Report

2021 Jul 7

株式会社クレディセゾン

「誰の喜びに寄与するDXか」 をとことん考え抜く クレディセゾンのDXとは

株式会社クレディセゾン メインビジュアル

3,700万人の会員を抱えるクレジットカード会社であるクレディセゾンは、代行先を含めて7兆円のクレジットカードのトランザクションを誇ります。住宅ローンやリースなどノンバンク事業を広く展開しており、多様なサービスをグローバルに提供するファイナンスカンパニーを目指しています。そんな中、自ら技術チームを起ち上げ、内製化によるDXをリードしてきたCTO兼CIOの小野氏に弊社の社内勉強会にお越しいただきました。DXの本質を改めて考えさせられる刺激あるお話をお伺いし、同社のDXの全容を弊社の視点でレポ―トいたします。
(以下の内容は、2021年3月勉強会実施当時の内容になります。)

Profile

株式会社クレディセゾン CTO兼CIO 小野 和俊 氏

慶応義塾大学 環境情報学部卒。小4からプログラミングを始め、大学時代は野村総研のシステム開発案件にも参加。卒業後はサン・マイクロシステムズに入社し、新人研修後に志願してシリコンバレー本社での仕事を経験。2年目にエンジェル投資家の支援を得てベンチャー企業のアプレッソを設立。2013年にセゾン情報システムズへM&Aイグジットを果たし、2016年に同社に常務CTOとして参画。日本の大企業のカルチャーを評価しつつバイモーダル経営を推進し、セゾン情報システムズの成長を牽引する。2019年にはクレディセゾンに移り、CTOとして技術チームを起ち上げ、内製化によるDXをリード。2021年に専務執行役員に就任し、CIOも兼任。

Contents
クレディセゾンにおけるDXとは
クレディセゾン / セゾン情報のDX施策
クレディセゾン/セゾン情報システムズのDX推進における要諦

1. クレディセゾンにおけるDXとは

2019年3月から内製開発チームをゼロから立ち上げ、第1段の大型サービス「セゾンのお月玉」を完全内製開発にてリリース。

 

2020年10月から社内の全セクションのデジタル化を内製開発で進めるプロジェクトを開始。外部採用と社内公募のハイブリッドで新規に開発チームを立ち上げ。

 

2021年3月からシステム部門の組織改革にも着手開始。

2. クレディセゾン / セゾン情報のDX施策

事例1 マッサージ支援スキル「クイックちゃん」(セゾン情報システムズ)

 

2010年代半ば、日本ではまだ普及していないスマートスピーカーのAlexaにいち早く注目。この技術を活用したサービス開発を企図するものの、チームに対しては「必然性のあるサービスでなければ無理に使わないでほしい」と指示。

 

「ハンマーと釘」(ハンマーを持つとすべてが釘に見える)という言葉があるが、新しい技術を習得すると、その手段にこだわって何にでも応用しようとしがちである。しかし、スマートスピーカーを使う必要のないものまで無理やり当てはめようとすると、CXにもEXにも寄与せず絶対にうまくいかない。そうした意識を徹底させてサービスの種を探していたところ、「これはスマートスピーカーでやるべきだ」という案件を見つけ出した。

 

セゾン情報システムズでは、社員の福利厚生と障がい者雇用の二つの側面から、社内にクイックマッサージルームを設けている。そこでは、目の不自由なマッサージ師の方が待機し、デスクワークで疲労を覚えたエンジニアは予約して15分間無料で施術を受けることができる。

 

そのマッサージ師の方との雑談の中で、「予約の確認や連絡などはバックオフィス部門の社員の方々がローテーションでサポートしてくれている。たいへんありがたいが、それぐらいは自分でできるようになりたい」という想いを聞き、そこにスマートスピーカーが活きるのではないかと発案。Alexaに音声で指示を出せば、クラウド上の予約台帳を見て該当者のスマホのスラックに連絡し、会議が長引いているなどの場合には次の人へ連絡するようなスキルを作って実装した。

 

結果、業務が効率化されて1日で施術できる人数が20%以上増え、サポート工数も年間で190時間以上削減。そして、マッサージ師の方が自立的に業務を運用できることで、やりがいや達成感をいっそう味わえるようになったとのこと。こうして仕事の質そのものを大きく変えていくことがDXの本質。

 

このマッサージ支援スキル「クイックちゃん」は、2018年のAlexa Skill Awardの法人部門優勝と特別賞をダブル受賞。技術の本質と困りごとが完全に合致し、本当に役に立つスキルになっていることが評価された。EXに寄与することでDXが本来創出すべき価値を提示できた事例。

 

 

■事例2 セゾンのお月玉(クレディセゾン)

 

セゾンカードの利用金額に応じて抽選券をプレゼントし、毎月抽選で1万人に現金1万円が当たるサービス。2019年9月からスタート。「毎月もらえるお年玉」なので「お月玉」と命名した。

 

抽選券の配布や抽選結果の通知は、スマホのアプリ上でデジタルに行っているが、当選者には現金1万円を書留で送るというアナログなところがミソ。キャッシュレス社会が進展するいま、1万円をプレゼントするのならばカードの請求額から1万円を引くほうが合理的で効率的だが、お客様にとってうれしいのは、2021年時点ではまだやはり現金を直にもらえること。毎月1万人に1万円、計1億円の現金を書留で送るのは非効率きわまりないものの、お客様に与える感動はそちらのほうが大きいと考えて実行に移した。

 

クレディセゾンのDXは、デジタルの良さとアナログの良さを必要に応じて使い分けている。この「お月玉」はとても反響を呼び、ツイッターの公式アカウントのフォロー者数もサービス開始前と比べて約20倍に拡大している。また当選されたお客様がSNSで発信し、接触機会が増えることで新たな会員獲得にも繋がっている。

 

 

■事例3 HULFTの市場拡大(セゾン情報システムズ)

 

バイモーダル戦略(「3. クレディセゾン/セゾン情報システムズのDX推進における要諦」に詳細を記載)で成果を上げた事例が、HULFT(ハルフト)の市場拡大。2013年当時、主力製品としてHULFTというデータ連携ソフトを有していた。

 

モード1領域を強みとする製品で、メインフレームとUNIXでは必須のツールであり、事故の起きない安定性の高いソフトとして定評があった。ただ、メインフレームとUNIXは今後市場の伸びが期待できず、HULFTも一緒に低迷する恐れがあった。そこで、自らを食い殺す領域を逆に獲りに行く方針を掲げ、当時急速に台頭していたクラウドの領域でのHULFT利活用に着目し、クラウドこそHULFTが必要だというポジションを獲ったらもう一度勝てるという仮説を立てて、モード1とモード2の集う混成チームで開発を推進。

 

結果、2年後の2015年にはラスベガスで開催されたAWSのイベントで、クラウド上におけるHULFTの価値が認められてアワードを受賞。
この時、「メインフレームはもうすぐ終焉しますよ」などと喉元にナイフを突きつけるようなコミュニケーションを取っていたら、おそらくこのアワードは獲れなかった。そうではなく、オープンディスカッションでモード1側のスタッフと意見を交わし、HULFTの良さは安心安全確実を手に入れられることだと再定義。それは今後、クラウドで基幹系を構築する時代になっても変わらず、メインフレームやUNIXと同様にHULFTが必須になると、モード1をリスペクトすることでトランスフォームを成し遂げることができた。

クレディセゾン/セゾン情報システムズのDX推進における要諦 画像

3. クレディセゾン/セゾン情報システムズのDX推進における要諦

  • DXを掲げる会社は多いものの、まだ日本では成功事例が少ないのが現状。PoCを回す事例は多々見受けられるが、企業変革に繋がっていない。
    DXというのは、根本的にCX(カスタマーエクスペリエンス)とEX(エンプロイーエクスペリエンス)のどちらかが劇的に変わらなければ形だけに終わる。CXとEXに寄与しないDXは茶番に過ぎない。
  • DXはややもすると先端技術の利活用やデータの収集・分析そのものが目的になってしまいがちだが、常に最優先すべきが「誰のどんな喜びに寄与するのか」ということ。それを説明できない類のDXは、ほぼすべての場合において技術やデータの濫用である。誰を喜ばせるのかを真っすぐに見据えてDXに取り組むことが、基本にして奥義であると考える。
  • DXについて「すべてを破壊する覚悟で進めていく」などと語る経営者も多いが、それが近道だとはけっして思わない。ベンチャーも大企業もそれぞれ良さがあるので、それを融合しながら進めていく協調的創造が望ましいのではないか。IT調査会社のガードナーが「バイモーダル(2つの流儀)」を提唱している。このバイモーダルはモード1とモード2から成っており、モード1はひとつひとつの案件についてROIを徹底的に精査し、ウォーターフォール型で物事を確実に進め、失敗しないことを重視。要は日本の大企業のやり方である。それは「武士」に似ており、鎧をまとっているので安全性は高いが動きは遅く、責任を強く求められて失敗したら切腹するのが流儀である。
    一方、モード2はROIを細かく見ていくのではなく、投資ポートフォリオの中で事業がひとつでも当たれば、残りがすべて失敗しても勝ちだというスタイル。アジャイルで物事を進め、探索型の新規事業の創出に向いている。これは「忍者」と似ており、動きは速いが事故に遭う可能性も高い。それぞれに利点があって両立できれば理想だが、モード1とモード2は文化の違いから対立しがちなのが現実である。
    モード1側の人間は、モード2側の人間に「服装もルーズで仕事をしているのか遊んでいるのかわからない」という眼を向け、逆にモード2側はモード1側に対して「命令されたことしかやらない。上意下達も甚だしい」と蔑む。それぞれの良さをリスペクトしあえる環境を築くためには、その間に立ってマネージする「ガーディアン(守護者)」が必要。バイモーダルは自転車と似ており、行き先を探索する前輪はモード2であり、動力を生む後輪がモード1。両方がうまくかみ合って安定すること大きな推進力が生まれる。
  • バイモーダル戦略を進める上では、Googleのエンジニアが遵守していると言われるHRTの原則を強く意識。Humility(謙虚)、Respect(尊敬)、Trust(信頼)がステークホルダーの中で担保されているプロジェクトほど、成功確度が高い。このHRTの原則は「和の文化」に近いものであり、バイモーダルにおける文化的対立を乗り越える勘所はここにある。既存の技術を馬鹿にすることなく、また新しい技術をむやみに信仰することなく、異なる文化に対して敬意を払い、HRTの原則のもとで協調的創造を図ることがDX実現には欠かせない。

(こちらのレポート内容は、2021年3月勉強会実施当時の内容になります。)

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