知らない環境でどれだけのことができるのか、さらにその後は無名なスタートアップに入ってどういう価値が出せるのかを経験したこと等、すべて自分にとってはプラスの体験ができたという意味では成功のターニングポイントだったかなと思います。

一方で、失敗のターニングポイントは、「誇りが持てる」「やりがいを持って取り組める」要素が無くなるとうまくいかないんですね。

理念より利益が重視される方向に走り出した時とか、社内外へのリスペクトが欠落してやっていることに誇りが持てなくなり、この先「パパの仕事はこういうことなんだね」と子供から言われる余地が全然無いなと感じると自分自身のパフォーマンスが出なくなくなり、どう改善していくのかが見えずに離脱することになる。

あとは新規事業の打ち切りで退任という、ある意味クビになる経験に繋がったのは自分の未熟さが大きいと思います。そして、来期の基幹人事に自分の名前が無いという経験をした時に、自分として何を反省する必要があるか、何を教訓にすべきなのだろうと考えました。誰かが創った会社に入る人間の立場はどうあるべきか、この経験からすごく学んだかなと思っています。

湯浅

ありがとうございます。成功も失敗も赤裸々に語っていただいて。競合会社のM&Aの話はnoteにも描かれていますね。

スティーブ・ジョブズのConnecting the dotsのように、後から振り返るとすべてがつながっていることがあると思います。今振り返って、あの経験があったから今の自分がいるという瞬間を1つ挙げるとしたら何でしょうか?

竹田

やはりM&Aの経験は変化のポイントかと思います。当初は買う側と買われる側の構造があると思っていましたが、「引き留めなければ」「失敗したらどうしよう」と悩んだ末に、ある時、シンプルにこの人たちと一緒に何がしたいのかを考えればいいんじゃないかと思いました。

当時は、競合同士で値引き合戦のような首を絞め合う状態になってしまっていました。統合して一緒に新しい価値を生み出したいなら、それをやればいいとシンプルに思った時に、「買った側」「買われる側」というのではなくて、「やりたかったことができるようになる仲間」だと考えればいいと思ったんですよ。

過去に未経験で人事を担当した時に、メンバーから「(実務をやったことがなくて)できもしないのだから口出さないでください」と言われて苦しんだ末、「要は会社がうまくいけばいい、人事の課題が解決されればいいんだから、自分よりうまくできる人事の人たちがもっとうまくできるように協力すればいいんだ」と考えました。

「何とかする対象」ではなくて、「一緒にチームになって価値を上げる仲間」として視点を変えるとうまくいったというのが、同じだなと符合したのを覚えています。

このポイントはその後のターンアラウンドでも、マネーフォワードでPMIをやる時も、色んな仕事をするときの自分のベースの視点になっているという意味では点がずっとつながっている感じがします。

湯浅

マネフォに入られたときもクラビスがマネフォグループにジョインされたから竹田さんも入られていて。今マネフォが色々な会社を買収される中でも、当時のPMIの体験がすごくつながっていそうですね。福島さんにもぜひターニングポイントをお聞きしたいです。

福島

私は、「エスタブリッシュメントのコンサルティングから当事者になる」「スタートアップカルチャー」という、カルチャーも立場も跨ぐ斜め上に行くチャレンジをしました。

入社して3ヶ月くらいサプライチェーンをやって、結果が出たのでラクスル事業を持つことになり、結論でいうと100日でクビになりましたというのが私の失敗体験です(笑)。

これにより、「コンサルティングではなく事業を背負うとは何か」「エスタブリッシュではなくて変化を生むスタートアップで経営をしていくとは何か」の2つを大きく学べたと思います。

振り返って何が失敗したのかというと、単純に売上があがらなかった。それはなぜかと言えば、当時目標として設定したKPIでは「クロスセルしましょう」「新規獲得しましょう」とか、非常に良いことを言っているんですね。

ただ、その当時のラクスルの課題やフェーズをまったく考えずに一般論としての目標を立ててしまった。一般論としては正しいんですけど、じゃあ明日何するの?とか実行する打ち手が無い状態で目標だけ浮いて立ててしまった。

結局、明日の売上に効く・3ヶ月後に効く・1年後に効くというように、施策を打っても効果が発現するのは時間軸によって変わってくる。例えば組織の採用は6ヶ月後に効いてくるけど、明日には何も変わらないという打ち手がある中で、今どの時間軸でどういう打ち手を打っていくかというイメージすら持たずに設計していたなと。

全部が抽象的な未来に対してやったらいいことをやったけど、3ヶ月何のインパクトも出せずにクビになったというのが入社6か月目の私自身の立ち位置でした。

ここで考えたことは、CxOになるということは「タイトルとしてなる」ことと「それで活躍する」という2つがあると思っていて。採用する立場としてはよく分かるのですが、タイトルをつけると皆来てくれるので付与したくなる。

ただ、転職するときにタイトルを取りに行くのは意外と簡単ですが、それとCxOとしてパフォームすることとは全く別物です。CxOのタイトルを取りに行くのか、パフォームできる環境を得るために転職するのか。私自身救われたのはCOOで入っていないので、失敗しても半年くらい機能部長としてこの学びを活かしてやって、そこで成果があがり再度事業ヘッドに戻れたので、そういうチャレンジできる環境だったのが救いでした。

逆に言うと、自分が1周目でパフォームできると思っていたのは勘違いだったということですね。

そこから自分自身がもう1回次の経営チームに入り直した時は、チーム形成していく中で執行役員として入っていったのが成功体験で、その時は100億くらいのタイミングでした。

ラクスルが60%くらいの急成長をした時の経営チームで、「背中を預ける」という表現をしていますが、皆強いことがあり弱いところがある。例えばマーケティングはすごくできるけど、組織は全然見られないとか。

そういう凸凹のチームでも、皆強みだけを発揮して背中を合わせればどの面を見ても強くなる、そういう体制で経営できたのは良かったと思います。

あとは、経営するときにファウンダーってやはり思いもすごくあってコミットメントも高い中で、この分野と決めた分野に関してはファウンダーCEOよりも自分の方がコミットや解像度がある、というある特定の分野に区切って権限移譲してもらう形でもできるかなと思います。

自分の今の立場からしても、自分よりも解像度の高い人、上位互換の人に対してその領域をちゃんと括って渡していくという経営チームの在り方は学びが大きかったですね。

【COOになるために必要な経験・スキル・マインドとは】

湯浅

僕も投資先でよく経験するのですが、コンサルファームや事業会社の一定のポジションでやられていた方がスタートアップに転職する時に、CxOポジションをねらいに来ることがすごく多い一方で、いきなりそのポジションで入ると最初苦労することがあって。

先ほどの「最初からCOOじゃなかったのが救いだった」とか、COOを5人育てている話をお聞きしてみたくて、入るタイミングでのタイトルはどこまでこだわるべきだと考えられますか?

福島

これはラクスルを受けていただく方や他のエスタブリッシュから来られる方にアドバイスを求められたときに一番言っているけど伝わらないところなのですが(笑)。「タイトルと評価は後ろからついてくる星の輝き」がベストだと私は思っていて、私自身実はCOOも取締役のタイトルもそのロールをストレッチしてやってみて、うまくいったら「何かCOOっぽいよね」と評価およびタイトルが後ろからついてきたというキャリアをずっと歩んできています。

ラクスル自体がそういう評価をしている会社なので。ストレッチしてチャレンジしてみて、できたらそのポジションに昇格させていく。それが一番自分の成長スピードが速いとすごく感じていますね。成長しに来ているのか、今のバリューを発揮しに来ているのかという話です。

今既にCOOを他の会社で経験されていて、このフェーズはすごく得意という認識を相対的に持っているスタートアップの経営者や、スタートアップで何かの一領域をやったCxOの人たちは直で権限を持って入って行く方がいいと思いますが、今コンサルティングや機能部長でありパフォームしていくことを考えている場合、良い環境で自分のパフォーマンスを発揮できることが最大で、1年間CxOのキャリアでその後戻ったりまた転職したりというキャリアだと本質的なキャリアアセットになっていかない。

自分がパフォームをチャレンジできる環境なり自分自身を磨ける環境なりにまずトライして、本当にそこでバリューが出たらタイトルおよび評価としてチャレンジを求めていくステップがベストかなと。

ラクスルもCxO1年目の人達はほぼ絶対失敗する前提でリスクを取れる事業や時間軸を取れるタイミングでしかアサインしておらず、それがその人達がCxOとしてパフォームする最短の道だと信じているので、他のキャリアでもそれは同じではないかと思います。

竹田

めちゃくちゃ共感しかないです。つい昨日もハイレイヤーの方の採用で何を注意すべきか執行役員と話していたのですが、ラクスルさんと同じで我々も「ポジションが欲しい」「JDを明確にしてほしい」という主張が強すぎる人はうまくいかないという反省があります。

そういう方達に理解して欲しいのは、アンラーニングしていただく必要があるし、入社一定期間後に成果をあげてフォロワーシップがつくまでは前職のパフォーマンスよりも低くなる期間がどうしてもある。

もっと言うと、「給与に僕見合ってないんですよ」「自分の強みを活かせていない気がするんです」と最初の1ヶ月間くらいは思う期間がありますよ、と最初に目線合わせしないと難しい。

なるべくquick winしてもらうために、スモールチームやスモールテーマのミッションを渡していくのはすごく大事だなと。

福島さんが仰ったように、時間軸の長い新規事業の立ち上げとか、新規開発プロダクトのオーナー、1プロダクトの価格改定プロジェクトなどを任せてやってみてもらう感じで、社内の人達とリレーションができないと達成できないけれども、時間軸やハードルがそこまで高くないものをうまく渡すことを最初にやらないとダメだなと。

そこを1つずつやっていって結果を出す人は、勝手に皆からこの役割をやってくださいと言われる存在になると思うんですよね。

湯浅

アジャストメント期間があるという相互理解のもと、入社してすぐはスモールウィンを積み重ねていく中で自分がパフォーマンスを出していれば後からタイトルはついてくると信じてやっていくことが良いということですね。

スタートアップ転職をする前に身につけておくべき経験・スキル・マインドセット等、何かあればぜひ教えていただけますか?

福島

やはり先ほどの役割と結構リンクしてくるのですが、ラクスルで色んな人を見ていて、CxOになってからパフォームするまでが速い人の特徴で言うと、CxO Readyになっている人が多いですね。

その人たちは、まず自分が下の立場の時に「CxOが何を考えているか?」「事業価値から考えてなぜそうしているのか?自分だったらどうするか」を考えている。事業価値って実はどの立場でも背負えるし、Other Officerの役割は誰もやらないので、CxOの役割ってタイトル無くてもやろうと思えば誰でもやれるんですよね。

事業価値から考えて今やるべきことって何だろうとか、今どうすれば全員のパフォーマンスが上がるんだろうと考えた上で、自分と今のCxOの人達が違う意思決定あるいは同じ意思決定をした場合に、結局どうなったというのを1周目として仮説検証して回している人がいて。

そうすると自分が本当にCxOになった時に2周目に近い視野で挑めるので、1周目の自分の上司の反省や他の事業がやったミスとか落とし穴を学んでいくので2周目の立ち上がりが早くて。

結果、学びも早いので3周目で大成功するというパターンがあって。やはりタイトルの前にそのタイトルの人達が今何を考えてそれをやったのかということと、うまくいった/いかなかった理由を聞いてみる・観察するの両方あると思うんですけど、自分のCxO経験を仮想で1周回している人はすごくその後の立ち上がりが早いし、マインドセットもできているので、あとは本当に経験するだけ、背負うだけ。

逆にタイトル先行でReadyじゃないのに高いタイトルを取りに行く人は1周目でボロ負けする。次のロールが私と一緒で1回降りなきゃいけなくなるので余計時間がかかるし、竹田さんの仰る通りスタートアップはプルーフの世界なので、前職がBCG出身だろうがその世界でパフォームしない人には極めて冷たいカルチャーだと思うので、失敗するとリカバリーするのが3倍大変という(笑)。

仮想で1周目を回してその後2周目でパフォームするというのが理想の形だなと思って見ていますね。

竹田

福島さんが仰ったことには共感しかなくて、首が痛いくらい頷いていたんですけど(笑)。別軸でこれもあるかなと思うのは、アンラーニングできる力、学び直すことができる柔軟性はすごく重要かと。

例えば、数年前に一緒に仕事をしていた5才くらい下のメンバーが今色んな会社に行っていて、中には役職もついて活躍しているもののそこでしかハマらない感じになっている人もいて。

確かに力はあるんですけど、例えばうちに誘った時に導入の部分でイメージが湧かない人たちがいるんですね。そういう人って、最初の導入部分さえうまくクリアすればパフォーマンスするイメージが湧くのですが、初っ端のところで過去の体験とかで語ってしまいそうで、その人たちはアンラーニングする力が弱いのではと。

そういう人に転職相談を受けた時には、「全部捨てて目の前のことをありのままに見て、この事業をフラットにどう伸ばせばいいかゼロから考えることを1回本当にできるようにならないと、どの会社に行っても1周目で多分コケると思うよ」と話しています。

本当にその人の強みになっていたら、強みは活かすものじゃなくて勝手に活きるものだと思うんです。そのぐらい目の前のことを何とかすることに集中できればいいのに、年を重ねてくると自分のできることからやるとか、過去ではこうだったみたいな風になる気がしますね(笑)。

福島

私もすごくそれは分かるところがあって、「コンサルの経験って活きますか?」とよく質問されるんですけど、カルチャーフィットしてパフォームできる状況になって初めて、パフォーマンスを上げる時に自分の経験が活きるという話で。

初めにパフォームする時とかカルチャーフィットする時には、先ほど竹田さんが仰ったようにアンラーニングしないと邪魔でしかない。この会社のバリューとか価値の出し方を理解して習得した上で、初めて前職や自分のネイチャーでのバリューは出てくるので。

1回はそのスタートアップのカルチャーにフィットしてバリューを出す、2回目で自分の強みをレバレッジすると明確にイメージして、いつか活きるから今出さなくていいよということかなと思います。

参加者からの質疑応答&ディスカッション

Q.

ファウンダーのNo.2、3として、各フェーズでどのような点に留意しながら役割を担われてきたのか、特に人組織面での留意点があれば伺いたいです。

福島

「背中を預ける」「フェーズによって役割が変わる」という前提がまずあり、その上で同じフェーズの間はひたすら自分の役割をやり切る。ただ、四半期ごとに経営層合宿の場でファウンダーや他のメンバーが「フェーズが変わったね」「このやり方ハマっていないよね」というベルが鳴った時に「じゃあどういう体制にしていく必要があるのか」と再度話し合い、そこからファウンダーが「俺はここをやりたい」を決めて、他の人達がそれぞれどこをやるかを決めて、また走り出す。

フェーズが変わった音を聞いて、そのタイミングで他のメンバーも入れることも含めて経営チームの役割をシャッフルし直す、議論し直すという。その時には基本的には一番強いリソースから一番大きな課題にアサインされていく。そのコミュニケーションができる体制や四半期の経営会議のような場の設定は大事かなと思います。

Q.

竹田さんが以前働いていた方で「活躍している」「誘いたい」と思う方は、どこでどんなキャリアを歩んでいる方ですか?

竹田

一概には言えないですが、ステレオタイプではなくて自分の想いや夢とか人生の時間を燃やせることを純粋に選択している人、自分の人生にオーナーシップを持って歩んでいる人はどこにいても輝いている感じがして。「年齢がこうだから」「こういう職種や経験だからこういうもんだろう」という選択をする人は、躓いたり伸び悩んだりしている印象です。

Q.

CxOを目指すにあたって、結局はタイトルをどう手にするかよりも、任せてもらえる実力を身につけることが重要だと考えます。(よほど自社の上のポジションが空いていない場合を除いて)転職ではなく自社で上を目指す方が良いように感じますが、いかがでしょうか。

福島

本当に仰る通りで、タイトルよりも実力がつくことがめちゃくちゃ大事だと思います。それが中だろうが外だろうがオポチュニティーがある方が絶対にキャリアにとっては良い。強いて言えば、まずやはり事業が成長していることですね。

成長していないと機会提供も無いので。あとは経営スタイルで、どれだけ成長していても1事業1ドメインの例えばBtoCのアプリ事業などはファウンダーCEOがそのままやった方がいいところもある。本当に経営チームが必要な複雑性およびポートフォリオが求められる事業体なのかはちゃんと確かめた方が良いかなと。これはご自身での判断は難しいと思うので、クライスさんなどのスタートアップのビジネスモデルをちゃんと理解している方に聞くと良いと思います。

Q.

CxOの採用要件はどのように決めるべきでしょうか?事業やフェーズによって異なると思うのですが、その分難しいなとも考えています。

竹田

CxOを採りたい」というよりも「この事業はこの機能の責任者が欲しい」ということを明確にした方が良いと思いますね。CxOから入る感じではないので、本当にこの事業にどれだけ熱量を持っているのかというマインドを見に行くと考えた方が良いかと。

なので、当社の場合は今いるメンバーでCxOの仕事の定義を明確にして、それを既に現実的にCxOのロールを考えながら仮説検証しているメンバーを見出して機会を与えていく方が良いのかなと。

逆に言うと、そうやって考えられるフェーズの人にどれだけ興味を持ってジョインしていただくかという観点で、事業責任者や機能責任者を定義して来ていただく形が一番良いのかなと感じました。

Q.

ラクスルは印刷事業で軸ができた後、連続的な事業成長の慣性が強い中、非連続な事業成長を成し遂げるための新規事業開発をうまく進められている印象です。組織上、どのような点に留意してマネジメントをしてこられたのか、人事制度・採用等の観点で伺いたいです。

福島

「仕組みに頼ること」と「人に依存すること」を分けています。人に依存することとは、新規事業の立ち上げはオーナーシップがすべてなのでかなり人に頼ることを大事にしていて、一方で組織や仕組みで言えば、明確にフェーズによってやり方が違うということです。

単独のCxOやシリーズAのフェーズと、グロースフェーズと、100~300億のフェーズでは事業の考え方が違うので。

今は会社全体としては一部上場企業としてのカルチャーが重心になりがちですが、計画的にカオスな組織をアーリーフェーズではつくっていき、グロースフェーズではグロースだけにフォーカスできるように他のKPIを外してあげる等も含めて、組織カルチャーは会社に1つではなくて事業フェーズで切り替えていくものです。

フェーズによって人のローテーションもしていくし、組織も文化も変えていく。事業に組織や人が合わせていくことを意識して、ポートフォリオを組んでいきたいと思っています。

Q.

事業のTOPの視座や能力が低く『課題を洗い出し、優先度をつけ、具代的な打ち手を示す』思考やアクションができずその役割を任せられない人物の場合、どう振る舞いますか?

竹田

これは難しいですね(笑)。仮に私の部下の事業責任者がそういうレベルであれば、まずどこのフェーズができていないのかを特定します。

課題の洗い出しが下手なのか、課題は洗い出せて戦略は組めるけど人にうまく伝えてチームアップしていくことが下手なのか。その上で下手な部分はマイクロで入るなり私が肩代わりするなり、それができる人間をつけるなりという改善策を持ってきます。

それでもうまくいかなかったり、介入を嫌がったりするならもう替えるしかない。一方で、もし上司がこんな状態でどうすれば?ということならば(笑)、ご自身がそのトップに成り代わるにはどうすれば良いか考えることを勧めます。

Q.

『結果は後から付いてくる』に共感します。一方で、自身がCMOを目指していて、マーケティング部長で成果を出しても『マーケティング部長で良いじゃん』となるケースもありそうです。x部長からCxOになるにはどうすると良いでしょうか。

福島

経営イシューに対して自分がコミットした上で、結果が後からついてくるということかと思います。マーケティング部でのKPI改善やスーパーパフォーマンスとCxOになっていくこととは違うことだと。CxOになっていくためには、会社のグロース率を今の1.5倍や2倍にする等、意味のある非連続な成長を起こしていくために必要なことをコミットしてやり切るという、経営イシューにコミットしてパフォームすることで初めてプルーフができるので。

経営者が悩んでいることや、これができたら事業価値がすごく上がると思うことに対して今の部の活動とは別にコミットしてやり切るチャレンジをするのが良いと思います。

Q.

再現性のある経営システムとは?というテーマに答えを出そうとした時に、現段階で抽象化や言語化できているパターンがあれば教えて頂けますでしょうか?

竹田

パターン化できているわけではないですが、複数事業をつくっていく中で、強い営業チームやマーケチームをどんどんつくっていかなきゃいけないんですね。どうやれば再現できるのかと考えた時に、これは必要だと思ったのが目標設定です。

目標設定とは単にいつどのKPIを達成するという数字目標ではなく、「なぜこの事業を誰のためにやるのか」というミッションですね。

このミッションを実現したいのでこういう事業をやる、その事業をいつまでにどうしたいのでこういう数字であるとミッションから落とし込んだ目標設定がされていて、それがメンバーに文脈ごと伝わっていないと、どんなに強い営業マンや凄い戦略家がいても再現できないなと気づいて。これは共通のポイントかと思います。

Q.

quick winできるミッションデザインはとても共感しますが、全社的な仕組みについてイメージされていること、既に実現されていることをご教示いただきたいです。

福島

これは結構仕組みでやっていて、「採用オーナーがquick winでオンボードするまでがその人の責任」ということにしています。その人の努力ではなくて、受け入れ側の努力でやり切りなさいと。

なので、採用した方のパフォーマンスが前職に較べて100%になった前提においてそこからはご自身のパフォーマンスで評価していくという、そこは受け入れ側の会社に責任があるというスタンスでやっていて。

来る側の方もそれにおんぶに抱っこじゃなくて、これは自分の責任とお互い思っているのが理想という前提でお話しています。

Q.

執行トップが成果を出す動き方と、取締役のそれは異なると思っています。執行トップは取締役的視点を捨ててマインドシェアを実行にフォーカスした方が良い気もしつつ、それだと仮想取締役の1周目ができない・・・どのようなバランスが良いでしょうか。

竹田

なるほど、これも難しいところですね。私はちなみに取締役執行役員なんですよね。執行役員は執行だけ考えているわけではなくて、執行役員の面々も全社的なアロケーションどうしようかとか、マネーフォワード全体がグロースしていくためにどうあるべきとか、代表の辻の頭の中を想像してどう実現していくかを考えて動く人の方がパフォーマンスは上がりますし、任される執行領域の精度や実効性もそのスタンスでやっている人の方が高い。

「取締役だから」「執行だから」とフォーカスする必要は無く、結局はどの立場であれ事業や会社をグロースさせることがミッションなので、それをちゃんと実行できるという視点で任されたところに注力していけば、一番バランス良くできる気がします。

Q.

アンラーニングできる人とできない人はどう見定めているのでしょうか?

福島

オーナーシップを持って結果にチャレンジしてそこから学びを得るというサイクルをどんな立場であれ回している方は、入っていただいてもまたそのPDCAが回るのでアンラーンされる傾向があると思います。

「成功・失敗はどうであれ、ご自身がすごくコミットしてやったものについて振り返ってください、そこから何を学んでどう変わりましたか?」というご自身の変化度を面談およびコミュニケーションで見させてもらうことが多いです。

湯浅

ありがとうございます。最後にお二人から視聴者の方にメッセージをお願いします。

竹田

本当にあっという間で、ありがとうございました。COOとはこういうものだと自分の中で決まっているわけではなくて、常にこれもやらなきゃ、これも足りてないなとずっと考え悩み続けることから逃げちゃいけないと思ってやっている感じです。

今日福島さんのお話を聞いて、特にCOOの仕事を言語化しないと5つのチームとかつくれないというのは物凄く刺さりました(笑)。

半年前に福島さんと対談させていただいた時も、「連測した成長を続けている事業責任者なんて意味が無いよ」「どれだけ非連続の成長を実現できるのかがCxOなら当然だよね」というお話を持ち帰って、まるで自分の言葉かのように使っています(笑)。

本当に今日は学びもあり、ご覧になっていた皆さんにも良いきっかけになるとか、持って帰ろうということがあれば嬉しいなと思っています。

あと、実は昔マクロミルを半分クビになるような形で辞めて途方に暮れていた時に、「イオレが伸びていくためには竹田さんのような人材が入ると良いのでは」とクライスさんからイオレに私を逆提案してくださったんです。

人材エージェントの仕事は、言われた人を調達するのではなくて、本当に経営や事業にコミットして「もっとこうすれば組織が伸びる」と人材面から支援する仕事なのだと目の当たりにしました。

皆さんとパートナーとしてやっていくということだと改めて思いますし、クライスさんとは今後ともよろしくお願いしますということで、ちょっとした宣伝でした(笑)。

福島

今日はありがとうございます。ラクスルには社外取締役に宮内さんや玉塚さんがいらっしゃって、私もまだCxOとしては5年目のペーペーだなと。

CxOとして宮内さんくらいのレジェンドになるまでには5~6段階長いステップがある中のちょっと先に私が始めたくらいのところで。非常に長いキャリアですし、すごく幅の広いチャレンジがずっと続くと思うので、面白く積み上がるキャリアをぜひ皆さんとチャレンジしていきたいなと思います。

皆で経験をシェアして皆で高め合っていけるのがスタートアップの良いところかと思いますので、また皆さんとこういう機会が持てることを楽しみにしています。ぜひCxOキャリアにチャレンジいただき、悩んだ時はクライスさんに相談いただければと思います(笑)。

湯浅

ありがとうございました。本当に冒頭で「このセッションは3時間くらいやりたい」と申し上げたのがそのままで(笑)、物凄く密度の濃い、学びの多い時間でした。お二人からお話をいただき、学びだけでなく勇気もいただけるセッションになったと思います。

構成:神田 昭子

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