優秀な人材だからこそ必要なオンボーディング
「優秀なCXO候補を採用したから、あとは任せれば大丈夫」。そんな安易な考え方でうまくいくほどCXO採用や幹部採用は簡単ではありません。
経営幹部クラスの採用でオンボーディングは不要と勘違いしている人もいますが、むしろ優秀な人材を採用したからこそ、その人が活躍できる環境を整える必要があるのです。
そのために有効とされているのが小さくても良いので早期に成果、実績を出してもらうことです。たとえば何らかの事業の立ち上げを任せたとしても、半年や1年の期間で事業が立ち上がることはほとんどありません。そこで1か月や、四半期、半年といった期間で「ここまでやって欲しい」と小さな目標を設定し、クリアしていってもらうのです。
CXOや経営幹部候補として採用した場合、既存のメンバーは「お手並み拝見」の姿勢を取るのが一般的です。そこで「この人は味方である」との安心感や、「この人が会社をもっとよくしてくれる」との期待感を醸成することが重要になります。
既存メンバーとの信頼関係を醸成するために入社後1か月の間に1on1ミーティングを設定し、会社や組織、事業の現状把握と課題発見を行った上で、2か月後以降に戦略のプランニングに取り組むといった、性急に結果を求めず信頼関係の構築に注力できる環境を用意しておくことは、受け入れ側の準備として非常に大切です。
社長のバックアップも重要なポイントです。もちろん新卒採用のような受け入れ準備は必要ありませんが、新たに加わったCXOが既存メンバーから「あの人が入社してこんなに変わった」と思ってもらい、信頼を勝ち取る道筋は考えるべきです。
「社長のバックアップ」がCXOの活躍を左右する
また、CXOや経営幹部候補が新たに入社することで、「うちの会社をわかっていない人が、今までと違うやり方を持ち込んでかき回している」というような既存メンバーと摩擦が発生するケースがあります。
その時、風見鶏のように「そうだよな」と既存勢力の味方になってしまう社長もいますが、CXOが非常に動きにくくなり、よい結果をもたらしません。やはりその人を高く評価して採用したのなら、「あのCXOは凄い人で私も信頼しているから付いていって欲しい」とバックアップすべきです。
オンボーディングやバックアップする姿勢のない経営者は、下手をするとせっかく採用したCXOを見殺しにする結果を招きかねません。
CXO側から見ると「事前に言われていたほど期待されていない」状況となり、パフォーマンスも期待されていたほど発揮できず、試用期間満了で退職するような事態が生じることが起こり得ます。
もちろんCXO側もオンボーディングを会社任せにせず、新しい環境に溶け込み、既存メンバーから信頼を勝ち取るための努力が欠かせません。
ある著名なCIOは入社する前にきちんと経営陣と対話して、現在の会社の状態や直面している課題を把握した上で、「入社後100日プラン」を策定し、1か月単位で自分が取り組むことを詳細に計画し、自分が会社にどう貢献するかをイメージしてから入社日を迎えていました。
要するに、CXOとして複数の会社で実績があるような人は入社前から徹底的に準備をしています。リフレッシュが悪いわけではありませんが、前職を退職してから入社するまでのインターバル期間に海外旅行へ行き、直前に帰国して入社当日はちょっと時差ボケしているような人とは真剣さが全く異なります。
会社によってはCXOや経営幹部を採用する際に、あえて一つ下の肩書から始めてもらうところもあります。事業承継で次の社長としての採用でも、最初の半年から1年くらいはあえて事業責任者としてスタートし、「ものすごく優秀な人物だ」とみんなに知らしめた上で社長に昇格させる、という形です。
どうしてもポジションが上の立場で入るほど、既存メンバーのお手並み拝見感は強くなります。その人が入ることによって経営方針が変わり自分がやりたいことができなくなったり、昇進するポストがなくなったりするのではという不安を抱くメンバーもいるでしょう。
しかしそうした不安は杞憂であり、その人が新たに加入することで会社がよい方向に回り始めることを認識してもらった上で、もともと予定していたポストに就任してもらうプロセスをたどるとソフトランディングしやすくなるわけです。
(2025年7月7日)